「ヘルスケア研究会」設立趣意書

 社会が豊かになるとともに、われわれはますます心身ともに健康でより充実した生活、より良い環境の下での生活を望むようになる。その基になるのは‘健康な体’の実現である。「ヘルスケア」はそれを象徴するキイワードである.一方,地球環境に負荷をかけない生活を目指すようになってきている.まさに「ヘルスケア」は,考え方の上では「健康と地球環境」に高い意識をもつライフスタイルを目指すLifestyles of Health and Sustainability (LOHAS)とも密接に関係している。
 環境と人の境にあって「ヘルスケア」の代表的な対象は皮膚や髪がある。これらを健全に保ちさらに美しくすることは「ヘルスケア」の取り組むべき大きな課題である。一つに未来化粧品の開発がある。テーラーメイド化粧品はその一つである。また、非侵襲で持続的な医薬品投与としての経皮吸収もある。これについてもテーラーメイド経皮吸収医薬品の開発がある。この実現のために、分子レベルの構造に基づいて化粧品や医薬品の効果を明らかにすることが必要となる。Evidence-Based Cosmeticsについても分子レベルでの機構が明らかになってはじめてその根拠が与えられることになる。このような状況下にあって、分子レベルで化粧品や医薬品の作用を明らかにするために放射光を利用した解析はますます重要になってきている。皮膚に関しては、バリアー機能において重要な役割を果たす角層中の細胞間脂質はラメラ構造を形成し、X線小角回折によりその構造と効果による構造変化を解析し、原因を突き止め,対策を講じることができる。また、毛髪の解析は多様な側面をもっており、キューティクル中の透過性、コーテックス中のケラチンの構造変化、さらに毛髪中の金属原子の検出などにより、シャンプーやトリートメントの振舞やガンの診断など広い分野における活用に開かれている。このように放射光を使って、分子レベルで化粧品や医薬品の開発,分析・診断技術を確立することができる。
 一方、地球温暖化対策を講じている中にあってしても、地球環境変化により極端に乾燥した状態が出現し、オゾン層の破壊により紫外線照射が著しくなってきている。また、寿命が延びることにより高齢化社会における老化現象対策(アンチエージング)が必要になっている。さらには、アンチストレスも大きな課題である。日に日にわれわれを取り囲む環境は変化している。「ヘルスケア」はこのような課題に対して真正面から取り組まねばならない状況におかれている。
 SPring-8の放射光は、皮膚や毛髪をはじめ広く「ヘルスケア」に係わる対象の分子レベルでの解析に対して開放されており、わが国が世界のトップを切ってこの道を切り開くことのできる条件が整っている。世界に向けて最先端の情報を発信するとともに、地球の未来に対して然るべき役割を果たすことができる。

福井工業大学教授 八田 一郎