第9回 放射光構造生物学研究会
「複合的アプローチによる結晶構造生物学の現状と今後」


プログラム
18:00-18:10 開会挨拶
18:10-18:40
話題提供1:「プロトン駆動力変換チャネルExbBDの作動機構の解明 --- クライオEMと放射光の相補的利用」
米倉 功治 グループリーダー(理研RSC)
高等動物から原核生物に至るまで、生体膜内外のプロトンの濃度勾配は、生命活動を担う重要なエネルギー源になる。私たちは、細菌の栄養素の輸送にこのプロトン駆動力を供給するExbBD複合体の構造を、放射光とクライオ電子顕微鏡を組み合わせ決定することに成功した。得られた構造から、この膜蛋白質がダイナミックに形態を変える活性化機構などが明らかになった。ExbBDは、分量が大きくない膜蛋白質で単粒子解析の適用が難しい試料である。今回、この解析の工夫と共に、私たちが開発してきた薄い三次元の結晶の電子線回折からの荷電状態解析、さらに、高分解能単粒子解析と電子線三次元結晶構造解析の両者に適するようデザインした新型クライオ電子顕微鏡システムについても紹介する。
18:40-19:10
話題提供2:「X線結晶構造解析とクライオ電顕で明らかとなった酸素運搬蛋白質の立体構造」
田中 良和 教授(東北大学)
スルメイカの酸素運搬蛋白質ヘモシアニンは,分子量約380 kDaのサブユニットが10個会合した,総分子量3.8 MDaの超巨大な円筒状の蛋白質会合体である.各サブユニットには,約50 kDaの配列の類似した機能ドメインが8個繰り返して存在しており,そのうち6つが円筒の外壁領域を,残りの2つが内部ドメインを形成する.我々は,2015年にスルメイカヘモシアニンの結晶構造を決定し,D5の対称性を持つ外壁領域と,C5の対称性で配置した5つの内部ドメインから構成されると報告した.その際,内部ドメインの電子密度は不鮮明であった.その後,我々は,正確な内部構造を明らかにするために,クライオ電子顕微鏡を用いて構造解析を行った.明らかになった構造は,結晶構造とは異なる内部構造を有していた.本研究は,対称性を持つ分子の構造解析におけるX線結晶構造解析の難しさと,クライオ電子顕微鏡の有用性を示す研究例の一つである.
19:10-19:30
総合討論

*研究会世話人*

梅名泰史(岡山大学・異分野基礎科学研究所)

竹下浩平(大阪大学・蛋白質研究所)

西澤知宏(東京大学・生物科学)

研究会担当者:放射光構造生物学研究会 副代表 熊坂崇(JASRI)


*研究会担当者の連絡先*

熊坂崇(JASRI)/E-mail: kumasaka (at) spring8.or.jp

竹下浩平(理研RSC)/E-mail: kohei.takeshita (at) riken.jp