大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8での研究成果例~生命科学~

生命科学| 医学利用 |物質科学地球科学環境科学産業利用


 生命科学   タンパク質結晶構造解析 

カルシウムポンプ蛋白質によるイオンの運搬機構

 ナトリウムやカルシウム等のイオンの濃度は細胞の内外で大きく異なっており、信号の伝達等に使われます。イオンの濃度差を作り出しているのは、イオンポンプと呼ばれる蛋白質群であり、生体膜を貫通して存在する膜蛋白質の一種です。イオンの輸送のためにATPの化学エネルギーを使うATP分解酵素でもあります。図1に示した筋小胞体カルシウムポンプは、筋収縮のために筋細胞中に放出されたカルシウムを筋小胞体中に再び取り込み、筋肉を弛緩させる働きがあります。カルシウムは生体反応の制御に最も広く使われるイオンであり、カルシウムポンプは心筋梗塞やがん、感染症の治療の点からも注目されています。そのイオン輸送サイクルは4つの基本的状態からなり、細胞質側と内腔側と二つあるゲートを正しいタイミングで開閉することによって、イオンを運搬していると考えられていますが、この4つの状態すべての立体構造をSPring-8を用いたX線結晶解析によって決定しました(図1)。この結果、イオン輸送に当たっては、非常に大きな構造変化が起こること、特に重要なのはドメインAで、その位置と向きを制御することによってゲートを開閉していること、そのためにATPや燐酸、Mg2+, Ca2+が使われていることが分かりました。これによって、ATPの加水分解に伴う化学反応が、ゲートを遠隔制御して開閉する機構が明らかになりました。濃度勾配に逆らったイオンの輸送(能動輸送)は、生命活動を支える基本的なプロセスの一つですが、そのなぞが本研究によって解明されました。

東京大学 豊島 近

カルシウムポンプの4つの基本状態の構造

図1.カルシウムポンプの4つの基本状態の構造

カルシウムポンプは10本の膜貫通へリックス(M1- M10)と3つの細胞質ドメイン(A, N, P)を持つ分子量11万の膜蛋白質である。膜内に結合したCa2+ は紫色の円で囲ってある。


squar  生命科学   生体分子結晶構造解析 

薬剤耐性化の原因蛋白質、多剤排出トランスポーターの構造解明

 化学療法に立脚する現代の医療現場で、多剤耐性化は非常に深刻な問題です。それは院内感染や末期ガンで多くの治療薬が効かなくなってしまう現象です。その主な原因の一つは、細胞膜に存在する多剤排出トランスポーターと呼ばれる蛋白質のはたらきで、病原菌の細胞やガン細胞に薬が入らなくなるために起こります。この蛋白質は多種多様な薬の分子を認識し、細胞内から細胞外へポンプのように輸送する膜蛋白質です。大腸菌の中で最も強力な多剤排出トランスポーターとして知られるAcrBはペニシリンをはじめ多くの種類の抗生物質、消毒剤や抗ガン剤を排出することで、それらを効きにくくします。その立体構造をSPring-8の阪大蛋白研ビームライン、およびBL41XUをもちいた研究で明らかにすることに成功しました(図1)。この成果は多剤排出トランスポーターとして最初の立体構造解析例であるばかりでなく、トランスポーターの立体構造解析としても世界で初めてのもので世界から注目を集めました。また薬が結合した状態や、薬を輸送している途中の状態の立体構造も解析しており、このトランスポーターがどのようにして、いろんな薬剤を認識しているのか?また、どのようにしてポンプのように働いているのかも明らかになりました(図2)。このように多剤排出トランスポーターの働きが詳細な立体構造を基に理解できたことで、排出されない新薬の創製や、排出トランスポーター阻害剤の設計など、多剤耐性化問題克服へ向けて門戸を開くものとして大いに期待されています。

大阪大学 村上 聡

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図1.大腸菌多剤排出トランスポーターAcrBの立体構造 細胞膜に対して横から見たところ(左)、と上から見たところ(右)

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図2.大腸菌多剤排出トランスポーター複合体AcrA-AcrB-ToIC複合体の予測構造モデル図