よく知られた物質でも、ナノサイズではバルクの状態とは全く異なる磁気的性質を示すことがあります。この現象の顕著な例が、最近、金 (Au) について発見されました。直径 2 nm のAuナノ粒子は、低温では超常磁性を示すらしいことが分かったのです。このことは、個々のAu粒子が強磁性を持つことを意味しています。バルクでは反磁性を示すAuが強磁性を持つことがあまりにも意外だったので、磁性の起源が鉄などの不純物によるものでないことを証明する必要がありました。
BL39XUでは、X線磁気円二色性によるAuの元素別磁化測定が行われ、超常磁性が確かにAuナノ粒子自身によることが明らかにされました。下図は有機分子に包まれたAuナノ粒子の構造モデルと、超常磁性の証拠となった磁気円二色性スペクトルです。
垂直記録方式による次世代の超高密度磁気媒体では、いかに垂直磁気異方性の高い材料を開発するかがその実現の鍵を握っています。その材料として有望視されているCo系合金ではPtが異方性の向上に寄与しており、したがってPtの磁性を明らかにすることは重要です。しかし、材料の磁化の大部分はCoによるため、Coの信号に埋もれたPtの磁性だけを検出することは従来の磁気測定手法では困難でした。
BL39XUでは、X線磁気円二色性を用いてCo(厚さ 15nm)の上にわずか数原子層(0.2〜2nm) 積層されたPt膜の磁性を元素選択的、かつ、高感度に検出することに成功しました。この実験から、積層方向のPtの磁化分布や軌道磁気モーメントの大きさが定量的に得られています。
主な測定装置