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「SPRUC 2018 Young Scientist Award」の受賞者の決定について

SPring-8ユーザー協同体
会長 水木 純一郎
SPRUC 2018 Young Scientist Award 選考委員会
委員長 雨宮 慶幸

2018年度に募集しておりました「SPRUC 2018 Young Scientist Award (YSA)」には、締切までに11件の応募がありました。

YSAは、SPring-8の利用法や解析手法の開発に顕著な成果を創出した若手研究者、あるいは測定手法や解析手法は確立された方法であったとしても、SPring-8の特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞です。

このような観点から、SPRUC 2018 Young Scientist Award選考委員会において厳正な審査を行った結果、下記の2名の受賞者が決定しました。

受賞者 齋藤 真器名(SAITO Makina)/ 京都大学 複合原子力科学研究所
研究テーマ ガンマ線準弾性散乱法の開発とその応用研究
受賞理由 齋藤氏はこれまで、ナノ秒〜マイクロ秒の原子・分子スケールのダイナミクス測定を可能とするガンマ線を用いた準弾性散乱法の開発に取り組んできた。従来のガンマ線を用いた準弾性散乱法は、高輝度放射光X線を用いても長い測定時間を必要とし、そのため本手法の応用範囲が制限されるという点に問題があった。齋藤氏は、多色のガンマ線を用いて、それらを時間領域で干渉させ、その複雑な干渉パターンから試料のダイナミクスに関する情報を得るという独創的な測定方法を考案した。そして、その測定方法の妥当性を実証するために新たな装置系を構築し、1)単色のガンマ線を用いる従来の方法と比較して、測定時間を1/10以下に短縮できること、2)ナノ秒〜マイクロ秒スケールのダイナミクスのみならず同時にサブピコ秒のダイナミクスの情報も得られること、を実証した。更に、開発した測定方法を応用し、過冷却した液体中で原子・分子の運動性がガラス転移に向けて凍結していく振る舞いを微視的な観点から詳細に観測することに成功した。また、ガンマ線を用いた準弾性散乱法が、非専門の研究者でも高精度で簡便に行うことができるよう、データ解析可能な解析システムの構築を行った。
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受賞者 山下 恵太郎(YAMASHITA Keitaro/ 東京大学大学院 理学系研究科
研究テーマ 微小結晶タンパク質X線結晶構造解析におけるデータ処理システムの開発
受賞理由 最先端の放射光構造生物学では、世界的に膜タンパク質のような微小結晶しか得られない高難度試料からの構造解析に向けた取り組みとして、微小結晶構造解析手法に関する研究開発が世界的な競争のもと進められている。解析試料の高難度化に伴い、分解能や精度を損なうことなく大量の微小結晶からX線回折強度データを収集する戦略へと測定手法が転換している中で、山下氏はSPring-8で進められている自動データ収集システムZOOの開発において多数の微小結晶の自動センタリングを実現するプログラムSHIKA,さらに自動データ処理を実現するKAMOを開発した。これらの開発により微小結晶を用いた構造解析がルーチン的に行えるようになり,利用者は結晶を大きく成長させる実験を省略でき迅速な構造決定が可能になり、創薬ターゲットの膜タンパク質など、様々なタンパク質の構造解析に貢献した。このように山下氏は、SPring-8の誇るマイクロフォーカスビームラインの性能を最大限に活かした微小結晶構造解析の実現と汎用化という先進的な課題に取り組み,SPring-8タンパク質結晶構造解析の成果創出に大きく貢献した。
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