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「SPRUC 2020 Young Scientist Award」の受賞者の決定について

SPring-8ユーザー協同体
 会長 木村 昭夫
SPRUC 2020 Young Scientist Award選考委員会
 委員長 尾嶋 正治
2020年度、募集しておりました「SPRUC 2020 Young Scientist Award(YSA)」には締切までに6件の応募がありSPRUC 2020 Young Scientist Award選考委員会において、厳正な審査をした結果、下記の2名の受賞者が決定しましたので公表します。
YSAは、SPring-8/SACLAの利用法や解析手法の開発に顕著な成果を創出した若手 研究者、あるいは測定手法や解析手法は確立された方法であったとしても、SPring-8/SACLAの特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞である。
このような観点から今回は6名の候補者の中から以下2名の受賞者を決定した。

受賞者:大坂 泰斗 (OSAKA Taito) / 理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門
研究テーマ:The development and use of a unique x-ray optics for free electron lasers
受賞理由:XFELの科学にとっての重要な課題は、X線光学系を開発して、ビームを自由に操作し、材料科学や生物科学へ応用することである。動的光散乱のX線アナログであるX線光子相関分光法(XPCS)は、フェムト秒領域の解析が可能になると様々な重要な物理現象の解明が実現する。SACLAのX線光学素子の開発の最前線に立っている大坂氏は、まずビースプリッターのための高品質極薄結晶を開発し、これらの結晶をX線分割および遅延光学系に組み込むことに成功した。また振幅の分割を追求した大坂氏らは、その困難を認識し、波面の分割という別の選択肢で研究を遂行した。この手法の導入により安定した動作と2パルスXPCSが初めて可能となった。さらに大坂氏らは、波面光学システムの分割法を新たに開発し、それを利用したシングルショットインターフェログラムによりSACLAビームの時間コヒーレンスを決定した。最近、大坂氏らはSACLAで運用されている反射型セルフシードに用いるマイクロチャネルカット結晶分光器の開発に成功し、波長拡がりが小さなXFELを実現した。大坂氏は、自由電子レーザーSACLAのユニークなX線光学素子の開発という困難な課題に取り組み、XFEL科学に多大な貢献をしていることから、Young Scientist Awardに相応しいと判断した。

  • 研究報告はこちら:https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=38529
  • 受賞者:謝 龍剣(XIE Longjian) / Bayerisches Geoinstitut, University of Bayreuth
    研究テーマ:大容量高温高圧実験に用いるX線高透過性材料の開発と 熔融マグマ粘性率測定
    受賞理由:様々な極端条件下での物質・材料研究は、高輝度光源であるSPring-8の得意とするところであり、それらの測定のための技術開発は共通基盤の確立の点でも重要なテーマである。高圧かつ高温のマルチ極端条件下での計測法の開発は、特に地球科学の分野では必須の開発のテーマである。謝氏は、大容量試料が利用できることが特長のマルチアンビル高圧装置(川井式高圧装置)で、独自の発想に基づいた半導体ダイヤモンドヒーターの開発とそれに適合する電極材TiCを探索することにより、本高圧発生装置では世界記録である4000Kの発生に成功した。この成果はダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)研究者からも注目され、既にDAC中で3500Kの発生が確認されており、高圧・高温条件下での物質・材料研究への利用拡大が期待されている。
     さらに謝氏は、ここで開発した半導体ダイヤモンドヒーターがX線に対して高透過性であることに注目し、ケイ酸塩メルトの粘性率を下部マントルの温度圧力条件で測定することに成功した。地球マントル形成機構解明は地球科学において一つの重要なテーマであり、マグマオーシャンの固化過程を決定することは機構解明に大きくつながる。謝氏は、ケイ酸塩メルトの粘性率の測定がマグマオーシャンの固化過程決定に重要であることに着目、落球法による粘性率測定実験を自ら提案し実験に成功した。得られた結果から地球マントル形成に関する独自のシナリオを提唱した。これらの結果はNature Communicationsに採択されており地球科学分野で注目される成果を創出したことが分かる。
    このように謝氏は、SPring-8の特長を生かすべく高圧・高温下での測定技術を開発し、それを利用し地球科学分野にとって重要な成果創出に大きく貢献した。

  • 研究報告はこちら:https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=38491


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