トップページYSAEnglish


「SPRUC 2021 Young Scientist Award」の受賞者の決定について

SPring-8ユーザー協同体
会長 木村 昭夫
SPRUC 2021 Young Scientist Award 選考委員会
委員長 尾嶋 正治

2021年度に募集しておりました「SPRUC 2021 Young Scientist Award (YSA)」には、締切までに10件の応募がありました。

YSAは、SPring-8/SACLAの利用法や解析手法の開発に顕著な成果を創出した若手研究者、あるいは測定手法や解析手法は確立された方法であったとしても、SPring-8/SACLAの特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞です。

このような観点からSPRUC 2021 Young Scientist Award選考委員会において厳正な審査を行った結果、下記の2名の受賞者を決定しました。

受賞者 高山 裕貴(TAKAYAMA Yuki)/ 兵庫県立大学大学院理学研究科
研究テーマ コヒーレントX線を用いたレンズレス時空間階層イメージング法の開発
受賞理由 高山裕貴氏は、兵庫県ビームラインBL24XUにおいて時間変化する回折パターンを1フレーム毎ではなく、連続露光した全フレームを位相回復することで試料構造変化の動画を再構成できるマルチショットCDI法を新たに開発した。すでに開発されていたその場観察CDI装置にこの手法を実装することでマルチショットCDI法を初めて実用化した。溶液中に分散したコロイド粒子のブラウン運動や、厚さ500㎚のタンタル箔に放射状に加工したナノパターン試料移動に適用し、時間分解能10ミリ秒、空間分解能80㎚で動画観察することに成功した。本手法によって、従来型のタイコグラフィでは観察が困難であった局所領域を高速かつ広視野で観察することを実現させたことは大きな成果である。この方法は、細胞等生体非結晶試料や様々な非結晶試料の内部構造を時分割で可視化でき、広い分野への展開が可能になる。実際、2018年度から兵庫県ビームラインにおいて産業界への供用が開始されており、すでに14社がこのイメージング技術を利用しており、産業界の開発研究に今後大きく貢献できると期待される。研究業績、放射光科学に対する本人の寄与も明確であり、Young Scientist Awardに相応しいと判断される。
[研究報告はこちら]
受賞者 冨田 夏希(TOMIDA Natsuki)/ 大阪大学核物理研究センター
研究テーマ GeV光子ビームを用いたハドロン質量起源の探索
受賞理由 SPring-8ハドロン光生成実験用ビームラインBL31LEPにおけるLEPS2実験ステーションは、旧BL33 LEPSではカバーできなかった領域において、ハドロン内部構造の研究や、原子核中での中間子の質量変化をプローブとしたカイラル対称性の部分的回復の研究を行うために設置された実験ステーションである。SPring-8の蓄積リング内を高速で運動する電子にレーザーを入射させ、逆コンプトン散乱によって得られる高エネルギーガンマ線ビームを用いてハドロンの内部構造を探究するものである。同実験ステーションでは、飛行時間型の検出器を用いてハドロンの質量変化の精密計測を行っているが、データ読み出しシステムの負荷を最小限に抑えるため、少ない読み出し本数で大きな立体角をカバーし、同時に高い時間分解能を持つ検出器の設置が必要とされていた。冨田夏希氏は、このような要求を満たすResistive Plate Chamberの開発に着手し、最終的には250㎠以上の大面積で、かつ60㎰という高い時間分解能を達成した。冨田氏は、開発した検出器をSPring-8 BL31LEPにインストールし、原子核内でのη'中間子の質量変化を通して物質の質量生成機構の解明を目指す挑戦的な研究に挑んだ。受賞者自らの発案で、η'中間子生成に関与した陽子とη'中間子の崩壊粒子を同時測定することにより、バックグラウンドを劇的に減少させ、精度の良い計測を実現し将来の高統計実験による探索の道を拓いた。このように、冨田氏は、若手ながら原子核・ハドロン分野の高統計精密実験においてすでにリーダーシップをとっており、将来的にも活躍が約束されている類い稀なる能力を持つ若手研究者と確信される。このような観点から、冨田夏希氏はYoung Scientist Awardに相応しいと判断される。
[研究報告はこちら]