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「第14回 Young Scientist Award」受賞者の決定について

特定放射光施設ユーザー協同体
会長 藤原 明比古
第14回 Young Scientist Award 選考委員会
委員長 西堀 英治

YSAは、SPring-8、SACLAまたはNanoTerasuの利用法や解析手法の開発に関する、顕著な成果を創出した若手研究者、または測定手法や解析手法が確立された方法であってもSPring-8、SACLAまたはNanoTerasuの特徴を活かして分野に顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞です。

このような観点からYSA選考委員会にて厳正な審査を行った結果、下記2名の受賞者を決定しました。

受賞者山田 純平(Jumpei Yamada) / 大阪大学
研究テーマ硬X線結像ミラーによるXFELの極限的集光
受賞理由山田氏は、X線自由電子レーザー(XFEL)の極限集光を目指し、楕円凹面ミラーと双曲凸面ミラーを組み合わせたWolter Ⅲ型光学系に基づくAdvanced KB(AKB-Ⅲ)配置を独自に提案・開発し、SACLAにおいて7×7 nmという極小集光径および1.45×1022 W/cm2という極限的なピーク強度の実現に成功した。
このAKB-Ⅲ型ミラー系は、二回反射によりアッベの正弦条件を満たすことでコマ収差を大幅に抑制し、従来の強集光光学系で問題とされていた入射ビーム角度の誤差許容度を従来比で1,000倍以上に拡大した。これにより、sub-10 nmスケールでのXFEL集光において、高い安定性と実用性を兼ね備えた光学系を構築した点が特筆される。
さらに山田氏は、この光学系を用いてXFEL領域で史上最高となるピーク強度を達成しただけでなく、その強X線場を活用して金属クロムの高速イオン化を実現し、ライマン線スペクトルの観測を通じて、完全電離状態の生成を世界で初めて示すなど、極めて特異かつ先駆的な成果を挙げている。
山田氏の開発した光学系は、国内外の研究者コミュニティから高い評価を受けており、我が国のSACLAにとどまらず、世界各地のXFEL装置への導入が期待されている。このことは、X線光学分野における我が国の卓越した研究力を国際的に示す上でも大きな意義を持つ。 以上の観点から、山田純平氏は、第14回Young Scientist Awardの受賞者として極めて相応しいと判断した。
受賞者平出 翔太郎(Shotaro Hiraide) / 京都大学
研究テーマ時分割in situ X線回折測定を用いたゲート型吸着剤の構造転移速度解析
受賞理由構造柔軟性を有する金属-有機構造体(MOF)は,ゲート吸着と呼ばれる骨格構造の変形を伴った吸着挙動を示すことで知られている。ゲート吸着では構造変形と分子吸着が同時に進行し、不動の細孔内で分子が拡散する描像とは決定的に異なる。
平出翔太郎氏は、ゲート型吸着剤ELM-11においてその構造転移速度から吸着速度を知ることができることに注目し、SPring-8のBL02B2にガスハンドリングシステムを持ち込み、吸着ガスであるCO2の供給速度と計測系時間分解能を最適化した条件下で、時間分解X線回折測定を行った。
その系統的なデータから構造転移速度を解析する手法を考案し、ゲート圧との差圧の項を含む自触媒反応として定式化できることを示した。本研究で、ゲート型吸着剤の骨格構造の転移速度の関数形からゲート吸着の動的描像が得られたことに加え、高輝度放射光X線を活かした時間分解X線回折法と化学工学的手法を組みあわせた当該解析手法が、CO2分離回収分野での吸着速度の解明といった具体的な環境問題解決につながる手段として活用されることへの期待が大きい。
加えて、現在、幅広く利用されるBL02B2、BL13XUのガスハンドリングシステム、MYTHEN等の検出器を使った時分割測定などの開発研究にも貢献しており放射光計測技術開発の点でも顕著な実績がある。このような観点から、平出翔太郎氏を、第14回 Young Scientist Awardに相応しいと判断した。