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光化学系Ⅱにおける酸素生成中間体の構造を解明(プレスリリース)

公開日
2023年05月09日
  • SACLA

2023年5月9日
SLAC National Accelerator Laboratory
(高輝度光科学研究センター)

 ローレンスバークレー国立研究所(アメリカ合衆国)のJan Kern博士、Vittal Yachandra博士、矢野淳子博士、SLAC国立加速器研究所(アメリカ合衆国)のRoberto Alonso-Mori博士、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室実験技術開発チームの大和田成起主幹研究員、ウィスコンシン大学(アメリカ合衆国)、フンボルト大学(ドイツ)、およびウプサラ大学(スウェーデン)の国際共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)*1施設SACLA*2およびXFEL施設LCLS*3(アメリカ合衆国)を利用し、光合成中に順次起こる分子の構造変化を明らかにしました。

【論文情報】
<タイトル>
Structural evidence for intermediates during O2 formation in Photosystem II
<著者名>
A. Bhowmick, R. Hussein, I. Bogacz, P. S. Simon, M. Ibrahim, R. Chatterjee, M. D. Doyle, Mun Hon Cheah, T. Fransson, P. Chernev, In-Sik Kim, H. Makita, M. Dasgupta, C. J. Kaminsky, M. Zhang, J. Gätcke, S. Haupt, I. I. Nangca1, S. M. Keable, A. Orkun Aydin, K. Tono, S. Owada, L. B. Gee, F. D. Fuller, A. Batyuk, R. Alonso-Mori, J. M. Holton, D. W. Paley, N. W. Moriarty, F. Mamedov, P. D. Adams, A. S. Brewster, H. Dobbek, N. K. Sauter, U. Bergmann, A. Zouni, J. Messinger, J. Kern, J. Yano, V. K. Yachandra
<雑誌名>
Nature
<DOI>
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06038-z

【研究の背景】
 自然界の光合成では、太陽光から化学エネルギーへの変換プロセスの最初のステップとして、光によって水が電子、陽子、分子状酸素に分解されることが知られています。その活性中心である酸素発生複合体中では、マンガン原子4個が酸素原子で架橋されたマンガンカルシウムクラスターに水由来の2個の酸素が結合し、協奏反応*4が起こって酸素分子が形成されます(Kokサイクル)。本研究では、常温で可視光レーザーを複数回照射することによって励起された酸素発生複合体を、XFELを使った連続フェムト秒X線結晶解析法によって観測し、Kokサイクルの最終反応過程(S3→[S4]→S0 遷移)で順次起こる構造変化を明らかにしました。

【研究内容と成果】
 今回の結果は、触媒過程で起こるマンガンカルシウムクラスターの化学変化に応じてタンパク質が変化し、マイクロ秒からミリ秒にわたって発生する一連のイベントを経てS3→[S4]→S0 遷移が起こることを示しています。また、この最終反応過程で起こるクラスターからの2個のプロトン放出は、触媒中心から伸びるCl1 チャネルの 水素結合ネットワークを介して起こり、グルタミン酸残基からなる「プロトンゲート」の構造変化によって制御されることを裏付ける結果が得られました。つまり、水分解反応のような多電子触媒反応において、自然界の光合成では一連の反応過程がタンパク質と水素結合ネットワークによっていかにうまくコントロールされているかを示しています。また、S2→S3 遷移中に Ca と Mn1 間の架橋配位子*5として導入された6番目のO 原子 OX は、3回目の可視レーザー照射後およそ 500から700 マイクロ秒後から始まるチロシン残基(YZ)の還元と並行して変化しますが、O2 発生を示唆するマンガンカルシウムクラスターの構造変化はそれよりも少し遅れて起こることがわかりました。このことは、還元された中間体、おそらく結合過酸化物のような中間体の存在を示唆していると考えられます。

【今後の展開】
 本研究は、光合成の最初のステップである水の分解反応の解明に大きく貢献するものとなります。このような光合成における化学過程の解明は、人工光合成の実現に向けた開発への重要なステップとなるものです。

SLAC国立加速器研究所のプレスリリース
https://www6.slac.stanford.edu/news/2023-05-03-researchers-capture-elusive-missing-step-final-act-photosynthesis


【用語解説】

*1: X線自由電子レーザー(XFEL): X線領域におけるレーザーのこと。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。また、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。

*2: SACLA: 理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。コンパクトな施設の規模にもかかわらず、0.1nm以下という世界最短波長クラスのレーザーの生成能力を持つ。

*3: LCLS: 米国スタンフォード線形加速器センター(現在のSLAC国立加速器研究所)で建設された世界で初めてのXFEL施設。2009年12月から利用運転が開始された。LCLS はLinac Coherent Light Sourceの略。

*4: 協奏反応: 複数の化学結合の生成・切断が、段階を経ずに同時に起こること。

*5: 架橋配位子: 金属と金属の橋かけをする働きを有し、金属イオンと2か所以上の化学結合を形成する分子やイオンの総称。



 

【問い合わせ先】
(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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