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大強度・フルコヒーレントの極端紫外レーザーを実現 − 日本独自の加速器とレーザーの組み合わせにより世界初の成果 −(プレスリリース)

公開日
2011年01月12日
  • SCSS試験加速器
XFELプロトタイプ機により高次高調波の強度を650倍に増幅しました。これは、軟X線領域における世界初のシード型FEL光※1です。本研究は、理化学研究所、東京大学を始めとする日本の光科学の拠点機関が結集して実現しました。本研究成果は、光科学分野における日本の高い技術力を示すものであり、空間、時間において光の位相が揃ったフルコヒーレント※2の高強度軟X線光源を用いた基礎科学研究のための重要な一歩です。

2011年1月12日
国立大学法人 東京大学 大学院理学系研究科
独立行政法人 理化学研究所
財団法人 高輝度光科学研究センター

 独立行政法人理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が共同で組織する「X線自由電子レーザー計画合同推進本部(XFEL推進本部)」、及び理研基幹研究所エクストリームフォトニクス研究グループ、東京大学、 独立行政法人日本原子力研究開発機構、慶應義塾大学、NTT物性科学基礎研究所、高エネルギー加速器研究機構、Synchrotron SOLEIL(フランス)のグループが共同で、極端紫外領域で高次高調波シード方式の自由電子レーザー(Free Electron Laser: FEL)の実現に成功しました。これまで、短波長領域 (極端紫外光※3~X線) におけるレーザー光源として、 二つの異なる方式が用いられてきました。 一つはFEL、 もう一つはレーザーの高次高調波※4です。 FELは、短波長領域で大強度を得ることができますが、 従来の方式 (自己増幅自発放射型: Self-Amplified Spontaneous Emission、 SASE) ではスペクトルのばらつきを抑制できないという問題がありました。 一方で、 高次高調波は、 スペクトルが完全に制御されたフルコヒーレント光を発生可能ですが、 短波長領域の高強度化には限界がありました。 実は、 この2つの方式を組み合わせることにより、 高強度のフルコヒーレント光が得られることが知られていましたが (シード型FEL)、 非常に難度の高い技術を組み合わせる必要があり、 短波長領域では世界で未だ実現されていませんでした。

 今回、日本の拠点機関の技術力を結集することにより、世界で初めて、 極端紫外領域において高強度のフルコヒーレント光の発生に成功しました。 具体的には、 XFEL推進本部が開発したXFELプロトタイプ (SCSS試験加速器) に対して、 エクストリームフォトニクス研究グループの高強度軟X線アト秒パルス研究チームが生成した世界最高の発生効率の高次高調波がシード光 (種光) として入射されました。 この結果、 高次高調波の理想的なスペクトル特性を維持したまま、 650倍の強度の増幅が確認されました。 世界が待ち望む軟X線領域のフルコヒーレント・高強度光源の実現に向けて、 日本が大きな一歩を踏み出しました。 また、 今回強化された加速器・レーザー技術の共同研究開発の枠組みは、 新光源開拓にとどまらず、 利用研究においても今後世界をリードする核となることが期待されます。

 本研究の一部は、東京大学を中核機関とする文部科学省科学技術試験研究委託事業「XFEL光と先端レーザー光による原子・分子・クラスターのポンプ・プ ローブ計測」の研究として行われました。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Optics Express』(2011年 1月 3日付け)に掲載されました。

(発表者)

理化学研究所・高輝度光科学研究センター    
 X線自由電子レーザー計画合同推進本部 チームリーダー 矢橋 牧名
  客員研究員 富樫 格
東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授 山内 薫
東京大学大学院理学系研究科附属超高速強光子場科学研究センター 特任助教 岩崎 純史

(論文)
"Extreme ultraviolet free electron laser seeded with high-order harmonic of Ti:sapphire laser"
Tadashi Togashi, Eiji J. Takahashi, Katsumi Midorikawa, Makoto Aoyama, Koichi Yamakawa, Takahiro Sato, Atsushi Iwasaki, Shigeki Owada, Tomoya Okino, Kaoru Yamanouchi, Fumihiko Kannari, Akira Yagishita, Hidetoshi Nakano, Marie E. Couprie, Kenji Fukami, Takaki Hatsui, Toru Hara, Takashi Kameshima, Hideo Kitamura, Noritaka Kumagai, Shinichi Matsubara, Mitsuru Nagasono, Haruhiko Ohashi, Takashi Ohshima, Yuji Otake, Tsumoru Shintake, Kenji Tamasaku, Hitoshi Tanaka, Takashi Tanaka, Kazuaki Togawa, Hiromitsu Tomizawa, Takahiro Watanabe, Makina Yabashi, and Tetsuya Ishikawa
Optics Express, 19 (1), 317-324 (2011), published online December 22, 2010


《参考資料》

図1 SCSS試験加速器
図1 SCSS試験加速器
図2 シード型FELの実験配置
図2 シード型FELの実験配置

波長800nmチタンサファイアレーザー光は、XFELプロトタイプ機の試験加速器トンネル内に置いた高調波発生用ガスチャンバー内で、波長61nm及び53nmのシード光に変換され、シケインを用いて電子ビームと重ねてアンジュレータに入射される。

図3 (a):波長61nmにおけるSASE-FELとシード型FELのスペクトル、(b):シミュレーション結果
図3 (a):波長61nmにおけるSASE-FELとシード型FELのスペクトル、(b):シミュレーション結果

《用語解説》
※1 シード型FEL

外部から位相がきれいにそろったコヒーレント光(シード光)を入れ、この光の位相を種(シード)として電子をそろえて光を増幅するFELをシード型FELと呼ぶ. SASE-FELとシード型FELの詳しい原理については、2008年3月10日付プレスリリース「シード光を入射する新方式で短波長自由電子レーザー光の発生に成功」を参照

※2 コヒーレント光、コヒーレンス
複数の波が存在するとき、波同士の山と山もしくは谷と谷が重なれば(位相がそろえば)それぞれ山は高く、谷は深くなる。逆に、山と谷が重なる場合には打ち消される。このような波の干渉の度合いをコヒーレンスという。複数の波の位相が完全に(100%)そろっている光をコヒーレント光という。

※3 極端紫外光
波長40~100 nmの光を指す。光の波長が100 nmより短くなると、ほとんどの物質に吸収される。空気中の酸素にも吸収されるため、伝搬路を真空にする必要がある。更に短い波長0.2~40 nmを軟X線と呼ぶ。1 nm(ナノメートル)=10-9m

※4 高次高調波
高強度の可視レーザー光を、ある種のガス(キセノン、アルゴンなどの希ガス)に集光すると、その可視レーザー光と同じ方向に、複数の波長の短い光が発生する現象が知られている。一般に電磁波を取り扱う分野では、基本の波長の整数分の1の波長の電磁波が発生すると、これを「高調波」と呼ぶ。高強度の可視レーザー光により発生した波長の短い光は、可視レーザー光の波長の奇数分の1(例えば、11分の1 や13分の1)の波長になっており、またその分母に入る数が数十以上に達する場合もあることから、「高次高調波」と呼ばれている。



《問い合わせ先》
(研究に関すること)
 独立行政法人理化学研究所・財団法人高輝度光科学研究センター
 X線自由電子レーザー計画合同推進本部利用グループ ビームライン建設チーム
  客員研究員 富樫 格(とがし ただし)
  TEL:0791-58-2849 / FAX: 0791-58-2862

 独立行政法人理化学研究所基幹研究所 エクストリームフォトニクス研究グル-プ
 高強度軟X線アト秒パルス研究チーム
  専任研究員 高橋 栄治(たかはし えいじ)
  TEL:048-467-9501 / FAX: 048-462-4682

 国立大学法人東京大学大学院理学系研究科化学専攻
  教授 山内 薫(やまのうち かおる)
  TEL:03-5841-4334 / FAX:03-5841-7347

(報道に関すること)
 国立大学法人東京大学 大学院理学系研究科
  広報・科学コミュニケーション 准教授 横山広美
  TEL:03-5841-7585 / FAX:03-5841-1035

 独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
  TEL:048-467-9272 / FAX:048-462-4715

 財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
  TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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