大型放射光施設 SPring-8

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光合成反応中心と集光アンテナタンパク質との複合体の結晶構造を解明(プレスリリース)

公開日
2014年03月27日
  • BL41XU(構造生物学I)
  • BL44XU(生体超分子複合体構造解析)

2014年3月27日
京都大学

 三木邦夫 理学研究科教授、竹田一旗 同講師、丹羽智美 理学研究科大学院生らの研究グループと、大友征宇 茨城大学理学部教授らの研究グループは、光合成細菌※1の反応中心と集光アンテナタンパク質との巨大複合体の構造を、X線結晶構造解析法によって解明しました。
 この研究成果は、2014年3月26日に英国科学誌「Nature」にオンライン掲載されます。
 酸素を発生しない原始的な光合成をおこなう細菌にみられる光合成装置について、光を集めるアンテナ部分(LH1)と光合成反応を行う反応中心(RC)の部分が形成する複合体(LH1−RC)の分子構造をX線結晶構造解析の手法を用いてこれまでにない高い分解能で解析し、タンパク質や結合しているバクテリオクロロフィル※2などの補因子※3の配置を精密に決定しました。

背景
 光合成は太陽光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からデンプンなどの糖類を合成する反応です。その最初の過程では、タンパク質である集光アンテナやRCなどの光合成装置によって、光エネルギーが化学エネルギーに変換されます。光合成細菌が持つ集光アンテナやRCは、高等植物が持つものよりも構造や構成が単純であり、理論的な研究や分光学的な研究にこれまでよく用いられてきました。初めてその結晶構造が解明されたRCも光合成細菌にあるもので、その構造決定と光合成初期過程のメカニズム解明に対して1988年のノーベル化学賞が与えられています。しかしながら、RCを取り巻くかたちで存在する光を集めるアンテナタンパク質(LH1)が結合した状態での構造は、これまで低い分解能でしか解明されていなかったために、効率的な集光や光エネルギー移動のメカニズムを解明するために必要であるLH1とRCの相互作用の様子や色素などの補因子の配置についての詳細が分かっていませんでした

研究手法・成果
 温泉の中に生息する好熱性の光合成細菌から単離されたLH1−RCは高い耐熱性を持っていて、この細菌のLH1−RCを使って今回構造解析に用いた結晶を作製することができました。放射光施設SPring-8(兵庫県)とPhoton Factory(茨城県)においてX線回折データを測定し、その回折データを解析することでアミノ酸側鎖や補因子をはっきりと確認できる電子密度図を描くことで、原子レベルでのLH1-RCの分子構造を決定しました(図A)。その結果、それぞれ16本のα鎖とβ鎖およびバクテリオクロロフィルなどの補因子から構成される楕円状のLH1のリングに、RCが取り囲まれていることが分かりました。LH1リングの中では、32個のバクテリオクロロフィルがリング状の集合体を形成していました(図B)。さらに、LH1にはカルシウムイオンが結合する部位があり、それによってLH1のサブユニットどうしが片側でのみ固く結びつけられていました。一方で、LH1の膜貫通ヘリックスの中心部分には、すき間が存在していました(図C)。このすき間は、光合成によって取り出した化学エネルギーを運搬するユビキノンの通り道となっている可能性があります。

波及効果と今後の展開
 アンテナで吸収された光エネルギーを高い効率でRCに伝える仕組みは、理論的にはよくわかっていません。今後、今回の構造解析で得られた分子構造をもとにして光合成のエネルギー伝達に関する理論的な解明が期待されます。また、人工光合成における色素の分子集合体設計などに応用することが期待されます。研究グループでは今後、光合成に関与するさまざまなタンパク質の構造やタンパク質どうしの相互作用について、構造生物学の視点から研究していきたいと考えています。


《参考図》

図

(A)LH1-RCの分子構造。中心にあるRC(マゼンタ色)の周りをLH1(緑色)が取り囲んでいる。(B)集光アンテナLH1のバクテリオクロロフィル(紫色)の配置。光は中心にあるRCのバクテリオクロロフィル(赤紫色)に集められる。(C)LH1にみられたユビキノンの通り道と考えられるすき間。


《用語解説》
※1 光合成細菌

酸素を発生しない原始的な光合成を行う湖沼に生息する細菌。

※2 バクテリオクロロフィル
光合成細菌が光合成に利用しているクロロフィル(葉緑素)によく似た色素分子。クロロフィルとはわずかに構造が異なるので青い色をしている。

※3 補因子
タンパク質内に存在し、その機能を補助する色素や金属イオンなどの小分子。光合成装置には、クロロフィルやカロテノイド、ヘムなど多くの補因子が利用されている。



《問い合わせ先》
 京都大学大学院理学研究科化学専攻
  教授 三木 邦夫
    TEL:075-753-4029 FAX:075-753-4032
    E-mail:mail1

(SPring-8に関すること)
 公益財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
    TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
    E-mail:kouhou@spring8.or.jp