大型放射光施設 SPring-8

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コンデンサーの新しい原理を発見- 新電子部品開発へのブレークスルー -(プレスリリース)

公開日
2005年12月20日
  • BL02B1(単結晶構造解析)
高輝度光科学研究センターの池田直、大隅寛幸は、日本原子力研究開発機構、大阪府立大学、東北大学、産業技術総合研究所と共同で、RFe2O4という希土類を含む鉄の酸化物で、電圧で電子の整列を制御でき電荷を貯めることができる、新しいコンデンサー材料になり得る物質とその原理を見いだした。

平成17年12月20日
(財)高輝度光科学研究センター

(財)高輝度光科学研究センターの池田直、大隅寛幸は、日本原子力研究開発機構、大阪府立大学、東北大学、産業技術総合研究所と共同で、電子を蓄えることのできる新しい物質とその原理を見いだした。
 この物質はRFe2O4という希土類を含む鉄の酸化物で電子が整列する性質がある。この物質は電子の整列を電圧で制御できるため、電圧の向きを記憶したり電荷を貯めることができ、新しいコンデンサー材料になり得ることがわかった。
 コンデンサーは電荷を貯める電子部品であるが、強誘電体と言う物質を用いることで、劇的に小さくなり、また高速動作が出来る様になった。最近では高性能フラッシュメモリーの新材料としての利用が検討されている。今まで使われてきた強誘電体は、原子の整列現象を利用していたが、今回の発見は、同じ機能を電子の整列で実現していることに特徴がある。電子は原子より1/1000も軽いため、今まで以上に、高速で高性能なコンデンサーを実現することが出来る。
 今まで電子が整列する物質は見つかっていたが、この物質のように電子の整列を制御でき、強誘電体になる物質は無かった。これはSPring-8共鳴X線散乱という実験で明らかになった。
 本研究成果は、イギリスの科学雑誌 Nature 8月25日号に掲載された。

(論文)  "Ferroelectricity from iron valence ordering in the charge-frustrated system LuFe2O4"
日本語訳:電荷フラストレート系LuFe2O4の鉄原子価秩序化による強誘電性
Naoshi Ikeda, Hiroyuki Ohsumi, Kenji Ohwada, Kenji Ishii, Toshiya Inami, Kazuhisa Kakurai, Youichi Murakami, Kenji Yoshii, Shigeo Mori, Yoichi Horibe and Hijiri Kitô
Nature 436, 1136-1138 (2005), published online 25 August 2005

 池田直(高輝度光科学研究センター主幹研究員)、大隅寛幸(同研究員)、吉井賢資(日本原子力研究開発機構、量子ビーム応用研究部門副主任研究員)、稲見俊哉(同副主任研究員)、大和田謙二(同研究員)、石井賢司(同研究員)、森茂生(大阪府立大学理学研究科教授)、堀部陽一(同助手)、村上洋一(東北大学理学部教授)、加倉井和久(日本原子力研究開発機構、先端基礎研究センター主任研究員)、鬼頭聖(産業技術総合研究所主任研究員)らは、RFe2O4という希土類を含む鉄の酸化物が、鉄イオンの電子が整列した強誘電体になっていることを発見した。
強誘電体は、コンデンサーの性能向上に用いられ、電気信号の記憶や電荷を貯める役割を持っている。現在の強誘電体は、原子の配置(変位)が電気双極子の形をとることが起源になっている。このため電荷を蓄えるたびに原子が動くので、原子の位置を精密にコントロールする必要がある。また何度も電荷の充放電を繰り返すと、原子の動きにくい場所が作られ特性が劣化する場合があった。
 RFe2O4は、以前から電子配列に起源のある強誘電体の可能性があったが、確認できていなかった。今回、SPring-8単結晶構造解析ビームラインBL02B1を用いた共鳴X線散乱実験により、価数の異なる鉄イオンの上の電子が双極子を持つ状態で規則配列していることが初めて証明され、電子の配列が起源となる強誘電体であることが確定した。
 今回見つかった物質は、電子という、原子と比較してわずか1/1000ほどの重さしかない粒子が、電気双極子に並ぶことで強誘電体となっている。これを応用すれば、電子の移動だけで電荷を貯めるコンデンサーを実現できる。強誘電体を使った高性能なコンデンサーは、たとえばポータブル音楽プレーヤーやデジタルカメラに使う高密度な記憶素子に応用されようとしている。このように高性能な誘電体を開発することは現代の電子回路技術の基盤を強固にし、発展させる役割がある。今回見いだされた強誘電体の新しい原理と物質は、従来の物よりも小型で高速な記憶素子や、高性能な大きな蓄電体といった、新たな電子デバイスを実現するためのブレークスルーとなることが期待される。

 本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金、並びに、日本原子力研究所・原子力総合科学研究推進制度の支援を受け実施された。本研究成果は、イギリスの科学雑誌 Nature 8月25日号に掲載された。


<参考資料>

図1 RFe<sub>2</sub>O<sub>4</sub>の結晶構造
図1 RFe2O4の結晶構造

緑:希土類原子、赤:鉄原子:青:酸素原子。

 


 

図2 電気双極子を持った電荷の分布
図2 電気双極子を持った電荷の分布

RFe2O4の場合、二枚ある三角格子のc軸方向に上側と下側で電子の濃さが異なり、電気双極子を持つ。このような鉄イオンの並び方が、共鳴X線散乱により決定された。

 


<用語解説>

    強誘電体
     強誘電体は、電荷をためるという特徴がある。この性質は、結晶中でプラスの電荷を帯びた原子(正イオン)とマイナスの電荷を帯びた原子(負イオン)の重心位置が、僅かにずれ、電気双極子と呼ばれる配置をとることで実現する。この電気双極子が、結晶全体に秩序だって一様に並び、電圧をかけると、双極子達が一斉に向きをそろえるため強誘電体の特性が出現する。この機能を応用したメモリー素子の開発が行われている。
    電気双極子
     大きさの等しいプラスの電荷とマイナスの電荷が、ある距離だけ離れた状態のこと。電気双極子は電場を加えるとその向きを電場の方向へそろえる性質がある。強誘電体では、正電荷を帯びた原子(イオン)と負電荷を帯びた原子それぞれの電荷の中心(電荷の重心)が同じ場所に無く、双極子になっている。今回見いだされた物質は、イオン(原子)ではなく、電子の濃いところと薄いところが双極子の形になっている。
    この電子濃度の双極子状の分布は、三角格子の上にある鉄イオンが持つ、電子間のクーロン相互作用で現れる。
    共鳴X線散乱
     放射光X線による回折実験の手法の一つ。原子が持つ固有の共鳴状態に一致するX線を入射し、原子を励起状態に保ちながら回折線の強度を調べる方法。これにより、その回折線の起源となる電子が規則配列を起こしているかどうか調べることが出来る。
    RFe2O4
     RFe2O4は三角格子と呼ばれる結晶構造を持ち、原子達が三角形に配置した層が、積層することで結晶になっている(図1)。


 

<本研究に関する問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
主幹研究員 池田 直
E-mail:ikedan@spring8.or.jp
Tel:0791-58-0832/Fax:0791-58-0830

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター 広報室
Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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