大型放射光施設 SPring-8

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X線自由電子レーザー(XFEL)試験加速器からレーザー光の発振に成功 - XFELのための電子ビーム生成技術の完成 -(プレスリリース)

公開日
2006年06月22日
  • XFEL
独立行政法人理化学研究所 (野依良治理事長)と財団法人高輝度光科学研究センター(吉良爽理事長)は共同で、「X線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser:XFEL)」のための電子ビーム発生・加速技術を完成させ、6月20日、試験加速器(プロトタイプ機)にて「自由電子レーザー」発振に成功しました。

平成18年6月22日
独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター

本研究成果のポイント
 ○ 国家基幹技術−X線自由電子レーザー(XFEL)開発に向け世界を一歩リード
 ○ 世界最高性能の電子ビーム発生・加速器技術を純国産技術で完成
 ○ 究極の光源による新しい波長領域でのイメージング・計測・利用技術開発等に貢献

 独立行政法人理化学研究所 (野依良治理事長。以下「理研」)と財団法人高輝度光科学研究センター(吉良爽理事長。以下「JASRI」)は共同で、「X線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser:XFEL)」のための電子ビーム発生・加速技術を完成させ、6月20日、試験加速器(プロトタイプ機:図1)にて「自由電子レーザー」発振に成功しました。理研とJASRIの共同推進体制である「X線自由電子レーザー(XFEL)計画合同推進本部(坂田東一本部長。以下「合同本部」)」による成果です。
 現在、光科学技術の分野では、青色発光ダイオードなどの半導体レーザー、視力回復手術に利用されているエキシマレーザーなどに代表されるように、レーザー研究が盛んに行われています。XFELは、レーザーの波長がX線領域に到達する「夢の光」として注目されているため、世界中で熾烈な開発競争が行われています。我が国でも、国際競争の優位性を確保する推進基盤としての国家基幹技術に指定され、全日本で成功を目指すプロジェクトとなっています。
 XFELは、極めて高質の電子ビームを、アンジュレータ※1と呼ぶ磁石列間に通すことによって発振します。今回、レーザー媒質である電子ビームを発生する「電子銃」と、電子を高効率に加速させる「Cバンド加速器」という装置群を新竹積(しんたけ つもる)グループディレクターらが開発し、3πミリメートル・ミリラディアンのエミッタンス※2の、極めて高質な電子ビームの生成に成功しました。その電子ビームを、SPring-8で独自に開発された「真空封止型アンジュレータ」に通すことにより、波長49ナノ※3メートル、最大出力110キロ※3ワットのレーザー光が発振しました。
 合同本部ではSPring-8サイト内に、加速エネルギー8ギガ※3電子ボルト、全長約800メートルのXFEL発振器の建設を2006年から開始し、2010年に完成させ、世界初のX線レーザーの発振を目指しています。本計画では、海外で計画中のものと比較して同等以上の性能で、かつ、半分以下のコンパクト化・低コスト化を狙っており、こうした特長を実現するのが、高性能な電子銃とCバンド加速器、真空封止型アンジュレータです。これらの完成とレーザー発振の成功は、日本がX線領域のレーザー開発に世界を一歩リードしたことを証明したことになります。
 XFELを利用すれば、例えば創薬ターゲットであるタンパク質の中でも解析が難しい膜タンパク質の構造解析やナノテクノロジーにおける新機能性材料の創成等に威力を発揮し、幅広い分野で革新的なサイエンスが花開くことになります。

1.背 景
 X線の発見・発生、放射光やレーザーの発明は、新たな科学技術を切り拓き、産業の発展に寄与してきました。例えば現在、X線は病院での診察に使われており、レーザーも青色発光ダイオードやCDの読み取りなどに使われている半導体レーザー、視力回復手術に利用されているエキシマレーザーなど多くの分野に使用されています。
大型放射光施設(SPring-8)※4は、世界最高性能の放射光施設として、材料科学・生命科学・産業利用などで多数の成果を輩出しています。SPring-8の出す放射光は、幅広い波長領域(主に硬X線から真空紫外線)で、非常に明るい(高輝度)という長所を持っています。一方、レーザーは、位相が揃っているという特長を持つため、干渉性が高く、特定の波長において放射光よりも高い輝度を持った光が得られます。このように、放射光とレーザーとは異なる性質を持った相補的な光であり、特にSPring-8が完成した現在、X線領域のレーザーが待望されていますが、その実現は非常に困難なものと考えられていました。

2.研究手法
(1)鏡を使わずレーザー実現
 研究グループは、短波長レーザーを実現する上で「自由電子レーザー」という方法に着目しました。これまで自由電子レーザーは、アンジュレータの両端に鏡を置き、光が往復するたびに電子を入射し、光と電子の相互作用によってレーザーを発振させる方法が考えられていました。しかしこの方法では、波長が短いX線を反射することができる鏡が存在しないため、X線領域のレーザー光を得ることができませんでした。1990年代前半、「発振に至るまでに必要な光の共振に、何度もの光の往復が必要ならば、いっそ反射させずに往復分の距離を往路で稼げばよい」という画期的な提言がありました(図2)。つまり、光が反復する距離の分だけアンジュレータを長くすれば、反射鏡が無くともX線自由電子レーザーの実現が可能となるはずです。
(2)純国産技術による高効率でコンパクトな加速装置:Cバンド加速器
 2005年、同研究グループは、その実証実験として全長60メートルのプロトタイプ機の建設をスタートさせました。60メートルという短い距離で高輝度、短波長のレーザーを実現するためには、電子ビームを加速する高い効率の加速器が必要となります。新竹グループディレクターは、電子を加速する周波数が5712メガ※3ヘルツという「Cバンド加速器」を採用しました。このCバンド加速器は、新竹グループディレクターが1992年に提案したもので、加速に使用するマイクロ波の周波数が従来の2倍で、効率よく高いエネルギー(1メートルあたり30メガ電子ボルト)を与えられる加速器です。従来の加速器の2倍の効率ということは、従来の半分の長さで電子ビームを加速することが可能になるということですが、高純度の銅を高精度に加工した加速管、加速器に高周波を与える「クライストロン」や「パルス電源」を新規開発する必要がありました。新竹グループディレクターらは国内企業各社の協力を得て、10年以上の歳月をかけて開発に成功し、究極の性能の達成に繋がりました(図3)。
(3)高品質ビームの源:世界記録をもつ超高電圧電子銃
 加速器を短くする分、それを通る電子ビームにも高い品質が求められます。新竹グループディレクターらは、電子の発生源(カソード)として「セリウムボライト」の単結晶を用いました。通常のカソードは900℃程度の加熱で電子が発生しますが、セリウムボライトでは1450℃という超高温に加熱する必要があります。しかし、この温度では通常のヒーターはフィラメントが焼き切れてしまうため、熱電子が得られません。そこで、シリコンを超高温に加熱して単結晶をつくる際に使われるグラファイトヒーターを採用することで、独自の電子銃開発に成功しました(図4)。この電子銃から出る電子の平行性(エミッタンス)は、最高で1.1πミリメートル・ミリラディアンという世界記録を達成しました。
 (4)高精度に装置を並べる:アライメント技術
こうした個々の優れたパーツも、全てが高精度に設置されなければ、加速器は動きません。ビームを高い精度でまっすぐ通すための技術は、SPring-8で培った経験が最大限に発揮されました。研究グループの石川哲也プロジェクトリーダーらが手がけた世界最長の1キロメートルビームラインをはじめ、数々のビームライン建設により鍛えられた設置技術やビームの軌道制御技術が、今回の建設にも大きく貢献しています。また、プロトタイプ機では、コージライトという送電線の絶縁体に使用されるセラミックを架台として使用しました。この架台は、熱膨張が鉄の20分の1以下のため、機器を常時安定に支持するのに好都合です。さらに架台を水平に設置するため、新竹グループディレクターは床研削装置「ゆかとけんさく」を開発し、架台の接地面を10マイクロ※3メートル程度の凹凸になるまで研削を行いました(図5)。こうした努力により、直線誤差をわずか50マイクロメートル以下に押さえることができました。

3.研究成果
 プロトタイプ機の試験運転をスタートしてから2005年11月25日に、初めて電子銃から発生した電子ビームがアンジュレータの先まで通過しました。そして詳細に渡る調整を経て、今回、エミッタンス3πミリメートル・ミリラディアン、電荷量0.25ナノクーロン、パルス時間幅1ピコ秒という高質な電子ビームを安定に供給・加速できるようになり、XFELの実現に大きな一歩を踏み出しました。この電子ビームをレーザー媒質としてプロトタイプ機のアンジュレータに導入したところ、波長49ナノメートル、最大出力110キロワットのレーザーを確認しました(図6-1図6-2図6-3)。特に、自由電子レーザーの波長としてはドイツのDESY (Deutsches Elektronen-Synchrotron) が2006年4月に達成した13ナノメートル(2006年6月の国際会議The 9th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI 2006)で発表)に次いで、世界第2位の値です。

4.今後の期待
 XFELは、短い波長、高い干渉性と高い輝度等の優れた特長から、様々な利用研究への応用が期待されています。例えば、創薬ターゲットとして注目されており、生物学・医学等で重要な、細胞膜に存在する膜タンパク質の多くは、その構造が明らかになっていないため反応機構が詳しく分かっていません。X線構造解析では、一度タンパク質を結晶化するプロセスが必要ですが、膜タンパク質のほとんどは結晶化が困難です。XFELであれば、その高い輝度と干渉性から結晶化をせずにタンパク質1分子からでも構造を明らかにできるのではないかと注目されています。
 現在、XFELは第3期科学技術基本計画における国家基幹技術の一つに認定され、人類の英知を生む、国力の源泉を創る、健康と安全を守るという3つの理念の実現に向けて、日本の国家プロジェクトとして推進されています。SPring-8サイトに建設するXFEL(図7)は、全長約800メートル、最大加速エネルギー8ギガ電子ボルト、レーザーの波長0.06ナノメートルであり、2010年の完成を目指しています。XFELは、アメリカのSLAC (Stanford Linear Accelerator Center)やドイツのDESYをはじめ、世界中で熾烈な開発競争が行われています。
 合同本部が開発を進めるXFELは、欧米のものの半分以下のコスト・全長で、世界で最もコンパクトですが、こうしたコンパクト化を実現できるのは、研究グループの優れた技術と経験があるからです。今回開発した電子銃・Cバンド加速器だけでなく、電子ビームから放射光を取り出すアンジュレータは、研究グループの北村英男グループディレクターらが手がけた真空封止型アンジュレータを採用します(図8)。真空封止型アンジュレータは、ビームが通過する磁石列を丸ごと真空タンクに入れることにより、上下の磁石列を近接することができるという利点がある一方、高い真空度や磁力の消失防止など、極めて高い技術レベルが必要な装置です。このようなアンジュレータを製作できるのは世界中でも北村グループディレクターらの研究グループだけであり、北村グループディレクターが手がけた真空封止型アンジュレータは、SPring-8や韓国(Pohang Light Source=ポーハン・ライト・ソース)、スイス(Paul Scherrer 研究所=ポール・シェラー研究所)などで活躍しています。プロトタイプ機やXFELで使用するアンジュレータは、1個の磁石の幅を従来の3分の1である15ミリメートルとすることにより、装置全体のコンパクト化に大きく貢献します。性能と効果の面で比較すると、同機能を実現する世界最小のアンジュレータと言えるでしょう。その性能の高さは、このプロトタイプ機で確認されました。さらに、今回の方法でレーザーの作動に成功した光源は、世界でDESYと日本の2つしかありません。つまり、今回レーザーを確認できたことで、日本がXFELの実現に世界で最も近い存在の一つであることを証明したと言えます。
このプロトタイプ機とXFELは、完成後はSPring-8同様の供用施設として広く一般に供用される計画です。プロトタイプ機は、XFEL実現のために必要な研究開発に使用されるだけでなく、高い干渉性と適度な強度を活かし、様々な利用研究が期待できます。例えば、特定の物質を選択的に励起することにより、光触媒材料の開発や感度の高い分析法の開発に貢献するでしょう。また、これまで実用化されていない波長域での光通信技術への応用により、光通信技術のブレークスルーとなるでしょう。


<参考資料>

図1 X線自由電子レーザー(XFEL)プロトタイプ機収納部
図1 X線自由電子レーザー(XFEL)プロトタイプ機収納部

電子銃側から電子ビームの進行方向に向かっての全景。

 


 

図2 自由電子レーザーの原理
図2 自由電子レーザーの原理

 


 

図3 Cバンド加速管、クライストロン、モジュレータ電源
図3 Cバンド加速管、クライストロン、モジュレータ電源

左) Cバンド加速管。右) 手前がクライストロン、奥の銀の箱はモジュレータ電源のタンク。

 


 

図4 低エミッタンス電子銃
図4 低エミッタンス電子銃

 


 

図5  床研削を行う「ゆかとけんさく」
図5 床研削を行う「ゆかとけんさく」

左下のように、長方形状に研削する。

 


 

図6-1  電子ビームのプロファイル
図6-1 電子ビームのプロファイル

蛍光板で測定したため、実際のビームサイズはさらに小さい。

 


 

図6-2  X線のスペクトル
図6-2 X線のスペクトル

波長49 nm、従来のアンジュレータ光の6000倍の強さのレーザー光が観測された。

 


 

図6-3  X線のピーク出力
図6-3 X線のピーク出力

出力は電荷量の増加に対して指数関数的に増加し、レーザー発振していることを示している。

 


 

図7  プロトタイプ機が設置されている組立調整実験棟と8GeVのXFEL完成予想図
図7 プロトタイプ機が設置されている組立調整実験棟と8GeVのXFEL完成予想図

黄)プロトタイプ機が設置されている組立調整実験棟。
赤)合同本部が建設をスタートした8GeVのXFEL完成予想図。

 


 

図8  真空封止アンジュレータ
図8 真空封止アンジュレータ

銀色の円筒の中に磁石列が入っている。

 


加速器について

 加速器とは、電荷を帯びた粒子(荷電粒子)を加速させる装置の総称です。
 荷電粒子は、電磁気(電磁場)の影響を受けて運動します。この性質を利用して、電荷を持った粒子を加速させる装置が加速器です。

 加速器は、電磁場を利用した加速方法の違いによって、直流高電圧型と高周波型(交流型)の2つに大別されます。
 直流高電圧型加速器は、高い電位差を持つ電極間の電場を利用して荷電粒子を加速するもので、直流電位差に比例した大きさの運動エネルギーを得ることができます。一対の電極間に印加できる加速電圧は、絶縁材等の耐圧で決まる上限があり、さらに大きなエネルギーの加速粒子を得るためには、技術上の制限があります。

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 一方、高周波型(交流型)加速器は、比較的低い加速電圧による加速を繰り返し行うことにより、高エネルギーの加速粒子を得ることができ、加速装置を直線状に配置した直線加速器と、同じ加速電場を周回させることで加速する円形加速器の二つに分けられます。
 さらに高周波直線加速器には、直線状に並べた円筒形電極間の高周波電場により加速するものと、導波管内に誘導された電磁波(進行波及び定在波)の電場により加速するものがあります。X線自由電子レーザーで用いられる方式は、後者の高周波型直線加速器であり、直線状に並べた導波管を使用します。

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 導波管(加速管)は、円筒の空洞内に、円盤や小さい円筒を組み込み、この空洞の中に、大電力の高周波を導き、円筒内にできる定在波または進行波が作る電場を利用して加速するものです。XFEL自由電子レーザーでは、導入する電磁波(マイクロ波)の周波数帯域2856MHzのSバンド加速管と、さらに周波数が大きな加速管によってより大きな加速電圧(加速勾配)を得ようと、高加速勾配Cバンド(5712MHz)加速管の実用に向けた開発を行いました。そしてこれらの加速管を電子の加速速度に応じて、適切に設置・調整することにより、電子を高エネルギーまで加速します。


放射光について

 光(電磁波)には、その波長に応じて、人が認識できる波長領域である可視光領域(およそ400〜800 nm)があります。この可視光域からさらに長い波長の電磁波は、赤外線(近赤外線、中赤外線、遠赤外線)、そして電波帯域(マイクロ波、サブミリ波、ミリ波・・・)へと続きます。
 一方、可視光領域からさらに短い波長領域の電磁波は、紫外線、真空紫外線、X線と続きます。

 加速器を用いて作り出される放射光は、これらの短波長側のX線から長波長側のマイクロ波までの広い範囲の波長の電磁波を含みます。

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 また、放射光の発生原理は、光の速度に近い高エネルギーの電子が磁場中を通過すると、磁場によって軌道を曲げられ、このとき軌道の接線方向に光(電磁波)を発生します。軌道の接線方向に光が集中し、指向性の大きい、強い光となります。

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 SPring-8では、微量微小試料の分析(和歌山毒物カレー事件にも活用)や、波長の短いX線を使った原子レベルの解析による新しい物質の創造(物質科学)、タンパク質の構造解析を通して生命活動のメカニズム解明や新薬創出(生命科学、薬学)など、その他、地球科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野で利用されています。


レーザーと自由電子レーザーについて

 レーザーとは、「誘導放出を利用した光の増幅器または発信器(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)」の頭文字をとって名づけられました。
 代表的な型のレーザーは、鏡を平行に配置した光の共振器の中にレーザー媒質(原子・分子)を入れ、光や放電により、安定したエネルギー状態(基底状態)にある媒質を励起し、余分なエネルギーを持つ不安定な状態(励起状態)をつくります。励起状態にある媒質原子の数が、基底状態にある媒質原子数を上回る状態を反転分布状態といい、光や放電などの外的作用により反転分布状態をつくります。
 媒質原子は励起状態にとどまる時間が限られていて、すぐにより安定した基底状態へ戻ります。このとき媒質原子は、励起状態と基底状態のエネルギー差に等しいエネルギーの電磁波(光)を放出します。自然放出(自発放出)とは異なり、外的作用により励起状態をつくり出し、光の放出を行うことを誘導放出いいます。

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 誘導放出された光は、平行に配置された鏡の間で反射を繰り返すうちに、他の媒質原子を刺激し光を放出、さらにこの光は他の原子を刺激、光放出、といった、なだれ的現象、増幅作用を生み出します。この増幅作用により、光発振は成長し、レーザー光の出力になります。

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 媒質の種類により、励起状態や安定状態が異なるため、媒質によって発振される光のエネルギー、すなわち波長が決まります。また、励起状態と安定状態のエネルギーの値は、媒質原子固有の値を示し、自然放出と違って波長幅のきわめてせまい単色光を放出します。また、誘導放出により発せられた光は、共振器により波面がそろえられ、広がり(発散)が少なくなるため、高い指向性を示します。
 200 nm以下の短波長領域では、酸素分子による吸収があり空気中を透過させることが難しいことや、共振器として重要な部分である鏡の反射率が小さくなってしまうなどの問題があります。現状、短波長側の光源としては、直接のレーザー発振でエキシマレーザー(F2:158 nm)が代表的なものです。
X線自由電子レーザーは、光の速度近くまで加速された電子が軌道変化させることにより生じる放射光を利用したレーザーです。アンジュレータ内の静磁場により周期的に軌道を変えられ、光が発振・増幅します。さらに短い波長領域の光源の確保を目指し、波長60nmのレーザー光の発振を達成しました。

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コヒーレントについて

 レーザーの光は、単色性に優れ、指向性を持ち、干渉性が良く、エネルギー集中度が高い(高輝度性)といった性質を持ちます。
 これらの性質をコヒーレント(位相が揃っていること)という言葉を用いると、「時間的にも空間的にもコヒーレント(位相の揃った)光である」といい、一つの波長の光が一定の方向に規則正しく拡がらずに進む光のことを示します。


単色性
 さまざまな光が混ざり合っておらず、どのくらい純粋なひとつの光であるかをいいます。太陽光は、さまざまな光が交じり合い、プリズムを通すと七色に分かれます。太陽光は、いろいろな波長または周波数の光で成り立っていることを意味します。
純粋なひとつの波長(周波数)すなわち単一波長(周波数)に近いかどうかということを表します。

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指向性
 光が一定方向にどの位ひろがらずに進むかを意味します。
 レーザーポインタの光は、まっすぐ、広がらずに進みますが、電球の光は四方八方に散らばります。

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干渉性
 干渉とは、光の位相の相違によって、明暗の縞を発生させる現象をいいます。位相が異なることによって、光は相互に強めあったり弱められたりします。
太陽、懐中電灯などの一般的な光では、波長も位相もまちまちであるため、干渉効果がなかなか現れにくくなります。

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高輝度性(エネルギー集中度)
 太陽光では、光をレンズで集める(集光する)と、光のエネルギーが集中するため、紙や木を焼くことができます。このように、ある面積内の光を一点に集中することができます。レーザーなどの光は、エネルギー集中度が高く、高輝度性を示します。

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<用語解説>

※1 アンジュレータ
 N、Sの磁極をハーモニカのように上下に配置して、その間を通る電子を周期的に小さく蛇行させて明るい特定の波長を持った光を作り出す装置。理研の大型放射光施設(SPring-8)では世界に先駆けて実用化した真空封止型アンジュレータ、27メートルにおよぶ長尺アンジュレータなどを整備し、世界最高レベルの放射光発生を実現している。

※2 エミッタンス
 ビームの断面積と広がりを掛けた値で、電子ビームの性質を表す指標の一つ。エミッタンスが大きいと、全体として広がりやすい電子ビーム、逆に小さければシャープで良質な電子ビームと言える。

※3 ピコ・ナノ・マイクロ・キロ・メガ・ギガ
 ピコは一兆分の一、ナノは十億分の一、マイクロは百万分の一、キロは千、メガは百万、ギガは十億を表す。

※4 大型放射光施設(SPring-8)
 兵庫県にある大型共同利用施設。ほぼ光速で進む電子が、その進行方向を磁石などによって変えられると接線方向に電磁波が発生する。これが「放射光(シンクロトロン放射)」と呼ばれるものであり、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。特に第三世代の大型放射光施設と呼ばれるものには、世界にSPring-8、APS(アメリカ)、ESRF(フランス)の3つがある。SPring-8(電子エネルギー:8GeV)の場合、遠赤外から可視光線、真空紫外、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの分野で利用されている。


<本件に関する問い合わせ先>

独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター
 X線自由電子レーザー計画合同推進本部
 加速器建設グループ
  グループディレクター  新竹 積
  Tel:0791-58-2929/Fax:0791-58-2840

企画調整チーム  猿木 重文
  Tel:0791-58-0900/Fax:0791-58-0800

(報道担当)
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
  Tel:048-467-9272/Fax:048-462-4715

<SPring-8についての問い合わせ先>

財団法人高輝度光科学研究センター
 広報室  原 雅弘
 E-mail:hara@spring8.or.jp
 Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786