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細胞接着分子が神経細胞同士を適切につなぐ仕組み(プレスリリース)

公開日
2018年01月18日
  • BL41XU(構造生物学I)

2018年1月18日
東京大学
富山大学

発表のポイント:
◆神経発達障害に関連する細胞接着分子SALMとPTPδ(デルタ)が選択的に結合して神経細胞同士を適切につなぐ仕組みを明らかにしました。
◆SALMとPTPδが結合した状態の立体構造を決定し、二つのSALM分子と二つのPTPδ分子が複合体を形成して神経細胞同士が接続されることを見いだしました。
◆本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害に関わる今後の研究に役立つ知見になると期待されます。

 東京大学分子細胞生物学研究所(白髭克彦所長)の深井周也准教授らのグループは、細胞接着分子SALMとPTPδが結合した状態の立体構造を決定し、神経細胞同士を適切につなぐ仕組みを解明しました。神経細胞間の接続部であるシナプス(注1)図1)の形成と再編は、脳発達期の神経回路の形成や記憶学習の際に起きる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症などの神経発達障害の発症と密接に関連することが示唆されています。神経発達障害の発症に関連する細胞接着分子であるPTPδ(注2)SALM(注3)は、それぞれ軸索終末と樹状突起に発現し、選択的に相互作用することでシナプス前終末の分化誘導を促します。深井准教授らの研究グループは、PTPδとSALMが結合した状態の立体構造(図2)をX線結晶構造解析(注4)の手法で決定することによって、これらの分子が選択的に相互作用する分子機構を明らかにしました。さらに、二つのSALM分子と二つのPTPδ分子が相互作用してシナプスが形成されることを見いだしました。本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害の発症機構に関わる、今後の研究に役立つ知見になると期待されます。

雑誌名等
雑誌名:Nature Communications(オンライン版1月18日)
論文タイトル:Structural basis of trans-synaptic interactions between PTPδ and SALMs for inducing synapse formation
著者:Sakurako Goto-Ito, Atsushi Yamagata, Yusuke Sato, Takeshi Uemura, Tomoko Shiroshima, Asami Maeda, Ayako Imai, Hisashi Mori, Tomoyuki Yoshida and Shuya Fukai
DOI番号:10.1038/s41467-017-02417-z


研究の背景
 神経細胞間の接続部であるシナプス(図1)の形成と再編は、脳の発達に伴い神経回路が作られる際や記憶学習の際に起こる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症、知的障害などの神経発達障害の発症と深く関わることが示唆されています。シナプスを介して神経細胞間で信号の受け渡しが行われますが、出力側をシナプス前終末、入力側をシナプス後終末と呼び、シナプス前終末と後終末の両方もしくは片方の分化誘導に寄与する細胞接着分子をシナプスオーガナイザーと呼びます。SALMは、最近になって見いだされたシナプス後終末側のシナプスオーガナイザー分子ファミリーであり、ヒトやマウスではSALM1からSALM5までの5種類が知られています。5種類全てがPTPδの属するシナプス前終末側のシナプスオーガナイザー分子ファミリーと結合し、SALM3とSALM5のみがシナプス前終末の分化を誘導できることが報告されていましたが、その分子機構の詳細はよくわかっていませんでした。

研究内容
 深井准教授らの研究グループは、PTPδがSALM2やSALM5と結合した複合体の結晶を作製し、大型放射光施設SPring-8やPhoton Factoryの高輝度X線を利用したX線結晶構造解析により、PTPδ–SALM2複合体とPTPδ–SALM5複合体の立体構造を決定しました。二つのSALM分子と二つのPTPδ分子で構成された複合体の立体構造は、SALMとPTPδとの選択的な相互作用の詳細を明らかにすると同時に、これら二つの分子が2:2の複合体を形成して機能することを示唆していました(図2)。PTPδと相互作用ができないSALM変異体と同様に、2:2の複合体を作れないSALM変異体もシナプス形成を誘導できなかったことから、PTPδ分子とSALM分子との選択的な相互作用によるシナプス前終末の分化誘導には2:2の複合体の形成が必要であることが明らかになりました。この分子機構は、同研究グループがこれまでに研究してきた他のシナプスオーガナイザー分子には見られなかった新たな知見です。

社会的意義と今後の予定
 深井准教授らの研究グループは、シナプスオーガナイザー分子同士の選択的相互作用の分子機構の解明を通じて、中枢シナプス形成の特異性を保証する基本原理を理解してきました。その一方で、シナプスオーガナイザー分子同士の相互作用の情報が細胞内に伝わってシナプス前終末および後終末の分化を誘導する分子機構はよくわかっていません。今回、2:2の複合体の形成が必要であることが明らかになったことで、その分子機構の一端が明らかになりました。今後はさらに、PTPδが細胞内で形成する分子複合体の解析を通じて、シナプスオーガナイザー複合体の活性化からシナプス前終末・後終末が分化誘導される分子シグナルを理解することを目指します。ヒトにおいてPTPδやSALMの遺伝子の変異は自閉症などの神経発達障害と関連することが報告されており、今回の研究結果は、神経発達障害の病態解明と治療・創薬標的の提示に役立つことが期待されます。

 本研究成果は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」研究領域(田中啓二研究総括)における研究課題「シナプス形成を誘導する膜受容体複合体と下流シグナルの構造生命科学」(研究代表者:深井周也)の一環として行われました。


図1 脳、神経細胞、シナプス。
図1 脳、神経細胞、シナプス。

シナプス前終末と後終末の構造の模式図を下に示す。


図2 PTPδ(緑、薄緑)とSALM5(水色、青)との複合体の立体構造。
図2 PTPδ(緑、薄緑)とSALM5(水色、青)との複合体の立体構造。

二つのPTPδと二つのSALM5が集まって複合体を形成している。


用語解説
注1)シナプス:
神経細胞間の信号伝達を担う構造で、主として神経細胞の軸索終末(シナプス前終末)と他の神経細胞(シナプス後細胞)の樹上突起の間に形成される。シナプス前終末と後細胞の間に隙間があり、シナプス前終末からの神経伝達物質の放出を介して信号を伝える。

注2)PTPδ:
受容体型のチロシンフォスファターゼファミリーに属する膜受容体タンパク質。PTPδは、type IIaと呼ばれるサブファミリーに属し、同じサブファミリーに属するLARやPTPσ(シグマ)とともに、シナプス形成を誘導する活性をもつ。

注3)SALM:
シナプスに局在する細胞接着タンパク質。シナプス形成以外にも神経突起の成長などの神経細胞に特徴的な現象に関与することが示唆されている。

注4)X線結晶構造解析:
分子の三次元構造を高分解能で決定する手法の一つ。分子が規則正しく並んだ結晶にX線を照射すると回折という現象が起きる。回折データを解析することで、結晶を構成する分子の構造を原子レベルで決定することができる。



お問い合わせ先:
【研究に関すること】

東京大学分子細胞生物学研究所 蛋白質複合体解析研究分野
准教授 深井 周也(ふかい しゅうや)

富山大学大学院医学薬学研究部
准教授 吉田 知之(よしだ ともゆき)

【JST事業に関すること】
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

【報道に関すること】
科学技術振興機構 広報課

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp