大型放射光施設 SPring-8

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ミリ秒オーダーの高空間分解能X線CTに成功(プレスリリース)

公開日
2018年11月02日
  • BL28B2(白色X線回折)

2018年11月2日
東北大学多元物質科学研究所

【発表のポイント】
•高輝度放射光源からの白色放射光と、高感度なX線イメージング法である回折格子干渉法という方法を用いて、超高速X線CT(コンピュータトモグラフィ)を行った。
•世界最速となるミリ秒オーダー撮影時間(空間分解能約20 μm)で有機材料のX線CTに成功した。
•軽元素から構成される試料のハイスループット3次元可視化や、ミリ秒時間分解能の4次元(3次元+時間)トモグラフィへの応用展開が期待される。

 東北大学多元物質科学研究所の矢代航准教授らは、高感度なX線イメージング法である回折格子干渉法と、強力な白色放射光により、世界最速となるミリ秒オーダー撮影時間(空間分解能約20 μm)で有機材料のX線CT(コンピュータトモグラフィ)に成功しました。本研究成果は、軽元素から構成される試料のハイスループット3次元可視化や、ミリ秒時間分解能の4次元(3次元+時間)トモグラフィへの応用展開が期待されます。
本研究成果は、学術誌「Applied Physics Express」に2018年10月31日付(日本時間)でオンライン公開されました。

【論文情報】
タイトル:Millisecond-order X-ray phase tomography with a fringe-scanning method
著者:Wataru Yashiro, Chika Kamezawa, Daiji Noda, Kentaro Kajiwara
掲載誌名:Applied Physics Express
DOI:10.7567/APEX.11.122501

研究の背景
 X線CTは、医療診断分野においてはCTスキャンの名称でお馴染みの方法で、物体の投影像を様々な方向から撮影して、物体内部の3次元的な構造を可視化するものです。日本語ではX線コンピュータ断層撮影法と呼ばれています。
 X線CTをはじめとするX線イメージングにおいては、一般に、高い空間分解能を追求すれば時間分解能を犠牲にしなければならないという、いわゆるトレードオフの関係があります。最先端の研究の現場では、両者を同時に、すなわち絶対的な感度をいかに向上させるか、ということが永遠の研究テーマです。感度を絶対的に向上させる方法として、1990年代半ばから注目を集めているのが、X線の位相を利用したX線位相コントラストイメージングと呼ばれている方法です。X線の位相を利用することにより、レントゲン写真のようにX線の吸収を利用する場合に比べて、原理的に数桁の感度の向上が実現できます。

研究成果
 矢代准教授らの研究グループは、X線の位相を利用した高感度なX線イメージング法として最近注目を集めている回折格子干渉法と、大型放射光施設SPring-8* BL28B2の偏向電磁石からの強力な白色放射光を用いて、ミリ秒オーダーの撮影時間でX線CTを行い、通常のX線の吸収を利用したX線CTでは良質の画像を取得するのが困難な、有機材料の3次元可視化を行うことに成功しました。高速でX線CTを行うには、高速で投影像を取得することが不可欠です。そのため、従来は1枚の投影像からX線位相コントラスト画像を取得するFourier変換法という方法が用いられてきました。しかしながら、空間分解能が空間搬送波(X線の位相の情報を運ぶ縞模様)の周期で決まってしまうという欠点があり、高い空間分解能が実現できませんでした。また、画像検出器の空間分解能が有限であるため、空間搬送波が細かくなると、シグナル・ノイズ比の低い画像しか得られないことも問題でした。本研究では、縞走査法と呼ばれる方法を、ミリ秒オーダーのCTスキャンに世界ではじめて適用することによって、Fourier変換法の場合に比べて数倍程度高い空間分解能で、かつ数倍程度のシグナル・ノイズ比でX線CTの実現に成功しました。
 図1(a)は、従来のFourier変換法を用いて、8.90ミリ秒の測定時間で取得した木片の断面像[1]図1(b)は、今回、縞走査法を適用して4.43ミリ秒の測定時間で取得した木片の断面像を示しています。木片は有機物で構成されているため、X線の吸収が非常に小さく、X線の吸収を利用するCTでは定量的な再構成像を十分な画質で取得することが困難ですが、縞走査法により取得したX線位相コントラスト像を用いることにより、画像検出器の空間分解能(約20 μm)で、かつ高い感度で木片内部の密度分布が3次元的に描出できています。

今後の展望
 本研究成果では、4.43 msの測定時間で有機物から構成される試料のX線トモグラフィに成功しましたが、最先端の高度な情報処理技術である圧縮センシングを用いると、少ない投影方向のデータでもCT再構成も可能です[2]。最近我々は、Fourier変換法を用いたミリ秒オーダーCTスキャンに、圧縮センシングと呼ばれる高度情報処理技術を適用することにより、撮影時間を2.00 msまで短縮することに成功しています。本研究成果の縞走査法を用いれば、さらなる高速化、高シグナル・ノイズ比も可能であると期待されます。
 また、本研究成果では試料を高速に回転して実験を行いましたが、試料を回転せずにミリ秒オーダーの時間分解能のX線トモグラフィを実現する研究も矢代准教授が研究代表者のJST CRESTのプロジェクトで進められています[3]。試料を高速で回転してもよい場合には、本研究成果は、軽元素から構成される試料のハイスループット3次元可視化や、ミリ秒時間分解能の4次元(3次元+時間)トモグラフィへの応用展開が期待されますが、さらに、試料を回転せずにミリ秒オーダーのX線トモグラフィが実現できれば、格段に応用範囲が広がると期待しています。

《参考文献》
[1] 回折格子干渉計によるサブ10ミリ秒X線トモグラフィ(Wataru Yashiro他、Appl. Phys. Express 10 (2017) 052501(Spotlights論文に選出))。
[2] 圧縮センシングを用いたミリ秒オーダーX線位相トモグラフィ(Wataru Yashiro他、Jpn. J. Appl. Phys. 56 (2017) 112503)
[3] https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111092/1111092_2017.html

図1 木片のCT再構成結果。

図1 木片のCT再構成結果。

(a) Fourier変換法の結果(露光時間8.90 ms)[1]

(b) 縞走査法の結果(露光時間4.43 ms)。


補足説明

*大型放射光施設SPring-8
SPring-8の施設名はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設であり、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っている。



【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 矢代 航(やしろ わたる)
 電話:022-217-5184
 E-mail: wyashiroattohoku.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室(担当:伊藤)
 電話:022-217-5866
 E-mail:press.tagenatgrp.tohoku.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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