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荷電π電子系の規則配列に起因した 電子・光物性の解明に成功 ~光触媒や光導電性材料への応用に期待~(プレスリリース)

公開日
2021年07月01日
  • BL40XU(高フラックス)

2021年7月1日
立命館大学

 立命館大学生命科学部の前田大光教授の研究チームは、愛媛大学、東京工科大学、高輝度光科学研究センター、理化学研究所、筑波大学と共同で、電荷を有するπ電子系を合成し、その集合体の規則配列構造に起因した電子・光物性を明らかにしました。今後、将来の光触媒や光導電性材料への応用が期待されます。本研究成果は、2021年6月30日18時(日本時間)にThe Royal Society of Chemistry(英国王立化学会) 「Chemical Science」に掲載されました。

論文情報
論文名 : Ion-pairing π-electronic systems: ordered arrangement and noncovalent interactions of negatively charged porphyrins
著者 : Yoshifumi Sasano, Hiroki Tanaka, Yohei Haketa, Yoichi Kobayashi, Yukihide Ishibashi, Tsuyoshi Asahi, Tatsuki Morimoto, Nobuhiro Yasuda, Ryuma Sato, Yasuteru Shigeta, Hiromitsu Maeda
発表雑誌 : Chemical Science
掲載日時 : 2021年6月30日18時(日本時間)
DOI : 10.1039/d1sc02260a
URL : https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2021/SC/D1SC02260A

<研究の概要>
 今回、負電荷を有するポルフィリン誘導体を合成し、カチオン種とイオンペアを形成することによる規則配列構造の構築を実現しました。結晶状態における荷電π電子系の間にはたらく相互作用として、静電力と分散力が大きく寄与していることを理論的に明らかにしました。また、同種電荷種の相対配置に依存して集合体(結晶)の吸収特性が制御されることを新たに見出しました。さらに、相反する荷電π電子系間での光誘起電子移動と推察される分光挙動が観測されました。このような荷電π電子系の特徴的な配列構造や物性に関する報告は今回がはじめてであり、将来の光触媒や光導電性材料への応用が期待されます。
 本研究は科学研究費補助金および立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)などの支援によって実施されました。

<立命館大学研究メンバー>
前田 大光 生命科学部 応用化学科 教授
笹野 力史 博士(大学院 生命科学研究科 博士課程後期修了生)
田中 宏樹 さん(大学院 生命科学研究科 博士課程後期課程2回生)
羽毛田 洋平 生命科学部 応用化学科 講師
小林 洋一 生命科学部 応用化学科 准教授
※所属・役職名は、論文投稿時(2021年4月)のものです。

<研究成果>
 今回、ポルフィリン1骨格を有するπ電子系2アニオンがカチオン種と相互作用することを利用して、新たなイオンペアとその集合体の構築に成功しました。電荷を持たないπ電子系は、その平面構造のπ–π相互作用3によって集合体が形成され、電子機能性材料への展開がなされています。対照的に、荷電π電子系で構成される集合体は新たな物性・機能性の発現が期待されますが、その詳細に関する検証はこれまでに実施されていませんでした。
 荷電π電子系は相反する電荷を有するイオンがペアを作ることから、その組み合わせによって多様な集合体や材料への展開が可能になります。適切な荷電π電子系がこれまでに開発されていなかったことから、荷電π電子系間にはたらく相互作用は十分に検証されていませんでしたが、今回、われわれはiπ–iπ相互作用として新たに提唱しました(図1)。本研究では、荷電π電子系間の相互作用(iπ–iπ相互作用)の特徴や性質について、実験と理論の両面から解明を試みました。

図1 iπ–iπ相互作用の概念

図1 iπ–iπ相互作用の概念

荷電π電子系を適切に組み合わせることにより、アニオンとカチオンの相対的な配置によって、多様な集合体形態が構築されました(図2左)。イオンペア集合体の単結晶構造におけるエネルギー分割解析4によって、静電力5分散力6iπ–iπ相互作用のおもな因子であり、π電子系イオンペアの積層構造を安定化していることを解明しました(図2右)。


図2 π電子系イオンペアの単結晶構造とエネルギー分割解析

図2 π電子系イオンペアの単結晶構造とエネルギー分割解析

色彩を持つ単結晶の紫外可視(UV/vis)吸収分光測定7を実施し、π電子系アニオンおよびカチオンが溶液中で分散して存在している状態と比較して吸収波長の大きな変化が観測されました(図3)。理論的に見積もられた荷電π電子系の遷移双極子モーメント8に基づいた励起子相互作用9の評価によって(図4)、荷電π電子系の集合体形態と吸収スペクトルの相関を明らかにしました。


図3 π電子系イオンペアの単結晶におけるUV/vis吸収スペクトル

図3 π電子系イオンペアの単結晶におけるUV/vis吸収スペクトル


図4 吸収スペクトル変化と遷移双極子モーメントの関係

図4 吸収スペクトル変化と遷移双極子モーメントの関係

さらに、同種電荷種の積層構造をもつ結晶では、光照射によってπ電子系アニオンからの電子移動と帰属される過渡吸収スペクトルが観測されました(図5)。このような非荷電型π電子系には見られない荷電π電子系の特徴的な配列構造や物性に関する報告は今回がはじめてであり、将来の光触媒や光導電性材料への応用が期待されます。


図5 荷電π電子系の光照射による電子移動

図5 荷電π電子系の光照射による電子移動


<用語説明>

1. ポルフィリン:
ピロール環4個からなる環状分子。光合成色素クロロフィルなどの骨格。

2. π電子系:
二重結合などを有する分子。分子構造によっては可視光を吸収し、色素となる。

3. π–π相互作用:
積層したπ電子系の間にはたらく相互作用。

4. エネルギー分割解析:
分子と分子の間にはたらく力(分子間力)を解析する方法。

5. 静電力:
静的な電荷分布の間にはたらく分子間力。

6. 分散力:
一時的に生じた双極子と誘起双極子の間にはたらく分子間力。

7. 紫外可視吸収分光測定:
どのような波長の紫外光・可視光を吸収するかを評価する測定。

8. 遷移双極子モーメント:
電子遷移による電子状態変化の大きさと方向を示すもの。

9. 励起子相互作用:
励起状態間にはたらく分子軌道の相互作用。




 

取材・内容についてのお問い合わせ先
・取材について
 立命館大学広報課 担当:中嶋 
  TEL.075-813-8300
・内容について
 立命館大学生命科学部 教授 前田大光
  Email: maedahiratph.ritsumei.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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