大型放射光施設 SPring-8

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枝豆の美味しさに放射光で迫る 〜枝豆の内部構造の"みえる化"に成功〜(プレスリリース)

公開日
2022年04月27日
  • BL20B2(医学・イメージングI)

2022年4月27日
東北大学大学院農学研究科
仙台農業協同組合(JA仙台)
高輝度光科学研究センター

【発表のポイント】
・東北大学キャンパス内に設置され、仙台・東北の産業への波及効果が期待される次世代放射光施設※1の完成を視野に入れた研究を実施
・ブランド化を進める枝豆の美味しさに迫る研究を仙台市の放射光トライアルユース事業※2のサポートにより展開
・枝豆の内部構造や調理の影響を放射光により従来にない精細さで可視化
・ナノの世界をみる巨大な望遠鏡である放射光の新たなターゲットとして、野菜や果物における応用分野を開拓
・子どもたちの科学に対する夢の実現に一歩(図1D参照)

【概要】
 東北大学大学院農学研究科では、産業への波及効果が期待される、青葉山新キャパスに建設中の次世代放射光施設の利用を視野に入れた研究を推進しています。
 枝豆をはじめとする青果物の美味しさについては、甘さやうまみ等の測定や評価は容易ですが、柔らかさや歯ごたえといったテクスチャ※3の評価やそのメカニズムの解明は困難でした。そこで東北大学大学院農学研究科(日高將文、宮下脩平、藤井智幸、金山喜則)のグループでは、仙台枝豆のブランド化を進めるJA仙台(小賀坂行也)および世界トップレベルの実績を誇る大型放射光施設SPring-8※4(高輝度光科学研究センター 八木直人、星野真人)と共同し、次世代放射光の産業利用を目指す仙台市の放射光トライアルユース事業※2のサポートにより、枝豆の美味しさに迫る研究を実施しました。
 その結果、枝豆の通道組織(維管束)や種皮近辺の内部構造を可視化すると同時に、茹でることで水分が種皮近辺や子葉間の隙間から入り込み、通道組織やそれに沿った亀裂から広がることによって枝豆が柔らかくなるメカニズムを、枝豆を破壊することなく示すことができました(図1A–C参照)。
 本研究は、ナノの世界をみる巨大な望遠鏡である放射光の新たなターゲットとして、野菜や果物への応用分野の開拓につながる成果。
 本研究成果は2022年3月1日に国際学術誌Foodsにオンライン掲載されました。

【論文情報】
雑誌名:Foods
タイトル:High Resolution X‐ray Phase‐Contrast Imaging and Sensory and Rheometer Tests in Cooked Edamame
著者:Hidaka, M.; Miyashita, S.; Yagi, N.; Hoshino, M.; Kogasaka, Y.; Fujii, T.; Kanayama, Y.
DOI: 10.3390/foods11050730
URL: https://www.mdpi.com/2304-8158/11/5/730

図1

図1:放射光によって非破壊で可視化された枝豆の内部と絵画コンクール作品
(A)枝豆の3D画像、(B)明瞭にみえる化された通道組織(なお同等の画像の360度回転動画もご覧いただけます<https://www.agri.tohoku.ac.jp/enzyme/edamame.mp4>)(C)茹で時間によって青色で示された水分の浸入状況のみえる化により、枝豆の柔らかさとの関係が明らかに (D)「次世代放射光と仙台の未来」絵画コンクール(http://sris.tohoku.ac.jp/nanotan/competition.html)入賞作品


【詳細な説明】
 青果物の美味しさにおいて、例えば甘さについては糖度により容易に測定可能ですが、テクスチャ※3に関わる食感の評価は難しく、その原因の一つとして、内部構造を非破壊で観察する方法がなかったことが挙げられます。そこで、ブランド化を進める枝豆の美味しさの要因解析に着目し、内部構造を非破壊で測定しました。本研究では放射光を利用した分析として、X線位相コントラスト※5を用いたイメージングにより内部構造を可視化し、硬さとの関係を検討することにより、美味しさのみえる化のための基礎的知見を得ることを目的としました。
 宮城を代表する品種であるミヤギシロメの冷凍枝豆を茹でて、茹で時間による食感の変化を、人による官能評価と機器による物理性の評価(破壊測定)により測定するとともに、SPring-8のBL20B2において非破壊でX線位相コントラスト※5データを取得しました。得られたデータを用いて2次元画像を作成したところ、枝豆の可食部である子葉間の間隙、亀裂、最外層の種皮の内側に存在する薄膜などを解像度よく観察するこができました。また 3次元画像では、通道組織(維管束)およびそこから派生したと思われる亀裂が観察されました。さらに茹で時間による水分の浸入状態を測定することにより、柔らかさとの関連が示されました。
 今回、精細な内部構造を非破壊で観察することができたことから、今後、枝豆に限らず野菜や果物の美味しさや内部障害の検出などの品質評価に応用できる可能性が広がりました。また、放射光の利用においては、X線位相コントラスト分析の他にも様々な測定法があり、現在、X線小角散乱分析※5によってタンパク質等の物質レベルで歯ざわりや滑らかさのみえる化を試みています。なお東北大学大学院農学研究科の放射光生命農学センター<https://www.agri.tohoku.ac.jp/jp/center/agri_a-sync>では、このような、当研究科近くに完成予定の次世代放射光施設の利用を推進する活動を行っています。


【用語説明】

※1 放射光および次世代放射光施設
放射光は加速器内を飛ぶ電子の方向が曲げられたときに発生する。その放射光を利用して様々な分析を行うのが放射光施設で、ナノメートルレベルまでの物体の観察が可能。次世代放射光施設は、国内最高の性能を有する施設として完成予定で、従来の材料やデバイスの開発に加え、農学分野での活用の拡大が期待されている。

※2 仙台市放射光トライアルユース事業
次世代放射光施設を仙台・東北の産業におけるイノベーションにつなげるための事業(https://www.city.sendai.jp/renkesuishin/jigyosha/kezai/sangaku/housyakou.html

※3 テクスチャ
果物や野菜においては、硬さや歯ざわりなどの食感に関わる性質を指し、機器を用いた評価が難しいとされている。

※4 大型放射光施設SPring-8
播磨科学公園都市(兵庫県)にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど幅広い研究が行われています。

※5 X線位相コントラスト分析とX線小角散乱分析
いずれも放射光であるX線を利用した分析法で、前者はX線が透過した際の波としての周期の変化を、後者は照射・散乱したX線を測定して物質の情報を得る分析方法。



 

【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院農学研究科
 助教 日高將文
 E-mail:masafumi.hidaka.a4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい。)

東北大学大学院農学研究科
 教授 金山喜則
 E-mail:yoshinori.kanayama.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい。)

(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科 総務係
 TEL:022-757-4003
 E-mail:agr-syom*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい。)
 〒980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉468-1

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp