大型放射光施設 SPring-8

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炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠(プレスリリース)でのSPring-8での活用について

本研究成果を含む「はやぶさ2」初期分析「石の物質分析チーム」(代表 中村智樹 東北大教授)による研究成果は、9 月22 日(木)(日本時間9 月23 日(金)午前3 時)にアメリカ科学振興協会(AAAS)サイエンス(Science)誌に掲載されました。

本研究では、大型放射光施設SPring-8のイメージングビームラインであるBL20XUにおいて、水や有機物を含むと考えられるリュウグウ試料のうち、1mmより大きな試料を分析するために新規開発したX線回折CT※1(XRD-CT)や位相コントラストCT※2など放射光X線を用いた複数のCT法を組みあわせた「統合CT環境」を用い、リュウグウ試料の3次元形状、内部構造、および鉱物分布などの非破壊解析を実施しました(図1)。また同施設BL47XUでは、100µm以下程度の微小粒子を、より高分解能(~100nm)で、DET※3位相コントラストCT※2を組みあわせたnanoCT分析法を利用し、詳細な鉱物分布および鉱物中の空隙の分布を調べました(図2)。

図1

図1 (A)リュウグウ粒子C0055の光学顕微鏡写真と、(B)BL20XUのCTデータから抽出した内部のクラックの構造。クラックが数10µm程度の間隔で並行に走っていることが分かります。これは、Ryugu(あるいはその母天体)上で、他天体が衝突した際に画像の垂直方向に圧縮を受けた際に形成されたと考えられます。


図2

図2 BL47XUの高分解能CTでRyugu粒子C0002の内部に発見された、6角板状の磁硫鉄鉱の内部に存在する空隙。Aが空隙を横から見たもので、Bは正面から見た画像。空隙は磁硫鉄鉱の外部につながっておらず、閉鎖していることが分かります。その後の分析で、この内部に水、炭酸、有機物などが見つかっており、この磁硫鉄鉱が、これらの物質が固体で存在する原始太陽系の外縁部で形成された事を示唆しています。


語句説明

※1 X線回折CT(XRD-CT)
CTはComputed Tomographyの略で、被写体の多方向からの投影像から3次元情報を数値演算で再構成する手法です。「はやぶさ2」試料分析では、X線回折法(X-ray diffraction: XRD)とCTとを組みあわせ、試料中の構成鉱物が未知であったとしても、多くの鉱物種とそれらの空間位置を高い解像度で同定する放射光XRD-CT分析法を利用します。例えば、試料中の水を含む鉱物と含まない鉱物の空間的な位置を厳密に区別することができます。

※2 位相コントラストCT
有機物や水、気体など、岩石鉱物と比べて非常にX線の吸収が弱い物質が岩石物質に含まれていると、コントラストがとても弱いためにそれらを区別することができません。位相コントラストCTはX線の吸収の低い物質のCT画像中のコントラストを、最大1,000倍程度まで高めることができる手法です。この手法を使えば、岩石物質中の水、有機物、空気を区別し、試料中のどこに存在するかを調べる事ができます。

※3 DET
Dual energy tomographyの略で、元素ごとにエネルギーの吸収が異なる特性を利用し、特定の元素の分布を3次元的に取得する方法です。「はやぶさ2」試料分析では、鉄の分布を利用しています。また、これに加えて位相コントラストCTを組みあわせることで、より高精度で鉱物種を同定することができます。

炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠(プレスリリース)