大型放射光施設 SPring-8

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構造が不規則な「高イオン伝導体Ba7Nb4MoO20」の中の隠れた規則性を発見 -共鳴X線回折と固体NMRを組み合わせた新たな手法で解明-(プレスリリース)

公開日
2023年04月27日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)
  • BL19B2(X線回折・散乱 II)

2023年4月27日
東京工業大学
山形大学
高輝度光科学研究センター
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター

【要点】
○結晶性材料の化学的規則・不規則性を調べるための、共鳴X線回折と固体NMRを組み合わせた汎用性の高い新たな定量的な手法「RXRD/NMR法」を開発
○RXRD/NMR法により不規則な構造を持つ新イオン伝導体Ba7Nb4MoO20における隠れたMoの化学的規則性を明らかにし、中性子回折も組み合わせてプロトンの位置を含めたBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oの完全な結晶構造を解明
○イオン伝導機構の理解、構造解析法および固体酸化物形燃料電池(SOFC)など電気化学デバイスへの応用に新たな道を切り拓くと期待

 東京工業大学 理学院 化学系の安井雄太大学院生(研究当時)、八島正知教授、藤井孝太郎助教ら、物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点の丹所正孝主幹研究員ら、山形大学 学術研究院の飯島隆広教授、高輝度光科学研究センター、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の大友季哉教授らの研究グループは、共鳴X線回折(RXRD)(用語1)固体核磁気共鳴(NMR)(用語2)を組み合わせた汎用性の高い新しい定量法「RXRD/NMR法」を用いて、不規則な構造を持つ新イオン伝導体Ba7Nb4MoO20(用語3)における、隠れたモリブデン(Mo)の化学的規則性(用語4)を発見した。
 結晶性材料の特性は構成原子の化学的規則・不規則性に強く依存する。X線原子散乱因子(用語5)中性子散乱長(用語6)の両方が類似した複数の原子が化学的規則・不規則性を示す材料は数多く、2種類の元素の組み合わせだけでも270種類も存在する。しかし、RXRDなど単独の回折手法では粉末や多結晶の材料分析が容易ではなく、化学的規則・不規則性を調べる汎用性の高い手法が切望されていた。
 今回、研究グループは、RXRDと固体NMRに第一原理計算(用語7)を組み合わせた RXRD/NMR法を提案し、Ba7Nb4MoO20·0.15 H2Oにおける隠れたMoとニオブ(Nb)の規則・不規則性を定量的に決定することに成功した。さらに中性子回折実験(用語8)も用いてプロトンの位置を含めた完全な結晶構造を解明した。結晶構造においてイオン(O2–とH+)が伝導する層の近くにMoが規則化(局在)しており、それが高いイオン伝導性と関係することが分かった。この新発見は最近注目されているBa7Nb4MoO20など六方ペロブスカイト関連酸化物(用語9)のイオン伝導の科学と技術に進展をもたらすと期待される。
 RXRD/NMR法は、汎用性が高いことから、化学的規則・不規則性を研究する新しい道を切り拓くと考えられる。また、固体酸化物形燃料電池(SOFC)(用語10)など電気化学デバイスへの応用が促進されると期待される。
 本研究成果は2023年4月24日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

【論文情報】
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Hidden chemical order in disordered Ba7Nb4MoO20 revealed by resonant X-ray diffraction and solid-state NMR(共鳴X線回折と固体NMRにより解明された、不規則なBa7Nb4MoO20における隠れた化学的規則性)
著者:Yuta Yasui1 Masataka Tansho2, Kotaro Fujii1, Yuichi Sakuda1, Atsushi Goto2, Shinobu Ohki2, Yuuki Mogami2, Takahiro Iijima3, Shintaro Kobayashi4, Shogo Kawaguchi4, Keiichi Osaka5, Kazutaka Ikeda6,7,8, Toshiya Otomo6,7,8,9, Masatomo Yashima1*
* Corresponding author
所属:
1 Department of Chemistry, School of Science, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1-W4-17, O-okayama, Meguro-ku, Tokyo, 152-8551, Japan.
2 NMR Station, National Institute for Materials Science (NIMS), 3-13 Sakura, Tsukuba, Ibaraki 305-0003, Japan.
3 Institute of Arts and Sciences, Yamagata University, 1-4-12 Kojirakawa-machi, Yamagata, Yamagata 990-8560, Japan.
4 Diffraction and Scattering Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI), SPring-8, 1-1-1 Kouto, Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo 679-5198, Japan.
5 Industrial Application and Partnership Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI), SPring-8, 1-1-1 Kouto, Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo 679-5198, Japan.
6 Institute of Materials Structure Science, High Energy Accelerator Research Organization (KEK), 203-1 Shirakata, Tokai, Ibaraki 319-1106, Japan.
7 J-PARC Center, High Energy Accelerator Research Organization (KEK), 2-4 Shirakata-Shirane, Tokai, Ibaraki 319-1106, Japan.
8 School of High Energy Accelerator Science, The Graduate University for Advanced Studies, 203-1 Shirakata, Tokai, Ibaraki 319-1106, Japan.
9 Graduate School of Science and Engineering, Ibaraki University, 162-1 Shirakata, Tokai, Ibaraki 319-1106, Japan.
DOI:10.1038/s41467-023-37802-4

●背景
 結晶性材料の特性は、構成原子の化学的規則・不規則性に強く依存する。このような化学的規則・不規則性は、X線や中性子回折実験によって主に調べられる。しかし、X線原子散乱因子が類似し、中性子散乱長も類似した複数の元素を含む化合物も多く、この場合、化学的規則・不規則性を通常のX線回折や中性子回折で調べることが難しい。そのような元素は2種類の組み合わせだけでも約270種類あり(図1)、これらの元素を同時に含む材料は数多く存在する。また、これらの材料の多くは粉末や多結晶であるため、単結晶を用いた共鳴X線回折実験を行うことは容易ではない。そのため、粉末や多結晶における隠れた化学的規則・不規則性という未解決問題を解決できる、汎用性の高い手法が切望されていた。

図1

図1. 元素(横軸)と元素(縦軸)の組み合わせに対する散乱コントラストスコア(SCS)。
通常のX線回折や中性子回折によって化学的規則・不規則性を調べることが困難な元素Xと元素Yの組み合わせが数多く存在することを濃い赤色で示す。SCSは本研究で新たに定義した、X線回折あるいは中性子回折で化学的規則・不規則性を調べる容易さの度合いを示す指標である。SCSが小さく0に近いほど(図中で濃い赤色ほど)元素と元素を区別するのが難しく、化学的規則・不規則性を調べるのが困難である。本研究で取り扱ったNbとMoもSCSが0.037と低く区別が難しい。

 Ba7Nb4MoO20系材料は、高い酸化物イオン伝導度とプロトン伝導度を持ち、かつ化学的安定性も高く、固体酸化物形燃料電池などへの応用が期待されている。八島教授らの研究グループはBa7Nb4MoO20系材料の結晶構造と輸送特性を研究してきた。過去の研究でもこの材料の結晶構造解析がなされているが、モリブデン(Mo)とニオブ(Nb)原子は完全に不規則に占有すると仮定されていた。その理由は、MoとNbのX線原子散乱因子が類似している上に中性子散乱長も類似しているため、MoとNbの化学的規則・不規則性を通常のX線回折や中性子回折で調べることが難しいためである。この材料は層状構造を持ち、バリウム(Ba)と酸素(O)原子から成り酸素が一部欠損している立方最密充填層(c′層と呼ぶ)をイオンが伝導することが知られている。c′層に隣接するM2席にMoが多く存在して化学的規則性を持つのか、それともMoとNbがバラバラに存在して不規則性を持つのかが重要な未解決問題であった。

●研究成果
 本研究では、粉末や多結晶における隠れた化学的規則・不規則性を解析するために、共鳴X線粉末回折(RXRD)と、第一原理計算を援用した固体NMRを組み合わせた新しいRXRD/NMR法を提案した(図2)。材料の構造解析には単結晶を用いたX線回折や中性子回折がよく使われるが、RXRD/NMR法は粉末や多結晶材料に幅広く適用可能である。NMRは元素ごとの席占有状態を調べることで化学的規則性の直接証拠を得ることができる手法であるが、本研究で扱うNbとMoのように複数の元素の化学的規則性を定量的に決定することは難しい。対して、RXRDは化学的規則性を定量的に決定することができるが、粉末回折データを用いた場合は解析の際に用いたモデルに依存して結果が変わることがある。RXRDとNMRそれぞれの強みを組み合わせることで、信頼度の高い化学的規則性を定量的に求めることができる。

図2

図2. 本研究で提案する、第一原理計算により支援された共鳴X線回折RXRD/NMR法。

(1)Ba7Nb4MoO20試料の合成とNMRによるMoの化学的規則性の証拠
 本研究では母物質であるBa7Nb4MoO20を研究対象として選択した。今回合成したBa7Nb4MoO20は水和しており、正確な化学組成はBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oであるが、本記事では簡単のためBa7Nb4MoO20と記す。NMRは元素ごとのスペクトルを測定できるので、ニオブ(93Nb)のNMRからはNbの化学的規則・不規則性の情報が得られる(ここで93Nbは質量数93のNb核種を示す)。それとは独立にモリブデン(95Mo)のNMRスペクトルからMoの化学的規則・不規則性の情報が得られる。Ba7Nb4MoO20についてニオブ(93Nb)とモリブデン(95Mo)のNMRスペクトルを測定した。その結果、Nbでは主に3本のピークが観察され(図3a)、Nbは3種類の席(結晶構造中の原子が占有する座席)に存在することが示された。Moでは1本のピークのみが観察され(図3b)、Moが1種類の席に規則占有している実験的な直接証拠が得られた。さまざまな席にMo原子を置いたBa7Nb4MoO20の10種類の結晶構造モデルの第一原理計算を行いMoのNMRピーク位置をシミュレーションした(図3c)。その結果、観測された1本のMo NMRピーク(図3b)はイオンが伝導するc′層に隣接するM2席(図4)のMo原子に由来することが分かった。

図3

図3.(a)93Nb核磁気共鳴(NMR)スペクトルと(b)95Mo NMRスペクトル。(c)10種類の結晶構造モデルに対するエネルギー(安定性)とNMRスペクトルの第一原理計算と解釈の模式図。(d)共鳴X線回折データを用いたリートベルト解析における、M2席におけるMoの占有率残差二乗和の関係。
(a)の*マークはスピニングサイドバンド(スペクトルの本来のピーク位置に回転数を加えた位置と差し引いた位置に観測される副次的なピーク)を示す。

(2)共鳴X線回折によるMoとNbの化学的規則性の定量的決定
 続いて、大型放射光施設SPring-8(用語11)のビームラインBL02B2とBL19B2において共鳴X線回折データを測定した。リートベルト法(用語12)により結晶構造を解析した結果、Ba7Nb4MoO20のNbもしくはMoが入りうる席(4種類のM1–M4席)の全てでNbとMoの占有率(ランダムに原子が入りうる一つの席に、ある原子が存在する確率)を同時に決めることが難しかった。そこで、実験値と計算値の差であり、低いほどフィットが良いことを表す残差二乗和を、最も細かい場合には0.005刻みのさまざまなNbとMoの占有率のモデルで調べた。その結果、ビームラインBL02B2で測定した共鳴X線回折データだけを用いることにより、M 2席におけるMoの占有率が0.50のときに残差二乗和が最小となること、すなわちM 2席におけるMoの占有率が0.50であることが定量的に分かった(図3d)。同様に異なるビームラインBL19B2で測定した共鳴X線回折データだけを用いることによっても全く同じ結果が得られた。また、先に述べたNMRの結果と合致するものである。以上の結果は、Mo原子がM 2席だけに局在すること、完全な化学的規則性をもつことを示している(図4)。

図4

図4. 本研究で明らかにしたBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oの完全な結晶構造。Mo原子がM2席のみに存在しており、他のM1、M3およびM4席にはMo原子が存在せずNb原子のみが存在している。このことはMoとNb原子の化学的規則性を示している。イオン伝導が起こるBa1(O1)2-y(O5)y層はBaとO原子が最密充填した本質的な酸素欠損(c' )層である。Ba1、Ba2、Ba3は3種類の結晶学的な席を占有するBa原子を示す。O1、O2、O3、O4、O5は5種類の結晶学的な席を占有する酸素O原子を示す。yはO5の占有率を示す。

(3)Ba7Nb4MoO20·0.15 H2Oの完全な結晶構造と物性
 今回合成したBa7Nb4MoO20は水和しており、正確な化学組成はBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oである。水素Hと酸素Oの位置と占有率を精確に決定するために、室温27ºCだけではなく低温–243ºCで中性子回折実験を行い、リートベルト法により結晶構造を精密化した。中性子回折実験を大強度陽子加速器施設J-PARC(用語13)に設置された高強度全散乱装置NOVAを用いて実施した。低温で中性子回折実験を行うことで水素の熱振動を抑え、水素の占有率を精確に決定できた。
 最終的に得られたBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oの完全な結晶構造を図4に示す。プロトンがc' 層内に存在することが示された(図4の●)。Ba7Nb4MoO20系材料の結晶構造についての既往の研究では、MoとNb原子が完全に不規則に占有していると仮定して解析されていた。しかし、それとは全く異なり、本研究は隠されていたMoとNb原子の化学的規則性を示した初めての例である。Moはイオン(酸化物イオンとプロトン)伝導が起こるc' 層に近接しており、イオン伝導性にとって重要な役割を果たしていると考えられる。酸化物イオン伝導度が高いMo過剰組成のBa7Nb4-xMo1+xO20+x/2の生成エネルギーは、化学的不規則性を示す構造に比べて規則性を示す構造の方が低く、固溶体の形成にとって化学的規則性が重要な役割を持っていることも示唆された。また、化学的不規則性を持つ構造に比べて規則性を持つ構造は水和しやすいことも示唆された。以上の様に、本研究により明らかとなったMoとNb原子の規則性は、Ba7Nb4MoO20系材料の特性に影響を与えることを示すものである。

●社会的インパクト
 本研究では、粉末や多結晶における隠れた化学的規則・不規則性を解析するために、共鳴X線粉末回折(RXRD)と、第一原理計算により支援した固体核磁気共鳴(NMR)を組み合わせた汎用性の高いRXRD/NMR法を提案し、Ba7Nb4MoO20の隠れた化学的規則・不規則性を決定できることを実証した。今後、RXRD/NMR法によって、元素の組み合わせの区別が難しい多くの化合物における隠れた規則・不規則性を解明できると期待される。
 また、高イオン伝導体であるBa7Nb4MoO20におけるMoとNbの規則性が材料特性に影響を与えるという新しい知見は、さまざまなイオン伝導体の性能向上と開発に役立てられると考えられる。Ba7Nb4MoO20系材料は、高性能燃料電池、酸素ポンプ、酸素センサー、水素ポンプ、水素センサーなどへの応用が見込まれている。こうした点から、本研究の成果には、新しいクリーンエネルギー技術と持続可能な社会の実現に貢献し、エネルギー・環境問題を解決するという社会的インパクトがあるといえる。

●今後の展開
 本研究では、重要なイオン伝導体であるBa7Nb4MoO20の隠されたMoの化学的規則性を明らかにし、完全な結晶構造を明らかにした。この結晶構造を基礎として、Ba7Nb4MoO20などの六方ペロブスカイト関連酸化物のイオン伝導の科学と技術の進展が期待される。また、本研究で用いたRXRD/NMR法は粉末や多結晶体に幅広く利用できるなど汎用性が高く、材料における化学的規則・不規則性を研究するための新しい道を切り拓くと考えられる。

●付記
 本研究の一部は、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(A)「新構造型イオン伝導体の創製と構造物性」(19H00821)、JSPS科学研究費助成事業挑戦的研究(開拓)「本質的な酸素空孔層による新型プロトン・イオン伝導体の探索」(21K18182)、JSPS科学研究費助成事業特別研究員奨励費(20J23124、21J22818)、JST研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラムA-STEP 産学共同(JPMJTR22TC)、JSPS研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)「高速イオン輸送のための固体界面科学に関する国際連携拠点形成」および「エネルギー変換を目指した複合アニオン国際研究拠点」、等の助成を受けて行われた。


【用語説明】

(1)共鳴X線回折(RXRD) :原子は元素に特有なエネルギーのX線を大きく吸収する。この吸収するエネルギーの近くでは、X線原子散乱因子が大きく変化する。したがって放射光施設で得られるX線のように波長を変化させて吸収するエネルギーに近いX線を使えば、ニオブなど狙った元素だけX線原子散乱因子を変えることができる。これを利用したのが共鳴X線回折(異常X線回折)実験である。

(2)固体核磁気共鳴(NMR) :核磁気共鳴(NMR)は、静磁場中に置かれた原子核が同位体ごとに固有の周波数を持つ電磁波を吸収・放出する物理現象、あるいはそれを用いた分析を指す。特に固体の物質に対してはサンプルを特定の角度で高速回転させるマジックアングルスピニングなどの特殊な手法が発達しているため、固体核磁気共鳴と呼ばれる。

(3)Ba7Nb4MoO20 :バリウム、ニオブ、モリブデンおよび酸素から構成される酸化物。六方ペロブスカイト関連酸化物と呼ばれる物質群の1つである。この物質群はプロトン伝導体あるいは酸化物イオン伝導体として注目されており、六方ペロブスカイト関連酸化物のイオン伝導は、新しい研究分野である。今回合成したBa7Nb4MoO20は水和しており正確な化学組成はBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oであるが、本記事では簡単のため通常Ba7Nb4MoO20と記す。

(4)化学的規則性・不規則性 :原子の配列が並進周期性を持つ物質が狭義の結晶であるが、周期性は保ちつつ一部の原子が不規則に別の元素に置換されている場合がよくある。例えばある物質の結晶構造のある結晶学的な席に異なる元素の原子Moと原子Nbが1:4で不規則に占有する場合に、この物質は化学的不規則性(もしくは占有不規則性)を持つと言う。これに対して、ある元素が特定の席のみに存在する、または、ある席に特定の元素の原子だけが存在する場合、この結晶は化学的規則性(占有規則性)を持つという。今回Ba7Nb4MoO20では、MoがM2席だけに存在し、M1、M3、M4席にはNb原子のみが存在するという化学的規則性(占有規則性)が発見された。

(5)X線原子散乱因子 :X線は原子によって散乱される。X線原子散乱因子は原子によるX線の散乱されやすさを示す。数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、X線によって回折現象を起こす。回折強度はX線原子散乱因子が大きい程大きい。X線は電子によって散乱されるため、X線原子散乱因子は原子の電子数に依存し、重原子の方が大きい傾向にある。

(6)中性子散乱長 :中性子は原子によって散乱される。中性子散乱長は中性子の散乱のされやすさを示す。数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、中性子によっても回折現象を起こす。この回折強度は元素の同位体に固有な値である中性子散乱長に依存する。

(7)第一原理計算 :経験パラメータを用いずに量子力学に基づいて物質の電子の状態を計算し、物質の安定性やNMRスペクトルなどを理論的に計算する手法。物質に含まれる原子の数、種類、初期配置を設定すれば、現実の物質に基づくものだけでなく仮想的な物質に対しても原理的には計算することができる。

(8)中性子回折実験 :中性子を用いた回折実験。重元素と酸素などの軽元素の両方を含む物質における軽元素の中性子散乱コントラストがX線散乱コントラストと比べて相対的に高いことが多い。そのため、X線回折に比べて中性子回折データを用いた構造解析により、軽元素の原子の原子座標、占有率と原子変位パラメータを正確に決めることができる。

(9)六方ペロブスカイト関連酸化物 :鉱物ペロブスカイトCaTiO3と同じあるいは類似した結晶構造を持ち、一般式ABX3で表される化合物をABX3ペロブスカイト型化合物と総称する(AはBa2+やLa3+などの比較的大きな陽イオン、Bは遷移金属イオンなどの比較的小さな陽イオン、Xは陰イオンを示す)。ABX3ペロブスカイト型化合物は立方最密充填したAX3層とBイオンから構成されるが、六方ペロブスカイト型化合物は六方最密充填したAX3層とBイオンからなる。六方ペロブスカイト関連化合物は、六方最密充填したAX3層および立方最密充填したAX3層がさまざまな比で積層した構造を持つ。六方ペロブスカイト関連化合物のうち、陰イオンとして酸化物イオンだけを含むものを六方ペロブスカイト関連酸化物という。

(10)固体酸化物形燃料電池(SOFC) :固体酸化物形燃料電池(SOFC,Solid Oxide Fuel Cell)は電解質に固体を用いた燃料電池。電極、電解質を含め発電素子中に液体を使用せず、全て固体で構成される。高温で動作するため、白金などの高価な触媒が不要である。現在知られている燃料電池の形態では最も高い温度で稼働し、単独の発電装置としては最も発電効率が高い。SOFCの固体電解質には、酸化物イオン伝導体またはプロトン伝導性材料を用いる。

(11)大型放射光施設SPring-8 :理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等はJASRIが行っています。原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学、考古学など幅広い学術研究や産業分野への応用研究が行われている。

(12)リートベルト法 :粉末回折データを用いて、結晶学パラメータ(格子定数、原子座標、占有率、原子変位パラメータ等)を精密化する手法。

(13)大強度陽子加速器施設J-PARC :高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。NOVAが設置されているJ-PARCの物質・生命科学実験施設MLFでは、世界最高強度のミュオンおよび中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。



 

【問い合わせ先】
東京工業大学 理学院 化学系
教授 八島 正知(やしま まさとも)
Email: yashimaatcms.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2225 FAX: 03-5734-2225

山形大学 学術研究院
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Email: iijimaatkdw.kj.yamagata-u.ac.jp
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高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
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TEL : kobayashi.shintaroatspring8.or.jp
0791-58-0802 (3115)

高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
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Email: kawaguchiatspring8.or.jp
TEL: 0791-58-0802 (3134)

高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室
大坂 恵一
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TEL: 0791-58-0802 (3537)

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
教授 大友 季哉(おおとも としや)
Email: toshiya.otomoatkek.jp
TEL: 029- 284-4333

【取材申し込み先】
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Email: mediaatjim.titech.ac.jp
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公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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