大型放射光施設 SPring-8

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工業的金属加工プロセスの超高速レントゲン診断法が実現 ――SPring-8が新開発した透過力の高い明るいX線を用いることで、 世界ではじめて金属の切削・放電加工現象の観察に成功――(プレスリリース)

公開日
2026年02月20日
  • BL05XU(施設開発ID I)

2026年2月20日
東京大学
理化学研究所
高輝度光科学研究センター

発表のポイント

◆産業・工業で重要な金属加工プロセスの超高速レントゲン診断法が実現しました。
◆SPring-8が新開発したX線を用いて金属内部の変形や動作のスローモーション撮像に成功。
◆自動車、航空、船舶など広範な工業分野において、金属加工技術の問題点を明らかにします。


工業的金属加工プロセスの超高速レントゲン診断

東京大学 先端科学技術研究センターの三村秀和教授(理化学研究所 放射光科学研究センターチームリーダー兼務)、理化学研究所 放射光科学研究センターの矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターの大橋治彦室長は、切削加工(注1)放電加工(注2)などの金属加工技術のための、超高速レントゲン診断法(注3)を開発しました。
本研究では大型放射光施設「SPring-8」(注4)(BL05XU)が新開発した極めて透過力の高い100 keVの明るいⅩ線(注5)を用いることで、5000分の1秒という超高速で、金属内部において金属が除去されて行く様子や加工工具が振動している様子を観察することに世界で初めて成功しました。

論文情報
雑誌名:Review of Scientific Instruments
タイトル:High-speed imaging of cutting and electrical discharge machining (EDM) in thin metals and fluids using high-intensity 100 keV x-rays
著者:Hidekazu Mimura, Gota Yamaguchi, Hiroto Motoyama, Satoru Egawa, Jianli Guo, Yujiro Hayashi, Hirokatsu Yumoto, Takahisa Koyama, Hiroshi Yamazaki, Yasunori Senba, Shunji Goto, Ichiro Inoue, Kenji Tamasaku, Taito Osaka, Jumpei Yamada, Haruhiko Ohashi, Makina Yabashi
DOI:10.1063/5.0279761


発表内容

自動車、家電、航空、船舶などあらゆる工業分野において、切削加工に代表される金属加工技術はものづくりの根幹であり、20世紀後半から現在に至るまで日本が世界をリードしている分野です。
現在、工場現場での加工プロセスの改善は職人的な手法で行われており、理論的解明が難しく、シミュレーターの利用はほとんど行われていません。その主な理由は、金属の加工プロセスは、金属内部や冷却液などの中で行われるため直接観察できないためです。物質の内部を観察する手段としては、X線がありますが、通常のⅩ線では強度が弱く、高速で見ることができず、また、金属内部を透過するためには、より透過力の強い高エネルギーのⅩ線が必要でした。
一方、近年、SPring-8では厚い金属を透過する100keVのX線を、極めて明るい光量で供給する技術を新開発しました。図1は、X線のエネルギーと金属の透過する厚さになります。このグラフから、100 keVのX線を用いると鉄や銅などの工業分野で主となる金属を数ミリメートル以上の厚さでも透過することがわかります。


図1:X線のエネルギーと各金属の透過力の関係(縦軸はX線の透過厚さを示す)
エネルギーが高いほど、金属の透過する厚さが増加します。

本研究では、図2に示すようにこの金属の透過力に優れたX線を、ドリル加工と放電加工の冷却液と金属内部を5000分の1秒の速さで観察、すなわち超高速レントゲン診断に用いました。
図3は、実際に銅合金をドリル加工した様子です。このように、鮮明に金属内部において工具により、金属が除去されていく様子を観察することに世界で初めて成功しました。さらに、ドリル工具の振動の様子もわかり、穴加工で防ぐべきバリの発生メカニズムも解明しました。本研究では、工業分野で重要な放電加工の観察にも成功しています。


図2 SPring-8での金属加工の超高速レントゲン診断の様子

図3 SPring-8において100 keVのX線によるドリル加工の動画の一部
上側は、穴をあけはじめ、下側は貫通後の動画の一部。実際は5000分の1秒の間隔で撮影

本手法により、冷却水や金属の内部で起こっている、誰も見たことがない金属除去過程や、切りくず発生、工具振動などをダイレクトに観察することができます。2年後に実現するSPring-8-IIにより、新開発されるX線は、さらに性能が向上します。そうすれば、より高い空間分解能と時間分解能で、切削加工、放電加工、レーザー加工や3Dプリンタなど、あらゆる金属プロセスの超高速レントゲン診断が可能になります。
開発した金属加工プロセスの超高速レントゲン診断法は、工作機械(注6)や工具開発を飛躍的に促進させ、日本がリードしている工作機械分野のさらなる発展に貢献することが期待できます。


発表者・研究者等情報

東京大学 先端科学技術研究センター
  三村秀和 教授
   兼:理化学研究所 放射光科学研究センター チームリーダー

理化学研究所 放射光科学研究センター
  矢橋牧名 グループディレクター

高輝度光科学研究センター ビームライン光学技術推進室
  大橋治彦 室長


研究助成

本研究は、科研費「高精度大型ウォルターミラーの開発とX線望遠鏡・X線顕微鏡への展開」
(課題番号:23H00156)の支援により実施されました。



【用語解説】

(注1) 切削加工
刃物を用いて材料を局所的に破壊しながら加工する技術。穴をあけるドリル加工、表面を削っていくミーリング、材料を切る切断加工など、様々な加工技術がある。

(注2) 放電加工
狭いギャップに高い電圧をかけると発生する放電現象を利用した加工技術。高い熱を発生することができ難加工材の加工に用いられる。

(注3) 超高速レントゲン診断
レントゲン診断はⅩ線を用いて体や物質の内部を観察する意味。すなわち、超高速レントゲン診断は、物質内部の早い動きを、スローモーションの動画にして診断すること。

(注4) 大型放射光施設「SPring-8」
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等はJASRIが行っている。SPring-8(スプリング・エイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

(注5) 透過力の高い100 keVの明るいⅩ線
光子の持つエネルギーが高く、波長が極めて短いⅩ線。100 keVの場合、波長は0.0124ナノメートル。

(注6) 工作機械
金属や樹脂などの材料を削る、穴をあける、磨くなどの加工を行い、目的の形状に仕上げる「機械を作るための機械(マザーマシン)」。



本件に関するお問い合わせ先
<研究内容について>
東京大学先端科学技術研究センター
教授 三村 秀和(みむら ひでかず)

<機関窓口>
東京大学先端科学技術研究センター 広報室
TEL:03-5452-5424
E-mail:pressatrcast.u-tokyo.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
TEL:050-3495-0247
E-mail:ex-pressatml.riken.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhouatspring8.or.jp

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