SPring-8のミリ秒高速rheo-SAXSでコロイド結晶の瞬間融解機構を解明 ~ソフトマターは変化が遅いという常識を覆し、 1ミリ秒の構造変化を直接観測~(プレスリリース)
- 公開日
- 2026年05月14日
- BL19B2(X線回折・散乱 II)
- BL40XU(SAXS ID)
2026年5月14日
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)
国立大学法人筑波大学
一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)
住友電気工業株式会社
〈本研究のポイント〉
・大型放射光施設SPring-8※1のBL40XU/BL19B2に、せん断とX線散乱を同期させる放射光rheo-SAXS/USAXS測定系※2を整備。
・不可逆に進むコロイド結晶のせん断融解を、1ミリ秒時間分解で連続観測。
・衝撃せん断では、流れ方向へ粒子が一時的に集まる一過性クラスタリングを伴う新しい融解機構を発見。
|
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の赤田圭史テニュアトラック研究員、岩本裕之研究員(研究当時)、関口博史主幹研究員、一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)の山田達矢氏(研究当時)、手島正吾氏、筑波大学の石橋諒一氏(大学院生)、小林幹佳准教授、藤田淳一教授、住友電気工業株式会社の大久保総一郎氏(研究当時)からなる共同研究グループは、大型放射光施設SPring-8のBL40XUおよびBL19B2において、せん断下の微粒子構造をその場観察する放射光rheo-SAXS/USAXS測定系を開発し、コロイド結晶※3が衝撃的なせん断を受けた直後、わずか1ミリ秒で構造変化を開始する過程を直接観測することに成功しました。 |
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の赤田圭史テニュアトラック研究員、岩本裕之研究員(研究当時)、関口博史主幹研究員、一般財団法人高度情報科学技術研究機構(RIST)の山田達矢氏(研究当時)、手島正吾氏、筑波大学の石橋諒一氏(大学院生)、小林幹佳准教授、藤田淳一教授、住友電気工業株式会社の大久保総一郎氏(研究当時)からなる共同研究グループは、大型放射光施設SPring-8のBL40XUおよびBL19B2において、せん断下の微粒子構造をその場観察する放射光rheo-SAXS/USAXS測定系を開発し、コロイド結晶※3が衝撃的なせん断を受けた直後、わずか1ミリ秒で構造変化を開始する過程を直接観測することに成功しました。
不可逆に進むせん断融解を1ミリ秒時間分解で連続観測した放射光rheo-SAXSは世界に類例がなく、本成果は、ソフトマターの変化は緩慢だという従来のイメージを覆すものです。
さらに、衝撃せん断では粒子が流れ方向に一時的に集まるクラスタリングを伴って結晶が融解することを明らかにしました。SPring-8に整備した本計測基盤は、非平衡ソフトマターにおける瞬間的な相転移の解明や、コロイド材料の流動設計に役立つことが期待されます。
本研究成果は、5月8日に国際科学誌「Communications Chemistry」に掲載されました。
【研究の背景】
コロイド結晶は、サブマイクロメートルの粒子が規則正しく配列したソフトマターで、原子結晶の相転移を理解するモデル系として研究が進んでいます。しかし、流れやせん断によって結晶が崩れる「せん断融解」は、高速で不可逆に進行するため、とくに融解直後の過程は十分に理解されていませんでした。光学顕微鏡には試料の透明性や粒径サイズに制約があり、X線・中性子散乱では一般に露光時間が数十秒以上と長く、不可逆に進む高速現象の連続観測が難しいことが課題でした。
【研究内容と成果】
・測定系の開発
研究グループは、レオメーターとX線透過クエットセルを組み合わせ、BL40XUで1ミリ秒の時間分解SAXS、BL19B2で100ミリ秒の時間分解USAXSを実現しました。これにより、ナノメートルからマイクロメートルまでの構造情報をその場で連続追跡できるようになりました。
・定常せん断下の挙動
直径約500ナノメートルのシリカ粒子からなる高濃度懸濁液は、緩やかなせん断で結晶配列を形成します。せん断速度を徐々に上げた定常条件では、結晶性を示すブラッグピークがほぼ一様に弱まり、粒子配置の乱れを表す等方的な散乱が増加しました。これは、結晶全体が一様に無秩序化する通常のせん断融解を示しています。
・衝撃せん断下の新機構
これに対し、整列した結晶に衝撃的に高速なせん断を印加すると、開始後わずか1ミリ秒で一部のブラッグピーク強度が低下し、その後に等方的散乱が増加しました。この時間差は、まず流れ方向のクラスタリング構造を保持しながら渦度方向の秩序が壊れた後、全体が融解することを意味します。さらに粒子シミュレーションでも、結晶層が直線的に滑ることでこのクラスタリングが生じることが支持されました。
【今後の展開】
今回整備したミリ秒高速rheo-SAXS/USAXSは、これまでのソフトマターの「遅い」という先入観では捉えられなかったであろうソフトマターの超高速応答を解明する新しい研究基盤です。今後は、コロイド、ゲル、ペースト、スラリーなどの非平衡ダイナミクス解析へ展開し、材料設計やプロセス条件の最適化への応用が期待されます。
【論文情報】
題名:Impact-shear-induced millisecond clustering during shear melting of colloidal crystals
日本語訳:衝撃せん断によってコロイド結晶のせん断融解中に生じるミリ秒クラスタリング
著者:Keishi Akada, Tatsuya Yamada, Ryoichi Ishibashi, Soichiro Okubo, Hiroyuki Iwamoto, Hiroshi Sekiguchi, Syogo Tejima, Motoyoshi Kobayashi and Jun-ichi Fujita
ジャーナル名:Communications Chemistry
DOI:10.1038/s42004-026-02004-8
【研究支援】
本研究は、防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」(JPJ004596)、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費:23K13243、25K01164)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACT-X(JPMJAX24D2)の支援を受けて実施されました。なお、SAXS/USAXS実験は、大型放射光施設SPring-8のBL40XUおよびBL19B2において実施しました。
【用語解説】
※1. 大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。
※2. rheo-SAXS/USAXS
レオロジー測定と小角/極小角X線散乱を同時に行い、流れやせん断を加えている最中の粒子配列や凝集状態をその場で調べる手法です。
※3. コロイド結晶/せん断融解
液体中の微粒子が規則正しく並んだ構造をコロイド結晶といい、せん断力によってその秩序が崩れて流動化する現象をせん断融解といいます。
|
本件に関するお問い合わせ先 |
- 現在の記事
- SPring-8のミリ秒高速rheo-SAXSでコロイド結晶の瞬間融解機構を解明 ~ソフトマターは変化が遅いという常識を覆し、 1ミリ秒の構造変化を直接観測~(プレスリリース)
un.tsukuba.ac.jp