ゼオライト結晶化の「最初の一歩」を可視化 原子の「ねじれ」の秩序化が結晶化に先行する 新原理を発見 -触媒・分離材料の開発を、経験則から予測設計へー(プレスリリース)
- 公開日
- 2026年05月21日
- BL01B1(XAFS I)
- BL27SU(軟X線光化学)
2026年5月21日
(2026年5月20日東北大学様プレスリリースを掲載しています)
国立大学法人東北大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人東京科学大学
ゼオライト※1が結晶になる前に、シリケート※2骨格の三次元的な「ねじれ」が先に整い始めることを、X線発光分光※3によって直接捉えました。
従来のX線回折※4などでは見えにくかった、結晶化前の局所的な三次元構造変化を可視化する新しい方法を示しました。
本成果は、ゼオライトをはじめとする多孔質材料やネットワーク材料の合成を、経験と試行錯誤に頼る方法から、構造形成の途中過程を見ながら最適化する材料設計へと進める基盤になると期待されます。
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【概要】 |
【詳細な説明】
研究の背景
ゼオライトは、触媒、吸着材、分離膜などとして産業的に極めて重要な材料です。一方で、その合成は長年にわたり、温度、時間、組成、構造規定剤などを変えながら最適条件を探る、経験的な方法に強く依存してきました。その背景には、ゼオライトが結晶化する途中で何が起こっているのかを、原子レベルで直接見ることが難しかったという問題があります。
特に、X線回折やPDF解析※9などの従来法は、原子間距離や長距離秩序の評価には優れていますが、三次元ネットワークの形成を左右するねじれ角のような構造指標には本質的に鈍感です。そこで研究グループは、酸素原子まわりの電子状態に敏感な O 1s X線発光分光(XES) に注目しました。
研究手法と成果
本研究では、Fe を含む MWW 型ゼオライトの合成途中試料を対象に、大型放射光施設SPring-8 BL27SUおよび3GeV高輝度放射光施設 NanoTerasu BL07UにおいてO 1s XES を測定し、さらに東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」※10による第一原理計算を組み合わせてスペクトル変化の起源を解析しました。その結果、合成が進むにつれて現れる特徴的なスペクトル変化は、Si–O 結合長や Si–O–Si 結合角の変化だけでは説明できず、O–Si–O–Si ねじれ角の秩序化によって最もよく再現されることが分かりました。
また、ポテンシャルエネルギー面の計算から、無秩序な状態に多い不利な配座よりも、より安定な、ずれた(staggered)配座へ向かうことが熱力学的に妥当であることも示しました。ねじれ角がずれた(staggered)配座に向かってそろっていくことで、局所構造は逆に無秩序な配座より低対称となり、その結果、酸素原子上への電子局在が強まります。XESでこの微小な電子状態の変化を敏感に捉えることで、構造変化を可視化しました(図1)。
今回観測された構造変化は偶然ではなく、シリケート骨格がより安定な三次元構造へ向かう本質的な過程であると考えられます。
さらに、O 1s XES、X線回折(XRD)、SPring-8 BL01B1でのFe K端X線吸収分光(XAFS)などを総合すると、ゼオライトの結晶化は、シリケート骨格内部で、局所的なねじれ秩序が生じる(Stage I)、長距離秩序が現れ、結晶核形成が始まる(Stage II)、結晶成長が加速し、Fe の骨格導入が顕著になる(Stage III)の三段階で進むことが分かりました(図2)。
このことから、結晶化に先立って三次元ネットワークの局所秩序化が起こるという、新しい結晶化メカニズムが明らかになりました。
今後の展開
本研究により、ゼオライト合成の初期段階を可視化する新しい分析手法が示されました。これは、完成した材料だけを評価するのではなく、できる途中の構造変化を見ながら合成条件を最適化する方向につながります。将来的には、より高性能な触媒や分離材料の設計、さらにはガラス、金属有機構造体(MOF)、その他のネットワーク材料の形成機構解明にも広がる可能性があります。
【謝辞】
本研究は、JSPS科研費(JP21H05011、JP25H00900、JP23K23032)および ナノテラスDX利用促進課題の支援を受けて行われました。放射光X線実験は、大型放射光施設SPring-8 の BL01B1 および BL27SU、ならびに NanoTerasu の BL07U、BL08U、BL08W にて実施されました。NanoTerasu における一部の放射光X線実験は、一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)のコアリション制度のもとで行われました。本研究におけるシミュレーション計算の一部は、東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」を利用して行われました。本計算の実施にあたっては、ナノテラスDX利用促進課題の支援を受けました。また、掲載論文は東北大学「令和8年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」によりOpen Accessとなっています。
【用語解説】
※1. ゼオライト
内部に微細な孔を持つ結晶性多孔質材料。触媒、吸着材、分離膜などに広く利用される。
※2. シリケート
ケイ素(Si)と酸素(O)からなる化合物の総称。ゼオライトの骨格を形成する基本的な単位。
※3. X線発光分光
物質にX線を照射した際に放出されるX線を測定し、原子周辺の電子状態や局所構造を調べる手法。(XES:X-ray Emission Spectroscopy)
※4. X線回折
結晶にX線を照射し、跳ね返ってきた光(回折)のパターンから結晶の構造(原子の規則配列)を調べる手法。
※5. 大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行っている。
※6. 3GeV高輝度放射光施設 NanoTerasu
東北大学青葉山新キャンパス内に建設され、2024年4月に運用が開始された最新の放射光施設。レーザーのように波面がそろった「コヒーレント」と呼ばれる性質をもつ高輝度X線を利用できる。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とし、宮城県、仙台市、東北大学、一般社団法人東北経済連合会などが参画する官民地域パートナーシップにより整備・運営されている。
※7. ねじれ角
原子が連なった構造の三次元的な向きやねじれ具合を表す幾何学パラメータ。本研究では O–Si–O–Si のねじれ角が重要な指標となった。(torsion angle)
※8. トポロジー・ファースト(Topology First)
結晶としての周期的な規則性(長距離秩序)が現れるよりも前に、まず原子同士のつながり方やねじれ(局所的なトポロジー)が秩序化する、本研究で提唱された新しい結晶化の基本原理。
※9. PDF解析
二体分布関数(Pair Distribution Function)解析の略。X線や中性子散乱のデータから、物質内の原子間の距離分布を導き出す手法。
※10. スーパーコンピュータシステム AOBA
東北大学サイバーサイエンスセンターが運用するスーパーコンピュータシステム。NEC製のベクトル型スーパーコンピュータ(SX-Aurora TSUBASA)を採用し、気象予測、流体解析、材料開発などの大規模な科学技術計算において極めて高い処理能力を有している。
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