大型放射光施設 SPring-8

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レアアース不要、酸化亜鉛で高感度な応力発光を実現 ―電源不要の近赤外発光で医療・インフラ応用に期待―(プレスリリース)

公開日
2026年05月26日
  • BL13XU(X線回折・散乱 I)

2026年5月25日
国立大学法人東北大学
国立大学法人筑波大学
国立大学法人佐賀大学

【発表のポイント】
酸化亜鉛※1の欠陥構造を制御することで、レアアース※2を用いずに、高強度かつ高感度な応力発光※3を実現しました。
・指先で触れる程度の微弱な力でも鮮明に発光し、従来材料と比べて極めて高い感度を示しました。
・放出される光は、生体を透過しやすい近赤外光※4で、超音波を利用して体内の情報を読み取る医療センサや、電源不要で橋梁などのひずみを監視するインフラ診断技術への応用が期待されます。

【概要】
機械的エネルギー(応力、ひずみ、振動など)を直接光に変換する応力発光材料は、電源や配線を必要としない自立型センサ材料として、インフラ診断や医療など幅広い分野で注目されています。
東北大学大学院工学研究科の徐超男教授らの研究グループは、筑波大学および佐賀大学との共同研究により、レアアースを一切用いずに、酸化亜鉛で高強度かつ高感度な応力発光を世界で初めて実現しました。
従来の応力発光材料は、高価なレアアースや複数の元素を必要とし、発光には強い力を必要とするという課題がありました。本研究では、酸化亜鉛に微量のナトリウムを添加することで、極めて高い感度と低コスト化を両立しました。放たれる光は体を透過しやすい近赤外光であるため、超音波によって体内の情報を読み取る医療センサや、インフラのひずみを電源なしで遠隔監視する技術など、安全・安心な未来社会を支える新技術への応用が期待されます。
本成果は科学誌 Advanced Science に2026年5月8日(現地時間)付けで掲載されました。
なお、本研究はSPring-8のビームラインBL13XUを使用して行われました。

論文情報
掲載誌:Advanced Science
タイトル:Stress-to-Light Conversion in an Earth-Abundant Oxide Semiconductor
著者:内山 智貴(筆頭著者)、音成 航希(共筆頭著者)、大森 令央奈、楊 光発、西堀 英治、陳 迎、鄭 旭光、徐 超男 *
掲載日:2026年5月8日
DOI:10.1002/advs.75587

研究の背景
機械的エネルギー(応力、ひずみ、振動など)を直接光に変換する応力発光材料は、電源や配線を必要としない自立型センサ材料として、インフラ診断や医療など幅広い分野で注目されています。
しかし、これまで実用レベルの強い発光を得るためには、複雑で制御の難しい結晶構造を持つ材料や、レアアースの添加が不可欠と考えられてきました。一方で、レアアースは資源確保や環境負荷の観点から課題が指摘されています。
また、従来の応力発光材料は、発光させるためにギガパスカル級の大きな力を必要とすることが多く、日常的な微小振動や、体内を伝わる超音波のような微弱な刺激には反応しにくいという感度上の課題もありました。
一方、今回着目した酸化亜鉛は、化粧品や日焼け止め、軟膏の成分として広く用いられている、身近で安全性が高く、安価な材料です。さらに、その優れた半導体特性や発光特性から、次世代電子材料として長年にわたり世界中で研究されてきました。こうした特性を応力発光材料へ応用する試みも進められてきましたが、その潜在能力を最大限に引き出すための明確な設計指針は確立されていませんでした。このため、レアアースを用いずに酸化亜鉛で強い応力発光を実現することは困難と考えられてきました。
そこで本研究では、酸化亜鉛の電子状態や微細構造を制御することで、シンプルな材料構成で高感度な応力発光を実現することを目指しました。

今回の取り組み
東北大学大学院工学研究科の内山智貴助教、音成航希大学院生(当時)、大森令央奈大学院生、楊光発大学院生、徐超男教授らの研究グループは、佐賀大学の鄭旭光教授(東北大学大学院工学研究科 特任教授)、筑波大学の西堀英治教授、東北大学グローバルラーニングセンターの陳迎特任教授らと共同で、酸化亜鉛の電子状態をナノレベルで制御する「欠陥エンジニアリング」を駆使し、レアアースを一切用いずに、高感度で発光する新材料を開発しました。
開発した材料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子表面にクレーター状の特殊な凹凸構造が形成されていることが分かりました。この独特な形状が、外部から加えられた力を効率よく吸収し、材料内部のひずみへと変換することで、高感度な発光に寄与していると考えられます。
さらに、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータ MASAMUNE-弐を用いた第一原理計算※5により、酸化亜鉛の電子状態を解析しました。その結果、微量のナトリウム添加によって、本来の酸化亜鉛には存在しない、電荷を一時的に蓄える安定な欠陥構造が、酸化亜鉛の結晶に形成されることを明らかにしました。また、近赤外発光が、亜鉛原子が抜けた欠陥(亜鉛空孔)に由来することを突き止め、効率的な発光メカニズムも解明しました。加えて、酸化亜鉛は一般にn型※6半導体として知られ、p型化は極めて難しいとされてきましたが、本研究で開発した酸化亜鉛はp型の挙動を示すことも確認されました。
これらの特殊な粒子構造と電子状態の制御による相乗効果により、従来材料では強い力を必要としていた応力発光が、本研究の材料では数キロパスカルという、指先で触れる程度の力でも明瞭に観測されました。
本材料は、生体を透過しやすい近赤外光を放つことから、超音波など外部からの微弱な振動によって体内の応力発光体を無電源で発光させ、生体情報の読み取りなどに活用する次世代医療技術への応用が期待されます。将来的には、バイオフォトニクスや光源技術への展開も期待されます(図1)。

学術的には、これまで不可欠と考えられてきたレアアースを用いず、ありふれた元素の組み合わせのみで高機能を引き出せることを示した点に意義があります。これは、高価な資源に依存しない持続可能な材料設計の新たな指針を提示するものです。
社会的には、安価で大量生産が可能な特性を活かした早期の社会実装を目指しています。例えば、橋梁や風力発電設備などに塗布するだけで、目に見えない微小な劣化やひずみを光として可視化する技術の実現が期待されます。電源や配線を必要としないため、老朽化が進むインフラの継続的な遠隔監視を低コストで実現できる可能性があります(図2)。

今後の展開
今後は、本材料の利用を加速できるよう、企業および研究機関にサンプル提供するとともに、量産化する材料メーカー、デバイス・システムメーカー、保守・点検を担う企業、医療・検査機器メーカーなどとの共同開発を積極的に進め、実用化に向けた実証研究を加速していく予定です。身近な材料である酸化亜鉛を通じて、安全で持続可能な未来社会の実現に貢献していきます。

図1 開発した酸化亜鉛材料の発光スペクトルと生体組織の透過像

(左)開発した酸化亜鉛は750 nmを中心波長とする近赤外域で発光します。この波長領域は、生体内を比較的透過しやすいことから、生体の窓Iと呼ばれています。(右)開発した酸化亜鉛を荷重によって発光させることで、生体組織の違いをコントラストとして捉える透過イメージングが可能であることが分かります。

図2 未来社会を支えるマルチスケール応用イメージ

本材料は、細胞レベルの光源技術から、ヘルスケア、インフラ診断まで、幅広いスケールでの応用が期待されます。
[医療・バイオ分野]
超音波を照射するだけで体内で発光する光源や無電源センサとして、治療やヘルスケアへの応用が期待されます。
[インフラ分野]
橋梁や風力発電設備のブレードに塗布することで、目に見えないひずみを光として可視化し、ドローンなどを用いた遠隔監視への応用につながります。

【謝辞】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP19H00835、JP22H00269、JP25H00790、JP23K22799、JP24H00415)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR25S3)、旭硝子財団、東京応化科学技術振興財団、池谷科学技術振興財団、日本鉄鋼協会鉄鋼研究振興助成の支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、SPring-8(2025B1031、2025A1653、2024B1770、2024A1665)、東北大学金属材料研究所 計算材料学センター(CCMS; 202412-SCKXX-0511)、ARIMプロジェクト(MEXT; JPMXP1225TU1071)の支援を受けて実施されました。また、掲載論文は「東北大学 2026 年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業」の支援を受けました。



【用語解説】

※1. 酸化亜鉛 (ZnO)
亜鉛の酸化物で、白色粉末として知られている。毒性が低く、紫外線遮蔽効果を持つことから、日焼け止め、化粧品、医薬品(軟膏)などに広く用いられている。また、ワイドギャップ半導体として、次世代電子材料としても注目されている。

※2. レアアース
希土類元素の総称。従来の高性能な発光材料には不可欠であるが、産出地が偏っており、価格高騰や供給リスクの点で課題がある。

※3. 応力発光
材料が受けた力学的なエネルギーに相関して繰り返し発光する現象。1999年に徐教授によって発見された。

※4. 近赤外光
赤外線のうち、可視光に近い波長域の光の総称。皮膚や筋肉などの生体組織を透過しやすいため、体内情報を体外から読み取る医療診断などへの応用が期待されている。

※5. 第一原理計算
実験データに依存せず、量子力学の基本原理に基づいて物質中の電子の振る舞いをシミュレーションする手法。

※6. n型/p型
半導体内で電気を運ぶ主役が電子であるものをn型、正孔であるものをp型と呼ぶ。



【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 材料システム工学専攻
教授 徐超男(じょちょうなん)

報道に関すること
東北大学大学院工学研究科 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pratgrp.tohoku.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
TEL:050-3502-3763
E-mail:kouhouatspring8.or.jp

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