国産高解像度宇宙X線望遠鏡の開発に成功 ~天文学×放射光科学の融合で「激動の宇宙」を視る~(プレスリリース)
- 公開日
- 2026年04月08日
- BL29XU(理研 物理科学I)
2026年4月8日
名古屋大学
東京大学先端科学技術研究センター
夏目光学株式会社
名城大学
理化学研究所
【本研究のポイント】
⚫︎天文学分野と放射光科学分野の技術を融合し、国産の高解像度宇宙X線望遠鏡注1)の開発と性能実証に成功した。
⚫︎大型放射光施設SPring-8注2)の約1km長尺ビームラインを活用し、高輝度かつ見かけ上ほぼ点光源となるX線評価システムHBX-KLAEES注3)を構築した。
⚫︎性能評価の結果、FWHM注4) 0.7秒角注5)、HPD注6) 14秒角という高い解像度を達成した。
⚫︎開発した望遠鏡は太陽フレア観測ロケットFOXSI-4に搭載され打ち上げられ、今後は超小型衛星や小型惑星探査機など小型飛翔体による高解像度宇宙X線観測の基盤技術となることが期待される。
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名古屋大学大学院理学研究科の三石 郁之 講師、藤井 隆登 博士前期課程学生(研究当時)、作田 皓基 博士後期課程学生 (研究当時、現 東北大学大学院理学研究科 博士)、安福 千貴 博士後期課程学生、吉田 有佑 博士後期課程学生、吉原 諒 博士前期課程学生、東京大学先端科学技術研究センター 三村 秀和 教授、夏目光学株式会社 橋爪 寛和 取締役常務、名城大学理工学部 宮田 喜久子 准教授、ならびに理化学研究所放射光科学研究センター香村 芳樹 チームリーダーらによる研究グループは、天文学分野と放射光科学分野の技術を融合し、国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発に成功しました。 【論文情報】 |
【研究背景】
宇宙では、太陽フレアやブラックホール周辺、超新星爆発や銀河団衝突など、物質が激しく加熱・加速される高エネルギー現象が数多く起こっています。これらの現象では数百万から数億度に達する高温プラズマや相対論的エネルギーを持つ粒子が生成され、その結果としてX線が放射されます。そのため宇宙X線観測は、超高温・超強磁場・超高密度・超強重力などが作り出す極限環境で起こる宇宙の激動を直接的に捉える重要な手段となっています。しかし宇宙から飛来するX線は地球大気によって吸収されてしまうため、地上から直接観測することはできません。そのためX線観測は、人工衛星や観測ロケットなどの飛翔体による宇宙観測によって行われます。
X線天文学では、主に天体からの微弱なX線を効率よく集めるための高い集光力と、天体構造を細かく識別するための高い解像度という二つの性能が望遠鏡に求められます。しかしX線は可視光のように通常の鏡では反射せず、極めて浅い角度でのみ反射するため、X線望遠鏡にはナノメートルレベルの形状精度を持つ特殊な反射鏡が必要となります。特に高い解像度を実現するためには反射鏡の形状精度が決定的に重要であり、このような高精度反射鏡の製作と、その性能を維持しつつ宇宙環境に耐える望遠鏡として実装することは非常に難しい技術課題です。実際に、高い解像度を持つ宇宙X線望遠鏡の開発はこれまで主に欧米の研究機関が主導してきました。そのため、日本のX線天文学分野において国産の高解像度宇宙X線望遠鏡を実現することは長年の重要な挑戦課題の一つとなっていました。
【研究成果】
本研究では、天文学分野と放射光科学分野の技術を融合することで国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発に取り組みました。天文学分野では、宇宙観測に必要な光学設計に加え、反射鏡支持機構の設計や接着実装などの宇宙実装技術を担当しました。一方、放射光科学分野では、放射光X線光学研究で培われた超精密電鋳技術によるX線反射鏡の作製と、SPring-8の長尺ビームラインを利用した高輝度無限遠点光源模擬評価システムHBX-KLAEES(High-Brilliance X-ray Kilometer-long Large-Area Expanded-beam Evaluation System)の構築が行われました。HBX-KLAEESは、高輝度X線を用いて宇宙の無限遠天体を模擬し、X線望遠鏡の性能を精密に評価するために開発された評価システムです。
完成した望遠鏡(図1参照)の性能評価には、大型放射光施設SPring-8の約1 km長尺ビームラインBL29XUL(図2参照)を活用したHBX-KLAEES図3参照)が用いられました。このシステムでは、約10 µm程度の微小X線光源を約900 m離れた位置に配置することで、天体から到来するX線に近い極めて小さな発散角と、見かけ上ほぼ点光源となる光源サイズを同時に実現しています。さらにSPring-8の高輝度放射光を利用することで、望遠鏡像の中心の鋭い構造から広い散乱成分まで、広いダイナミックレンジでの精密なPSF注7)測定を可能にしました。このように高輝度硬X線を用いて無限遠天体を模擬し、高解像度X線望遠鏡の性能を精密に評価できる実験システムは世界的にも例がなく、HBX-KLAEESは宇宙X線光学系の性能評価のために開発された独自の研究基盤となっています。
図2:大型放射光施設SPring-8の長尺ビームラインBL29XULにおける測定実験の様子。
実験ハッチ内に設置されたX線望遠鏡と検出器を用いて、X線解像度の評価を行った
図3:SPring-8長尺ビームラインBL29XULに構築した高輝度無限遠点光源模擬評価システムHBX-KLAEESの概念図。
フレネルゾーンプレートなどのX線光学素子を用いて仮想的な点光源を生成し、約1 kmの長距離伝搬により天体から到来するほぼ平行なX線を模擬する
【成果の意義】
この評価システムを用いたX線性能評価の結果、FWHM 0.7秒角、HPD 14秒角という国産として極めて高い性能を達成しました(図4)。 さらに、反射鏡単体の局所的なスポットスキャン測定では10秒角を下回る解像度が確認され、反射鏡自体が非常に高い光学性能を有することが示されました。この高い光学性能を維持したまま、反射鏡を支持機構へ接着実装して望遠鏡として組み上げることに成功し、宇宙観測機器として必要な構造的安定性と光学性能の両立を実現しました。これは国産の宇宙X線望遠鏡として非常に高い性能を示すものであり、約1 km離れた場所にある数ミリメートル程度の物体を識別できることに相当する鋭い視力に例えられます。
本研究で開発した望遠鏡は、日米共同太陽フレア観測ロケット Focusing Optics X-ray Solar Imager 4号機(FOXSI-4) に搭載され、打ち上げに成功しました。本成果は、天文学と放射光科学という異なる分野の技術を融合することで国産の高解像度宇宙X線望遠鏡を実現したものであり、今後、超小型衛星や小型惑星探査機など小型飛翔体による高解像度宇宙X線観測の実現に向けた重要な基盤技術となることが期待されます。
図4:X線望遠鏡によって得られた結像イメージ(左)と、その点像分布関数PSF(右上)および累積動径カウント関数EEF(右下)。本研究では、FWHM 0.7秒角、HPD 14秒角の高い解像度を達成した。
本研究は、名古屋大学全学技術センターの技術支援、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP20K20920、JP21KK0052、JP22H00134、JP22K18274、JP23H00156)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 小規模計画、科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2125)、東海国立大学機構「メイク・ニュー・スタンダード次世代研究事業」、公益財団法人岩垂奨学会および服部国際奨学財団の支援を受けて実施されました。
【用語解説】
注1)X線望遠鏡
宇宙から届くX線を集めて天体の像を作る望遠鏡。非常に浅い角度で反射させる特殊な反射鏡を用いる。
注2)SPring-8
兵庫県にある大型放射光施設。非常に明るいX線(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。
注3)HBX-KLAEES
SPring-8の長尺ビームラインを利用した評価システム。地上で天体からの平行なX線を再現できる。
注4)FWHM (Full Width at Half Maximum)
解像度の尺度の一つ。像の中心の鋭さを表し、どれだけ細かい構造を識別できるかを示す。
注5)秒角 (arcsec)
角度の単位。1度の3600分の1に相当する。1秒角は1 km先の約5 mmの物体を識別する角度。
注6)HPD (Half Power Diameter)
解像度の尺度の一つ。像のエネルギーの50%が収まる円の直径。散乱成分を含む性能評価に用いられる。
注7)PSF (Point Spread Function)
点状の光源を観測した際に得られる像の広がりを表す分布。
【関連リンク】
◆高解像度宇宙X線反射鏡開発のプレスリリース:
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20231214_sci.pdf
◆FOXSI-4搭載宇宙X線望遠鏡開発のプレスリリース:
www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20240410_sci.pdf
◆太陽X線研究グループのFOXSIのウェブサイト:
https://xray-sun.jp/foxsi
◆ミネソタ大学のFOXSIのウェブサイト (英語):
http://foxsi.umn.edu
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