カンラン石の変形と結晶構造変化が誘起する深発地震(プレスリリース)
- 公開日
- 2026年04月09日
- BL04B1(高温高圧)
2026年4月9日
国立大学法人 愛媛大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)
【今回の研究成果のポイント】
・「深発地震」は多大な被害を引き起こすこともあるが、その発生メカニズムはよくわかっていなかった。
・世界で初めて、深発地震が発生する深さ約580 kmまでの圧力(約20万気圧)条件下でマントル鉱物(カンラン石)が変形・破壊する様子を、X線その場観察※1と微小破壊に伴って発生する超音波(AE)の測定により捉えた。
・この結果、カンラン石が変形する際に起きる、新鉱物ポワリエライトへの結晶構造変化で断層すべりが引き起こされ、深発地震発生に至ることがわかった。
・地球深部のプレートが激しい変形を被る場所ではカンラン石から新鉱物ポワリエライトへの「地震性の結晶構造変化」が起きやすいために、深発地震が頻発することが明らかとなった。
【概要】 論文情報 |
【詳細】
私達が住む地表のプレート(厚さ約60 km)はゆっくりと流れるマントル※2に浮いているため、マントルの流れと一緒に移動します。プレート同士が衝突したり、プレートが地下深くへ沈み込む過程で地震が発生します。地震は、その震源位置の深さや場所によって分類されます。地表付近(地下10~40 km)で起きる浅い地震はプレートの境目や陸の直下で度々起きるため、津波を伴う地震や直下型地震を引き起こし、時にはマグニチュード8に達することもあるため大きな被害をもたらします。一方、『深発地震※3』は深さ300 km以深の沈み込むプレート内部で起きる地震ですが、その発生頻度は高くはありません。しかし発生した場合にはマグニチュード7クラスに達する場合が多い上、『異常震域※4』(震源から遠く離れているにもかかわらず強い揺れを観測する場所)を伴うといった特異な性質で知られています。また、深さとともに地震は起きにくくなるのが一般的ですが、深さ400~600 kmでは深発地震の発生頻度が例外的に高くなっていることも知られています。そのため、カンラン石※5(プレートの中で最も多い鉱物)の結晶構造が圧力によって変化することがきっかけとなって、『深発地震』が起きると考えられてきました。しかし深さ400~600 kmは13~21万気圧もの高圧環境下に相当するため、カンラン石を用いた再現実験は技術的に困難でした。
愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)大学院生の松田光平さん(博士後期課程2年)、大内智博准教授(松田の指導教員)と、高輝度光科学研究センターの肥後祐司主幹研究員らの研究グループは、深発地震が多発する深さ400~600 kmのプレート内部に相当する温度圧力条件下(600~1050℃、15~20万気圧)での変形実験※6を大型放射光施設SPring-8※7・BL04B1にて行いました。この実験ではGRCで独自に開発した高圧力環境用の測定技術を用い、カンラン石試料を押しつぶした際に発生する『アコースティック・エミッション(AE)※8』という音波を検出することに成功しました。これは、実験中に試料の中に断層が形成されたこと、すなわち実際の深発地震が発生する温度条件下における実験での地震発生を人工的に達成したことの証明になります。
通常、地球深部では圧力の上昇によって結晶構造を変化※9させ、ワズレアイトやリングウッダイトといった名前の鉱物になります。しかしこの結晶構造変化は高温環境でしか進行しないため、比較的温度の低い深部プレート内部(1100℃以下)ではカンラン石の結晶構造変化は容易に進行しません。しかしそのような深部プレート内部においてカンラン石が変形すると、カンラン石が変形する際にポワリエライト※10という別の鉱物(2021年に認定された新鉱物)の結晶構造に一旦変化してから、リングウッダイトに変化することが本研究によって明らかとなりました(図1)。この結晶構造変化の際には、結晶の周囲に多量の熱エネルギーが放出される(図2)ため、局所的な強度低下が引き起こされます。その結果、断層形成と地震が引き起こされる(図1)ことも明らかとなりました。
本研究によって世界で初めて確認された『カンラン石からポワリエライトへの結晶構造変化』は変形によって促進されるといった“特異性”をもちます。小笠原諸島の地下へ沈み込むプレートのうち、激しい変形を被る場所では深発地震が頻発していることが知られていますが(図3)、これはカンラン石に特有の性質ともいえる、『地震性の結晶構造変化』が変形によって促進されることに由来します。沈み込んだプレートの形状は地震観測網によって捉えることができるため、プレートの変形が激しい地域を集中的に監視することで、深発地震の発生時期・発生頻度・規模などをモデル化※11していく上での手掛かりが得られるものと期待されます。
図1.15.4万気圧、850℃の実験環境下にて上下方向からカンラン石試料を押しつぶした際に形成された断層。いずれも電子顕微鏡で撮影。
左側:試料全体の写真。試料を横断する断層(赤破線)が見られる。
右側:カンラン石の結晶構造が変形することで生成したポワリエライト。図右下は当該結晶がポワリエライトであることを示す、電子線回折パターン像。100ミクロンは1ミリの10分の1。100ナノメートルは1ミリの1万分の1。
図2.深発地震の発生メカニズムの概要。15万気圧程度の高圧力環境下でカンラン石が変形する際に、変形が結晶の一部分に集中する(左図)ことでポワリエライトへと結晶構造が変化する(中央図)。さらにポワリエライトがリングウッダイトへと結晶構造を変化する際に熱が放出される(右図)ことで、断層形成と地震発生に至る。
図3.列島下に沈み込むプレートと深発地震の概念図。マントル深部へと沈み込んだプレートが折れ曲がる場所(激しい変形を被る場所)では、深発地震が多発することが知られている。本研究の結果より、そのような場所では「カンラン石からポワリエライトへの結晶構造変化」が促進されるため、断層形成及び地震発生が多発しているものと考えられる。
【研究サポート】
日本学術振興会科学研究費補助金 課題番号:23H00147, 25KJ1894
深田研究助成、せこ記念財団
【用語解説】
※1. X線その場観察
高温高圧実験において、実験試料が変化している最中の様子をリアルタイムでX線を用いて観察する方法。
※2. マントル
地球の岩石層であるマントルは最主要構成鉱物の種類に対応して、上部マントル(深さ約60~410 km)、マントル遷移層(410~660 km)、下部マントル(660~2900 km)の3つの領域に区分される。上部マントルは我々が住むプレートの下に位置するため、上部マントルの流れがプレート移動や沈み込みの原因となる。ちなみに、2900 kmより深い部分、中心の深さ6400 kmまでは金属(鉄やニッケル)を主成分とする核である。
※3. 深発地震
2015年5月30日の小笠原諸島西方沖地震(深さ682 km、マグニチュード8.2)をはじめとして、深発地震は規模(マグニチュード)が大きい場合が多い。深発地震は地球深部で起きるために災害に至るケースは少ないものの、1994年6月8日のボリビア深発地震(深さ631 km、マグニチュード8.2)のように災害に至るケースもある。
※4. 異常震域
深発地震は地球深部へと沈み込んだプレート内部で起きる。プレートは周囲のマントルよりも温度が低いため、地震波が伝わりやすい性質をもつ。そのため、深発地震が起きた場合では、震源に近い側の地表ではそれほど揺れず、震源からより遠い海溝側の地表がよく揺れることとなる。このように震源よりも遠いにもかかわらず、震度が(震源に近い地域よりも)高くなる地域のことを異常震域と呼ぶ。
※5. カンラン石
カンラン石は上部マントル及びプレートの最主要構成鉱物であり(6~7割を占める)、その化学組成はMg1.8Fe0.2SiO4で表される。マントル遷移層では、同じ化学組成をもつが結晶構造が異なるワズレアイトやリングウッダイトに変化する。
※6. 変形実験
マルチアンビル型高圧発生装置の一種である、D-DIA型変形装置(図5)を用いて行う。6つのアンビルを大型のプレスで加圧し、中心に置かれた試料に高圧力を発生させたうえに、その試料を上下方向から押しつぶし、試料を変形させることができる機能をもつ。さらに放射光X線を試料にあてることにより、試料にかかっている圧力、差応力、歪を測定することができる。
※7. 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。
※8. アコースティック・エミッション(AE)
微小破壊音とも呼ばれる。クラック(割れ目)が成長する際に放出される弾性波のことであり、一般的には50 kHz~5 MHzの範囲の周波数をもつ。高温高圧環境下においてクラックを直接観察するのが困難なため、AEが検出されれば、発生源にクラックが存在することの強い証拠となる。自然地震との共通点も多いことから、実験室における“ミニ地震”と呼ばれることもある。ちなみに、人間の耳は20 Hz~20,000 Hz (20 kHz)が可聴範囲なので、このAEは聞こえない。
※9. 圧力による結晶構造の変化
カンラン石は、特定の圧力に達すると結晶構造を変化させて別の鉱物となる。マントル遷移層上部(410~470 km)ではワズレアイト、マントル遷移層下部(470~660 km)ではリングウッダイトとなる。しかしこれらの結晶構造変化は熱エネルギーを要するため、1100℃以上の高温環境下でないと進行しない。
※10. ポワリエライト
ワズレアイトとリングウッダイトの中間的な結晶構造をもつ鉱物。フランスのポアリエ教授らの研究グループによってその存在が理論的に予測され、海洋開発研究機構の富岡博士によって隕石中から世界で初めて発見され、2021年に新鉱物として認定された。カンラン石からポワリエライトへの結晶構造変化は高圧力だけでは進行せず、14万気圧以上の高圧環境下での「カンラン石の変形」が必要となる。カンラン石からポワリエライトへの結晶構造変化は変形のエネルギーによって進行するため、理論上では室温のような低温環境でも進行しうるといった特異な性質をもつ。なお、ポワリエライトの結晶構造は比較的不安定なため、最終的にはワズレアイトあるいはリングウッダイトに変化しやすい。
※11. 深発地震の発生メカニズムのモデル
2022年9月に大内智博准教授らの研究グループは、カンラン石がナノ粒子化することによっても深発地震発生に至ることを報告した。カンラン石からワズレアイトやリングウッダイトへと結晶構造が変化する際、カンラン石結晶のサイズが100 nm(1 mmの1万分の1)程度かそれ以下となる場合がある。その場合、超塑性などの特殊な変形メカニズムが起きやすくなるためにナノ粒子からなる箇所は強度が低下し、断層形成に至ることがある。しかしこのモデルが適用できるのは、地震発生場の中でも比較的温度の高い場所に限られるため、温度の低い場所で起きる深発地震の原因は不明なままであった。しかし本研究で明らかになった「カンラン石からポワリエライトへの結晶構造変化による断層形成」であれば、温度の低い場所で起きる深発地震の原因を説明可能である。2022年9月と今回の成果より、深発地震の発生メカニズムの統一的な理解が進展したと言える。
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