旧版 ひかりの丘からSPring-8 News 1号(1999.2月号)
夢の光「SPring-8」謎の扉を開け

中で何が行われているんだろう? そんな疑問にお応えする広報誌が誕生しました。
「SPring-8」を広く知っていただき、皆様とのコミュニケーションツールとして、定期的な発行をめざしています。
ここがSPring-8だ!
Super(超) Photon(光子) ring(環) -8Gev(80億電子ボルト)
SPring-8は、この大きな蓄積リングの中に80億電子ボルトの高エネルギーにされた電子を回しながら蓄え、その進路を曲げたり、あるいは波打たせて、放射光を発生させる施設です。

姫路城の内壕(1,764m)とほぼ同じ、周長1,436mの世界最大放射光施設
世界の大型放射光施設
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SPring-8
Super photon ring-8 |
APS
Advanced Photon Source |
ESRF
European Synchrotron Radiation Facility |
場所
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兵庫県/播磨科学公園都市
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アメリカ/アルゴンヌ
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フランス/グルノーブル
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エネルギー/周長
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8.0(GeV)/1,436m
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7.0(GeV)/1,104m
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6.0(GeV)/844m
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SPring-8の放射光発生施設を“電子の加速と蓄積”、“放射光発生”と“放射光の加工”の3段階に区分して、眺めてみましょう。
(a)電子の加速と蓄積
はじめに電子銃で、高真空中に打ち出された電子は、つづくマイクロ波空洞内で波長の谷間に約1000億個づつ集まった電子の固まりとなり、(1)線型加速器(140m)を通る間に10億電子ボルト(光速の99.99999%)まで加速されます。
次いで楕円軌道の(2)シンクロトロン(一周396m)に入り何度も廻りながら、世界の放射光施設の中で最も高いエネルギーである80億電子ボルト(光速の99.9999998%)まで加速されます。こうして目的のエネルギーを与えられた電子は、いよいよ一周1,436mの(3)蓄積リングに入射されます。
蓄積リングは、入射された約1000億個の“電子の固まり”を、個々の電子が“固まり”全体のエネルギーから速くなりすぎたり遅くなったりしてバラバラにならないよう、全体を80億電子ボルトに質よく保ちながらリング中に蓄え、周回させます。

“電子の固まり”はリング中を1秒間に20万回周回し、放射光を発生するごとにエネルギーを徐々に失います。蓄積リングは、4ヵ所のマイクロ波空洞により、電子が失ったエネルギーを補うようになっており、一度入射されると電子ビームは、約70時間廻り続ける性能を有しています。
(b)放射光の発生(特徴ある挿入光源類)
蓄積リング一周に電子を円軌道に曲げる偏向電磁石が88基あり、各偏向電磁石のところで電子は角度約4度ずつ曲げられ、広い波長域の放射光(白色光)を発生します。
偏向電磁石部と次の偏向電磁石部の間は、電子ビームは直進します。この直進部に非常に強力な永久磁石を組み合わせた装置“挿入光源”が設置されます。
挿入光源は、電子を大きく波打たせ、偏向部からの光よりエネルギーが高い白色光を発するウィグラーと、非常に小さく何回も波打たせることにより波長幅が非常に狭く輝度が太陽光の1億倍にも達するX線を放射するアンジュレーターの2種類です。

(c)放射光の加工(ビームライン)
発生した放射光は、挿入光源に直接接続した(4)ビームラインの中を進み、蓄積リングを納める収納部の隔壁を通して、実験ホールに設けられた(5)実験ハッチに導かれます。
光源に近いビームラインのフロントエンド部で、実験に不要で邪魔になるエネルギー領域がそぎ落とされます。そして、蓄積リング本体の超高真空とビームラインの真空の部分を隔てるベリリウム窓を通り収納部を出た光は、光学ハッチに納められた輸送チャンネル部の二結晶分光器やミラーなどで、波長の選択・平行性の向上・さらなる集光などの高度な操作が行われ、実験に最適な光となって実験ハッチに導かれ、実験に用いられます。

ぼくらのビッグ・マイクロスコープ
光速度に非常に近いスピードで直進する電子が磁場で曲げられるとき、電磁波(光)が発生します。これが放射光です。放射光は、赤外線からX線までの広い波長領域の光で、極めて明るい、細く絞られて広がりにくい(高指向性)特徴をもち、物質の分析や構造解析などに最先端の研究手段を提供するものです。

ドーナツ状の建物の中は、蓄積リングを覆う環状の蓄積リング収納部が内側にあり、その外側は実験ホールです。
そこに61本までの設置が予定されるビームラインの多くと実験ハッチが設けられます。すでに10本の共用ビームライン・7本の専用ビームラインで研究が進んでいますが、さらに新しく13本のビームライン建設が進んでおり、1・2年内にこれらによる実験も開始されます。(予定されている12本の中・長尺ビームラインおよび医学研究ラインはこのドーナツ状建物の外にのびます。)
SPring-8放射光の優れた特徴

世界一安定性のあるビームライン
放射光は、電子の速度が速く、その進む方向の変化が大きいほど、より絞られた明るい光となり、より高いエネルギーの光(短波長光)を多く含むようになります。
●広い波長範囲の光、特に0.01ナノメートルまでの短い波長領域のX線の発生に特徴があります。
●世界最高の高輝度でX線が発生します。
●発生するX線は、指向性や干渉性が非常に高く、いろいろの偏光特性を利用することができます。
SPring-8の優れた放射光を利用すると、物質の構造や特性を分子・原子レベルではっきり観測することができます。また、試料の量が非常に少なくても、含有元素濃度が極端に低くても、精度のよい分析が可能です。超高圧などの極限条件下にある試料の化学変化を直接観察すること、また1兆分の1秒というような極端に短い時間内の現象の観測もされます。
国内外からさまざまな分野の多くの研究者がSPring-8に来て、物質の構造や機能を調べる物理科学、タンパク質の構造解析などの生命科学、X線イメージングなど医学への応用、新素材の開発・・・・・などの広い領域にわたる最先端の研究を行っています。
SPring-8放射光を利用した研究(例)
X線を物質に当てると、X線は物質に吸収されたり、物質を透過したり、もとのX線の散乱が起きたりします。また、吸収が起きると、2次的な蛍光X線や電子の放出が起きます。これらの現象は、X線回折法・蛍光X線分光法・イメージング等様々な方法で物質の構造や性質を調べる手段となります。

微結晶・高速のX線構造解析
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右:タンパク質の分子構造 左:X線回折パターン |
実験に必要な単結晶を得ることが非常に難しく、また不安定で長時間の測定に耐えられなかったタンパク質の結晶構造分析において、SPring-8の高輝度X線は、非常に小さい結晶サイズでも短時間に測定することを可能にしました。これからの医学の進歩や医薬の開発に大きく貢献することでしょう。
医学診断への応用に期待が高まるイメージング法
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鮮明なマウスの組織X線写真 |
SPring-8の極めて平行性の高いX線ビームは、イメージングによる観察を可能にしました。その一例として、屈折イメージング法でこれまでのレントゲン写真法では見えなかった生物の体内の様子がはっきりと描き出されました。
地球深部の科学研究
超高圧・高温下の物質の研究。
蛍光X線分析・蛍光X線ホログラフィー
超微量元素の分析や新材料の微視的環境の画像化など。
スプリングエイト まめ知識
“光は電磁波”

電子の身近なはたらき
“物を見る”とき、私たちは目に光を受けて“何か”を見ています。この“光”~可視光といいます~は、身のまわりでは太陽や蛍光灯からの光です。そして、ラジオやテレビや携帯電話に便利に使っているいろいろな波長の電波も、この可視光も、また紫外線やX線もみな電磁波の仲間なのです。“電磁波”は電子の運動から生まれます。
電磁波を創る一番身近な現場は、各家庭の台所にある電子レンジです。あの中でマイクロ波という電磁波を簡単に創って、私たちは毎日使っているのです。

すべての電磁波“科学の目”
電子が振動すると、そこに電磁波が生じます。そしてそのとき、電子の持っているエネルギーによって生じる電磁波の周波数の大きさが決まります。ラジオやTVに使われている電磁波はエネルギーが低く、可視光のエネルギーはそれより高い。エネルギーが高いほどその波の周波数は大きくなり、波長は短くなります。そして可視光よりエネルギーが大きい電磁波は、紫外線、レントゲン写真で使っているX線、そしてもっともっとエネルギーの高いX線・・・というように、いろいろな名前で呼ばれています。
HELLO. SPring-8!
地元中学生22名が、夢の光にトライやるウィーク!
世界一を肌で感じる一週間
兵庫県教育委員会の興味ある企画「トライやるウィーク」にSPring-8もスタッフをあげて協力しました。中心になって中学生向きのプログラムを考えた鈴木さんは、「科学や研究の話だけではまだ少し難しいと思ったことと、トライやるウィークの目的が、中学生たちが社会のしくみを体験するということだったので、最先端の研究は、多くの地味な仕事と一緒になって初めて可能になるという視点でのプログラムを組みました」と話してくれました。
体験の具体的内容は、新聞記事のコピー・切り抜き作業など広報室のお手伝いから、施設各セクションの機器の見学・点検作業まで多岐にわたり、中には実際に機器を始動させる場面も盛り込まれました。中学生たちのこの体験がいつか生きるよう祈ります。
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SPring-8一般公開のお知らせ
日時:平成11年4月18日(日)
科学技術庁が推進する「科学技術週間」にちなんで、SPring-8でも各施設を一般公開いたします。世界最高レベルの大型放射光施設を広く皆さんに見学していただく年一回の機会ですので、ふるってのご参加をお待ちしております。
広報部から

“ひかりの丘から SPring-8 News”第1号をお届けします。
第1号では、1997年10月に放射光を利用する実験が始められた日本の大型放射光施設SPring-8の施設の概要を紹介しました。SPring-8は、世界に3カ所の大型放射光施設の一つです。そのSPring-8の放射光の特徴を生かして、「どんな新しい研究が進められているか」「それらの研究はどんな技術的進歩に支えられて可能になったのか」などをやさしく、楽しく皆様にお届けすることが、本誌の願いです。
次号からの“ひかりの丘から SPring-8 News”~研究の紹介・技術の工夫~に、ご期待ください。