大型放射光施設 SPring-8

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地球外核は二層に分かれて対流している?! 〜「地磁気の逆転」の謎に迫る新説登場〜

地磁気の逆転

 「方位磁針のN極は、常に北極を指し示す」。これは、地球が大きな磁石であるために生じる磁場(地磁気)によるもので、方角を知るのに利用されています。 不変に思われる地磁気ですが、数万年〜数十万年ごとに、磁極の南北が入れ替わっていることがわかっています。この「地磁気の逆転」は、1926年、松山基範(もとのり)博士が、SPring-8と同じ兵庫県にある、玄武洞の火山岩に南向きの磁気を発見したことで、明らかになりました。しかし、どうして「地磁気の逆転」が起こるのかは、現在でも謎とされています。
 2011年11月、東京工業大学の廣瀬敬(けい)教授らのグループは、地球内部の外核が二層に分かれて対流*1している可能性を示し、注目を集めています。外核とは、地下2900〜5100kmにある液体金属の層で、その対流によって生じる電流が地磁気を発生させていることがわかっています(電磁誘導*2)。そして、もし外核に二層対流があれば、地磁気の逆転現象を説明できるかも知れないというのです。

手つかずのままだった外核の研究

 「ついに外核を研究することになりました」と話す廣瀬教授は、長年、地球内部を知りたいと研究を続けてきました(図1)。この研究の難しさは、実際にのぞき見ることのできない地球内部の環境を、実験室につくらなければならないことです。地球は内部へ行くほど、圧力と温度が上がります。もっとも深い中心部では、364万気圧5500°Cにもなります。廣瀬教授は、1999年から超高圧超高温を発生させる「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル」の改良に取り組んでおり、この装置をSPring-8のビームラインにセットして、地球内部と同様の環境をつくりながら、さまざまな鉱物の構造を解析してきました。
 地球内部は、深くなるほど高圧高温の環境です。そのため、実験しやすい浅い場所から解明されてきました。ところが廣瀬教授らは、外核よりも深い場所にある内核の研究にすでに着手し、成果を上げています。「外核は、地球内部で唯一、液体でできている部分です。原子が規則正しく配列している固体はX線回折法を使えば結晶構造を解析できますが、液体はそう簡単ではありません」。このような理由から、外核は手つかずのまま残されていたのです。

図1.地球内部の層構造と廣瀬教授の研究成果
図1.地球内部の層構造と廣瀬教授の研究成果

固体試料から液体の振る舞いを予想する

 では、どのようにして外核の研究は可能になったのでしょうか。「固体は、原子の規則的な配列がどこまでも続いています。一方、液体は、原子が規則的に 配列した小さな塊が、バラバラに存在しているイメージです。ですから、原子が規則的に配列している微小領域に限れば、固体と液体は同じように扱えるのです」。この発想から、固体試料を用いることになりました。
 次に、実際に何を試料にするかが問題になりました。「実は、外核が何でできているかについては、いまだに論争が続いています。地球創成のプロセスから、鉄が主成分であることは確かですが、そこに混ざっている、鉄よりも軽い元素については、水素、炭素、酸素、硫黄、ケイ素の5種類の候補があります」。廣瀬教授は、外核の上にあるマントルに多く含まれている酸素を、外核の軽元素の主成分であると仮定し、酸化第一鉄(FeO)を使った研究をスタートさせました。

地球外核に二層対流の可能性

 固体のFeOをレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルにセットし、外核に相当する圧力と温度にして、SPring-8の高圧構造物性ビームライン(BL10XU) で結晶構造を解析しました。その結果、ある条件下でFeOの結晶が、塩化ナトリウム型構造(B1)から塩化セシウム型構造(B2)に変化することがわかりました。「FeOが塩化セシウム型の構造をとることは、新たな発見でした。さらに、この実験に基づいて状態図(図2)を作成してみたところ、2つの構造の境界線が負の勾配(右下がり)をもっていることがわかりました。これが今回の研究における大きな発見でした」と廣瀬教授は言います。
 B1とB2では構造や密度が異なります。密度が変化する境界線が負の勾配をもつ場においては、対流運動が妨害されます(図3)。その結果、外核の対流は、2つの構造の境界で二層に分かれている可能性があるのです(図4)。
 「外核が二層に分かれて各層ごとに対流している(二層対流)と仮定すれば、過去に繰り返された“地磁気の逆転”が起きるメカニズムを説明できるかも知れません」。地球が磁石として振る舞うのは、自由電子を持った外核の対流による電磁誘導が原因です。外核の対流の向きによって地磁気の向きが決まるので、地磁気の逆転には、外核の対流の逆転が必要です。二層対流では上下が独立して対流しているため、上層の対流はマントルによって冷やされ、温度が下がっていきます。一方、下層の温度はほとんど変わりません。こうして温度差が大きくなると、二層対流は不安定になり大きく乱れます。しばらくして温度が一様になると、再び二層対流になります。その時に、対流の向きが偶然逆転すれば、地磁気も逆転しているというわけです。

図2.高圧高温下におけるFeOの結晶構造変化(状態図)
図2.高圧高温下におけるFeOの結晶構造変化(状態図)

鉄原子(青)と酸素原子(灰色)の配列が、塩化ナトリウム型構造(B1)から塩化セシウム型構造(B2)へと構造変化することがわかった。その境界(赤線)は、負の勾配(右下がり)だった。このほか、B8はヒ化ニッケル型構造、rB1は歪んだ塩化ナトリウム型構造。

図3.「正の勾配」と「負の勾配」の違い
図3.「正の勾配」と「負の勾配」の違い

青い線は、地球内部の深さに応じた平均的な温度変化を表している。これに対して、上昇流は周囲に比べて温度が高い状態を保って変化する(緑色の線)。
外核内部から外部に向かった高温の上昇流を考えた場合、周囲は深さ約4000kmの境界を境に構造が変わり、浅い部分では低密度の構造になる。ところが、上昇流内部では温度が高いために深さ4000kmまで上がって来ても構造変化は起こらず、高密度の構造のままである。そのため、周囲に比べて重たくなり、それ以上、上昇することができなくなる。

図4.外核の対流様式
図4.外核の対流様式

矢印は対流の向きを示す。外核内で構造変化が起こらない場合は一層対流となる(左図)。一方、外核液体中で、境界が負の勾配をもつ構造変化が起こると、二層対流となる(右図)。

今後の地球研究

 「地磁気の変動の歴史を知ることは、地球の生命活動や進化を解き明かすことになるかもしれません」と、廣瀬教授は地磁気研究の意義は大きいと言います。地球は地磁気のカゴで囲まれています(表紙)。このカゴによって地球生命は、有害な宇宙線や太陽風から守られており、地磁気が現在のレベルにまで強くなったことが、生命が浅い海からやがて陸上に住めるようになった要因の1つと考えられているからです。
 廣瀬先生は、今後も外核の研究を続ける予定で、まずは、1952年以来議論が続いている“外核中の軽元素の正体”に迫りたいと考えています。また、より二層対流を正確に理解するために、対流に大きく影響している内核について、その形成時期などを明らかにしたいと言います。
 地球内部の研究に、終わりはなさそうです。

表紙:外核の対流とそれによって生じる地磁気(緑の線)
表紙:外核の対流とそれによって生じる地磁気(緑の線)

コラム:ダイヤモンド鉱山から実験室へ

南アフリカ共和国に囲まれた小国、レソト王国のダイヤモンド鉱山にて
南アフリカ共和国に囲まれた小国、
レソト王国のダイヤモンド鉱山にて

 「地球深部の岩石や鉱物が欲しければ、ダイヤモンド鉱山に行けばいいんです」と話す廣瀬教授は、かつて南アフリカなどのダイヤモンド鉱山に出向いて、岩石を採取していました。「ダイヤモンドの生成に必要な圧力は、地下150kmに相当する5万気圧以上です。ですからダイヤモンドを含む岩石は、150kmよりも深いところからマグマと一緒に地表に上がってきたはずです」。目的の岩石を探すために、ダイヤモンドを採取した後の砂利山で、石拾いをしたそうです。
 一度、鉱山の人から漬物石ほどの大きな石をたくさんもらったことがありました。日本に帰って調べてみると、その1つにたくさんのダイヤモンドが入っていました。とても印象的な出来事だったと振り返ります。
 こうして世界中から岩石を集めても、自然界で手に入るものは、地下200kmがせいぜいです。もっと地球の深いところを知りたくて、今のように超高圧超高温実験による研究をするようになったのです。

 

用語解説

*1 対流
風呂を沸かしてしばらくすると、湯船の下のほうが冷たい。これは温められた水が、膨張して軽くなり上昇するためにおこる。流体のこのような流れを「対流」と呼ぶ。

*2 電磁誘導
コイルに磁石を出し入れすると、電流が流れる現象のこと。逆に、コイルに電流が流れると磁場が生じる。

取材・文:サイテック・コミュニケーションズ 池田 亜希子


この記事は、東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻の廣瀬敬教授にインタビューして構成しました。