大型放射光施設 SPring-8

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2024年夏の学校 実習概要

28件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。

BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 加藤 和男・片山 真祥(JASRI)・伊奈 稔哲(JASRI/関西学院大学)
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 大渕 博宣・渡辺 剛(JASRI)

・本実習は2つのビームラインで行われます。実習内容は若干異なりますが、学習する手法は同じであるため、一緒にして希望を募ります。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、お申し込みの際に連絡事項の欄に理由を記述してください。

(BL01B1)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための放射光光学素子の位置調整と、試料調製について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場""XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。

(BL14B2)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。

BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 野上 由夫(岡山大学)・中村 唯我・一栁 光平(JASRI)

単結晶は粉末結晶に比べ、以下の特徴を有する。1)晶系や結晶の対称性(空間群)の決定が容易である。2)並進対称性の破れ(格子変調)の検出も容易である。本実習では、単結晶構造解析の原理を解説し、半導体検出器を用いた回折装置で実際に測定を行い、低分子単結晶の原子座標を精密に決定する。

BL02B2:粉末X線構造解析の基礎 --- 河口 彰吾・小林 慎太郎・森 祐紀(JASRI)

物質の性質は、結晶構造、すなわち、構成原子の種類と配列によって決まります。例えば、ダイアモンドと黒鉛(グラファイト)は炭素の同素体ですが、ダイアモンドは透明で非常に硬いのに対して、 黒鉛は黒色で劈開します(鉛筆で字が書けるのは劈開するためです)。粉末X線回折実験では様々な試料環境下での計測も可能です。実習では、金属・酸化物の高温in-situ、ガス雰囲気下等の実験を行い、得られたデータに対して、結晶構造の情報を得るため、リートベルト法等を用いたデータの解析を行います。その結果から、異なる特性の原因となる結晶構造の違いについて考察します。

BL04B1:大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験 --- 肥後 祐司(JASRI/茨城大学)・柿澤 翔・辻野 典秀(JASRI)

BL04B1は川井型大型プレスと放射光硬X線を利用して、高圧下での結晶構造変化や各種物性を測定するビームラインです。本実習では塩化カリウムの高圧相転移を約2万気圧の高圧下でその場観察します。高圧実験の手順のほか、白色X線を光源としたエネルギー分散型X線回折法の実習をします。

BL04B2:高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析 --- 尾原 幸治・廣井 慧(島根大学/JASRI)・山田 大貴・下野 聖矢(JASRI)

最先端の機能性材料には、ガラスや液体が数多く存在します。ガラスや液体のような乱れた原子配列を解析するために、二体分布関数(Pair Distribution function, PDF)解析という手法が用いられます。本実習では、SPring-8の高エネルギーX線を用いたPDF解析によって、一見無秩序に思えるガラスの原子配列の解析を行います。

BL07LSU:タイコグラフィによる軟X線顕微イメージング --- 木村 隆志・松田 巌・原田 慈久(東京大学)

タイコグラフィは位相回復計算を利用した新しいタイプの顕微イメージング技術です。本実習では、BL07LSUのタイコグラフィ装置を用いて、可視光とは桁違いの分解能を持ったX線顕微イメージングの威力を体験してもらいます。また、pythonを用いた簡単な位相回復計算のプログラミングにも挑戦する計画です。

BL08W:コンプトン散乱イメージング --- 辻 成希(JASRI)

コンプトン散乱イメージングは、コンプトン散乱を利用するため、軽元素にも感度を有しており、試料回転や再構成をすることなく簡単に断面図を得ることができるイメージング手法である。本実習では、コンプトン散乱の原理から解説し、実際の材料のイメージング測定を行い、三次元画像の解析を行います。

BL10XU:ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折実験 --- 河口 沙織・門林 宏和(JASRI)

圧力は温度と並び、物質の性質を変化させる最も基本的な物理パラメータの一つです。高圧力が印加された物質は、時に常圧下では想像もつかないような物性を示すこともあります。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)は、高圧発生装置の中でも、実験室で1万気圧を超える超高圧を容易に発生させることが可能であり、非常に小型で汎用性が高く、SPring-8でも様々な測定手法のもとで用いられています。本実習では、DACによる高圧その場X線回折計測に特化したビームラインであるBL10XUにおいて、実際にDACを用いて高圧実験を行っていただきます。圧力をかけることによる物質の結晶構造と物性の変化を、ご自身の“目”と“放射光X線”を使って実感してみませんか?

BL11XU:共鳴非弾性X線散乱・X線発光分光による白金微粒子酸化還元のオペランド計測 --- 石井 賢司(QST)・松村 大樹(JAEA)

入射X線と散乱・発光X線の両方を分光する共鳴X線非弾性散乱(RIXS)・X線発光分光(XES)、その応用である高エネルギー分解能蛍光検出X線吸収分光(HERFD-XAS)は、入射X線のみを分光するX線吸収分光(XAS)では取得できない高エネルギー分解能での電子状態や占有状態の電子状態を調べることができます。本実習では、白金微粒子を試料とし、温度とガス雰囲気の制御で起こる酸化・還元反応時の電子状態をオペランド計測することで、RIXS、XES、HERFD-XASの理解を深めることを目指します。

BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 隅谷 和嗣(JASRI)

SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことです。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子で数100 nmサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折実験を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。

BL17SU:光電子顕微鏡 〜ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造〜 --- 濵本 諭(理研)・菅 大暉(JASRI/理研)

光電子顕微鏡(PEEM)は、ナノ〜ミクロンのスケールで、物質表面の電子状態や磁気状態について2次元的に調べることが出来る装置です。エネルギー・偏光可変の軟X線放射光と組み合わせることで元素毎に磁気構造を調べることが可能で、先端物質科学の研究分野に広く活用されています。本実習では、標準試料を用いて PEEM測定の基礎を習得するとともに、応用例として単結晶試料を用いた磁区観察を体験して頂きます。

BL19B2:粉末X線回折 --- 大坂 恵一・赤田圭史・池田理(JASRI)

粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2のハイスループット粉末回折計で良質なデータを取得するための装置調整と測定の実習を予定しています。受講される方は各自表計算ソフトが使えるPCをご用意ください。

BL20XU:放射光X線イメージングと基礎データ解析 --- 上椙 真之・佐田 侑樹・竹内 晃久(JASRI)

放射光を利用したX線画像計測は、レントゲン撮影のように計測対象である試料の内部構造を単に可視化するだけでなく、得られた画像データを定量的に取り扱うことにより、様々な情報を引き出すことができます。本実習では、X線画像計測を行うための基本ツールである画像検出器の取り扱いについて習得するとともに、実際にX線CTデータの取得を行い、得られた画像を三次元で解析するところまでを体験していただくことにより、放射光X線CTの基礎を習得することを目的とします。

BL22XU:X線回折法を利用した金属材料応力・ひずみ評価 --- 菖蒲 敬久・冨永 亜希(JAEA)

身の回りには自動車や鉄筋コンクリートの柱といった構造物に囲まれて暮らしています。構造物の中には、加工等により出現した残留応力が存在しており、時間とともにそれらが変化し、破壊現象を引き起こしています。この残留応力を評価することが出来る手法の1つがX線応力・ひずみ測定です。本講習では、目には見えない応力やひずみをX線回折法により計測する原理を学び、実際に放射光X線を使って測定して頂きます。

BL25SU:軟X線光電子分光を用いた電子状態解析 ---  横谷 尚睦(岡山大学)・山神 光平(JASRI)

光電子分光は、外部光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。内殻準位の測定から物質の構成元素やその化学結合状態がわかります。そして、価電子帯の測定から物性発現の起源に関係するバンド構造がわかります。本実習では、不純物がドープされたダイヤモンドを用いて、その中に含まれる不純物元素の同定や化学結合状態、バンド構造の観測を行い、軟X線光電子分光に関する一連の測定や解析手順を体験していただく予定です。

BL26B1:単結晶回折(タンパク質) --- 上野 剛(理研)・河村 高志(JASRI)
BL41XU:単結晶回折(タンパク質) --- 山口 峻英(茨城大学)・熊坂 崇(JASRI/関西学院大学)・長谷川 和也・坂井 直樹・水野 伸宏(JASRI)
BL44XU:単結晶回折(タンパク質) --- 中川 敦史・山下 栄樹・櫻井 啓介(大阪大学)・山口 峻英(茨城大学)

・本実習は3つのビームラインで行われます。実習内容は同じです。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、お申し込みの際に連絡事項の欄に理由を記述してください。

単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、二次元検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。

BL29XU:X線ライトシート顕微鏡実験 --- 香村 芳樹・高野 秀和・Sierra Dean(理研)

X線ライトシート顕微鏡は、生体試料などの三次元構造を非破壊で観察するSPring-8で開発された新しい手法である。生体に可視発光するシンチレーターを導入し、一次元集光されたX線ビームにより薄い断面での発光体分布を可視光顕微鏡で観察する。重心計算を用いることで奥行き方向に3nm以下の原子レベルの解像度が達成され、面内方向には40nm程度が達成されている。実習では、特異的に染色された生体試料の三次元構造の観察などを体験して頂く予定である。

BL31LEP:GeV光ビームの生成と物質との相互作用 --- 石川 貴嗣・水谷 圭吾・小早川 亮・桂川 仁志・田中 慎太郎・橋本 敏和(大阪大学)

GeV光ビームは、X線に比べて10万倍程度高いエネルギーを持ち、素粒子・原子核の研究に利用されています。本実習では、レーザー光をSPring-8蓄積電子と逆コンプトン散乱させてエネルギー増幅し、GeV光ビームを生成します。また生成したGeV光ビームのエネルギーや空間的拡がりといった性質を物質との相互作用を通じて測定します。実習を通して、電磁気学および量子力学、初歩の相対論にも触れながら極微の世界を体験します。

BL35XU:放射光核共鳴散乱測定 -原子核脱励起過程の観察- --- 依田 芳卓・永澤 延元(JASRI)

放射光のパルス性を利用した核共鳴散乱測定を行います。原子核の無反跳共鳴吸収であるメスバウアー効果を利用した測定は原子核準位間の遷移を利用することで他にはない高いエネルギー分解能を誇り、特定の原子の電子状態を調べる点で優れています。実習では高い時間分解能を持つAPDを用いて放射光パルスと核共鳴散乱シグナルを区別して観測します。また、複数の試料を同時に励起した際の核共鳴散乱スペクトルの振る舞いについても観測します。

BL37XU:走査型顕微分光法の基礎 --- 新田 清文・関澤 央輝(JASRI)

X線顕微分光法はX線の優れた特性を活かしてX線吸収分光法(XAS法)により得られる試料の電子状態や局所構造などの情報を顕微イメージング法と組み合わせることにより2次元/3次元のイメージングとして再構築する手法である。本講習ではX線顕微分光法の基礎を講義において学び、また最も利用されている走査型顕微分光法の基礎を実習により学んでいただく予定である。

BL38B1:BioSAXSによるタンパク質分子の溶液構造解析 --- 関口 博史・長尾 聡(JASRI)

小角X線散乱法(SAXS)は、数nmから数µmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。様々な種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行います。SAXSの基礎と測定手法に関する知識はタンパク質以外の試料にも役立つと思います。

BL43IR:赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析 --- 森脇 太郎・池本 夕佳(JASRI)

SPring-8はX線から赤外線まで広い帯域の光を利用することができますが、このうち、波長が最も長い赤外線を利用した分光実験を行います。赤外分光では、物質の組成や結合状態・電子状態に関する情報が得られます。赤外線領域の放射光は高輝度であることが特徴で、湿度・温度など様々な外部環境を制御した状態での顕微赤外分光が行われています。本実習では、実験室装置を利用して、毛髪などの身近な素材のスペクトルを測定します。また、測定原理の説明と利用例を紹介します。

BL43LXU:X線非弾性散乱による原子振動測定 --- 石川 大介・福井 宏之・萬條 太駿(JASRI)

エネルギースケールがmeVである原子振動を、エネルギーがkeVのX線を用いて測定する手法がX線非弾性散乱です。このシグナルは他のX線散乱に比べて非常に弱いため、我が国においてはSPring-8でのみ測定可能となっています。実習では標準的な試料に対する測定を通じて、原子振動から何が分かるかや、原子振動からの微弱信号を測定するために長さ10メートルという巨大な装置が必要な理由について学びます。

BL44B2:全散乱計測における誤差解析 --- 加藤 健一(理研)

放射光を用いた計測に限らず、あらゆる計測に誤差はつきものである。誤差の性質を理解し定量的に見積もることは、最適な実験条件を決めることにもつながる。本実習では、全散乱計測における誤差の取り扱い(解析)の方法を習得し、自ら実験計画を立てられるようになることを目的とする。

BL46XU:硬X線光電子分光 --- 安野 聡・Seo Okkyun・髙木 康多(JASRI)

硬X線光電子分光は従来の光電子分光に比べて数倍以上大きい分析深さを有し、試料深部や界面における化学結合状態・電子状態を非破壊で調べることができる分析手法です。近年は電池材料や半導体を中心として、幅広い分野で利用が進んでいます。実習では様々な薄膜試料について、測定→元素の同定→化学結合状態の推定→試料構造の考察までの一連の分析の流れを体験して頂く予定です。