大型放射光施設 SPring-8

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新奇層状ペロブスカイト圧電体材料の発見 ―層状構造と酸素八面体回転により破られる中心対称性―(プレスリリース)

公開日
2014年04月18日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)

2014年4月18日
国立大学法人京都大学

ポイント
・ 従来とは異なったメカニズムに基づく新奇圧電体材料(ぺロブスカイト関連化合物)の発見
・ 層状構造と酸素八面体回転に由来する結晶構造の中心対称性の破れを実験と理論の両面から解明
・ 非鉛圧電体材料の開発研究への貢献

京都大学工学研究科の赤松寛文日本学術振興会特別研究員(当時)、藤田晃司准教授、久家俊洋修士課程学生、田中勝久教授の研究グループは、同研究科田中功教授、京都大学学際融合教育研究推進センターの東後篤史特定准教授、ペンシルバニア州立大学Venkatraman Gopalan教授、同大学のLong-Qing Chen教授、ドレクセル大学のJames M. Rondinelli准教授らの研究グループと共同で、NaRTiO4 (Rは希土類元素)という組成をもつ一連の層状化合物が従来とは異なるメカニズムで圧電性を示すことを、実験と理論計算の手法を併用して明らかにしました。
本研究成果は、アメリカ物理学会の英文誌「Physical Review Letters」に掲載されました。また、本論文は編集者の注目論文にも選ばれています。

書籍情報:
Inversion Symmetry Breaking by Oxygen Octahedral Rotations in the Ruddlesden-Popper NaRTiO4 Family
Hirofumi Akamatsu, Koji Fujita, Toshihiro Kuge, Arnab Sen Gupta, Atsushi Togo, Shiming Lei, Fei Xue, Greg Stone, James M. Rondinelli, Long-Qing Chen, Isao Tanaka, Venkatraman Gopalan, and Katsuhisa Tanaka
Physical Review Letters 112(18), 187602 Published 7 May 2014
DOI: 10.1103/PhysRevLett.112.187602

概要
圧電材料に力を加えると電圧が発生し、逆に電圧を加えると材料が変形します。このため、圧電材料は機械的エネルギーと電気的エネルギーの相互変換に用いられ、センサーやアクチュエーターとして実用化されています。その用途は、精密な位置制御を必要とする産業機器(半導体露光装置の極微動用ステージや走査型トンネル顕微鏡の探針駆動機構など)から身近な電子機器(携帯電話、インクジェットプリンター、デジタルカメラなど)まで、多岐に渡っています。
実用的な圧電材料の多くは、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型構造をもつ強誘電体です。代表的なものとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr, Ti)O3)などがあげられます。そのようなペロブスカイト酸化物強誘電体では、チタンと酸素の共有結合性や鉛の非共有電子対といった特定の元素に特有の性質のため結晶構造に中心対称性の破れが生じ、これが強誘電性・圧電性をもたらします。このような性質をもつ元素は限られるため、ペロブスカイト酸化物の中で中心対称性をもたない化合物は数%程度に留まっています。 研究グループは、NaRTiO4Rは希土類元素)の組成をもつ一連の層状ぺロブスカイト酸化物が上記とは異なるメカニズムによって圧電性を示すことを、大型放射光施設SPring-8粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)でのX線回折測定、光第二高調波発生測定、ピエゾ応答力顕微鏡観察、ならびに第一原理計算により明らかにしました。これらの酸化物はこれまで、中心対称性をもち圧電性を示さない構造をとると報告されていましたが、本研究において、実際にはこれらの酸化物が報告とは異なる酸素八面体回転パターンを示し、その回転パターンの“微妙な違い”が中心対称性を破り、圧電性を生むことを突き止めました。従来のぺロブスカイト強誘電体において中心対称性の破れをもたらす特定の元素に特有の構造歪みとは対照的に、酸素八面体回転は、ペロブスカイト関連化合物において最もありふれた構造歪みです。したがって、本研究成果は、圧電体あるいは強誘電体の新しい物質設計指針を与えるだけでなく、非鉛圧電体材料を使ったデバイス応用にも大きな波及効果をもたらすと期待されます。

研究の背景と経緯
ペロブスカイト酸化物はABO3の組成式で表され、頂点共有したBO6酸素八面体の3次元ネットワークの空隙にAサイト原子が充填された構造をもちます。 AサイトとBサイトで構成元素の幅広い組み合わせが許容されるため、多彩な電子物性が発現することが知られています。特に、BaTiO3やPb(Ti, Zr)O3に代表されるぺロブスカイト酸化物強誘電体注1)は実用上の重要性を有しており、積層コンデンサー注2)アクチュエーター注3)圧電センサー注4)などへ応用されています。このようなペロブスカイト強誘電体では、チタンと酸素の共有結合性や鉛の非共有電子対といった特定の元素に特有の性質により構造が歪み、中心対称性が破れる結果、強誘電性・圧電性が発現します。ただし、このような強誘電歪みをもたらす元素は限定されるため、ペロブスカイト酸化物の中で中心対称性をもたない化合物はわずか5%程度しかありません。
一方で最近、元素の性質(共有結合や非共有電子対の存在)にそれほど強く依存しないメカニズムによって結晶構造の中心対称性が破れることが理論計算により提案されました[1]。このメカニズムでは、層状構造をもつペロブスカイトにおいて、ある種のBO6酸素八面体ネットワークの回転パターンが中心対称性を破ります。ほとんどのペロブスカイト酸化物が酸素八面体回転を示すので、このメカニズムに基づけば、強誘電体・圧電体の開発において特定の元素に制限されない物質設計が可能となります。しかしながら実際には、このタイプの強誘電体・圧電体はほとんど知られておらず、特に、酸素八面体回転が起こると同時に結晶構造の中心対称性が破れることを実験的に検証した例は皆無でした。

研究手法・成果
今回、研究グループは、NaRTiO4Rは希土類元素)の組成をもつ層状ペロブスカイト酸化物注5)に注目し、大型放射光施設SPring-8注6)粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2)での粉末X線回折を用いた構造解析、光第二高調波発生注7)測定とピエゾ応答力顕微鏡注8)観察による物性評価、ならびに第一原理計算注9)による理論的考察を組み合わせて、この物質群が中心対称性をもたず圧電性を示すことを突き止めました。
これらの物質の物性は約20年前から調べられていますが、結晶構造は中心対称性をもつ構造に分類されていました。しかし、第一原理フォノン計算注9)を含む理論計算[2]を行った結果、従来の報告とは異なる“酸素八面体回転パターン”をもつ中心対称性のない構造の方が安定であることが予想されました(図1)。実験的にも、多結晶体の放射光X線回折を測定し構造解析を行ったところ、中心対称性のない構造が妥当であることが明らかになり、加えて、光第二高調波発生(図2a)とピエゾ応答の観察(図2b)により、非中心対称性が確認されました。また、放射光X線回折パターンと光第二高調波発生の温度依存性の測定から(図2a図3)、ある温度以下で酸素八面体回転が起こり、それと同時に中心対称性が破れることがわかりました。これは、酸素八面体回転が中心対称性の破れの起源であり、圧電性をもたらすことを示しています。

社会的意義・今後の予定
本研究の成果として、酸素八面体回転のメカニズムに基づいて多数の圧電体を発見することができました。これらはまだ氷山の一角で、将来的には新規圧電体・強誘電体が発見される可能性があります。圧電材料の用途は最先端の電子機器から汎用の電子機器まで多岐に及んでいますが、現在の電子デバイスに組み込まれた圧電材料は主成分として鉛(Pb)を含んだ圧電セラミックス材料Pb(Zr, Ti)O3であり、環境に対する負荷が大きいものです。今回発見した物質はPbを含んでおらず、非鉛圧電体材料開発につながります。現状では圧電体としての性能は低いため、今後は巨大な圧電応答を示す物質系の開拓を行う予定です。


《参考図》

図1(a)従来報告されていた結晶構造(中心対称性あり)と(b)今回の研究で報告した結晶構造(中心対称性なし)。
図1(a)従来報告されていた結晶構造(中心対称性あり)と(b)今回の研究で報告した結晶構造(中心対称性なし)。

(a)と(b)では異なるBO6酸素八面体回転パターンを示し、(b)のパターンが中心対称性の破れをもたらす。


図2 (a) 層状ペロブスカイト酸化物NaRTiO4(Rは希土類)多結晶体の光第二高調波発生の温度依存性。
図2 (a) 層状ペロブスカイト酸化物NaRTiO4Rは希土類)多結晶体の光第二高調波発生の温度依存性と
(b) 室温でのNaHoTiO4多結晶体のピエゾ応答力顕微鏡観察像。

(a)では光第二高調波発生が観察される温度域で中心対称性が破れていることを意味している。
(b)は観察面に対して鉛直方向(電場方向)の応答に対応している。


図3 (a) NaSmTiO4の放射光粉末X線回折パターンの温度依存性。
図3 (a) NaSmTiO4の放射光粉末X線回折パターンの温度依存性。

回折角2θ〜9度付近のピークは、酸素八面体回転により結晶構造の中心対称性が破れていることを示している(bを参照)。800 K以上の温度では酸素八面体回転を伴わない結晶構造(cを参照)に変化し、この構造は中心対称性をもつため回折ピークが消失する。800 K以上の温度では、図2aで示されるように、NaSmTiO4の光第二高調波発生も観察されなくなる。すなわち、酸素八面体回転と中心対称性の破れは密接に関係している。


《用語解説》
(注1)強誘電体

誘電分極をもち、電圧を印加することにより誘電分極の向きを変えることのできる物質。強誘電体は、結晶構造に中心対称性がないため圧電効果を示す。

(注2)積層コンデンサー
セラミックス誘電体と金属電極を多層化することで小型・大容量化を図ったチップ型コンデンサー

(注3)アクチュエーター
外部から与えられたエネルギーを機械的エネルギーに変換する素子の総称。圧電体アクチュエーターの場合、圧電体の微小変位を電気的に制御する。

(注4)圧電センサー
外部から与えられた振動を電気信号に変換し出力するセンサー。

(注5)層状ぺロブスカイト酸化物
本研究の化合物は、ぺロブスカイト層ABO3と岩塩層AOが交互に重なった層状構造をもち、通常、ルドルスデン-ポッパー(Ruddlesden-Popper)相と呼ばれる。

(注6)大型放射光施設SPring-8
兵庫県播磨科学公園都市にある、世界最大の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来している。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する強力な電磁波のこと。

(注7)光第二高調波発生
中心対称性をもたない物質に周波数ωの光を照射した際に、周波数2ωの光(第二高調波)が生じる現象。このとき同時に直流電場(光整流)も生じる。

(注8)ピエゾ応答力顕微鏡
プローブとサンプル接地面の間に電圧をかけながら走査し、圧電(ピエゾ)応答をマッピングする顕微鏡.

(注9)第一原理計算
実験により得られるパラメータを用いることなく(第一原理)、量子力学に基づいて物質のエネルギーや構造を計算する手法。本研究では密度汎関数法を用いた。また、第一原理で得られた力定数からフォノンバンド計算を行い、構造の動力学的安定性の評価や安定構造の探索を行った[2]

参考文献
[1] N. A. Benedek and C. J. Fennie, Phys. Rev. Lett. 106, 107204 (2011).
[2] A. Togo and I. Tanaka, Phys. Rev. B 87, 184104 (2013).



《問い合わせ先》
 国立大学法人 京都大学工学研究科
  准教授 藤田 晃司
    TEL:075-383-2432
    E-mail:mail1

(SPring-8に関すること)
 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課
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