大型放射光施設 SPring-8

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毛髪キューティクルの構造を世界最高大型放射光施設(SPring-8)で解析-物質浸透性がキューティクル細胞間の構造変化に関連している事を発見-(プレスリリース)

公開日
2005年09月01日
  • BL40XU(高フラックス)
カネボウ(株)ビューティケア研究所と(株)カネボウ化粧品基盤技術研究所は、(財)高輝度光科学研究センターと共同で、大型放射光施設SPring-8のマイクロビームX線を利用して、毛髪キューティクル間の構造を解析し、物質の浸透性はキューティクル細胞間の構造変化と関連する事を発見した。

平成17年9月1日
カネボウ株式会社
株式会社カネボウ化粧品
財団法人高輝度光科学研究センター

 カネボウ(株)ビューティケア研究所と(株)カネボウ化粧品基盤技術研究所は、(財)高輝度光科学研究センターと共同で、世界最高の大型放射光施設であるSPring-8のマイクロビームX線を利用して、毛髪キューティクル間の構造を解析し、物質の浸透性はキューティクル細胞間の構造変化と関連する事を発見しました。

1.毛髪内部への物質の浸透と毛髪キューティクル
 ヒトの毛髪は、最外層をキューティクル、その内側をコルテックス、中心がメデュラと呼ばれる三層構造をしており、最外層のキューティクルは一辺約50ミクロン厚さ約0.5ミクロンの細胞が重なり合って存在しています。このキューティクル細胞とキューティクル細胞の間に存在する細胞膜複合体は、毛髪内への物質の浸透に関与していると言われており、ヘアカラーの色素やパーマ剤などの薬剤、タンパク質・保湿剤・油剤などの毛髪を改善・改質する成分など、頭髪用化粧製剤の様々な物質を毛髪内部に浸透させる際には重要な部位となります(図1)。しかしながら、その中を物質がどのように通過していくのか、その際に細胞膜複合体の構造がどのように関与しているのかなど、浸透メカニズムは未だ不明のままでした。


2.キューティクルの細胞膜複合体の構造解析
従来の解析法
 キューティクルの細胞膜複合体は、β層と呼ばれる脂質で構成されている層が、δ層と呼ばれるタンパク質で構成されている層を挟み込んだ厚さ約0.02ミクロンの規則的な層状の構造をしています。
従来、細胞膜複合体の構造を解析する手法は、毛髪を樹脂などで固め、輪切りにして染色したものを高性能な透過型電子顕微鏡で観察する事により行われていますが、輪切りにする時や染色工程によりその構造が変化している事も考えられ、真の姿を捉えているとは言い難いものでした。又、浸透現象の場となる溶液中での変化を捉える事は出来ませんでした。
本研究の解析法
 (財)高輝度光科学研究センターでは、SPring-8高フラックスビームラインBL40XUにより、キューティクル層の厚みとほぼ同寸の直径約5ミクロンのマイクロビームX線を利用する事で、キューティクル間の細胞膜複合体を、毛髪を輪切りにする事なく、そのままの状態で構造解析する手法を開発しました(図2)。
今回、頭髪用化粧製剤の効果に影響を与える毛髪における物質の浸透に関して、そのメカニズムを探る為に前述のSPring-8のマイクロビームX線による構造解析手法を利用し、キューティクル間の細胞膜複合体の構造変化と物質浸透との関連について検討した結果、初めて毛髪における物質の浸透が、細胞膜複合体の構造と関連がある事を見出しました。


3.細胞膜複合体の構造変化と物質の浸透性
 先ず、種々の溶剤で毛髪を抽出する事により、細胞膜複合体の各層の構造が異なって変化する事を見出しました。即ち、脂質で構成されたβ層に大きく影響する溶剤、タンパク質で構成されたδ層に大きく影響する溶剤など、溶剤の種類によって細胞膜複合体の構造変化のパターンが異なっていました。また、それら種々の溶剤で抽出した毛髪は、色素の浸透性も異なっており、浸透性と構造変化との関連を調べたところ、色素の浸透には、β層よりもδ層の変化に関連がある事を見出しました(図3)。このように、毛髪キューティクル細胞の間に存在する微細な構造体の変化が、毛髪内部へ物質を透過させる上でキーとなっていることを、SPring-8の高フラックスビームラインを利用して構造解析を行うことで解明する事ができました。


4.今後の展開(この研究が今後どのように展開・応用されていくか)
 今後は、実際の浸透現象の場となる溶液中での構造変化を捉え、細胞膜複合体による物質浸透のメカニズムの詳細を解明する事で、その構造を積極的に変化させる成分を開発し、より効果的に毛髪内部へ物質を浸透させる手法を確立していこうと考えています。それにより、短時間で染まるヘアカラー、かかりにくかった人でもしっかりかかるパーマ剤、損傷して内部がスカスカとなった毛髪を元の状態の戻す製剤、髪を柔らかくしたり、硬くしたり、くせを直したり等の毛髪の質を変えるような特徴ある製剤の開発が可能であると考えています。


<参考資料>

図1 キューティクルの細胞膜複合体
図1 キューティクルの細胞膜複合体

 


 

図2 細胞膜複合体のX線による構造解析
図2 細胞膜複合体のX線による構造解析

 


 

図3 浸透性と細胞膜複合体の構造変化
図3 浸透性と細胞膜複合体の構造変化

 


 

<本研究に関する問い合わせ先>
カネボウ(株)  総務・広報部
Tel:03-5446-3042

(株)カネボウ化粧品  広報グループ
Tel:03-6430-5183

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
   広報室  原 雅弘
Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786
E-mail:hara@spring8.or.jp

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