大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

SPring-8利用者とJASRI研究員が平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞(トピック)

公開日
2008年03月28日
  • 受賞

SPring-8の利用者である奈良先端科学技術大学院大学の大門寛教授、松井文彦助教、およびSPring-8を運営する財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の松下智裕主幹研究員、郭方准研究員が「円偏光放射光を利用した立体原子写真法の研究」により、また、SPring-8の利用者である神戸大学の難波孝夫教授および自然科学研究機構分子科学研究所の木村真一准教授が「高輝度赤外放射光の開発と物質科学への利用研究」により、平成20年度科学技術分野の 文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞しました。科学技術分野の文部科学大臣表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に授与されます。

● 大門寛教授(奈良先端科学技術大学院大学)
  松井文彦助教(奈良先端科学技術大学院大学)
  松下智裕主幹研究員(財団法人高輝度光科学研究センター)
  郭方准研究員(財団法人高輝度光科学研究センター)

研究業績:「円偏光放射光を利用した立体原子写真法の研究」

【研究内容】
 原子構造を直接立体的に見ることは、人類の夢の一つであり、また、材料開発や固体の研究の出発点である。従来、原子構造の解析は電子顕微鏡やX線などの回折を利用して解析していたが、これらの手法では原子配列の三次元構造を直接見ることはできなかった。本研究では、SPring-8の円偏光軟X線を試料に照射して、飛び出した光電子の放出角度分布を「二次元表示型球面鏡分析器(ダイアナ)」で一度に測定することにより、歪みの無い原子配列の立体写真を直接得ることに成功した。内殻からの光電子を利用しているため、エネルギーを選別することにより、特定の元素の原子の周りの構造を直接立体視することができる。本研究により、銅、グラファイト、ダイヤモンドなどの結晶や薄膜など多くの試料の原子配列立体写真が撮影されてきている。最近は測定時間が短くなり、ゆっくりした原子の動きを見ることも可能になりつつある。この業績は表面原子構造解析に革新的な進展をもたらした。 

【受賞理由】
 大門氏、松井氏、松下氏、郭氏は、立体原子写真法という全く今までに無い独創的なアイデアを考案し、そのために最適な測定装置とプログラムを構築し、きれいな立体写真の測定に成功した。その成果は、固体物理や表面物理学に留まることなく、触媒反応解析などの化学分野や、DVDなど原子配列が重要な材料開発、分析に大きなインパクトを与えようとしているため、科学技術に関する研究における顕著な成果であり、科学技術分野の文部科学大臣表彰に相応しいと評価された。


● 難波孝夫教授(神戸大学大学院理学研究科)
  木村真一准教授(自然科学研究機構分子科学研究所)

研究業績:「高輝度赤外放射光の開発と物質科学への利用研究」

【研究内容】
 物質の物理化学的性質を分子・原子のミクロなレベルでの非破壊分析ができる赤外・テラヘルツ(遠赤外)線を用いる分光分析・顕微分析技術は、基礎科学から犯罪捜査に至る幅広い分野で重要な役割を果たしている。しかしながら、従来の赤外・テラヘルツ分光は低輝度の黒体輻射光源を用いているため、微小試料や長波長での実験研究に不向きであり、新光源の開発が待ち望まれていた。そのような中で、本研究では、従来の光源より高輝度なシンクロトロン放射光が赤外・テラヘルツの光源として利用可能なことを世界最初に検証した。また、赤外放射光利用のための専用観測システムを世界に先駆けて開発し、かつ、従来の空間分解能をはるかに超える赤外・テラヘルツ顕微分光法をはじめとしてこれまで不可能と考えられていた、高圧下の赤外・テラヘルツ分光、赤外磁気円偏光二色性、低温・高圧・高磁場下の多重極限環境下での赤外分光などの各種の分光法を開発し、物質科学に新しい情報をもたらした。ここで開発した赤外放射光の利用技術は、物質科学にとどまらず生命科学をはじめとして多くの研究分野で有用であり、世界的な赤外放射光利用研究の普及へと発展している。

【受賞理由】
 難波教授、木村准教授は、赤外放射光の実証、分子研UVSORでの世界初の専用ビームライン建設とその利用研究、SPring-8の超高輝度赤外ビームライン(赤外物性ビームラインBL43IR)の建設と利用研究の推進を通して新規分光法の開発を推進し、この分野を世界的に先導してきた。この方法論の開発研究によって、赤外・テラヘルツ帯の分光研究に大きなブレークスルーをもたらしたことが評価された。