大型放射光施設 SPring-8

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大型放射光施設SPring-8の利用研究者がのべ10万人に(プレスリリース)

公開日
2009年06月05日
  • 利用者
理化学研究所及び日本原子力研究所(現在:日本原子力研究開発機構)が兵庫県佐用郡佐用町に建設し、財団法人高輝度光科学研究センターが管理運営を行っている大型放射光施設SPring-8は、平成9年10月8日の供用開始から平成21年6月5日までの約12年間で、利用研究者がのべ10万人となりました。

平成21年6月5日

財団法人高輝度光科学研究センター
独立行政法人理化学研究所

 理化学研究所及び日本原子力研究所(現在:日本原子力研究開発機構)が兵庫県佐用郡佐用町に建設し、財団法人高輝度光科学研究センターが管理運営を行っている大型放射光施設SPring-8は、平成9年10月8日の供用開始から平成21年6月5日までの約12年間で、利用研究者がのべ10万人となりました。これは、我が国の特定先端大型研究施設※1の先駆けであるSPring-8の運営が着実に行われていることを表しています。

 SPring-8では、世界トップレベルの性能を誇る「放射光※2」を利用して、分子・原子レベルでのさまざまな研究開発が行われています。また、SPring-8の利用は広く開放されており、民間企業・大学・官公庁など国内外の諸機関に所属する多くの研究者がここに集まり、21世紀を担う世界最先端の研究開発が進められています。

 このたびの10万人達成は、多くの放射光研究者・技術者をはじめ、国や地元自治体による様々な支援等により、なし得ることができたものと考えています。加えて、SPring-8が広く開かれた施設であると同時に、施設運営側による潜在的利用者への働きかけや新規利用分野の開拓等により、物質科学や環境科学、生命科学・医学利用などの学術利用のみならず産業利用、さらには文化財研究や犯罪捜査などに至るまでの非常に広範囲に放射光利用の裾野を広げるとともに、科学技術の進歩に伴い高度化する利用研究者のニーズに合わせ、信頼性の高い利用環境を提供してきたことが挙げられます。こうしたSPring-8の有用性の高さは、年々利用研究者が増加していることや、新規利用研究者が毎年参入していること、更には利用研究者のリピーターも多く供用開始当初からずっと利用し続けている利用研究者も存在していることが物語っています。単に施設利用機会の提供のみならず、高度な利用支援を行うことにより、学術的価値が高い、または実用的な多大な成果を上げた多種多様な利用研究がなされていることがSPring-8の価値を表す指標といっても過言ではありません。

 今後も利用研究者のニーズを的確に把握し、より良い利用環境の提供、また、放射光によりさらなる発展が期待される分野への利用拡大への努力を続け、日本の科学技術力のレベルアップに貢献していきたいと考えています。


《参考資料》

利用研究者数(のべ人数) 利用研究者数(のべ人数)
緑色は共用ビームライン※3利用者、橙色は専用ビームライン※4利用者 。


利用研究者数(実数) 利用研究者数(実数)
来所した実人数の年度推移。黄色はリピーター、桃色は新規。供用当初からの来所実人数は約1万5千人。


利用研究課題数の推移: 利用研究課題数の推移
利用研究課題の実数(共用ビームライン(青)と専用ビームライン(赤)での利用を合算)。
右の円グラフは2008年度の共用ビームライン利用の研究者代表者の所属機関の内訳。


大型放射光施設SPring-8 大型放射光施設SPring-8


《用語解説》

※1 特定先端大型研究施設
 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成六年六月二十九日法律第七十八号)」に基づき、共用を促進し、科学技術の振興に寄与することを目的とされた施設をいう。対象施設には、現在、SPring-8および建設中のX線自由電子レーザー施設、次世代スーパーコンピュータがある。

※2 放射光
 放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。

※3 共用ビームライン
 理化学研究所が建設し、国内外の研究者が共同で利用できるビームライン(実験施設)。

※4 専用ビームライン
 外部機関が独自予算で建設し、専有して利用できるビームライン(実験施設)。


《参考》 SPring-8におけるこれまでの主要な研究成果

1.世界最強の高輝度放射光源を開発

【成果の概要】
 SPring-8は、挿入光源として高輝度放射光を発生できるアンジュレータを多数設置できるように設計された第3世代の大型放射光施設である。アンジュレータは、N極とS極が周期的に交替する磁石列をハーモニカのように上下に配置し、その間を通過する電子ビームを蛇行させることで高輝度の放射光を発生させる装置(光源)であり、加速器の偏向電磁石間の直線部分に設置される。通常のアンジュレータの装置長は4.5 mであるが、SPring-8の蓄積リングは、20 mを越える装置長をもつアンジュレータを4カ所設置できるように設計されている。装置長25 mの長尺型アンジュレータを開発し、その試運転に成功した。その結果、発生する放射光X線の輝度は、光子エネルギーが40 keVの場合、SPring-8の4.5 mアンジュレータよりも約3倍高く、SPring-8と同じ第三世代大型放射光施設で使用されている欧米の装置に比べても、一桁ほど高いことがわかった。

【今後の展望】
 本装置で得られる高度に干渉したX線は、各種イメージング手法に絶大な威力を発揮する。さらに、この開発過程で得られた光源技術は、次世代の放射光源といわれるオングストローム領域のX線自由電子レーザー(XFEL)の早期実現を促すものと期待される。

アンジュレータ

【関係機関】
 理化学研究所

2.G-タンパク質共役受容体ロドプシンの立体構造を解明

【成果の概要】
 細胞信号伝達系の中心的タンパク質であるG-タンパク質共役受容体(GPCR)は、種々のホルモン、神経伝達物質などの受容体として細胞の働きや運命を左右するスイッチとして働く。このため、 GPCRは、喘息に関与するヒスタミン受容体やエイズウィルス受容体などを含む巨大なタンパク質ファミリーを形成し、生物学のみならず、医学的にも極めて重要である。このファミリー受容体をターゲットにした喘息薬や向精神薬など多くの医薬品が開発され、現在も活発に開発が行なわれている。GPCRの一つであるロドプシンは、目の網膜にある7回膜貫通型の膜タンパク質であり、数個の光子で活性化されるほどの極めて鋭敏な分子スイッチとして機能している。今回、SPring-8の理研構造生物学IビームラインBL45XUの放射光を用いて、ウシ由来のロドプシンの立体構造を決定した。構造解析の結果、ロドプシンの視覚に関する様々な機能をその構造から明快に説明できるようになったばかりでなく、科学的にもまた応用上も極めて重要なGPCRファミリーの基本構造が明らかになった。

【今後の展望】
 本研究論文が、Scienceの査読者から「この分野の15年間の研究において最も重要な論文である」との評価を受けたこと、および、本論文の引用回数が2007年には2000回を超えたことからもわかるように、生命科学における本研究成果の反響は極めて大きかった。本研究成果は、喘息薬や向精神薬などの医薬品開発に大きな影響を与えるものと期待されている。

ウシ・ロドプシンの立体構造 ウシ・ロドプシンの立体構造

【関係機関】
 理化学研究所

【論文情報】
Science」に平成12年8月4日掲載
(Vol. 289, no. 5480, pp. 739 - 745, published 4 August 2000)
タイトル:"Crystal Structure of Rhodopsin: A G Protein-Coupled Receptor"

3.光ディスク材料の超高速構造変化過程を世界で初めてリアルタイム観測

【成果の概要】
 書き換え可能な相変化光ディスク(DVD-RAMやDVD-RW)は大容量のデジタル記録媒体として家電やOA機器で広く使われている。このディスクは、サブミクロンサイズに細く絞られたレーザーを照射することによって、結晶→液体→アモルファス(記録状態)→結晶(消去状態)の相変化のサイクルを繰り返す。相変化速度が20ナノ秒と短いため、その速度、特に消去速度を支配する因子は原子レベルではまだ解明されていない。今回、SPring-8で開発されたX線ピンポイント構造計測システムを用いたパルス放射光(約40ピコ秒)によるX線回折実験をSPring-8の高フラックスビームラインBL40XUで行い、DVD相変化記録媒体の代表的な材料であるGe2Sb2Te5とAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7について、2つの新しい発見をした:1)レーザーによる光記録とナノレベルでの物質の構造変化が同じ時間スケールで起こる、2)2つの材料で「相変化直後」の結晶成長プロセスに違いがある。

【今後の展望】
 本研究成果は、より高速の次世代相変化記録材料を探索・設計する上で重要な知見を与えると期待される。

Ge2Sb2Te5材料およびAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7材料の相変化モデル Ge2Sb2Te5材料およびAg3.5In3.8Sb75.0Te17.7材料の相変化モデル
(*)ブラッグピークの幅:X線回折強度スペクトルにおけるピークの幅

【関係機関】
 (財)高輝度光科学研究センター、(独)科学技術振興機構、(独)理化学研究所、
 松下電器産業(株)(平成20年3月現在)、筑波大学、東京大学

【論文情報】
Applied Physics Express」に平成20年3月21日掲載
Appl. Phys. Express 1 (2008) 045001 (3 pages))
タイトル:"Time-Resolved Investigation of Nanosecond Crystal Growth in Rapid-Phase-Change Materials: Correlation with the Recording Speed of Digital Versatile Disc Media"

4.ナノ細孔に吸着した水素分子の直接観測に成功

【成果の概要】
 化学的に合成された多孔性物質は、新しい水素貯蔵材料として注目されている。今回、ナノスケールの細孔(ナノ細孔)をもつ多孔性物質(多孔性配位高分子)を、金属イオンと有機分子を組み合わせて合成した。その多孔性配位高分子のナノ細孔に水素分子を吸着させ、SPring-8の粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2の放射光を用いて、吸着した水素分子の位置を直接観測することに成功した。電子が1個しかない水素の位置をX線を使って決定することは困難とされてきたが、SPring-8の高輝度X線と、情報理論に基づく新しい電子密度解析法が、それを可能にした。その結果、吸着した水素分子は出し入れが容易な形態で細孔の中にきれいに配列していることが判明した。本研究成果は、より優れた水素吸着能力をもつ配位高分子を設計するための指針を与え得るものである。

【今後の展望】
 今回用いた合成法により、様々な大きさ・形状のナノ細孔をもつ多孔性配位高分子を自在に設計することが可能である。今後、本研究により得られた設計指針に基づいた高性能水素貯蔵物質の開発が期待され、将来の水素エネルギー利用技術の発展に貢献できるものと考えられている。

【関係機関】
 大阪女子大学、(財)高輝度光科学研究センター、京都大学、名古屋大学、岡山大学

【論文情報】
Angewandte Chemie International Edition」に平成16年11月22日掲載
(Volume 44 Issue 6, Pages 920 - 923, Published Online: 22 Nov 2004)
タイトル:"Direct Observation of Hydrogen Molecules Adsorbed onto a Microporous Coordination Polymer"

5.地球深部(核・マントル境界)の構成鉱物を解明

【成果の概要】
 SPring-8の高圧構造物性ビームラインBL10XUの放射光と、高温高圧発生装置(レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置)を用い、地球深部の主要鉱物である輝石(MgSiO3)の構造が調べられた。その結果、地球深部の下部マントルと核の境界層(D”層)に相当する高温高圧条件下において、 MgSiO3は全く新しい構造(ポスト・ペロブスカイトと名付けられた)をとることが判明した。これまで、 D”層の鉱物は下部マントルと同じペロブスカイト構造をとるものと信じられてきたが、この研究結果により、ポスト・ペロブスカイト構造をとることが明らかとなった。ポスト・ペロブスカイト構造の発見は、高圧地球科学の分野では、 1974年の下部マントル構成鉱物解明以来の重要な成果といえる。

【今後の展望】
 D”層は地震学的不連続面となっているが、ポスト・ペロブスカイト構造が起因していると予想される。今後の解明が期待される。

【関係機関】
 東京工業大学、(独)海洋研究開発機構、(財)高輝度光科学研究センター

【論文情報】
Science」に平成16年4月8日掲載(Science 304 (5672), 855 - 858 (2004), published online on 8 April 2004)
タイトル:"Post-Perovskite Phase Transition in MgSiO3"


(問い合わせ先)
 SPring-8に関すること
 財団法人高輝度光科学研究センター
 広報室長 木村豊秋(きむらとよあき)
  TEL:0791-58-2785
  FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp

 理化学研究所に関すること
 独立行政法人理化学研究所
 広報室 報道担当
  TEL:048-467-9272
  FAX:048-462-4715

 利用制度、利用の状況に関すること
 財団法人高輝度光科学研究センター
 利用業務部長 牧田知子(まきたともこ)
  TEL:0791-58-0961
  FAX:0791-58-0965
  E-mail:sp8jasri@spring8.or.jp