大型放射光施設 SPring-8

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月起源隕石からシリカの超高圧相発見 ~27億年前に起きた月への小天体衝突の記録~(プレスリリース)

公開日
2013年04月24日
  • BL10XU(高圧構造物性)

2013年4月24日
東北大学理学研究科地学専攻

 東北大学理学研究科地学専攻の宮原正明助教と大谷栄治教授を中心とした研究グループは、(公財)高輝度光科学研究センター、広島大学、岡山理科大学との共同研究により、地球に落下した隕石から超高圧環境でのみ生成するシリカの超高圧相(ザイフェルタイト)を発見しました(図1)。この隕石は月から飛来したもので、27億年前に月に小天体が衝突した時にザイフェルタイトが生成しました。その際には40万気圧以上の超高圧環境が月表層で発生しました。月では38‐41億年前に無数の集中的な隕石衝突が起きていたことが予測されていますが、我々の発見はそうした激しい隕石衝突が月で27億年前頃まで続いていた可能性を示唆するものです。また、月の直ぐ隣に位置する地球にも同様の激しい隕石衝突が起き、進化しつつあった地球の原始生命圏に影響を与えた可能性もあります。
 本研究の成果は4月24日(日本時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」にてオンライン公開されます。

図1. ザイフェルタイトを含むシリカの電子顕微鏡写真。
図1. ザイフェルタイトを含むシリカの電子顕微鏡写真。

(論文)
題目:"Discovery of seifertite in a shocked lunar meteorite"
(衝撃を受けた月起源隕石からのザイファルタイト発見)
著者:M. MIYAHARA, S. KANEKO, E. OHTANI, T. SAKAI, T. NAGASE, M. KAYAMA, H. NISHIDO and N. HIRAO
雑誌:Nature Communications 4, (2013)

研究の背景
 月には無数のクレーターがあり、月の表層はレゴリスと呼ばれる破砕された岩石からなる層が厚く堆積しています。無数のクレーターと厚いレゴリス層の存在から、月でかつて激しい隕石衝突が起きていたことが想像できます。太陽系内には大小様々な無数の天体が存在しており、互いの軌道が交差すると衝突することがあります。太陽系ができた直後は現在より遥かに多数の小天体が太陽系内を漂い、衝突を繰り返していました。天体同士が衝突するとその際発生する衝撃波で非常に高い圧力が発生します。天体を構成する物質に高い圧力を加えると、より高密度な物質(高圧相)に変化します。すなわち、高圧相(※1)の存在は過去の天体衝突の記録と言えます。実際、太陽系形成時の名残である小天体から飛来する隕石には多数の高圧相が含まれています。しかし、月には激しい隕石衝突の痕跡があるにも関わらずこれまでほとんど高圧相は発見されていませんでした。

研究の内容
 我々は月に起源をもつ隕石の1つを入手しました。この隕石はNorthwest Africa(NWA)4734と呼ばれ、2006年にモロッコで回収された隕石です(図2)。NWA 4734は玄武岩と呼ばれる岩石で構成され、月の海から飛来したと考えられます。我々がNWA 4734を光学顕微鏡や電子顕微鏡で注意深く観察したところ、シリカ(SiO2)にシリカ高圧相特有の組織を見出しました。この組織はマイクロメートルスケールの超微細組織であったので、微細加工装置である集束イオンビーム加工装置(※2)でその一部を切り出し、強力な放射光を用いたX線回折実験を大型放射光施設(SPring-8)で行いました。その結果、このシリカ高圧相はα-PbO2型シリカ相(ザイフェルタイト(※3)であることが分かりました。ザイフェルタイトは1999年に火星から飛来した隕石から初めて発見されましたが、火星起源以外の隕石から発見されたのは初めてです。ザイフェルタイトはダイヤモンドアンビルセル(※4)と呼ばれる超高圧発生装置を用いて人工的に合成されており、ザイフェルタイトの合成には少なくとも40万気圧以上の超高圧条件が必要であることが分かっています。そのため、ザイフェルタイトを含む月起源隕石NWA 4734は少なくとも40万気圧以上の超高圧環境にさらされたことを意味しています。月の表層でこのような超高圧環境が発生するのは隕石衝突時以外にはあり得ません。NWA 4734の放射年代のデータから、この隕石衝突は27億年前に起きたことも分かりました。これまでの研究から月では38~41億年前に集中的な隕石衝突が起きていたことが予想され、これは後期隕石重爆撃期と呼ばれています。2年前に我々の研究グループは後期隕石重爆撃期を裏付ける高圧相の存在を初めて明らかにしました(※5)。これに引き続く今回の27億年前のザイフェルタイトの発見は、後期隕石重爆撃期の後も少なくとも27億年前まで月で激しい隕石衝突が続いていた可能性を示唆するものです。

図2. 月起源隕石NWA 4734の光学顕微鏡写真。
図2. 月起源隕石NWA 4734の光学顕微鏡写真。

今後の展開
 地球は月の直ぐ傍に位置しています。月で起きた隕石の重爆撃は地球でも起きていた可能性があります。27億年前頃には地球では原始生命圏が形成されつつありました。隕石の重爆撃は原始生命圏の進化にも影響を及ぼした可能性があります。地球にも隕石衝突の痕跡として多数のクレーターが確認されていますが、古い時代のものは既に消失しています。一方、月では月形成後(45億年前)から現在に至るまでの隕石衝突史がほぼ保存されていると考えられます。月に記録された隕石衝突史を研究することで、地球への隕石衝突史も明らかにすることが出来ると期待されます。


《用語解説》
※1 高圧相

化学組成は同じだがより高密度な物質。 例えば、ダイヤモンドと石墨は共に炭素から構成されるが、ダイヤモンドは石墨よりも高密度な物質である。従って、ダイヤモンドは石墨の高圧相である。

※2 集束イオンビーム加工装置
ガリウムイオンビームを走査して試料表面を100万分の1m以下のスケールで微細加工を行う装置。「はやぶさ」が回収した「イトカワ」の試料の分析にも用いられた。

※3 ザイフェルタイト
1999年にα-PbO2型構造を持つシリカ相として火星起源隕石から発見され、2004年に国際鉱物学連合により新鉱物として承認された。その名前はドイツの著名な鉱物学者、Friedrich A.Seifertにちなんで名付けられた。

※4 ダイヤモンドアンビルセル
一対のダイヤモンドを対向させ、両側から力を加えることにより超高圧を発生させる装置。地球の中心部に相当する超高圧状態(364万気圧)すら発生させることが出来る。

※5
大谷他、米国科学アカデミー紀要版, 108, 463-466, 2011で月起源隕石(Asuka 881757)からシリカの高圧相、コーザイトとスティショバイトを発見したことを報告した。



《問い合わせ先》
 東北大学理学研究科地学専攻
  助教(グローバル安全学トップリーダー育成プログラム)
   宮原 正明(Masaaki Miyahara)
    〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
    TEL:022-795-6687
    E-mail:mail1

 東北大学理学研究科地学専攻
  教授
   大谷 栄治(Eiji Ohtani)
    〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
    TEL:022-795-6662
    E-mail:mail2

(SPring-8に関すること)
 公益財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
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