大型放射光施設 SPring-8

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放射光施設SPring-8で鉄触媒の作用を直接観察 (プレスリリース)

公開日
2015年03月16日
  • BL14B2(産業利用II)

2015年3月10日
国立大学法人京都大学

   京都大学の高谷光准教授,中村正治教授らは,JST戦略的創造研究推進事業(CREST)において,大型放射光施設SPring-8注1)BL14B2を利用して鉄触媒を用いるクロスカップリング反応注2)の様子を反応溶液中で直接観察することに成功し,これまで45年間反応機構が未解明であった鉄クロスカップリング反応について直接証拠に基づいた新しい機構の提唱を行いました。
   安価で入手容易な鉄を触媒して用いる鉄クロスカップリング反応は従来の貴金属触媒によるクロスカップリング反応に代わる次世代の基盤化学技術として期待されています。しかし,鉄を触媒とする反応では,その常磁性のためにNMR注3)等の一般的な分析手段を用いて触媒反応の様子を調べることができませんでした。そのため触媒機能の向上や反応効率の改善のために,鉄の触媒作用を直接観察できる新しい手法の開発が望まれていました。    本研究グループは,大型放射光施設SPring-8の強力なX線を利用したX線吸収分光(XAFS)注4)を用いて,クロスカップリング反応中で鉄触媒のはたらきや構造を直接観察することに成功し,45年以上議論の続いている鉄触媒クロスカップリング反応の機構を明らかにしました。
   本研究の成果は,鉄触媒を用いる有機合成反応のさらなる発展と深化に必須の分析手段であるだけでなく,常磁性のために触媒作用の解明が遅れているCr, Mn, Co, Cu等の元素戦略上重要な他のベースメタル触媒の研究においても画期的な分析手段になり得るものです。
   本研究は,九州大学の永島英夫教授,砂田裕輔助教,SPring-8の本間徹生博士,高垣昌史博士,広島大学の高橋修准教授,理研の橋爪大輔博士らと共同で行ったものです。
   また,本研究成果は2015年3月15日(日本標準時)発行の日本化学会欧文誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」の論文賞であるBCSJ賞を受賞し,本紙およびオンライン版に掲載,公開されます。

   本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
      戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
      研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
      (研究総括:玉尾 皓平 理研 グリーン未来物質創成研究領域領域長)
      研究課題名:「有機合成用鉄触媒の高機能化」
      研究代表者:(永島 英夫 九州大学 教授)
      研究期間:平成24年10月~平成29年3月

論文情報:
雑誌名:Bulletin of the Chemical Society of Japan
研究論文名:"Investigation of Organoiron Catalysis in Kumada–Tamao–Corriu-Type Cross-Coupling Reaction Assisted by Solution-Phase X-ray Absorption Spectroscopy" (放射光X線吸収分光を用いる鉄触媒クロスカップリングの機構研究)
DOI 番号: 10.1246/bcsj.20140376

研究の背景と経緯
   現行の有機工業化学,自動車排ガス処理,燃料電池では主として貴金属元素Pd, Pt, Rh, Ru等が触媒として利用されていますが,これらの貴金属は地殻含有量が極端に小さい高価な元素であり,地域遍在性が高いため,政治的な要因によって供給困難,価格高騰等の問題が頻繁に生じるハイリスクな元素となっています。日本産業が持続的かつ安定して成長発展するためには,経済的,地政学的なリスクの低いFe, Mg, Al, Si等の普遍元素を用いて高活性,高選択的な新型触媒の開発が求められており,これらの元素の有効活用が触媒元素戦略の主たる研究課題とされています。
   京都大学化学研究所の中村研究室を中心とした研究グループでは,普遍元素による貴金属代替触媒システムの開発に注力した研究を行い,Fe触媒とMg反応剤(グリニャール(Grignard)反応剤注5))から発生する有機Fe活性種を利用したクロスカップリング反応の開発に成功しています。クロスカップリング反応は医薬品合成,液晶や有機EL等の電子材料の合成に必須の炭素-炭素結合形成反応として最も重要な有機合成反応の一つとなっていますが,従来まではPdが触媒として用いられてきました。貴金属であるPdの触媒利用はコスト面に加えて,最終製品からの金属残渣の除去が難しいという問題があります。貴金属であるPdはイオン化しにくく有機物質に対して高い親和性を示すため,最終製品からPd残渣を完全に取り除くことが極めて困難です。このことは医薬品では毒性,電子材料では電流リークによる耐久性の低下という大きな問題の原因となっています。一方,Feは生体必須元素であり,ほとんどの場合で毒性を考慮する必要がありません。また,イオン化傾向が高く,酸化しやすい性質から,酸性あるいは塩基性水溶液で洗浄することによって金属残留分を極少量まで簡単に除去できるという実用上優れた特徴があります。そのため,現在ではFeクロスカップリング反応は,多くの企業で医薬品,電子材料の製造に利用される反応として,最も重要な反応となっています。しかしながら,Fe触媒はPd, Pt, Ru, Rh等の貴金属触媒と異なり常磁性を示すものが多く,そのため反応溶液中で実際に作用している触媒の分子構造を溶液NMRで観察,構造決定を行うことが極めて難しいという欠点があります。そのため,1971年にKochiらによって初めてのFeクロスカップリングが報告されたにもかかわらず,触媒の作用機序や精密な機構研究ができないために研究が進展せず,2000年代に中村教授らが実用的なFeクロスカップリングを発見するまで,ほとんど研究例がありませんでした。この様な状況で,我々はより高活性で高選択的なFe触媒を開発するためには,触媒作用を解明すること,そのためには反応溶液中におけるFe触媒の分子構造や価数を直接観察できる手法が必要だと考えました。そこで,我々は反応溶液中の鉄触媒分子を直接観察できる手法としてSPring-8の強力な放射光を利用したX線吸収分光(XAFS)に着目しました。XAFS法は常磁性に影響されることなく,対象とする触媒金属分子の価数や構造を精密に決定することが可能な分析手法ですが,均一な有機溶液中の分子種についての研究例はほとんど知られていませんでした。我々は溶液XAFS用に開発した独自の溶液セルを用いて,反応溶液中のFe触媒のXAFS測定を行いました。その結果,実際に作用している鉄触媒の価数や構造の直接決定することに成功し,45年間も議論が続いているFeクロスカップリング反応の精密な反応機構の提唱に至りました。

研究の内容
   京大中村研究室では「普遍金属元素」であるFe触媒とMg反応剤(Grignard反応剤)を用いる実用的なクロスカップリング反応の開発に世界に先駆けて成功し,FeCl2やFeBr2等の極めて安価な鉄塩と嵩高い置換基を有する新規なリン化合物(配位子)SciOPPから調整されるFe錯体FeX2(SciOPP) (X = Cl or Br 1)が,高効率なクロスカップリング触媒(図1)となることを見出しています。触媒1は,従来から同反応に用いられているPd触媒では困難な分岐型のハロゲン化炭化水素からのカップリング反応が可能である等の優れた特徴を示し,医薬・電子材料分野で実用化のための応用研究が行われています。また,上記SciOPP配位子はクロスカップリング触媒への高い汎用性と活性を示すことから,2011年に和光純薬工業より市販試薬として上梓されました。
   触媒1は常磁性を示し,溶液1H NMRスペクトルでは全てのピークが一般的な値から大きくシフト,広幅化してしまうために溶液中での分子構造の決定は予想通り不可能でした。そこで,SPring-8のビームラインBL14B2を用いたX線吸収分光(XAFS: X-ray Absorption Fine Structure)によって反応溶液中における触媒1の価数や構造の変化について詳しく調べました。まず,触媒1にマグネシウム反応剤MesMgBrを1等量および2等量を加えた際に,XAFSスペクトルがどう変化するかを丁寧に調べたところ,XANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)と呼ばれる吸収スペクトルの開始端XANESが図2に示す様な変化を示すことがわかりました。XANESスペクトルでは観察しているFe中心の価数がプラス方向に大きいほどFe核に電子が強く引きつけられているために,吸収端がエネルギーのより大きいプラス方向にシフトします。この図では加えたマグネシウム反応剤の量によらず,緑,赤,青線で示すスペクトルの吸収端の位置が最初に加えたプラス2価の触媒1とほぼ同じ概ね7115 eV付近にあること,リファレンスとして測定した0価のFe箔と3価のFeCl3の間にあることから,Fe中心の価数が2価状態を保っている事が解りました。この実験事実は,従来からFeクロスカップリング反応で提唱されてきた0価あるいは-2価等の低原子価の触媒活性種の存在を否定する結果として重要であると考えています。さらに詳細にXANESスペクトルを見ると,マグネシウム反応剤を1等量添加した時の赤線のXANESスペクトルでは,7109 eVにpre-edgeと呼ばれる小さなピークが観察されました。これらは正四面体構造の錯体の電子遷移(1s-3d遷移)に由来する特徴的なピークであることが理論的に証明されており,このことから生成するブロモアリール鉄中間体FeBrMes(SciOPP) 2が正四面体構造であることが強く示唆されます。また,マグネシウム反応剤2等量添加時の青線のXANESスペクトルでは7112.5 eVに比較的強度の強いpre-edgeピークがスペクトルの肩として観察されました。これは平面四角形構造において理論的に生じうる1s-4pz遷移に由来する吸収であり,このことから生成するジアリール鉄中間体FeMes2(SciOPP) 3は平面四角形構造であると決定しました。    九州大学の永島教授,砂田助教らとの共同研究において,上述の反応で生成する触媒中間体2および3を単離,結晶化して単結晶X線構造解析を行ったところ,図3に示す様にXANESスペクトルから決定されたとおり,FeBrMes(SciOPP) 2が正四面体構造であり,FeMes2(SciOPP) 3は平面四角形構造であることが確かに確認され,有機溶媒に溶解した常磁性Fe錯体の幾何構造をXAFS分析によって決定できることが裏付けられた。    XAFSスペクトルではEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)と呼ばれる吸収端のさらに高エネルギー側に見られる振動構造を解析する事で,対象元素に結合した各原子との距離情報を知ることが可能となる(局所構造解析).そこで,我々は得られた触媒中間体2および3のFeに結合した原子(配位子)の距離や角度をもとめるために,それぞれのEXAFSスペクトルの詳しい分析を行いました。EXAFS解析には分子構造から理論的にEXAFSスペクトルを計算するプログラムを用いて,実測のスペクトルに合う様な分子構造を見つけだすフィッティングシミュレーションを行います。本研究では図3の単結晶X線構造解析から得られた分子構造の座標を初期値として,フィッティングを行ったところ,図4に示す様に溶液構造と単結晶X線構造が非常に小さい誤差で一致し,触媒中間体2および3がそれぞれ溶液中でも結晶中と同じ,正四面体構造と平面四角形構造をとっていることが明らかになりました。    以上の様に,XAFSスペクトルのXANESとEXAFS領域を解析することで,有機溶媒に溶解したFe触媒の分子構造について非常に正確な情報が得られることがわかりましたので,続いて実際に触媒中間体2および3をクロスカップリング反応を起こすハロゲン化炭化水素である1-ブロモデカンと反応させ,反応溶液のXAFS測定とガスクロマトグラフィーによる生成物分析によって,Feに結合したMes基の反応の様子を詳しく調べました。その結果,図5に示す様に触媒中間体FeMes2(SciOPP) 3と1-ブロモデカンからはクロスカップリング生成物が生成し(77%収率),半の溶液中には二つあるMes基の一つがBr基に置き換わったFeBrMes(SciOPP) 2が約80%生成し,未反応のFeMes2(SciOPP) 3が20%程度残っていることが明らかになりました。一方で触媒中間体FeBrMes(SciOPP) 2と1-ブロモデカンを反応させた時にはクロスカップリングはほとんど進行せず,反応溶液のXANEおよびEXAFSスペクトルからは未反応の2のみが存在していることが示されました。この結果は,触媒1を用いるクロスカップリング反応では触媒中間体FeMes2(SciOPP) 3が触媒活性種であるということを示しています。実際に,我々は触媒量のFeMes2(SciOPP) 3の存在下に1-ブロモデカンとマグネシウム反応剤PhMgBrのクロスカップリング反応を行い,実際の触媒反応条件において3が触媒的に作用し,対応するクロスカップリング生成物を与えることを確認しました。    以上の様に我々はSPring-8の放射光を利用したXAFS分析によって,常磁性のためにNMRによって分子構造を調べることが難しいFe錯体の触媒作用の詳細を明らかにすることに成功しました。これによってKochiらの最初のFeクロスカップリング反応の発見から45年間論争の続いていたFeクロスカップリング反応の機構に,溶液中分子構造の直接観察に基づく一つの明確な解答を提示することができたと考えています。

今後の展開
   今回我々がBCSJ賞の受賞となった研究によってFe触媒1によるクロスカップリング反応の触媒機構は図6の様であると考えられます。触媒中間体2および3を同定,単離して行ったXAFS分析やクロスカップリング反応性の確認実験によって,触媒サイクルが分子レベルで解明され,鉄触媒研究におけるXAFS法の有用性が示されました。最近では,XAFS法を用いることによって本クロスカップリングと同様に我々の研究室で発見されたFe触媒によるホウ素反応剤や亜鉛反応剤を用いた別のタイプのクロスカップリング反応の触媒種の同定と構造解析に成功し,本手法が鉄触媒研究一般に利用できる優れた手法であることを確認しています。
   また,最近,我々は密度汎関数法による量子計算化学によって触媒中間体3がハロゲン化炭化水素と反応してクロスカップリング生成物を与える途上に,非常に反応性の高いラジカル性の中間体が存在するという計算結果を得ています。このラジカル中間体の存在がFe触媒独自の反応性の起源となっていて,Pd触媒には見られない反応性や選択性を生み出す重要な鍵中間体であると考えています。SPring-8では,100ナノ秒~100ミリ秒という非常に短いパルス状のX線を照射して,非常に早い分子の動きをストップモーションの様にして見ることができます。現在,我々はこのラジカル中間体の反応の様子をパルスX線を用いた時分割XAFSという手法で観察し,分子構造決定する研究を開始しています。これによって,Feクロスカップリングの触媒サイクルで未知のままとなっている最後のピースが見つかるだけでなく,例えば不斉クロスカップリング反応の様に医薬中間体で重要な光学活性体を合成する,新しいタイプのFeクロスカップリング反応の開発につながると考えています。
   また,冒頭で説明したようにXAFS法は常磁性の影響を受けませんので,常磁性のために反応機構解明が遅れているCr, Mn, Co, Cu等の常磁性金属の触媒作用の研究に弾みがつくと考えています。実際に我々の研究室ではシンガポール南洋大学の吉戒博士と共同でCoを触媒に用いるC-H活性化反応の活性種の一つをXAFS法によって同定することに成功し,本法が広く常磁性均一系触媒研究にとって極めて有効な手法となることを確認しています。


《参考図》

図1 中村鉄クロスカップリング反応とFeCl2(SciOPP) 1 触媒の結晶中分子構造
図1.中村鉄クロスカップリング反応とFeCl2(SciOPP) 1 触媒の結晶中分子構造


図2 FeBr2(SciOPP) 1 触媒とマグネシウム反応剤MesMgBrとの反応から生じる触媒中間体のXAFS分析
図2 FeBr2(SciOPP) 1 触媒とマグネシウム反応剤MesMgBrとの反応から生じる触媒中間体のXAFS分析


図3 単結晶X線構造解析によって決定した触媒中間体FeBrMes(SciOPP) 2およびFeMes2(SciOPP) 3の分子構造
図3.単結晶X線構造解析によって決定した触媒中間体FeBrMes(SciOPP) 2およびFeMes2(SciOPP) 3の分子構造


図4.触媒中間体FeBrMes(SciOPP) 2およびFeMes2(SciOPP) 3のTHF溶液のEXAFSスペクトルとX線原子座標を使ったフィッティングシミュレーションの結果
図4.触媒中間体FeBrMes(SciOPP) 2およびFeMes2(SciOPP) 3のTHF溶液のEXAFSスペクトルとX線原子座標を使ったフィッティングシミュレーションの結果


図5.触媒中間体FeMes2(SciOPP) 3と1-ブロモデカンのクロスカップリングの様子と,その反応溶液のXANESおよびEXAFSスペクトル
図5.触媒中間体FeMes2(SciOPP) 3と1-ブロモデカンのクロスカップリングの様子と,その反応溶液のXANESおよびEXAFSスペクトル


図6.FeX2(SciOPP)によるクロスカップリング反応機構
図6.FeX2(SciOPP)によるクロスカップリング反応機構


《用語説明》

注1) SPring-8
兵庫県佐用町にある大型放射光施設。加速器や蓄積リングで発生させた強力な放射光(X線)を用いて,様々な物質を原子,分子レベルで分析することができる。

注2) クロスカップリング反応
d等の適当な触媒の存在下に,炭素アニオン性の反応剤R-M(Rは適当な有機分子)とハロゲン化芳香族分子Ar-Xを反応させ,R-Arを得る炭素-炭素結合形成反応。有機分子の炭素骨格を拡張・展伸したり,芳香族分子に様々な官能基を導入することによって機能付与を行う事ができるため,医薬品,電子材料(液晶,有機ELなど)の分野で最も重要な有機合成反応の一つである。

注3) NMR
物質に電磁場を照射して,励起した核磁気モーメントを測定することで観測対象とする元素の周囲の構造情報を得ることができる分光法。水素1H, 炭素13C,リン31P等の原子量が比較的小さい軽元素の分析に優れる。遷移金属の様な重元素では緩和時間の短さや感度の低さのためにスペクトルが広幅化し構造解析が困難なだけでなく,測定に数日~1週間かかる場合がある。特に常磁性核種では一般に精密な構造解析は不可能である。

注4) X線吸収分光(XAFS法)
内核分光法の一種で,対象分子に強力なX線を照射することによって内核電子を励起させ,光電子として分子の外に弾き出した際に吸収されるエネルギーをX線波長に対してプロットした吸収スペクトル。XAFS法は強力な放射線を利用するため,実際の触媒反応と同等の高濃度条件での測定が可能となっています。また,UV-visスペクトルの様に最外殻電子ではなく,内核に強く束縛された電子を対象としているため,元素種に固有の内核エネルギーに依存したスペクトルを与える元素選択的な分光法であることが特徴となっています。例えば触媒1の関与する分子種では,Feのみ,Brのみ,Pのみといった元素別のスペクトル測定が可能となっています。そのため,対象分子内の各元素について,存在の有無や,電子状態,価数,結合情報を個別に知ることができます。XAFSスペクトルは2領域に分けて分析されることが一般的であり,吸収スペクトルの開始端附近であるXANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)と呼ばれるスペクトルでは,開始端のエネルギー値や形状によって対象元素の価数や配位構造(軌道対称性)の情報を得ることができます。また,XANES吸収端のさらに高エネルギー側に見られる振動構造EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)と呼ばれる領域では,振動構造を解析する事で,対象元素に結合した各原子との距離情報を知ることが可能であり,観測対象元素を中心とした局所構造の精密決定が可能となります。

注5) グリニャール(Grignard)反応剤
金属マグネシウムMgとハロゲン化炭化水素R―Xを混合反応させることによって得られ,RMgXの組成式で表される有機金属反応剤の一種。マグネシウムに結合した炭化水素基Rは電子豊富なアニオンと呼ばれる状態になっており,極めて反応性に富んだ状態になっているためR基を他の有機分子や有機金属分子に移動させて,炭素を含む新しい結合を生成するのに用いられる。



《問い合わせ先》
(本研究全般に関すること)
京都大学化学研究所
准教授  高谷 光(タカヤ ヒカル)
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄 京都大学化学研究所
TEL:0774-38-3182 FAX:0774-38-3186
E-mail:mail1

京都大学化学研究所
教授 中村 正治(ナカムラ マサハル)
TEL:0774-38-31820 FAX:0774-38-3186
E-mail:mail2

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp