大型放射光施設 SPring-8

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X線自由電子レーザーによる非結晶試料からの高効率回折データ収集装置を実用化(プレスリリース)

公開日
2016年05月18日
  • SACLA

2016年5月18日
慶應義塾大学
国立研究開発法人 理化学研究所
株式会社 理学相原精機

慶應義塾大学理工学部物理学科の中迫雅由教授らの共同研究グループは、コヒーレントX線回折イメージング法をサブミクロンサイズの非結晶粒子に適用して数十ナノメートルの分解能でイメージングするための実験方式を検討してきました。今回、X線自由電子レーザー施設で供給される30 HzのX線パルスをもれなく試料に照射し、短時間に膨大量の回折パターンの収集ができる装置の実用化に成功しました。

本研究成果のポイント
• SACLAでのコヒーレントX線回折イメージング実験において、30 Hzで供給されるX線パルスを用いて高効率に実験データを収集できる装置を実用化

 慶應義塾大学理工学部物理学科の中迫雅由教授らの共同研究グループは、2012年より国家基幹技術であるX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAにおいて、非結晶粒子の構造を非侵襲で可視化するコヒーレントX線回折イメージング(Coherent X-ray Diffraction Imaging: CXDI)法を低温下で遂行するための実験装置を開発してきました。これまで培ってきた経験に基づいて、いかに効率よく実験データを計測できるか議論し、照準を合わせて試料にX線を照射するための装置、低温試料固定照射装置「高砂六号」を実用化しました。これは、生命科学・材料科学分野で見出されている非結晶粒子の高分解能構造解析を推進する上で要となる技術革新になります。本研究成果は、慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻物理学専修・博士課程2年の小林あまね君、理化学研究所放射光科学総合研究センター利用システム開発研究部門ビームライン基盤研究部の山本雅貴部長と株式会社理学相原精機技術部設計課の鳥塚康史主任らによるもので、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略課題の支援を受けて実施されました。研究成果の詳細は、米国の科学誌『Review of Scientific instruments』に5月16日にオンライン掲載されました。

背景
 SACLAでのCXDI実験では、短波長の可干渉X線パルスをサブマイクロメートルの非結晶試料に照射して得られる回折強度パターンを解析することで、数十ナノメートル分解能で試料の投影電子密度像を可視化します。SACLAで得られるX線パルスは非常に強度が大きく、1ショットの露光時間(10フェムト秒以下(1フェムト秒は1000兆分の1秒)で信号対雑音比の良好な回折強度パターンを1枚取得できます。しかし、あまりにも強度が大きいために露光後に試料は跡形もなく破壊されてしまいます。当研究グループでは、試料粒子が多数散布された薄膜を2次元で並進走査することで新鮮な試料に次々とX線パルスを照射し、X線回折イメージを取得する実験方式を採用してきました。この実験方式であれば、薄膜への粒子散布状況にもよりますが、20%-80%の高確率でX線パルスを試料にヒットさせ、極めて良質な回折パターンを1%程度の歩留まりで得ることができます。しかし、これまでの装置では照射位置の並進に0.5-1秒の時間を要していたために、1秒あたりに利用できるX線パルスも最大2ショットであり、SACLAから30 Hzで供給されるX線パルスを最大限活用できない状況にありました。

研究手法と成果
 慶應義塾大学理工学部物理学科の中迫研究室および理化学研究所放射光科学総合研究センターは、回折強度パターン収集効率を向上させるため、より高性能な低温試料固定照射装置「高砂六号」を開発しました(図1上)。実験では、予め凍結し薄膜上に固定しておいた試料粒子を専用の治具を用いて真空槽内部へ搬送します(図1中)。搬送先の試料台は液体窒素で冷却され、試料を低温に保ったまま回折実験を行うことができます。「高砂六号」は、この試料台直下に高速並進・高速応答に優れた並進ステージを搭載することで、SACLAから供給される30 HzのX線パルスをもれなく試料に照射することが可能になりました。さらに、9枚もの薄膜を12セット一度に真空槽内へ搬送できるようになったため、薄膜を交換する頻度が劇的に少なくなりました。その結果、およそ70時間のビームタイム一回で約200万枚もの回折強度パターンを計測することができました(図1下)。これは、従来の45倍の計測効率に相当します。

今後の期待
 当研究グループでは、主に細胞や細胞内小器官に焦点を当てて構造解析を進めてきました。これまでは回折強度パターンから回復された二次元投影電子密度像より生命活動を営む上で重要な物質分布について考察を重ねてきました。しかし、膨大量の回折強度パターンが取得できるようになった今日、二次元像を再構成して三次元電子密度分布を見ることができるようになりつつあり、これまで以上に有意義な議論が展開できると期待されています。


図1 高砂六号によるCXDI実験
図1 高砂六号によるCXDI実験

(上) 実験風景
(中) X線パルスに合わせて薄膜を並進させ、回折強度パターンを取得する
(下) 測定時間と処理したX線パルスショット数




【研究内容についてのお問い合わせ先】
慶應義塾大学 理工学部 物理学科
教授 中迫 雅由(なかさこまさよし)
 TEL:045-566-1713
 FAX:045-566-1672
 E-mail:nakasakoatphys.keio.ac.jp

慶應義塾広報室(竹内)
 TEL:03-5427-1541
 FAX:03-5441-7640
 Email:m-kohoatadst.keio.ac.jp
 http://www.keio.ac.jp/

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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