大型放射光施設 SPring-8

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稍深発地震の発生メカニズムを高温高圧下での地震発生モデル実験により解明(プレスリリース)

公開日
2017年08月29日
  • BL04B1(高温高圧)

2017年8月29日
国立大学法人 愛媛大学
公益財団法人 高輝度光科学研究センター

【成果のポイント】
・ 変形エネルギーがプレートの岩石の一部分に局所集中することによって起きる岩石溶融が稍深発地震の原因であることを実験的に解明。
・ 独自の『高圧力環境下のアコースティック・エミッション』測定技術を活用。
・ 稍深発地震の発生過程の解明を目指した基礎科学(高圧地球科学)のモデルケース。

 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の大内智博講師、入舩徹男教授(東京工業大学地球生命研究所(※1)兼務)と高輝度光科学研究センター(JASRI)の肥後祐司研究員らの研究チームは、稍深発地震(※2)は変形エネルギーが局所集中することによって起きるプレート岩石の溶融が原因であることを明らかにしました。
 私達が住む地表のプレート(厚さ約60キロメートル)(※3)は、ゆっくりと流動するマントル(※4)に浮かんでおり、プレートはマントルの流れと共に移動します。日本列島のようにプレート同士が衝突するプレートの境界部では、プレートに強い力が働くために断層が形成され、その急激なすべり運動により地震が発生します。
 一方、稍深発地震は50~300 kmのプレート内部で『地震の巣』を形成していますが、その発生メカニズムは、上記のように地表付近で起きるような一般的な断層のすべり現象では説明ができないことが知られており、地球深部に存在する可能性のある微量の水(地球深部水(※5)によって誘発された断層すべりが原因であろうとする仮説が支持されてきました。しかしその仮説では、地球深部水が存在しないと考えられる場所でも稍深発地震が起きている事実を説明できない問題点がありました。
 研究グループは大型放射光施設SPring-8(※6)にて、稍深発地震が起こる深さに対応する温度圧力条件下でプレートの岩石を変形させ、岩石中でのミニ人工地震発生の際に発生する超音波(アコースティック・エミッション:地震波に相当)を測定するとともに、得られた試料の電子顕微鏡による微細組織の観察を行いました。この結果、プレートの岩石の一部分に『変形のエネルギー』が局所的に集中することで、部分的に岩石が溶融し、その結果岩石の強度が低下して断層ができ、地震の発生に至るということを明らかにしました。本研究の結果は、プレート内部にて発生する稍深発地震の発生原因を統一的に説明可能であるため、基礎科学的に重要な成果です。

【掲載論文】
題名:Intermediate-depth earthquakes linked to localized heating in dunite and harzburgite
邦訳:ダナイト及びハルツバーガイト中の局所加熱によっておきる稍深発地震
著者:大内智博(愛媛大学GRC)、雷興林(産業技術総合研究所)、肥後祐司、丹下慶範(高輝度光科学研究センター利用研究促進部門)、境毅、藤野清志、入舩徹男(愛媛大学GRC)
掲載誌Nature Geoscience(Nature Publishing Group発行)
doi10.1038/ngeo3011
電子版発行日: 2017年8月29日

【研究の背景】
 私達が住む地表のプレート(厚さ約60キロメートル)はゆっくりと流れるマントルに浮いているため、マントルの流れと一緒にプレートも移動します。プレート同士が衝突したり、プレートが地下深くへ沈み込む過程で地震が発生します。地震は、その震源位置の深さや場所によって分類されます。地表付近(地下10~40 km)で起きる『浅い地震』はプレートの境目や陸の直下で度々起きるため、津波を伴う地震や直下型地震を引き起こし、時にはマグニチュード8に達することもあるため大きな被害をもたらします。一方、稍深発地震は深さ50~300 kmのプレート内部で頻発する地震であり(『浅い地震』に次ぐ頻度で発生)、時にはマグニチュード7クラスの大きな稍深発地震も発生します。地表付近で起きる浅い地震の発生原因は既存の断層がすべることですが、深さ50 km以深では圧力が高いために断層すべりは阻害されてしまいます。そのため、稍深発地震の発生原因は単なる断層すべりでは説明がつきません。地球深部水が深部での断層すべりを誘発しているのではないか、とする仮説が稍深発地震を説明する上で支持されてきました。しかしこの仮説には、地球深部水が存在しない場所でも稍深発地震が起きている事実を説明できない問題点があることも知られていました。
 近年、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL04B1設置のD-DIA型変形装置(※7)に代表される、放射光を用いた高温高圧下での変形実験の技術が進歩してきました。稍深発地震が発生する深度の温度圧力条件を再現し、プレートの岩石(※8)(主にカンラン石及び斜方輝石から構成されるカンラン岩)を押しつぶすことで変形やミニ人工地震発生の特性を評価することも可能となってきました。実験中に岩石試料の破壊や断層形成が起きたことを証明するには、ミニ人工地震に特有の『アコースティック・エミッション』という音波を高温高圧の環境下にて検出する技術(図1)が必要不可欠です。しかし『アコースティック・エミッション』測定技術と放射光実験を組み合わせるには非常に高度な技術が要求されます。これまで、その技術の実用化に成功しているのは世界中でも1グループ(フランス・米国の国際共同研究グループ)に限られていました。

【研究の成果】
 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の大内智博講師、入舩徹男教授(東京工業大学地球生命研究所兼務)と、高輝度光科学研究センターの肥後祐司研究員らの研究グループは、稍深発地震が特に多発する深さ50~100キロメートルのプレート内部に相当する温度圧力条件下(600-900℃、1.5-3万気圧)でカンラン岩(※8)の変形実験を大型放射光施設SPring-8にて行いました。この実験では、愛媛大GRCと産業技術総合研究所の共同研究グループが独自に開発した『アコースティック・エミッション』測定技術を用いたほか、その結果、カンラン岩が比較的速い変形をする際に限り、変形のエネルギーが岩石の脆弱層(微細鉱物粒子からなる)に局所集中し、瞬間的にその部分が1840℃もの非常に高い温度に達することで岩石が溶融し(図2)、それに伴う岩石強度低下の結果として断層形成に至る(図3)ことが明らかとなりました。
 実際、理論的にはこのような現象が予測されていたほか、天然の岩石にはシュードタキライトという、地震の際に岩石が溶融した痕跡も多く見つかっています。これらの先行研究との一致は、変形エネルギーが一部に集中して岩石が溶融することで稍深発地震が発生するとする本研究の正当性を裏付けており、本研究の発見がプレート内における稍深発地震の発生を統一的に説明できる新たなモデルとなることを意味します。

【今後の展望】
 本研究の結果は、稍深発地震はプレート岩石が変形する際に起きる岩石の溶融が原因となっている現象であり、既存の断層がすべる過程で起きるわけではないことを示しています。また、地球深部水の存在は稍深発地震にとって必須の要件ではないことも示しています。今後は多くの実験を積み重ねていくことによって、稍深発地震発生の過程のより詳細を明らかにしていくとともに、どのような条件で地震が誘発されるのかを解明することを目指していきます。また、地震の中には300 kmよりも更に深い、700 km程度までの深さでおきる地震(深発地震(※9))もあり、その発生原因は稍深発地震以上に多くの謎に包まれています。本研究グループは深さ300 kmよりも深い地球深部の温度圧力条件の再現を得意としており、その技術力は世界最高水準に達しています。今回用いた実験技術(アコースティック・エミッション測定技術や放射光実験技術)は今後も更なる技術の進歩が見込まれますので、本研究グループの手法を拡張することで深発地震の発生メカニズムの謎も将来的には解明することができるかもしれません。

図1.D-DIA型変形装置(左)と高圧力下でのアコースティック・エミッション検出技術の概要(右)。
図1.D-DIA型変形装置(左)と高圧力下でのアコースティック・エミッション検出技術の概要(右)。

D-DIA型変形装置では、超硬合金製の高圧発生用アンビルを上下左右の6方向に配置し、その中心に配置した立方体の高圧力発生容器(ピンク)内のプレート岩石試料に高圧力を加える。プレート岩石の破壊及び断層形成の際に発生する特徴的な音波である『アコースティック・エミッション』を高圧発生用アンビルの背面に張り付けた計6個のセンサーで検出する。


図2.プレート岩石変形実験の際に、変形のエネルギーが岩石の脆弱層に局所集中することで1840℃もの非常に高い温度に達して岩石が溶融したことを示す証拠。
図2.プレート岩石変形実験の際に、変形のエネルギーが岩石の脆弱層に局所集中することで
1840℃もの非常に高い温度に達して岩石が溶融したことを示す証拠。

カンラン石(ピンク色:マグネシウム成分に富む)が溶融した際に生じる溶融ガラス(緑色:鉄成分に富む)が見られる。


図3. 今回解明された、稍深発地震を引き起こす断層の形成メカニズム。
図3.今回解明された、稍深発地震を引き起こす断層の形成メカニズム。

プレート岩石に脆弱層(微細鉱物粒子からなる)が存在すると、脆弱層に変形エネルギーが集中することがある。その場合には局所的かつ瞬間的に1840℃に達する高温が発生し、岩石の溶融を引き起こす。その結果プレート岩石の強度は大幅に低下し、断層形成及び稍深発地震発生に至る。


【備考】
なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号: 25707040、16H04077、25220712)、SPring-8パートナーユーザー課題(課題番号: 2015A0075)の一環として実施したものです。


【用語の説明】
(※1) 地球生命研究所
東京工業大学の廣瀬敬教授をリーダーとして採択された、地球・生命科学分野のWPI(世界トップレベル研究拠点)プログラムに基づき2012年に設立された同大学の新しい研究所。愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)は、当研究所の国内唯一のサテライト拠点となっている。

(※2) 稍深発地震(ややしんぱつじしん)
深さ50から300 km程度にて発生する地震のこと。日本列島直下の沈み込むプレートの内部にて多く発生し、その震源は二重深発地震面といういわば『地震の巣』を形成している。

(※3) プレート
上部マントルの上に位置する、固体地球の最表層。温度が低いために、プレートは硬い剛体として振る舞う。一方、上部マントル以深では温度が高いために、水飴のようにゆっくりと流れる粘性流体として振る舞う。

(※4) マントル
マントルは最主要構成鉱物の違いに従って、上部マントル(深さ約60-410キロメートル)、マントル遷移層(410-660キロメートル)、下部マントル(660-2900キロメートル)の3つの領域に区分される。上部マントルは我々が住むプレートの下に位置するため、上部マントルの流れがプレート移動の原因となる。

(※5) 地球深部水
地球のマントルやプレート深部に存在する水性流体。マントルに沈み込むプレート中に存在する含水鉱物(例えば蛇紋石)がマントルの熱によって分解する際に直上のマントルへと放出される。日本列島直下にて玄武岩質マグマを生成させ火山をつくる原因。

(※6) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す国立研究開発法人理化学研究所の施設で、その運転と利用者支援は公益財団法人高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。

(※7) D-DIA型変形装置
マルチアンビル型高圧発生装置の一種。6つのアンビルを大型のプレスで加圧し、中心に置かれた試料に高圧力を発生させたうえに、その試料を変形させる機能をもつ。放射光を用いることにより、試料にかかる圧力、差応力、歪を測定することができる。

(※8) プレートの岩石、カンラン岩
カンラン岩は主にカンラン石及び斜方輝石から構成される岩石であり、地球の上部マントル及びプレートの主要構成岩石である(本資料では、カンラン岩のことを「プレートの岩石」と呼んでいる)。カンラン岩はカンラン石と輝石の割合で呼び方が細分される。特にプレートはカンラン岩の一種であるハルツバーガイトで構成されている。

(※9) 深発地震
深さ400-700 kmで発生する地震のこと。沈み込むプレートの内部にて多く発生する。ただし、その発生頻度は稍深発地震と比べると少ない。その発生メカニズムは謎に包まれている。



【問い合わせ先】
(研究に関すること)
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
講師 大内 智博
 E-mail: ohuchiatsci.ehime-u.ac.jp
 TEL: 089-927-8159
教授 入舩 徹男 
 E-mail: irifuneatdpc.ehime-u.ac.jp
 TEL: 089-927-9645 

公益財団法人高輝度光科学研究センター
研究員 肥後 祐司
 E-mail: higoatspring8.or.jp
 TEL: 0791-58-2702

愛媛大学総務部広報課
 E-mail: kohoatstu.ehime-u.ac.jp
 TEL:089-927-9022
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)
 E-mail: grcatstu.ehime-u.ac.jp
 TEL:089-927-8165 FAX:089-927-8167

【関連分野の研究者】
国立研究開発法人海洋研究開発機構 海洋科学技術イノベーション推進本部
研究推進担当役(上席研究員) 鳥海 光弘
 E-mail: toriatk.u-tokyo.ac.jp
 TEL: 046-867-9742

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp