大型放射光施設 SPring-8

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複雑な形状を持つ高精度ミラーによりX線リング集光ビームを実現(プレスリリース)

公開日
2019年04月01日
  • BL25SU(軟X線固体分光)

2019年4月1日
東京大学
高輝度光科学研究センター(JASRI)

発表のポイント:
◆世界で初めてX線をリング状に集光することに成功しました。
◆超精密加工技術により複雑形状を持つ高精度なX線リング集光ミラーを実現しました。
◆X線ビーム形状制御の自由度拡大によるさまざまなX線分析機器の性能向上が期待されます。

 東京大学の三村秀和准教授と高輝度光科学研究センター(JASRI)の仙波泰徳主幹研究員、大橋治彦主席研究員らのグループは、複雑な形状を持つ高精度ミラーを用いて、リング状に集光されたX線ビームの形成に成功しました。
 この研究では、はじめに、どのようなミラー形状であればX線がリング状に集光するかを検討しました。その結果、楕円形状と円錐形状が合体した複雑形状の表面を、X線が反射するとリング状に集光可能であることを理論的に明らかにしました。そして、超精密加工技術によりこの複雑形状を持つX線ミラー(注1)を作製しました。大型放射光施設SPring-8(注2)においてX線を作製したミラー表面で反射させた結果、理論通りにX線をリング状に集光可能であることを確認しました。
 この成果は、ミラーの形状を工夫することでさまざまな形を持つX線ビームの形成が可能であることを示しています。X線ビームの形状制御における自由度拡大は、さまざまなX線分析機器の性能向上を通して最先端科学技術分野の発展に貢献します。
 本成果は、2019年4月1日に米国科学技術雑誌のApplied Physics LettersにOnline版で掲載されました。

発表雑誌:
雑誌名:「Applied Physics Letters」(オンライン版:4月1日)
論文タイトル:X-ray ring-focusing mirror
著者:Hidekazu Mimura*, Yoko Takeo, Hiroto Motoyama, Yasunori Senba, Hikaru Kishimoto, Haruhiko Ohashi
DOI番号:10.1063/1.5081837

<研究の背景と目的>
 「光」の中でも、波長が短いX線の分野が著しく発展しています。これは、小型のX線光源から大規模な放射光光源まで、X線を発生させるための光源技術が著しく進歩しているためです。X線を分析に用いると、形や構造だけでなく、材料の組成や化学状態の分析が可能になります。X線を加工に用いると超微細構造の形成も可能です。
 こうした発展著しいX線分野ですが、X線の光源が飛躍的に発展しているにも関わらず、可視領域に比べると、未だ、自由自在に分析装置や加工装置を作ることができません。この理由の一つとしては、X線をハンドリングするために不可欠なX線ミラーの自由度が低いためです。波長が極端に短いX線用のミラーには極めて高い精度が必要になるため、平面などの単純な形状は作ることができても、複雑な形状を作ることは困難でした。
 本研究では、X線ミラーの自由度の拡大を目指した初めての試みとして、X線をリング状に集光可能な「X線リング集光ミラー」の開発に取り組みました。

<研究内容と成果>
 目に見える可視領域の光をリング形状にするためにアキシコレンズが用いられています。このレンズは高分解能顕微鏡やレーザー加工装置など、光を使う最先端の機器に多く使われています。一方で、X線をリング形状にするための素子は世の中に存在していませんでした。
 東京大学大学院工学系研究科の三村秀和准教授と同大学院理学系研究科本山央人特任助教は、理論的な解析により、どうすればX線をリング状に集光可能であるかを検討しました。光学理論に基づく計算を駆使し、X線がミラー表面を反射すると反射したX線ビームがリング状となるミラー形状の算出方法を確立しました。ミラーの形状は、回転楕円形状と円錐形状を組み合わせた複雑な形状をしています。このユニークな形状を持つミラーを「X線リング集光ミラー」と名付けました。X線リング集光ミラーを反射したX線はリング状のX線ビームになります(図1)。
 本研究では、実際に、超精密加工技術を用いてX線リング集光ミラーを作製しました(図2)。そして、高輝度光科学研究センターの大橋治彦主席研究員のグループと共同で、大型放射光施設SPring-8の軟X線固体分光ビームラインBL25SUにおいて作製したミラーの評価を行いました。波長4nmの軟X線を反射させ、X線CCDカメラによりX線ビームの観察を行いました。断面形状から中心点に特異点がある楕円と円錐が合体した形状であることがわかります。
 実験の結果、リング状に集光されたX線ビームの観察に成功しました(図3)。さらに、X線ミラーの姿勢を変化させると円の形をしたX線ビームが楕円形状となり、この楕円の長軸と短軸の長さを自由自在に制御できることを明らかにしました。

<今後の展開>
 本研究により、最先端の超精密加工技術を用いれば、自由な形状を持つX線ミラーの作製が可能であることが示されました。これまでこうした複雑な形状を持つX線ミラーは存在していなかったため、ものづくり分野とX線光学分野の両方の面で大きな成果になります。
 更に、今回確認されたリング状に集光されたX線ビームのさまざまな応用が考えられています。例えば、どうしても中心付近のX線が利用できなかった回転楕円ミラー(注3)などの他の光学素子と組み合わせると、完全にロスなく高効率にX線を集光可能になります。こうした光学系により、超高強度かつ微小なX線集光ビームの形成が可能となります。
 本成果は、ミラーの形状を工夫することで、さまざまな形のX線ビームの形成が可能であることを示しており、今後、可視領域のようにさまざまな形状を持つX線ミラーが誕生することが期待されます。


用語解説: 

注1:X線ミラー
波長の短いX線を反射するためのミラー。ナノメートルオーダの極めて高い精度で作製されており、目に見える可視領域のミラーに比べて格段に加工精度が必要。

注2:大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

注3:回転楕円ミラー
楕円関数が一回転して得られる形状を持つミラー。大開口、高効率でX線を集光可能であるが中心近傍のX線の利用が不可能な点が欠点である。


図1 X線がリング状に集光される様子

図1 X線がリング状に集光される様子
X線がミラーを反射するとリング形状のX線ビームが形成される。


図2 作製されたX線リング集光ミラー

図2 作製されたX線リング集光ミラー
ミラー形状は、回転楕円と円錐が合体した特殊形状をしている。


図3 リング状に集光されたX線ビームの強度分布

図3 リング状に集光されたX線ビームの強度分布
X線カメラにより撮影、ミラーを回転させると円から楕円形状のビームとなる。



問い合わせ先:
<研究内容に関すること>

東京大学大学院工学系研究科 精密工学専攻
 准教授 三村 秀和(みむら ひでかず)
  TEL:03-5841-6550 FAX:03-5841-6550
  E-mail:mimuraatedm.t.u-tokyo.ac.jp

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 
 主席研究員 大橋 治彦(おおはし はるひこ)
  TEL:0791-58-0802(内線:3846) FAX:0791-58-0830
  E-mail:hohashiatspring8.or.jp

<報道担当>
東京大学大学院工学系研究科 広報室 
  TEL:03-5841-1790 FAX:03-5841-0529 
  E-mail:kouhouatpr.t.u-tokyo.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp