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見えてきたナノサイズ細孔の内部構造 ~複合的な手法により高精度な構造解析を実現~(プレスリリース)

公開日
2026年05月14日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)

2026年5月14日
大阪公立大学

シリカメソ多孔体は、メソ(2~50ナノメートル)サイズの規則的な細孔をもち、この細孔内にさまざまな分子の取り込みが可能であるため、産業応用に向けてさらなる構造解明が望まれています。本研究グループは、ジャイロイド構造をもつシリカメソ多孔体MCM-48を対象として、従来の電子線結晶学の手法に、放射光X線回折データと電子密度解析の手法を組み合わせることにより、細孔の3次元構造とガスの吸着過程を、従来と比べてより精度の高い電子密度分布として初めて可視化しました。
本研究成果は、2026年4月15日に国際学術誌「The Journal of Physical Chemistry C」にオンライン掲載されました。

論文情報
雑誌名:The Journal of Physical Chemistry C
論文名:Argon adsorption on MCM-48 mesoporous crystal studied by in situ synchrotron powder X-ray diffraction
著者:Norihiro Muroyama, Arisa Yoshimura, Yoshiki Kubota, Keiichi Miyasaka, Peter I. Ravikovitch, Alexander V. Neimark, Ryotaro Matsuda, Masakazu Higuchi, Susumu Kitagawa, Masaki Takata, and Osamu Terasaki
掲載日:2026年4月15日
DOI:10.1021/acs.jpcc.6c00603

<ポイント>
① 従来の透過型電子顕微鏡を用いた電子線結晶学の手法に、高精度のX線回折データとMEM※1という電子密度解析の手法を組み合わせることにより、分解能の高い構造解析を目指した。
MCM-48※2と呼ばれるシリカメソ多孔体に対して、Ar(アルゴン)ガスを吸着させた。
③ 細孔の3次元構造とArガスが吸着する過程を、従来の手法より精度の高い電子密度分布として初めて可視化することに成功。

図 上:ジャイロイド構造とシリカメソ多孔体MCM-48の細孔構造
 下:電子密度分布で見たMCM-48の細孔内へのArガス充填過程

久保田教授

<研究者コメント>
本研究の成果は、電子顕微鏡とX線回折の融合、さらにMOFの構造研究にも用いられている放射光粉末回折のガス吸着その場測定、MEM電子密度解析など、これまでに培ったさまざまな手法を組み合わせることにより得られました。精度の高い構造評価とガス吸着過程のモニタリングは、シリカメソ多孔体の応用研究に有用な知見を与えると期待しています。

<研究の背景>
シリカメソ多孔体は、2~50ナノメートルの大きさの規則的な細孔をもつ物質です。この細孔内には、分子を取り込むことができ、どのような分子を取り込めるかを調べるためには、細孔の構造を知ることが重要です。また、細孔内にガスが吸着するとき、ガスがどのようにして細孔に吸着するかを研究することも必要になります。これまで、シリカメソ多孔体の3次元的な細孔の構造を実験により調べるには、透過型電子顕微鏡を用いた電子線結晶学の手法しかありませんでした。

<研究の内容>
本研究では、従来の電子線結晶学の手法に、SPring-8の粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2において測定した高精度のX線回折データを組み合わせることで、より分解能の高い構造解析を目指しました。まず、ジャイロイド構造をもつMCM-48と呼ばれるシリカメソ多孔体に対して、Ar(アルゴン)ガスを吸着させながら、その場X線回折実験※3を行いました。そして、透過型電子顕微鏡データとX線回折データに加え、MEMという情報理論から発展した電子密度解析の手法を用いました。その結果、細孔の3次元構造とArガスが吸着する過程を、従来の手法より精度の高い電子密度分布として初めて可視化することに成功しました。

<期待される効果・今後の展開>
シリカメソ多孔体の細孔にガスを吸着させたり、薬剤を取り込ませたりすることにより、産業利用への研究が行われています。今回用いた解析手法は、細孔への物質の吸着状態や吸着プロセスをより詳しく観測する手助けとなるのみならず、別の種類のメソ多孔体の研究にも応用できると期待されます。

<資金情報>
本研究は、科学技術振興機構(JST)、科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号17510100)の支援を受けて実施しました。


【用語解説】

※1. MEM
http://web14.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2026/260514/#warp 最大エントロピー法(Maximum Entropy Method)の略。情報エントロピーと呼ばれる指標を使い、限られた情報から、よりもっともらしいデータを推定する手法。本研究では、限られた回折強度データから、よりもっともらしい電子密度分布を推定した。

※2. MCM-48
界面活性剤の自己組織化を利用し、シリカを3次元周期的ジャイロイド極少曲面に沿って凝集させたシリカメソ多孔体。実際には、壁の表面に凸凹があると考えられる。

※3. その場X線回折実験
ある環境下でX線回折実験を行うこと。本研究では、ガス吸着をさせながらX線回折実験を行うこと。



本件に関するお問い合わせ先
【研究内容に関すること】
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 久保田 佳基(くぼた よしき)

【報道に関すること】
大阪公立大学 広報課
E-mail:koho-listatml.omu.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhouatspring8.or.jp

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