植物のRNA編集酵素の「はたらく姿」を初めてとらえた ~PPR-DYWタンパク質の結晶構造解析から、精密なC→U RNA編集の仕組みを解明~(プレスリリース)
- 公開日
- 2026年05月14日
- BL45XU(生体高分子結晶解析 II)
2026年5月12日
九州大学
エディットフォース株式会社
①植物のミトコンドリアや葉緑体では、PPR-DYWタンパク質※1がRNAの特定のC塩基をU塩基に精密に書き換えるRNA編集※2を担っており、この仕組みは植物の生育に不可欠である。しかし、その精密な編集がどのような分子機構で行われるかは不明であった。
②PPR-DYWタンパク質が標的RNAと結合した状態の立体構造を世界で初めて決定し、PPRドメインとDYWドメインが連携して狙ったC塩基を正確に編集するメカニズムを解明した。
③本研究は、PPR-DYWタンパク質が持つ高い標的特異性の構造的基盤を初めて示すものであり、狙ったRNA配列を精密に編集できるツールの設計・開発への応用が期待される。
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生物は、設計図であるDNAと、その情報を写し取ったRNAを使って生命活動を営んでいます。どちらもA・C・G・U(T)という4種類の塩基の並び順が遺伝情報を担っており、この情報に従ってタンパク質が作られます。ところが生物においては、DNAをRNAに写し取った後に設計図の情報を書き換える「RNA編集」を行う場合があります。植物の葉緑体やミトコンドリアでは特に精密な編集が行われており、RNA上の数万にのぼるC塩基の中から、狙ったC塩基だけを正確にU塩基へと書き換えます。この植物に特有のRNA編集の仕組みは、光合成や呼吸に必要なタンパク質の合成に不可欠であり、これを担う酵素が「PPR-DYWタンパク質」です。しかし、PPR-DYWタンパク質がもつPPRドメインとDYWドメインがどのように連携してこの精密な編集を実現しているのか、その仕組みはこれまで謎のままでした。 |
本研究グループ(九州大学)からのひとこと:
大型放射光施設SPring-8のビームラインを活用でき、今回のような「らせん状」の美しく印象的な構造を捉えることができました。2つのドメインが協力して精密なRNA編集が行われる仕組みが明らかとなり、研究の面白さを改めて実感しました。
【研究の背景と経緯】
植物の葉緑体やミトコンドリアでは、数百~数千か所にのぼるRNA編集が行われており、それぞれの編集部位に対応したPPR-DYWタンパク質が存在します。PPR-DYWタンパク質は、標的RNA配列を読み取るPPRドメインと、C塩基をU塩基へと変換するDYWドメインの2つのドメインから構成されています。各タンパク質が担当する編集部位を間違えることなく正確に編集することは、植物の正常な生育に不可欠です。
これまでの研究により、PPRドメインが標的RNA配列を認識するメカニズムや、DYWドメインの触媒機構については部分的な知見が得られていました。しかし、PPRドメインとDYWドメインの両方を含む完全長のPPR-DYWタンパク質の立体構造は得られておらず、2つのドメインがどのように連携して精密な編集を実現しているのか、その全体像は不明のままでした。
この課題を解決するため、本研究グループは生物情報学的手法を用いて設計した「コンセンサスPPR-DYWタンパク質」を作製し、X線結晶構造解析に挑みました。
【研究の内容と成果】
本研究ではまず、RNA編集活性を持つコンセンサスPPR-DYWタンパク質を設計・作製しました。このタンパク質は大腸菌を用いた実験系において、標的RNA配列の狙ったC塩基を約90%という高い効率で編集し、かつ周辺のC塩基を誤って編集しないことを確認しました。
次に、大型放射光施設SPring-8を用いたX線結晶構造解析により、このタンパク質のRNA結合前と結合後の2つの立体構造を決定しました。これらを比較することで、RNA結合に伴って2つのドメインが適切な位置関係をとり、標的C塩基を触媒中心へと収める構造が形成されることを明らかにしました。
さらに、生化学的解析と組み合わせることで、PPRドメインが標的C塩基の上流配列を順番に読み取って結合し、続いてDYWドメインが適切な位置に配置されて標的C塩基をU塩基へと変換するという、段階的かつ精密な編集メカニズムを解明しました。
加えて、今回得られた構造情報をもとに自然界のPPR-DYWタンパク質のアミノ酸配列を解析したところ、本研究で重要と特定した残基の多くが高度に保存されていることが確認されました。これは、今回解明したメカニズムが自然界のPPR-DYWタンパク質にも広く共通することを示しています。
【今後の展開】
今回の構造解析により、PPR-DYWタンパク質が精密なRNA編集を実現する分子メカニズムの全体像が明らかになりました。PPR-DYWタンパク質はPPRドメインの配列設計によって標的RNA配列を自在に変更できる可能性を持つことから、狙ったRNA配列を精密に編集できるツールとしての応用が期待されます。今後は、本研究で得られた構造基盤をもとに、より効率的で高精度なRNA編集ツールの設計・開発を進めていきます。
【参考図】
(右上)コンセンサスPPR-DYWタンパク質による編集効率測定。 大腸菌を用いた評価系において、PPR-DYWタンパク質全長では標的とするC塩基が約90%の効率でU塩基へと変換された一方、DYWドメイン単独では編集活性を示さなかった。PPRドメインによるRNA認識とDYWドメインの触媒反応の連携が、精密な編集に必須であることを示している。
(右下)DYWドメインの活性中心の拡大図。 触媒活性に必須な亜鉛イオン(灰色の球)のすぐ近くに標的C塩基が収まっており、この精密な位置関係によって正確なC→U変換が実現される。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費 (JP26K01682, JP26KJ1848, JP25H01276)の助成の支援を受けたものです。
【用語解説】
※1. PPR-DYWタンパク質
植物に特有のRNA編集酵素。標的RNA配列を読み取るPPRドメインと、C塩基をU塩基へと変換するDYWドメインから構成される。PPR(Pentatricopeptide Repeat)ドメインは、35アミノ酸からなるモチーフの繰り返しからなる構造を持ち、各モチーフがRNA上の1塩基を認識する。DYWドメインはC末端に存在する保存配列「Asp-Tyr-Trp(D-Y-W)」に由来する名称で、亜鉛イオンを活性中心に持つ。モデル植物であるシロイヌナズナでは数百種類が存在し、それぞれが特定の編集部位を担当する。
※2. RNA編集
DNAをRNAに読み出した後、RNA上の特定の塩基を酵素によって別の塩基へと書き換える現象。植物以外にも動物など様々な生物で見られる。
※3. コンセンサスタンパク質
多数の類似タンパク質のアミノ酸配列を比較・統計解析し、各位置で最も頻度の高いアミノ酸を採用して人工的に設計したタンパク質。天然のタンパク質より安定性が高く、結晶化しやすい利点がある。
※4. SPring-8
兵庫県にある世界最高レベルの大型放射光施設。非常に強力なX線を発生させることができ、タンパク質のX線結晶構造解析をはじめ、物質科学から生命科学まで幅広い分野に活用されている。
※5. X線結晶構造解析
タンパク質などの分子を結晶化し、X線を照射することで得られる回折データをもとに、原子レベルの立体構造を決定する手法。
※6. RNA編集ツール
細胞内のRNA配列を狙った位置で書き換える技術。DNAそのものを書き換えるゲノム編集と異なり、RNAレベルで一時的に塩基を変化させるため、遺伝情報を恒久的に改変するリスクを避けられる。「ポストゲノム編集」として近年注目を集めており、遺伝性疾患の治療や農作物の品種改良など、幅広い応用が期待されている。
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jimu.kyushu-u.ac.jp