大型放射光施設 SPring-8

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旧版 ひかりの丘からSPring-8 News 2号(1999.6月号)

5000km彼方からの微小変動をキャッチ!

5000km彼方からの微小変動をキャッチ!

 SPring-8の高速で周回する電子ビーム位置モニターが、4月5日午後8時16分頃と25分から30分にかけての2回にわたり、短時間の異常なビーム位置変動を記録した。
 この微小な変動の原因を不思議に思った研究者たちがその原因を追求してみると ───。

イラスト1

 これは、直径500mの蓄積リングを載せた堅い岩盤が、日本時間同日20時7分52秒にパプアニューギニア沖で発生した地震(マグニチュード7.4)による、5000km彼方から伝わってきた地震動により、地震発生8分後縦波による2μm(ミクロン)の、さらにその10分後に到着した第2波の横波による約5分間にわたる最大5μmの伸縮変動が、蓄積リングの周長変化として観測されたものです。※1μmは1mmの1000分の1の長さ

 蓄積リングが、地球表面に起きる微小伸縮を高感度に観測する測定器としての性能も持ち合わせることが証明されました。精度がより高められれば、地殻変動現象をさらに記録することも可能となるでしょう。

※「SPring-8利用者情報」(高輝度光科学研究センター)4巻3号1項(1999年5月)

月と太陽が、播磨科学公園都市の岩盤も伸縮させている!

イラスト2

 世界一高輝度の放射光を可能にするために要求される精度を実現できた蓄積リングの性能のよさと、1500mの周長が、直接地球の伸縮を測定した。実運転開始以来ほぼ1年半にわたり30秒毎に記録されてきた“地球伸縮測定器”としての蓄積リングのデータは、地球という“卵”の薄く軟らかい大地の“殻”上に文明を作り上げていることをあらためて私たちに実感させるものである。

イラスト3

 蓄積リングの電子ビームは、水平方向0.4mm、垂直方向0.02mmの微小な断面サイズに絞り、保たれている。放射光の性能を100%発揮するためには、電子にゆるされる“軌道の変動”は、この値より十分小さくなければならない。そのためにSPring-8では、蓄積リングをここ西播磨の三原栗山の中腹を削り取って表出した硬く安定な一枚の岩盤に固定し、すべての電磁石、高周波加速空洞、架台などのリングを構成する装置やそれらの設置に高い精度を実現。稼働中の機器の振動を排除し、電源の安定・リング全体の周りの温度を±1℃以内にコントロールするなど、多くの技術が細心に結集されている。
 こうして実現した高度に安定な電子軌道が、何かの原因でさらに変動する場合を監視し、その原因を探るために、SPring-8ではリング全周288カ所にビーム位置検出器を取り付け、ビーム位置を数μmの精度で、運転中30秒毎に自動検出している。

 電子は、蓄積リングを一周する間に、放射光を発生して失うエネルギーを高電圧空洞から受取って、一定の軌道を回り続ける。このとき、空洞に加えられる加速電圧のタイミングに合わせてリングを回らないと、電子は安定にエネルギーをもらい続けることができない。
 いま、何かの原因で蓄積リング全体が外側に少しずれ、その機械的リング長が少し増大したとすると、それに合わせて回っていたのでは、一周の時間が少し長くなるので、電子は空洞での加速のタイミングに間に合わなくなってしまう。そこで電子は、もとと同じ周長でリングを回ろうとし、各部分に固定されたビーム位置測定器でみると電子ビーム位置は少し内側に見い出されることになる(また、機械的リングが内側に縮むと、電子ビームは少し外側で見い出されることになる)。リングの周長は1436mであるが、それが0.3μmずれただけで、このような電子位置のずれが検出される。

 このような方法で周長の変動を長期にわたって観測して、ほぼ周期的に周長が変動していることが分かった(図1)。この変動は、月と太陽による潮汐力(海水の満干を引き起こす力)が引き起こす地球自身の周期的な変形によって蓄積リングを載せている岩盤が伸縮することによるものである。
 図1(a)は、1998年6月21日から7月2日までの蓄積リングの位置モニター測定記録から導き出されたマシン周長のμm単位の変化を日付けを横軸として示したものである。図1には、SPring-8のサイト(東経134.5度、北緯34.9度、地球中心からの距離6378.14km)における潮汐力を計算によって求め、それを周長の変化におき直したものを同時に細い赤線(b)で示してある。実測された周期性を持つ変化曲線(a)が理論曲線(b)と非常によく対応していることが分かる。
 このころから起潮力の強弱の周期により、蓄積リングの機械的周長が最も大きいときで約40μm※、最も小さいときで約20μm、伸縮していることが分かった。
※この40μmの機械的周長の伸び(すなわち、SPring-8を載せている岩盤の伸び)は、“このサイトでの地球中心からの距離(約6380km)が15cmほど等法的に大きくなった”ことに対応することが、おおよその計算で求めることができる。また、1,436mのリングで40μmの伸縮を観測するのは、東京─大阪間の距離(約600km)の変化をほぼ1cmの精度で見分けるのと同じである。

 さらに、図1(a)にはこの起潮力による周長変化のほかに点線(c)で示した部分のように、ほぼ1週間に相当する期間一日当り8μm程度の単調なリングの伸びが、観測されている。前年11月期の観測時には、ほぼ同じ程度に逆に単調減少する成分が観測されていることから、これは蓄積リングが設置されている岩盤が夏の間の日照量の増大と共に膨張し、冬の間の日照量の減少と共に収縮する、年単位の長周期的変動が見えていると考えられる。運転開始以来ほぼ2年に及ぶ継続的測定が明らかにしつつある、もう一つの姿である。

加速器周長の時間的変動データ(a)と潮汐効果の計算値(b)図1:加速器周長の時間的変動データ(a)と潮汐効果の計算値(b)
図2
※「パリティ」(丸善)14巻4号49項(1999年)
地球

 海の満潮干潮は、月(と太陽)の引力(起潮力)による海水面の上下動です。その作用は、月と太陽の配列が地球に対して一直線のとき最も大きく、直角になった時最も小さくなります。この起潮力の大きさには、月の引力の寄与が太陽の寄与より大きくなり、月に面した地球表面(及びその反対側の地球表面)は、地球中心からの距離が垂直方向に伸びます。
 硬いと思われている地球表面もこの起潮力によって上下変動を繰り返すのです。(これを地球潮汐といいます)。地球は(一日1回)自転しているので、この地表面の変動も一日2回ほぼ周期的に繰り返し起きています。(月の公転により)地表の同一地点で見た月の周回周期が24.9時間と1日より少し長いため、起潮力の寄与の最大と最小のピーク(ほぼ日単位の変化)は、次第に後ろにずれていきます。図1は、そのことをよく表しています。

スプリングエイト まめ知識

SPring-8放射光、威力を発揮!

地球660km深部での物質の状態を解明!
 30万気圧2000度以上までの超高圧・高温地球内部条件を再現できる、世界の放射光施設に設置されている装置の中で最も強力な、多重アンビル式実験装置(SPEED1500)と世界一強力なSPring-8が発するX線の組み合わせが、地球内部を今までになく深くまで再現し、その場観察することを可能にしました。
 地球深部660kmのマントル内部のマントル遷移層と呼ばれる部分にあるといわれ、地球科学研究上最も興味を持たれている不連続面の条件、23.5万気圧・2000度を装置の中で再現。マントルの主成分と考えられているカンラン石が結晶構造を変える様子を直接見ることに成功しました。
 SPring-8供用開始直後に得られた研究成果です。
 加圧容器を貫き、差し渡し1mmほどの試料を照射、その試料部分からの回折X線も容器壁を貫き出る強度を持ち、精度よく中で何が起きているかを研究者に知らせました。この実験で得られた正確な新発見は、地球内部構造についての定説を覆す可能性があるものとして、愛媛大学入舩教授ら共同研究グループのこの研究に世界の注目が集まっています。グループは、さらに地球内部の詳細な研究を進めており、成果が期待されます。

地球の内部構造と環境条件地球の内部構造と環境条件
上段は温度(℃)
下段は圧力(万気圧)
※「サイアス」(朝日新聞社)4月号20項(1999年)
Further Reading:さらに興味をお持ちの方に役立つ読み物情報を各記事の末尾に※印を示しています。

HELLO, SPring-8!

科学をもっと身近に楽しむ一般公開。

 今年も科学技術週間の一日、4月18日(日曜日)に科学公園都市の諸施設が一般公開されました。都市内は、十数分おきに巡回する無料バスで結ばれ、あいにくの雨にもかかわらず、多くの一般市民の方にご参集いただきました。
 SPring-8では、実験ホールでの研究と装置紹介の他に、大人気を集めた子供の科学実験体験コースや地元の伝統太鼓の実演など趣向をこらして、約1,200名の見学の方々をお迎えしました。子供連れのご家族の訪問も多くあり、お父さんが説明役にまわるなど微笑ましい光景もそこここで見られました。

科学をもっと身近に楽しむ一般公開。
科学をもっと身近に楽しむ一般公開。
科学をもっと身近に楽しむ一般公開。

広報部から

イラスト4

 “ひかりの丘から SPring-8 NEWS”誌第2号をお届けします。
 4月6日朝の中央制御室は思わぬ興奮を味わっていました。5000キロ彼方の地震の微動をリングが記録していたからです。月(や太陽)による地球の鼓動を正確に反映できるSPring-8蓄積リングのもう一つのパフォーマンスです。高性能の放射光は、超高圧・高温環境下の物質研究の優れて強力な手段であり研究者たちが“地球深部の解明”にさらに、迫っています。これらをご紹介した今号は、“地球を診断するSPring-8”がテーマとなりました。
 私たち広報室は5月より、新しく広報部になりました。SPring-8とその研究の動向が、皆様方ならびに研究者の方々により身近になるよう一層努めて参ります。
 7月1日より、播磨科学公園都市内の住所表示が新しくなりました。電話・ファックス番号・ネットアドレスなどに変更はありません。どうぞよろしくお願いいたします。

最終変更日