大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

SPring-8 News 6号(2003.1月号)

目次

研究成果・トピックス
~タンパク質のかたちから遺伝子の転写、組換えの本質にせまる~

行事報告
加速器アライメント国際会議(IWAA2002)

行事一覧

SPring-8 見学者
11~12月の施設見学者

SPring-8 Flash
上坪副会長、伊原理事長の叙勲
播磨科学公園都市の森作り「どんぐり大作戦」

今後の行事予定

表紙図1 RNAポリメラーゼホロ酵素の立体構造
表紙図1 RNAポリメラーゼホロ酵素の立体構造
高度好熱菌(Thermus thermophilus)RNAポリメラーゼホロ酵素の結晶構造のリボンモデル。各サブユニットを色分けし、αIを青紫色で、αIIを橙色で、βを黄緑色で、β´を白色で、ωを赤色で、σを赤紫色で示した。
表紙図2
表紙図2 短縮型Rad52の11量体構造(左)。右は、短縮型Rad52の単量体の構造を使ってモデリングした全長型Rad52の7量体構造。短縮型Rad52のリングの中央は、緑色で示したβバレル構造によって形成されている。全長型Rad52のリングの中央でも、同様にβバレル構造が形成されると考えられ、2本のβストランドが単量体間に入ることが推測された。

研究成果・トピックス

タンパク質のかたちから遺伝子の転写、組換えの本質にせまる ~X線で立体構造を解明~

香川亘* †、胡桃坂仁志* ‡、関根俊一‡§、Dmitry Vassylyev‡§、横山茂之* †‡§
*理化学研究所 横浜研究所 ゲノム科学総合研究センター タンパク質構造・機能研究グループ
東京大学 大学院理学系研究科
理化学研究所 播磨研究所 細胞情報伝達研究室
§理化学研究所 播磨研究所 ストラクチュローム研究グループ

はじめに

 生物の遺伝子はDNA という物質でできており、生物のからだを構成し、生命活動の維持に不可欠なタンパク質を合成するための設計図として機能しています。タンパク質を合成するために、細胞はDNA を鋳型(いがた)にして同じ塩基配列を持ったRNA を合成し、RNA の情報をもとにタンパク質を作ります。この「DNA → RNA →タンパク質」という情報の流れ(遺伝子の発現)はすべての生物に共通のメカニズムであり、生命活動の根幹となるものです。
 また、DNA は細胞内において常に化学的・物理的要因による損傷の危機にさらされています。DNA(遺伝子)はすべてのRNA やタンパク質の設計図ですから、DNA の損傷は細胞の機能の不全、ひいては発癌等の疾患の要因となり得ます。それを防ぐために、細胞はDNA の損傷を修復するメカニズムをあらかじめもっています。近年の構造生物学研究の飛躍的な進展により、生命にとって最も重要なこれら「遺伝子の発現」や「DNA の修復・維持」の機構が、分子の立体構造の側面から解き明かされようとしています。

遺伝子の転写を開始するメカニズムを世界で初めて解明

 DNAを鋳型にしてコピーであるRNA を合成するステップは「転写」と呼ばれ、遺伝子が働き出すための最初の段階として重要です。転写をつかさどる酵素「RNA ポリメラ-ゼ* 」は巨大な分子の工場で、中心となる「コア酵素」と、転写の各ステージ(開始、伸長、終結)において異なる種々の転写因子とによって構成されています。研究グループは、転写の開始の段階に不可欠な転写開始因子を結合した状態のRNA ポリメラーゼ(ホロ酵素)のX線結晶構造解析を行い、立体構造を解明することに世界で初めて成功しました。

RNA ポリメラーゼホロ酵素の立体構造
 細菌のRNA ポリメラーゼのコア酵素は、α2ββ'ωの5 つのサブユニットからなるタンパク質の複合体です。これが転写開始因子である「σ〔シグマ〕サブユニット」を結合し、「ホロ酵素(α2ββ'ωσ)」となることによって、はじめて遺伝子(DNA) 上の特定の塩基配列(プロモーター* )を認識して結合し、転写を開始することができます。研究グループでは、この転写開始に不可欠な最小単位であるRNA ポリメラーゼホロ酵素の結晶を作成し、X線結晶構造解析を行いました。
 SPring-8 の高輝度なシンクロトロン放射光を用いて、2 .6 Å (1 Åは1 0 0 億分の1 メートル)という高分解能のX線回折データを得ることができました。精密に決定されたRNA ポリメラーゼホロ酵素の結晶構造は、全体として「カニのはさみ」のような構造をとっています(表紙図1)。σサブユニットは「N末端側ドメイン」と「C末端側ドメイン」、およびそれらを結ぶ「リンカードメイン」から構成されています(図1)。N末端側およびC末端側ドメインは、それぞれプロモーターの2ヶ所の保存配列を認識して結合するのに都合が良いように、RNA ポリメラーゼの表面に配置されていることが分かりました。さらに、立体構造の解析から、ホロ酵素がプロモーター配列に結合して転写を開始する一連のメカニズムを推測することができました。

図1 RNAポリメラーゼホロ酵素に含まれるσサブユニットの立体構造図1 RNAポリメラーゼホロ酵素に含まれるσサブユニットの立体構造

今後の展開と応用
 今後研究グループでは、種類の異なる転写因子やDNA、RNA を結合したRNA ポリメラーゼの立体構造解析を行い、転写のメカニズムの全ぼうを明らかにしていく予定です。また、RNA ポリメラーゼはすべての生物の生命活動に必須なタンパク質であるため、抗生物質のターゲットになり得ます。真核生物と原核生物のRNA ポリメラーゼの構造の差異に着目し、病原性細菌を含む原核生物のポリメラーゼにだけ結合する化合物を作ることで、抗生物質として利用できる可能性があります。このように、新たな抗生物質や活性制御物質の創製といった医療への応用を目指した研究も、飛躍的に進展するものと期待されます。

DNA組換え修復のメカニズムの一端を解明

相同DNA 組換え* とゲノムDNA の安定維持
 われわれの細胞の中にあるゲノムDNA は、さまざまな要因によってDNA の二重鎖切断と呼ばれる損傷を受けています。二重鎖切断は相同DNA 組換えによって修復されますが、相同DNA 組換えが欠損しますと、二重鎖切断が修復されずに蓄積し、やがて細胞が癌化します。つまり、相同DNA 組換えは、二重鎖切断を修復することでゲノムDNAの安定維持に寄与し、われわれを癌や遺伝病から守っています。
 相同DNA 組換えの機構では、切断を受けたDNA と同じ塩基配列を持ったDNA を無傷の染色体の中から見つけ出す、「相同的対合反応」が中心的な反応であります。我々は、すでにヒトRad5 2 タンパク質が相同的対合反応を触媒する酵素であることを明らかにしました。そして今回、Rad5 2 の相同的対合ドメインの立体構造をX 線結晶構造解析により決定しました。

Rad52の立体構造
 ヒトRad52 遺伝子からは、全長型Rad52 (418アミノ酸)と短縮型Rad52 (約200 アミノ酸)の2 種類のタンパク質を産生しています。今回、我々は短縮型Rad52 の結晶(0.3 x 0.2 x 0.1 mm程度)を作製し、SPring-8 の理研構造生物学ビームラインI(BL45XU)を用いて、多波長異常分散* (MAD)法により短縮型Rad52 の立体構造を決定しました。
 短縮型Rad52 は11 分子が規則正しく集まったリング構造を形成しておりました(表紙図2, 左)。そして、全長型Rad52 は沈降平衡法により7 量体であることが明らかになりました。そこで、決定した短縮型Rad52 の立体構造を利用して、全長型Rad52 の7 量体モデルを構築しました(表紙図2, 右)。これらの結果は、一つの遺伝子から産生される2 種類のタンパク質が異なる会合体を形成するはじめての事例となります。

DNA結合領域の同定
 短縮型Rad52の下半分には、多数の塩基性アミノ酸が側鎖を突き出している溝が存在することが分かりました。そして部位特異的変異導入法* により、溝の中の塩基性アミノ酸12 箇所について、それぞれアラニンに置換した変異体を作製し、そのDNA 結合能力を調べた結果、これらのアミノ酸の内5 つがDNA 結合に直接関与することが分かりました(図2)。このことから短縮型Rad52 は、溝に側鎖を突き出している塩基性アミノ酸によってDNA と結合し、DNA をリングの外周に巻きつける形で結合して相同的対合反応を行うというモデルを提案しました。

図2 部位特異的に変異を導入したアミノ酸残基およびその変異体のDNA結合活性。図2 部位特異的に変異を導入したアミノ酸残基およびその変異体のDNA結合活性。正の電荷を帯びたリングの表面に存在する12種の塩基性および芳香性アミノ酸(左図に側鎖を表示)をそれぞれアラニンに置換した変異体を作製した。変異体のDNA結合活性を調べたところ(下)、矢印で示した5つの変異体がDNA結合能力を失っていた。これらのアミノ酸はすべてDNA結合溝に局在していることが分かった(右)。

今後の展開と応用
 本成果によって、今までベールに包まれていたDNA 組換え修復の分子機構の一端が明らかになりました。ある種の癌細胞においてRad52 における変異が見出されていることから、本成果はDNA組換え修復の欠損による発癌のメカニズムの解明に重要な知見を与えます。また、Rad52 の機能不全を原因とした腫瘍形成に対する薬の創製にもつながると考えられます。

参考文献
D. G. Vassylyev et al., "Crystal structure of a bacterial RNA polymerase holoenzyme at 2.6 A resolution", Nature,417(6890), 712-719 (2002).
W. Kagawa et al., "Crystal structure of the homologouspairing domain from the human Rad52 recombinase in the undecameric form", Mol. Cell,10(2), 359-371 (2002).

用語解説

RNAポリメラーゼ(コア酵素、ホロ酵素)
RNAポリメラーゼ:遺伝子の発現において、DNAの塩基配列を写し取って(転写)、RNAを合成する酵素。細菌では、一種類のRNAポリメラーゼがすべての遺伝子の転写をつかさどっている。(RNAポリメラーゼの)コア酵素:RNAを合成するために最低限必要なタンパク質の複合体。それ自体RNA合成活性をもっているが、プロモーターを認識して転写を開始することはできない。(RNAポリメラーゼの)ホロ酵素:上記のコア酵素に転写開始因子であるσ(シグマ)サブユニットが結合したもの。RNAポリメラーゼはホロ酵素になることによってはじめて、プロモーターを認識して結合し、転写を開始することができる。

プロモーター
遺伝子の上流に存在する特別なDNA塩基配列。原核生物では、合成開始点(+1)から、10残基(-10)と35残基(-35)上流にあるプロモーター領域2ヶ所に、σサブユニットの2つのドメインが認識・結合する。

多波長異常分散法
タンパク質X線結晶構造解析の手法の一つ。X線の波長を選ぶことができる「放射光」を使って、波長に依存した原子のX線散乱強度の変化に基づいて構造を解析する方法。

相同DNA組換え
相同DNA組換え 2分子のDNAの間でおこる組換え反応の内、塩基配列の相同性に依存して行われるものを指す。生体内では、DNAの二重鎖切断を修復することに加え、精子や卵子などの配偶子を形成する過程で必須である。
DNA損傷により二重鎖DNA切断を受けた染色体DNA(茶)が、DNA組換え修復によって無傷の染色体DNA(黒)を鋳型として修復する。

部位特異的変異導入法
遺伝子の特定の部位に変異を導入する方法。それにより、タンパク質の特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することができる。

行事報告

加速器アライメント国際会議(IWAA2002)

 11月11~14日第7 回加速器アライメント国際会議(IWAA2002)が、JASRI 支援のもとSPring-8 普及棟で開かれました。本会議は昨年11月開催の予定でしたが、9.11テロの後で欧米からの参加者の不安が強く、延期していたものです。
 この会議はPAC(Particle Accelerator Conference)や、EPAC(European Particle Accelerator Conference)といった加速器の全分野を扱う大きな国際会議とは異なり、取り扱う分野は限定されます。しかし、この会議に出席すれば、世界の加速器のアライメント関連事項が鳥瞰でき、また、技術交流もできるなど、アライメントに携わる人には貴重な会議です。ほぼ2年毎にアメリカ、ヨーロッパ、日本を回り、7年前には高エネルギー加速器研究機構(筑波)で開かれました。今回の参加者は、当日受付10人含め、国外46人(27)、国内41人(18)、事務局7人計94名という規模でした。(カッコ内は放射光関係施設以外の施設からの参加者数)
 発表は口頭43件、ポスター24件で、この3年で新しく稼働した施設の報告もあり、また今後建設される施設からの参加もありました。GPS を用いてニュートリノの検出器を何百キロメートルも離れたところに設置する技術、何百メートルもつながっている水面の高さをミクロンの精度で測定する連通管の開発、X 線光源も含む長さ33km のリニアコライダー計画TESLA などの将来計画のアライメント方法についての議論などが展開されました。また、ベストポスター賞は、参加者の投票により「ドイツのリニアコライダー計画の精密測量法の開発」が選ばれました。
 期間中に行われた見学会は、SPring-8(線型加速器、シンクロトロン、蓄積リング)コースと県立粒子線医療センター+ SPring-8蓄積リングコースの2 コースを用意し、どちらかを選択してもらいました。
 また、バンケット時の和太鼓の演奏とSPring-8 職員による日本舞踊の披露や、所内有志の協力を得て開かれたお茶会など、一味違った交流の場も設けられ、遠来の参加者に大変好評でした。
 実質3日間での発表と議論はやや短かったという印象もありますが、参加者からのアンケートの結果もそうであったように、全体として成功裏に終えることができたと考えています。(IWAA2002 所内委員会)

加速器アライメント国際会議(IWAA2002)
加速器アライメント国際会議(IWAA2002)

行事一覧

●11月9日~10日 ナノテク支援ワークショップ
●11月11日~14日 第7回加速器アライメント国際会議
●11月11日~15日 トライやるウィーク(中学生体験活動週間)
●12月1日 JASRI設立記念日
●12月4日~ 6日 第2回加速器に於ける軌道安定化国際ワークショップ
●12月19日 SPring-8講習会(大阪)「燃料・2次電池の最先端技術」
●12月18日~20日 第6回SPring-8利用技術に関するワークショップ
●12月20日 ナノテクノロジー総合支援プロジェクト 放射光グループシンポジウム(東京)

SPring-8 見学者

11~12月の施設見学者数 2,949名


■主な施設見学者
11月5日 日本真空協会 24名
11月15日 兵庫県議会議長会 56名
11月16日 日本機会学会 キャビテーション研究会 15名
11月19日 国際原子力安全セミナー 13名
11月20日 日本弁理士会 43名
11月22日 米国国立宇宙科学協会会長、他 5名
11月29日 日本機械学会振動・音響研究会 21名
12月5日 防災科学技術研究所 5名

SPring-8 Flash

上坪副会長、伊原理事長の叙勲

上坪副会長、伊原理事長の叙勲

 上坪宏道(財)高輝度光科学研究センター副会長は、科学における日仏交流への貢献により、フランス共和国政府から、教育・学術勲章オフィシエ(officier dans l'ordre des Palmes Academique)の叙勲の栄誉を受けました。受勲式は11月12日に東京のフランス大使館で執り行われました。

上坪副会長、伊原理事長の叙勲

 伊原義徳(財)高輝度光科学研究センター理事長は平成14年秋の叙勲において勲一等瑞宝章を受けました。親授式は11月7日に皇居で執り行われました。

播磨科学公園都市の森作り「どんぐり大作戦」

播磨科学公園都市の森作り「どんぐり大作戦」

  播磨科学公園都市では、魅力ある都市づくりを目指して、「アーバンデザイン計画」が兵庫県によって策定されています。この「アーバンデザイン計画」は、都市全体を統一的な視点に基づき、地形、修景緑化、建築デザインなどを、都市が備えるべき機能と景観の両面から一体的にデザインすることにより、快適な居住環境と優れた研究環境を創出することを目的としたものです。
 (財)高輝度光科学研究センターは兵庫県に協力し、アーバンデザイン計画の一環として「時間とともに成長する森の中の都市」をコンセプトに緑豊かな美しい街作りを進めるため、8年前から地域の小学生に依頼し、どんぐりの播種及びどんぐりの苗木の植樹(どんぐり大作戦)を実施しています。これは、都市の開発により失われた森を地元のどんぐりを用いて復元しようとするとともに、児童に森(自然)の大切さを知ってもらうために行っているものです。
 今年は、11月22日の午後1時から2時間、西栗栖小学校、鞍居小学校、三日月小学校、播磨高原東小学校の児童84人と教職員、兵庫県職員等、合計約100人の参加によって行われました。最初にSPring-8の紹介のビデオに続き、赤穂高校の甘中輝雄先生による「森づくり」についての講話が行われました。甘中先生は、播磨科学公園都市周辺に生息するさまざまな動物や鳥について、またこれらの生き物が食用とするどんぐりや森等の重要性について、非常に興味深くかつわかりやすくお話しされました。その後、全員でどんぐりの苗木を都市内の造成地に植樹しました。この苗木は、昨年、上記の小学校の児童や教職員約470名によって植えられ、20cm程に生長したものです。児童たちに感想を聞いてみると「先生の話を聞いて自然の大切さがわかった」や「自然のために、また植樹をしてみたい」などの答えが返ってきました。環境問題が重要になっている今日、児童たちが自然に深く触れたこの企画は、大きな成果をあげたことと思われます。

今後の行事予定

●1月9日~11日 第16回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム(姫路)
●1月17日 SPring-8 講習会(東京)「高分子産業界における放射光(SPring-8)利用」
●1月23日~24日 理研シンポジウム 構造生物学(Ⅷ)「蛋白質複合体の構造生物学:構造メカニズムの理解へ」

最終変更日