大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8 News 7号(2003.3月号)

目次

研究成果・トピックス
~自動車排ガス浄化触媒の自己再生メカニズムを解明する~

SPring-8 テクノ
高輝度放射光が解き明かすナノテク物質の素顔

行事報告
「SPring-8講習会」、「SPring-8研修会」の実施について

行事一覧

SPring-8 見学者
1月~2月の施設見学者

SPring-8 Flash
石川哲也主任研究員(理研)が日本結晶学会賞学術賞を受賞
「文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」
放射光グループシンポジウム-放射光が拓くナノテクノロジーの世界-

今後の行事予定

貴金属が自己再生するインテリジェント触媒を世界で初めて搭載した自動車(ダイハツ工業(株)提供)。
貴金属が自己再生するインテリジェント触媒を世界で初めて
搭載した自動車(ダイハツ工業(株)提供)。
ペロブスカイト型結晶格子に配置した貴金属パラジウムが
自動車排ガス中の自然な酸素濃度の変動に構造的に応答し、
結晶から出入りすることにより自己再生機能を発現する。

研究成果・トピックス

自動車排ガス浄化触媒の自己再生メカニズムを解明する

日本原子力研究所 放射光科学研究センター 西畑 保雄
ダイハツ工業(株) 材料技術部 田中 裕久

1.自動車触媒とは

 ガソリン自動車のエンジンからは窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、ガソリンの未燃焼成分である炭化水素(HC)が生成されますが、これらを無害な二酸化炭素、水、窒素、酸素などに変換する役割をもっているのが、自動車触媒です。自動車触媒はふだん目につかない場所に取り付けられているため、うっかりすると見落としてしまうかもしれないですが、排ガスをクリーンにするためには、なくてはならない部品です。車体の床下を見ると、排気口近くにマフラー(消音器)がありますが、その横(前)にあるもうひと回り小さい容器に格納されているのが触媒です。触媒には白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属が多量に含まれています。
 自動車触媒は1970年代に実用化されてから、これまで改良が加えられながら使い続けられてきました。1990年代に入り、全世界的に自動車排ガス規制が強化されてきました。特に、エンジン始動直後からの排ガス浄化が強く求められるようになり、これまで当たり前のように床下に設置されていた触媒ですが、図1に示すようにエンジン直下に搭載できる耐熱性の高い触媒の開発が焦点となってきています(触媒反応にはある程度の温度が必要だから)。
 ところで従来型の触媒は、アルミナなどの比表面積の大きいセラミックスの表面に貴金属がナノメートルサイズで分散されたものです。ところが高温の排気ガスにさらされる中で、貴金属が化学的に安定なセラミックス表面を移動し、貴金属粒子同士がぶつかり、成長する(大きくなる)ことによって、触媒の全表面積が減少するのが劣化の原因でした。従来の考え方では、この貴金属粒成長による活性劣化分を補うために貴金属を大量に投入せざるをえませんでした。

図1:自動車触媒の構成。ガソリンエンジンのマニフォールド(集合管)直下に取り付けられている触媒。図1:自動車触媒の構成。
ガソリンエンジンのマニフォールド(集合管)直下に取り付けられている触媒。
拡大図はハニカム構造の断面の一部で、従来型触媒とインテリジェント触媒を比較している。

2.インテリジェント触媒は夢の触媒

 貴金属を節約し、高い触媒活性を維持するための一つの方法は、触媒をインテリジェント化することです。触媒におけるインテリジェンスとは、触媒の置かれた環境変化を触媒自体が敏感に察知して、自らの構造や機能を変えて、その環境に常に適切な性能を発揮する能力といえます。
 では、排ガス中にはどのような環境変化があるのでしょうか。実は今日のガソリンエンジンは、上述の3種類の有毒ガス成分を同時に無害化するために、空気と燃料の比率(空燃比)を、完全燃焼する割合になるように電子制御されています。その結果として、空気が燃料よりも多い時(酸化雰囲気)と、逆に燃料が空気よりも多い時(還元雰囲気)という、雰囲気中の酸素濃度の変動がどうしても自然に起きてしまいます(毎秒数回、±3%程度のゆらぎ)。いずれかの環境変動が貴金属粒子の成長を防ぐ変化を引き起こすことができれば、それが一種の若返り(自己再生)機能として、触媒活性の維持と耐熱性の向上に結びつくはずです(表紙の概念図を参照)。
 そのような酸化還元雰囲気変動に反応して活性劣化を防ぐことのできるインテリジェント触媒の候補として、これまで自動車触媒としてはあまり注目されていなかったペロブスカイト型酸化物に貴金属を複合させたもの(LaFe0.57Co0.38Pd0.05O3)を合しました。耐久試験の結果、同量の貴金属を用いた従来型触媒が大きく劣化するのに対して、貴金属複合ペロブスカイト型酸化物触媒では劣化がほとんど観測されませんでした。電子顕微鏡では耐久試験後も貴金属粒子のサイズが小さいまま保たれていることが観測されています。そこで放射光を用いて貴金属粒子の成長抑制メカニズムを調べました。

3.排ガス中の貴金属のふるまいに光を当てる

 シンクロトロン放射光を用いた実験では、X線のエネルギーを自由に選ぶことができるのが大きな特徴です。この触媒はわずか数%しか貴金属パラジウムを含んでいませんが、X線のエネルギーをパラジウムの吸収端に合わせることによって、パラジウムの情報を強調して得ることができます。そのような実験手法はいくつかありますが、ここではX線吸収スペクトル(XAFS)の結果を紹介したいと思います。
 図2にパラジウムのK吸収端のXAFSスペクトルを示しますが、吸収端より高エネルギー側にX線吸収係数の微細構造(変動)が見られます。これはEXAFSと呼ばれ、パラジウムから励起された光電子波と、周囲の原子によって散乱された散乱波の干渉の結果生じているもので、パラジウムの周りの局所的な結晶構造を反映しています。ここで例え話を一つ。池の水面近くにいる魚を想像してみて下さい。この魚は自分の目を信用せず、体を振動させて自分の周囲を知ろうと決意します。水面近くでピチャピチャと飛び跳ねるのに応じて波が周囲に広がります。その波は何かの物体に当たると反射してきて、うまい具合に条件が合うと自分とその物体の間に定在波が立ちます。干渉を起こし、定在波が立つためには散乱波が帰ってくるまで自分も跳ね続けていなければならず、結構タフな作業です。そのうち、魚は定在波の立ち方(自分の位置が定在波の腹になるとか節になるとか)によって、力の入れ具合が少し違うのに気づけば、その条件を系統的に整理し、自分とその物体の間の距離やその物体の大きさなどが分かるというわけです。
 私たちはEXAFS信号をフーリエ変換することにより、パラジウムの周りの動径分布(局所構造)を求めます。図3には酸化、還元、再酸化処理されたペロブスカイト型触媒の動径分布を示します。酸化と還元で大きく分布が変化しているのが分かります(魚もビックリ!)。酸化処理された試料の局所構造はパラジウムがペロブスカイト構造の酸素八面体の中心に位置することを示しています。一方、還元処理された試料では、パラジウムはコバルトと共に合金(面心立方格子)を形成していることを示しています。再酸化のデータにより、この構造変化は酸化還元雰囲気変動に関して可逆であることが分かります。
 他の実験結果も合わせ、ペロブスカイト型触媒の可逆的な構造変化によって、貴金属の粒成長が抑制される様子を図4にまとめてみました。図中の楕円はサブミクロンサイズの貴金属複合ペロブスカイト結晶の粒子を表しています。還元雰囲気中では、せいぜい数ナノメートルの貴金属が析出しますが、再酸化により再びパラジウムはペロブスカイト結晶に固溶するため、貴金属粒子は大きくなれません。

図2:この研究の主要な結論を導く、X線吸収スペクトル(XAFS) の生データ。図2:この研究の主要な結論を導く、X線吸収スペクトル(XAFS)の生データ。
排ガスの酸素濃度の変動を模擬して酸化、還元、再酸化の処理が行われた。広域X線吸収微細構造(EXAFS)は
内部光電効果を利用してX線吸収原子(パラジウム)の周りの局所的な構造情報を引き出す。
図3:EXAFSスペクトルを解析することによって得られたパラジ ウムの周りの構造の変化。図3:EXAFSスペクトルを解析することによって得られたパラジウムの周りの構造の変化。
酸化雰囲気ではペロブスカイト構造の酸素八面体の中心に位置し、還元雰囲気では面心立方格子を形成する。この変化は可逆である。
図4:酸化還元の雰囲気変動に応じた触媒粒子の変化。図4:酸化還元の雰囲気変動に応じた触媒粒子の変化。

4.貴金属資源を節約することに成功

 この研究では放射光を利用して、雰囲気変動に対する触媒の構造的応答が触媒活性を維持する原因であることを明らかにすることができました。柔軟性のない構造のままではなく、セラミックスと金属が相互にダイナミックな変化をしていることが、高活性と長寿命の理由であることが大変興味深く感じられます。
 インテリジェント触媒は自動車運転中に自動的に自己再生するため、従来触媒に比べてパラジウムを70~90%削減しても、より高い性能を発揮できます。そのため組み合わせて使われる白金やロジウムの負荷も減少し、これらの使用量も同時に低減できるようになりました。この触媒はすでに実用化され、2002年10月より新型軽自動車に搭載されています(表紙の写真を参照)。この触媒技術が国際標準になることにより、貴金属が大幅に節約され、将来の自動車以外の多くの内燃機関に対してもクリーン化への扉を開くことが期待されます。
 最後に、この触媒を世界中のガソリン自動車に採用すれば、少なくとも年間110トン以上のパラジウムを節約することが可能と見積もられます。パラジウムの時価をかける計算は読者諸氏ご自身の手で実行していただければ幸いです。


用語解説

パラジウム
白金属の貴金属元素の一つで、自動車排ガス浄化触媒として白金、ロジウムとともに広く利用されています。歯科材料や電子工学分野でも用いられており、最近、自動車用途として急激に使用量が増加して需要過多となっています。

ペロブスカイト型酸化物
ペロブスカイト型酸化物 天然鉱物であるCaTiO3(一般的にABO3と記します)と同じ結晶構造をもつ酸化物で、ロシア人の鉱物学者の名前にちなんで名付けられました。理想型のぺロブスカイトは、単位格子の立方体の中心にA(陽イオン)、頂点にB(陽イオン)、辺の中心にO(陰イオン)が位置している構造です。

広域X線吸収微細構造
各元素特有のイオン化エネルギー(吸収端エネルギー)以上で観測されるX線吸収スペクトルの微細構造はEXAFSと呼ばれ、その原子から励起された光電子が周りの原子により干渉を受ける結果として現れます。これを解析することによりパラジウム原子の周りの局所構造を求めることができます。

SPring-8 テクノ

高輝度放射光が解き明かすナノテク物質の素顔

ノーベル賞もナノテクノロジーから

 2002年ノーベル化学賞の田中耕一さんは、液体化合物であるグリセリンに誤ってコバルトの金属微粉末を混ぜてしまい、これにレーザー光を照射し高分子がこわれることなくイオン化されることを見つけたといわれています。この発見が、タンパク質のような大きい分子の質量を解析できる新しい手法の開発につながり、世界中の医療機関で採用される技術へと発展しました。ナノテクノロジー(ナノテク)の素材である微粉末が、ノーベル賞と深く関わっていたのです。
 「ナノ」は10のマイナス9乗を意味し、サイズをあらわす場合、1ナノメートルは1メートルの10億分の1で、原子の直径の数倍程度です。ナノテクは、このような微小な世界の中で物質を原子・分子レベルで操作し、画期的な性質や機能をそなえた材料、装置などを作り出すための技術です。情報通信、バイオ、環境などとともに、ナノテクは21世紀の社会を支える基幹技術になると考えられています。
 ナノテクの対象物質には、超微粒子、超薄膜、触媒、生体高分子などがあります。なかでも、超微粒子は限りない応用の可能性を秘め、今熱い注目を集めています。SPring-8では、高強度の放射光ビームとX線回折法、XAFS、X線顕微鏡観察などの手法とを組み合わせることで、これらの物質の構造や機能の解明に挑戦しています。

カーボンナノチューブに詰め込まれたフラーレンの形を決定

 1991年に発見されたカーボンナノチューブ(ナノチューブ、図1)は、そのすぐれた電界放射特性から超薄型テレビのディスプレーに応用できると考えられ、世界中で実用化の研究が競われています。ナノチューブにはいろいろな原子や分子を詰め込むこともできます。ごく最近の研究では、思い通りの原子を思い通りに並べて閉じこめ、ナノスケールの素子やトランジスタにする試みがなされています。
 東京都立大学の真庭豊助教授らのグループは、単層ナノチューブに炭素70個からなるフラーレン分子(C70)を詰め込み(ピーポッドと呼ぶ)、楕円形のC70がナノチューブ中でどのようにおさまるかを調べました。図2の矢印部分はC70からのピークで、2本のピークが認められます。シミュレーション計算から、これらのピークは、チューブの長手方向に横たわる形(構造1)と立って並ぶ形(構造2)に対応することがわかりました。室温以上のいろいろな温度でも調べられ、構造1に比べ構造2のピーポッドでは、C70同士の間隔が温度とともにどんどん広がることがつきとめられました。
 ナノチューブの仲間には単層ナノチューブのほか、幾重にも重なった多層ナノチューブ、片方の端が円錐状に閉じたナノホーン、両端が閉じたツェッペリンなどいろいろな形のものが知られています(P8プラスワン講座参照)。これらは単層ナノチューブとは異なる多様な電気的性質や化学的性質を持つと予想されています。SPring-8によって、これらの物理的性質が解き明かされるのも近いと期待されます。

図1:ナノチューブ(左)と原子や分子との比較。図1:ナノチューブ(左)と原子や分子との比較。
ナノチューブは長さが数マイクロメートル、太さは数ナノメートル(毛髪の約5万分の1)で
ありながら引っぱり強度が大きく、曲げても折れにくいしなやかさをそなえている。
図2:ナノチューブの粉末X線回折スペクトル。図2:ナノチューブの粉末X線回折スペクトル。
球状のC60が詰まったピーポッド(一番下)では、矢印で示す回折ピークが現れる。
一方、C70を詰め込んだピーポッドでは、横たわる形(構造1)と立って並ぶ形(構造2)に
対応して2本の回折ピークが生じる(都立大真庭豊助教授提供)。

半導体表面の膜形成反応を原子層レベルで制御

 超LSIのゲート絶縁膜として用いるシリコンの酸化膜は、近い将来1ナノメートル程度の厚さになると考えられています。このため、シリコンを酸化させるプロセスにおいて、反応の制御はとても重要になります。
 日本原子力研究所の寺岡有殿副主任研究員らのグループは、酸素分子ビームを用いてシリコンを表面から1原子層ずつ酸化させることに成功し、高分解能放射光を用いた「その場光電子分光法」により確認しました。シリコン結晶表面は水分子との反応性が高く、水分子は解離して表面原子と強く結合します。このため、これを酸化することはとても困難です。しかし、大気中を飛びまわる分子の約100倍の運動エネルギー(約2.5eV)を持つ酸素分子をシリコン結晶に衝突させると、室温であっても最大0.5ナノメートルほどの酸化膜を形成できることがわかりました。また、酸素分子のエネルギーを上げると、最表面原子層→第2原子層→第3原子層と内部へ酸化が進み、シリコン原子が最終的に4価まで酸化されることもわかりました(図3)。
 超LSIは複雑な内部構造を持つため、酸化膜をつくるプロセスはできるだけ低い温度で行うことが望ましいとされています。高速分子ビームを用いるこの方法は、シリコンに限らず様々な物質の表面に極薄酸化膜をつくるための新しい手法として注目されています。

図3:酸素分子ビームによるシリコン表面の酸化。図3:酸素分子ビームによるシリコン表面の酸化。
酸素分子のエネルギーを上げると、最表面原子層→第2原子層→第3原子層と
酸化が内部へ進み反応を制御できる(日本原子力研究所寺岡有殿副主任研究員提供)。

円偏光軟X線でニッケル中の微小な磁石のすがたをとらえる

 ハードディスクやCDなどの記録媒体では、さまざまな情報を小さな磁石にして記録します。現在使われている高性能ハードディスクの場合、1ビット当たりのサイズは約2万平方ナノメートル(毛髪の断面の約20万分の1)ですが、この値はメモリー容量の拡大から年々小さくなると予想されています。さらなる高集積化のためには、磁区(磁石の向きが同じ領域)の構造や大きさを、サブミクロン(数100ナノメートル)スケールで理解することが必要です。このような磁性体の研究には、円偏光X線の利用がとても有効です。
 ニッケルやコバルトは、鉄とともに強い磁石になる性質を持っています。図4下は、図4上の磁性超薄膜試料に、ニッケルの内殻軌道だけを励起できる左回り、右回りの円偏光軟X線を照射し、表面から飛び出す電子により2枚の光電子顕微鏡像を得てこれらの差をとったものです。磁気円2色性顕微分光法と呼ばれるこの方法によって、薄膜に形成された微小な磁石の向きや磁区の大きさを知ることができます。図4下の場合、点線より上側では面内(数10ミクロンサイズで2次元的)に、下側では紙面に垂直(10数原子層厚さで3次元的)に磁化されたことを示しています。面内磁化になるか垂直磁化になるかは、膜厚によって決まることがわかります。また、面内磁化から垂直磁化へ切りかわる点線付近では、サブミクロン以下の磁区が多数発生している様子がみとめられます。
 磁気円2色性顕微分光法によるデータは、ほかの手法では得られないとても貴重な磁性情報を含んでいます。

図4. YbAl3(a)とCeRu2Si2(b)の価電子帯。図4:銅の基板へニッケルとコバルトをくさび状に蒸着した試料の模式図(上)と
磁気円2色性顕微分光法で得られたニッケル薄膜の磁区構造(下)。
点線は垂直磁化から面内磁化へ切り替わる境界を示す。矢印、⊗、◉などは磁化された向きを、
色の濃淡は磁化の大きさを表す(マックス・プランク研究所(ドイツ)-大阪大学大学院菅研究室との共同研究による)。

 紹介したトピックスは、ナノテク関連で得られた成果のほんの一例です。SPring-8では、生体分子の構造解析、電極表面の原子配列解析、超LSI中のひずみ解析、ガン組織のX線顕微鏡観察など、実用につながるヒントが数多く得られています。

プラスワン講座

ナノカーボンの仲間たち

 フラーレン(C60、C70など)、ナノチューブ、カーボンナノファイバーなどのように、炭素原子だけからなるナノカーボンは、これまでのどんな物質・材料にも見られない不思議な性質を持つことが次々と明らかにされています。なかでも、NEC研究所の飯島澄男博士により発見されたナノチューブは、種類が多く物理的・化学的性質が多様であることから、応用の可能性が最も高いと考えられています。
 ナノチューブは、引っぱりや曲げに対する強度がどんな材料よりも飛びぬけてすぐれているほか、真空中では2800℃まで、空気中でも750℃まで安定であるという特徴を持っています。また、チューブの径によって電気的性質が異なるほか、多層ナノチューブでは、各層が少しずつ異なる半導体特性を持つと考えられています。単層ナノチューブの場合、(b)は金属的、(c)と(d)は半導体的であることも知られています。応用のためには構造の制御と量産化が不可欠で、そのための研究が進められています。ごく最近、炭化ケイ素の単結晶から(c)のみを、規則正しく柱状に合成できる手法が開発されました。
 ナノカーボンは、医療技術、電子産業、情報産業、エネルギー・環境技術など応用分野が広く、発見された当初の予想をはるかに超えて私たちの生活にかかわろうとしています。

角度分解光電子分光ナノカーボンの仲間(a)フラーレンC70(b)単層ナノチューブ(アームチェア型)
(c)単層ナノチューブ(ジグザグ型)(d)単層ナノチューブ(らせん型)
(e)多層ナノチューブ(2層タイプ)(f)ツェッペリン(g)ナノホーン
(h)カルベールR(カーボンナノファイバー)
提供:(a)名古屋大学篠原久典研究室,(b)(c)(d)(g)NEC,
(f)信州大学遠藤守信研究室,(e)三重大学斎藤弥八研究室,(h)(株)GSIクレオス
出典:「日経サイエンス」2002年8月号

行事報告

「SPring-8講習会」、「SPring-8研修会」の実施について

「SPring-8講習会」、「SPring-8研修会」の実施について

 (財)高輝度光科学研究センターでは、より多くの方にSPring-8を知って頂き、皆様の研究や技術開発にSPring-8での放射光利用実験を役立てていただくことを目的として、2000年度より毎年「SPring-8講習会」と「SPring-8研修会」を実施しています。「SPring-8講習会」は、各分野で活躍されている大学の先生方や民間企業の技術者の方を講師にお招きして、SPring-8での利用実験の成果をわかりやすく紹介して頂いています。昨年度までは幅広く放射光利用技術を知って頂くことを重点とした講習会を行ってきましたが、今年度は、現在注目されている学問分野・技術分野での放射光利用を発展させることを目的とした講習会を中心に行っています。1月は「高分子産業界における放射光利用」「物質科学および生命科学におけるX線異常分散法の利用」と題した2つの講演会を東京で行いました。「高分子産業界における放射光利用」講習会では、SPring-8の高輝度光源を用いた時分割X線散乱測定により建築物の屋上等の防水に用いられている水和凝固型防水材が固まる過程での構造変化に関する研究が紹介されるなど、興味深い研究事例の紹介がありました。「物質科学および生命科学におけるX線異常分散法の利用」講習会では、蛋白質の結晶構造解析を行う上で威力を発揮しているX線異常分散法の原理と応用に関する講義が行われました。
 一方、「SPring-8研修会」は、SPring-8利用経験が浅い方や利用経験がない方に実際の放射光実験を体験して頂くもので毎年9回程度実施しています。2月4日にはビームラインBL43IRで「赤外顕微分光法」の研修会、2月13日にはビームラインBL19B2で「残留応力測定」の研修会を実施しました。これらの講習会・研修会への参加をきっかけに新たにSPring-8での利用実験を申請される方も多く、来年度も内容の充実を図りながら継続的に実施する予定です。(利用研究促進部門Ⅰ)

行事一覧

●1月9日~11日 第16回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム(姫路)
●1月17日 SPring-8講習会(東京):高分子産業界における放射光利用
●1月23日~24日 理研シンポジウム 構造生物学(Ⅷ) 「蛋白質複合体の構造生物学:構造メカニズムの理解へ」
●1月31日 SPring-8講習会(東京):物質科学および生命科学における  X線異常分散法の利用
●2月4日 SPring-8研修会:赤外顕微分光測定
●2月13日 SPring-8研修会:残留応力測定Ⅲ
●2月26日 SPring-8研修会:透過法XAFS測定のための試料調整実習
●2月27日 SPring-8研修会:初心者を対象としたXAFS測定研修会

SPring-8 見学者

1月~2月の施設見学者数 1,488名


■主な施設見学者
1月9日 神戸地方裁判所司法修習生 50名
1月9日 大阪大学工学部応用自然科学科 60名
1月9日 兵庫県出納事務局 3名
1月17日 先端科学技術セミナー 100名
1月24日 核燃料サイクル開発機構 企画部 2名
1月27日 香川大学工学部材料創造工学科 4名
1月29日 文部科学省 大型放射光施設利用推進室 3名
2月3日 姫路工業大学工学研究科 7名
2月3日 文部科学省給付国費留学生 41名
2月14日 (財)ヒューマンサイエンス振興財団 12名
2月14日 奈良工業高等専門学校留学生 6名
2月25日 蛋白質構造解析コンソーシアム参加企業 18名

SPring-8 Flash

石川哲也主任研究員(理研)が日本結晶学会賞学術賞を受賞

石川哲也主任研究員(理研)が日本結晶学会賞学術賞を受賞

 石川哲也主任研究員(理化学研究所播磨研究所X線干渉光学研究室、JASRIビームライン・技術部門副部門長)は、精密X線光学の分野の造詣が深く、優れた着想と技量を活かして、シンクロトロン放射X線利用実験のための各種の高性能X線光学システムの開発とそれを用いたX線光学の研究に携わり、多くの顕著な業績を上げたことにより、平成14年度日本結晶学会学術賞を受賞いたしました。

「文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」放射光グループシンポジウム -放射光が拓くナノテクノロジーの世界-

「文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」放射光グループシンポジウム -放射光が拓くナノテクノロジーの世界-

 平成14年12月20日、虎ノ門パストラル(東京)において、「文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」放射光グループシンポジウム-放射光が拓くナノテクノロジーの世界-が、ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター及びナノテクノロジー総合支援プロジェクト放射光グループの主催により開催されました。本プロジェクトは、日本のナノテクノロジー研究者に対して、研究機関や研究分野を超えた横断的研究サポートを実施するために平成14年度から開始されたもので、SPring-8と立命館大学SRセンターが支援を行っている放射光グループのほか、超高圧電子顕微鏡グループ、超微細加工・造型グループ、分子・物質総合合成・解析グループから構成されています。
 今回のシンポジウムは放射光グループによる支援内容の紹介を目的としたもので、産学官からの一般参加者159名を集め、盛大に行われました。シンポジウムは文部科学省基礎基盤研究課川上課長の挨拶に始まり、プロジェクト全体の概要、SPring-8及び立命館大学SRセンターの支援内容や研究成果例、利用方法などが紹介されました。講演に聞き入る参加者からは、ナノテクノロジー分野における研究の盛り上がりや、放射光グループによる支援に対する期待の大きさが伝わってきました。
 SPring-8においては、(財)高輝度光科学研究センター、日本原子力研究所、独立行政法人物質材料研究機構の3機間が、12テーマについて年2回の課題公募、利用研究の支援を行っています。支援テーマや支援内容について興味のある方はパンフレット、ホームページをご覧下さい。
※ナノテクノロジー総合支援プロジェクト プロジェクトセンターHP(プロジェクト全体):http://nanonet.mext.go.jp/
SPring-8ナノテクノロジー総合支援プロジェクト支援HP:http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/publications/nano_tech/

今後の行事予定

●3月5日 SPring-8講習会「超LSI材料の高精度評価-超薄膜・新材料への挑戦-」(東京)
●3月6日 SPring-8研修会「屈折コントラストイメージングによる非破壊内部観察」
●3月10日 第27回理事会・第16回評議員会(神戸)
●3月19日~21日 第8回播磨国際フォーラム「生物マシーナリーの構造生物学―生体分子間相互作用と分子認識」
●4月26日 第11回SPring-8施設公開「その目で見よう!世界一のSPring-8!!」
蓄積リング棟、線型加速器、マシン収納部、長尺ビームライン、放射光物性研究棟、ニュースバルの施設公開・科学工作・実演コーナー・講演会などが予定されています。

最終変更日