大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8 NEWS 122号(2025.12月号)

 

研究成果 · トピックス

新種の鉱物は 地球の営みを物語る

新種の発見と聞くと、多くの人は動物や植物を思い浮かべるかもしれません。しかし、鉱物の世界にも新種があります。鉱物は「化学組成」と「結晶構造」によって定義され、このどちらか、または両方がこれまで知られていないものであれば、新種の鉱物の候補になるのです。
2025年8月、「アマテラス石」と名付けられた新種の鉱物を報告した研究チームの一員である東京大学物性研究所の浜根大輔さんは、その意義を次のように語ります。
「天然の鉱物には、地球で起こった何らかの作用(地質作用)が反映されています。新しい鉱物が見つかったということは、これまで知られていなかった地質作用を発見したことも意味します。アマテラス石はヒスイの中から見つかりましたが、その性質を詳しく調べることで、これまでのヒスイの成り立ちや地質作用の理解が変わるかもしれません」
アマテラス石は、ヒスイの産地として知られる岡山県北部の大佐山地域のヒスイの中から発見されました。このアマテラス石を含むヒスイを採集したのは、アマチュア鉱物研究家の田邊満雄さんです。ただし、アマテラス石は肉眼では確認できないほど微量にしか含まれていなかったため、採取時には新鉱物が含まれているとは田邊さん自身も予想はしていませんでした。浜根さんへの依頼は、「ヒスイ中に含まれている角閃石やルチルを調べてほしい」というものでしたが、その分析が結果的にアマテラス石の発見につながったのです。長年の経験からくる田邊さんの勘が働いたのかもしれません。
浜根さんは、田邊さんが採取したヒスイを砕き、薄片に加工しました。光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察を続けるうちに、ルチルの周囲にわずかに黒緑色の物質が存在することに気づきました。電子顕微鏡を用いれば鉱物の組成や結晶構造をある程度まで調べることができますが、それらの分析から、これまで知られていない鉱物である可能性が浮かび上がってきたのです。これが、のちに「アマテラス石」と命名される新鉱物でした。

ヒスイを砕いて微量の「アマテラス石」を探す

より詳しく調べるには、分析に十分な量のアマテラス石を集める必要がありました。そこで浜根さんは、アマテラス石およびそれを含むヒスイの特徴をまとめ、田邊さんに同じ特徴をもつヒスイを採取してもらい、送付を依頼しました。
「田邊さんから送られてきたヒスイを砕いて断面を確かめ、アマテラス石が含まれていそうなら研磨して分析用の薄片を作る。その繰り返しでした。写真に写っているのは、アマテラス石がわかりやすく観察できた試料です。周囲の乳白色がヒスイ、褐色の部分がルチル、淡いオレンジ色がタウソン石、そして黒緑色がアマテラス石です。これは光学顕微鏡写真で、横幅は実際には約2 mmに相当します。アマテラス石の大きさはその10分の1ほど、つまりおよそ200 μmですが、このサイズがあれば、より詳細に調べるための結晶構造解析に利用することができます」

図1

図1 光学顕微鏡で見たアマテラス石(黒緑色)を含むヒスイ

アマテラス石は(Sr,Ba)4Ti6Si4O23(OH)Clという化学組成を示しました。さらに電子線回折の解析から、アマテラス石が化学組成から予想されるものとは異なる結晶構造を示すことが明らかになりました。そこで、共同研究者の永嶌真理子さんが山口大学の単結晶X線構造解析装置を用いて詳細な構造解析を行ったところ、非常に興味深い特徴が見いだされました。アマテラス石の結晶構造には、対をなす二種類の原子配置の単位胞が存在しており、片方が現れるときにはもう片方は存在しないという、二面性が備わっていたのです。「私は物性研究所で、天然鉱物だけでなくさまざまな合成物の分析も行っていますが、このように二面性のある構造をもつ物質はこれまで見たことがありません。理論的には予測されていた構造ですが、実際に観察されたのは今回が初めてです」

図2

図2 アマテラス石の二面性のある結晶構造(抜粋)

SPring-8のデータが決め手になる

しかし一つの結晶からの解析だけでは、ほかの構造が混じっている可能性を除外できませんでした。さらに証拠を集める必要がありました。そんなときに浜根さんのもとに、高輝度光科学研究センターの研究員の森祐紀さん(現・兵庫県立大学)からメールが届きました。
「突然、森さんから『よかったらどうぞ』と書かれた謎めいたメールが来たのです。添付されていたのは、SPring-8のビームラインBL02B2で行われた粉末X線回折実験の結果ファイルでした。もしや……と思って手元のデータと見比べてみると、それはまさにアマテラス石の解析結果だったんです」
実は、田邊さんはアマテラス石を含むヒスイを、浜根さんを驚かせるために内緒で森さんにも送っていました。森さんはその“挑戦状”を受け取り、ヒスイの中にごくわずかしか含まれないアマテラス石をかき集め、SPring-8で解析したのです。
「一番大変だったのは解析用の試料づくりです」と森さんは苦労を語ります。
「ヒスイを砕き、アマテラス石が含まれていそうな部分をピンセットでより分け、さらに細かく砕いてまたより分ける。そんな作業を何度も繰り返しました。最終的には、粉状になったサンプルを光学顕微鏡で確認しながら、細く削った楊枝の先に水をつけ、一粒ずつ拾い集めていく。そんな作業を何日も続けました」
森さんが苦労の末に集めたアマテラス石は、直径0.3 mmのガラス管の先に詰め、約3 mmの高さになるほどの粉末量になりました。これでようやく測定できる量です。
「もう二度と同じ作業はしたくない」と思うほどのテーマだったため、森さんは、絶対に失敗できないという強い気持ちで、細心の注意を払って測定を行ったと言います。
図3は、SPring-8で得られた解析結果です。赤色の線が理論計算による値、青い印が実際の計測値を示しています。両者はよく一致しており、秩序ー無秩序関係にある他の構造の混在は認められませんでした。これにより、アマテラス石の結晶構造が、電子顕微鏡および単結晶X線構造解析で示されたものと同一であることが、SPring-8での実験によって確実に実証されました。

図3

図3 SPring-8で取得された粉末X線回折パターン

国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会により新種として承認されたこの鉱物は、日本を象徴する神・天照大神にちなみ、「アマテラス石(Amaterasuite)」と命名されました。日本の国石であるヒスイの中から発見されたという象徴性、そして結晶構造にみられる二面性を、荒魂(あらみたま)と和魂(にぎみたま)という神の霊魂になぞらえた命名なのです。
「新種の鉱物の発見というのは、一見するとその地域に限定されたローカルな現象の産物のように思えますが、実はそうとは限りません」と浜根さんは語ります。「背後には、地球規模の大きなスケールの現象が隠れていることがあるのです。たとえば、アマテラス石には塩素(Cl)が含まれていますが、ヒスイには含まれていません。この塩素がどこから来たのか、なぜアマテラス石だけに残っているのかを考えていくと、これまでの理解を覆すような新たな可能性が見えてきます。だからこそ、新鉱物の発見は面白いのです」地球の壮大な秘密を抱えたまま、まだ発見を待っている鉱物は、きっとほかにも数多く存在しているのでしょう。それらが見つかり、ひとつずつその謎が解き明かされていく日が楽しみです。


 

コラム

浜根さんの研究員としての専門は鉱物研究ではありません。東京大学物性研究所の技術専門職員として、研究所を利用する共同研究者たちに依頼された試料の解析などを担当するのが日常業務で、天然鉱物を扱うのは、むしろ例外的な仕事です。
しかし、天然には存在しないさまざまな合成物質を分析してきた経験によって、未知の天然鉱物にも柔軟に対応できる力が培われました。
そんな浜根さんにとって、鉱物研究は“趣味”でもあります。「年に数回は有休を取って採集に出かけます。2025年の春先には宮崎県の日之影町に行きました。40年ほど前に採取された試料を調べたら新鉱物らしきものが見つかったので、今でも採取場所にその鉱物があるのではないかと考え、鉱物好きの仲間と数人で試料の確保に行きました」
浜根さんが語る鉱物研究の魅力は、「発見の喜び」です。「その喜びには2つあります。ひとつは山で美しい鉱物に出会う喜び。もうひとつは、研究を通して科学的な面白さを発見する喜びです」
話を聞いていると、思わず自分も鉱物を探しに出かけたくなります。次にどんな新種の鉱物が、どんな地球の姿を語ってくれるのでしょうか。鉱物を愛する人々の今後の活躍に、ますます期待が高まります。

コラム

透過型電子顕微鏡の前で森さん(右)と一緒に写る浜根さん(左)

文:チーム・パスカル 寒竹 泉美


この記事は、東京大学物性研究所 技術専門職員 浜根大輔さんと、高輝度光科学研究センター 研究員(現・兵庫県立大学) 森祐紀さんにインタビューして構成しました。


実験技術紹介 利用者のみなさまへ

BL02B2での粉末X線回折実験

“研究成果・トピックス”で紹介された新鉱物アマテラス石の粉末 X 線回折実験は、ビームライン BL02B2 にて行われました。BL02B2は12~37 keVの高エネルギー放射光を利用した粉末回折を得意とするビームラインで、定性分析、結晶構造解析、結晶子サイズ評価、その場測定、電子密度解析など、材料・物性研究の幅広い分野に対応しています。自動・その場粉末回折装置(図1)には多連装1次元半導体検出器、大面積2次元検出器、サンプルチェンジャーが搭載され、窒素/ヘリウムガス吹付装置により30~1100 Kの温度範囲で高精度データを自動で取得できます。また、様々なアタッチメントの利用により、より幅広い温度や圧力など制御可能であり、クライオスタットを利用した約5 Kという低温から電気炉や高温ステージ、近赤外加熱炉を利用した最大1900 Kまでの高温、高圧セルを用いた最大400 MPaまでの高圧力の実験にも対応しています。さらに、ガス圧や溶媒蒸気圧を自動制御したガス・溶媒吸着実験も可能です。
今回紹介された研究では「微少量の試料に対し、大強度かつ高輝度X線を用いた透過法による高い角度分解能と広い逆空間の粉末回折データの測定を行う」というBL02B2の自動化された装置の利点を活かした測定方法を利用しました。市販のガラスキャピラリに充填した少量の試料で測定可能で、今回は直径0.3 mm、長さ3 mmだけ満たす粉末試料を用意してデータを得ました(図2)。また今回は3相が混在していたため、データ解析の際は鉱物種ごとのピーク分離が必要であり、高い角度分解能が必要でした。BL02B2の粉末回折装置ではSPring-8の非常に安定した高輝度X線ビームおよび二結晶分光器を含めた光学系、回折装置の長い試料と検出器間の距離とフォトンカウンティング式かつ小さな素子サイズの検出器も相まって高い角度分解能かつ低ノイズのデータを短時間で測定することができます。さらに、散乱角2θで80°程度まで計測可能であり、高角度領域のデータを利用することにより、Δd/dにおいて高いピーク分解能の観察が可能です。
測定中は試料を充填したキャピラリを連続回転させることで、可能な限り均一なデバイリングを得ることができ、選択配向の影響も軽減することが可能です。加えて1次元検出器による測定と同時に2次元検出器によるデバイリングの観察も可能であり、粗大粒子の混在や選択配向の影響を確認することで1次元粉末パターンのデータの信頼性を評価できます。このようにBL02B2では、高精度かつ結晶構造解析が可能なデータをすべて自動かつ数分以内に取得できます。
今回紹介されたのは希少な新鉱物の研究ですが、ここで使用した手法は、少量しか得られない試料、複数相が混ざり合う試料、接近したピークの分離を見たい試料など、多くの分野の様々な物質に適用できます。このように、BL02B2では実験全体の自動化も進んでおり、だれでも簡単に高精度な粉末回折実験が可能です。ぜひご利用ください。

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図1 BL02B2の自動・その場粉末回折装置

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図2  BL02B2の粉末X線回折で用いる

SPring-8の 利用事例や相談窓口


 

ビームライン研究者

BL19B2担当者 伊藤 華苗さん

担当しているビームラインの特徴と、どんな研究に使われているか教えてください。
BL19B2には複数の実験系がありますが、私は小角・超小角X線散乱(SAXS/USAXS)装置を担当しています。高エネルギーX線(15 〜30 keV)により、ソフトマターから食品、金属まで幅広い材料に対応可能です。自動測定ロボット(ハミングバード)も備え、多数試料の測定にも適しています。

自身の専門分野を教えてください。
制限空間中における水のダイナミクスに関する研究を専門としています。小角X線散乱(SAXS)、小角中性子散乱(SANS)、中性子準弾性散乱(QENS)など複数の量子ビーム手法を組み合わせ、燃料電池触媒層やアモルファス高分子材料の機能性解明に取り組んでいます。

日々の業務の中で特に重視している点や、ビームライン運用上の工夫についてお聞かせください。
利用者の研究目的や試料特性に応じて、最適な散乱条件や測定環境を提案できるよう心がけています。特に温湿度制御やその場測定など動的変化の可視化に注力しています。装置の安定性と使いやすさを重視し、安心して実験できる環境づくりにも努めています。

初めてこのビームラインを使う人に知っておいてほしいことや、うまく活用するコツはありますか?
BL19B2では、引張・調湿・調温・UV照射・泡発生・液体滴下など多様なin-situ 測定が可能です。「こういう現象を調べたい」「こういう装置が使えるか」など、ぜひ事前にご相談ください。知りたいことを明確に共有いただくことで、最適な実験条件やレイアウトを一緒に組み立てることができます。

将来的に取り組みたい技術開発や、ビームライン運用に対する展望・課題があれば教えてください。
電池、分離膜、食品など多様な分野に共通する課題(例:水やソフトマターの構造・動態)に対し、SAXSやQENSなどの汎用的な手法を応用することで、分野横断的な支援を行いたいと考えています。異分野ユーザーが成果を出せるよう、測定技術の汎用化、in-situ 装置の整備、支援体制の充実、他施設との連携にも積極的に取り組んでいきます。



 

行事報告  line
 

第9回SPring-8 秋の学校を開催しました

2025年9月7日(日)~10日(水)の日程で、第9回SPring-8秋の学校を開催しました。SPring-8夏の学校は大学院生中心であるのに対し、秋の学校は大学学部生から社会人まで幅広い参加層を対象としているのが特徴です。
今回は、全国15の大学から学部・大学院生37名、社会人19名の計56名にご参加いただきました。
秋の学校では、座学で放射光の基礎を学び、グループ講習で模擬的な利用体験を行う構成となっています。いずれも分野の異なる参加者にも理解しやすく工夫されており、講義後の質疑応答は非常に活発でした。休憩時間にまで講師に質問するほど熱心な姿も見られ、盛況となりました。
実施後のアンケートでは、基礎講義・グループ講習ともに満足度の高いご意見を多数いただきました。本誌をご覧の皆さまも、ぜひ次回のSPring-8夏の学校/秋の学校に参加して放射光について学んでみませんか?

表紙について:
歌川国貞《岩戸神楽ノ起顕》へのオマージュとして、新種鉱物「アマテラス石」を、岩戸から姿を現す天照大御神になぞらえて表現した。中央に浜根大輔さん(東京大学物性研究所)、左に森祐紀さん(JASRI(現 兵庫県立大学))、右上に田邊満雄さん(アマチュア鉱物研究家)、右下に永嶌真理子さん(山口大学)を配し、専門や所属の異なる人同士が協働して新鉱物を明らかにしている様子を描いた。

表紙

イラスト:大内田美沙紀

最終変更日