大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8 News 15号(2004.7月号)

目次

研究成果・トピックス
~ 従来の常識を破るガラス構造の発見 ~

行事報告
第12回SPring-8施設公開

行事一覧

SPring-8 見学者
5月~6月の施設見学者

SPring-8 Flash
トップアップ運転がいよいよ開始されました!
相生ペーロン競漕に参加

今後の行事予定

ガラスの構造
逆モンテカルロ法から得られたフォルステライト(Mg2SiO4)ガラス
およびシリカ(SiO2)ガラスの構造

研究成果・トピックス

従来の常識を破るガラス構造の発見

財団法人高輝度光科学研究センター
利用研究促進部門Ⅰ
小原 真司

 ガラスは、私達の生活に非常に身近な存在であり、光学ガラス、光ファイバー、窓ガラス、ガラス瓶、レーザー媒質等広い範囲で使われています。ガラスそのものの歴史は古く、紀元前3000年のメソポタミア文明時代にすでに利用されていたと言われています。ガラスの中でも特に代表的なガラスとしてシリカ(SiO2)ガラスが挙げられます。ガラスは結晶のような長周期構造を有していないため、そのX線回折パターンはブロードです(図1上)。また、その構造の本質は、SiO4四面体ユニットが酸素を共有してできる構造(ネットワーク(網目)構造(図1下))を形成することにあります。これらのユニット(ネットワーク形成ユニット)が不足している酸化物では、隙間のある構造をつくれないので、融体を急冷してもたいていはガラスにはならずに結晶となってしまいます。

図1 結晶とガラスのX線回折パターンとその構造図1 結晶とガラスのX線回折パターンとその構造

 マントル上部や隕石の主要構成鉱物であるかんらん石*(フォルステライト:Mg2SiO4)も、MgO:SiO2が2:1のモル比であるので、組成的にガラスにはなりにくい物質です。また、融点が非常に高いので(~1880℃)、炉材やるつぼの素材などから考えても実際にガラスの作製は困難です。しかし、かんらん石組成のガラスは隕石や星間物質中など、宇宙に存在しています。このガラスは融体の構造を色濃く残していると考えられます。したがって、かんらん石組成のガラス即ちフォルステライトガラスができれば、主要造岩鉱物の融体研究という観点からも非常に興味深い研究になります。
 そこで、我々は、るつぼ等の容器を使わないで、フォルステライトを不活性ガスと音波で浮遊させながらCO2レーザー加熱で溶融し、宇宙空間と同じように、無重力に近い状態で保持しつつレーザーの急断によって冷却することで、不純物の極めて少ないフォルステライトガラスを作製しました(コンテナレス法、図2)。この方法では結晶化の核となる容器がないために過冷却液体状態が比較的低温まで保たれるので、球形試料の径が小さい場合には容易にガラスを得ることができます。

図2 コンテナレス法によって浮上-融解中のかんらん石図2 コンテナレス法によって浮上-融解中のかんらん石(フォルステライト(Mg2SiO4)、
1880℃、直径~2mm)。CO2ガスレーザーによる加熱を止めるとガラスになる。

 さて、この通常ではガラスになりにくいガラスの構造はどうなっているでしょうか?その構造を調べるために我々は、SPring-8のBL04B2(高エネルギーX線回折ビームライン)における高エネルギーX線回折実験とアルゴンヌ国立研究所におけるパルス中性子回折実験を行いました。その結果、フォルステライトガラスにはシリカガラスのネットワーク構造の存在を示す回折ピークが存在していないことがわかりました(図3)。そこで、得られた回折パターンを再現するようなガラス構造を、逆モンテカルロ(Reverse Monte Carlo, RMC)法*というコンピュータシミュレーションを用いて、そのガラス構造を可視化してみました(表紙図)。この3次元構造から、フォルステライトガラスは、通常のシリカガラスとは大きく異なり、ネットワーク構造には寄与しないと考えられていたマグネシウム-酸素の多面体(比較的対称なMgO4四面体、非対称なMgO5、MgO6ユニット)が頂点および稜共有によってネットワークを形成しているという特異な骨格構造をもつガラスであることがわかりました。一番多いのはMgO5ユニットです。この構造は、これまで我々がイメージしていた「ネットワーク形成ユニットが頂点共有で支えるガラス構造」という常識とは全然違っています。一方、フォルステライト結晶であるかんらん石の構造は、八面体のMgO6ユニットが稜共有で形成し、それを孤立したSiO4四面体が繋いでいる構造であることがよく知られています。一般に、同じ組成の結晶とガラスでは短範囲のユニット(MgO6ユニットやSiO4四面体)はほぼ同じですが、フォルステライトガラスとフォルステライト結晶の場合は、この常識もまったくあてはまりません。フォルステライトガラスはフォルステライト結晶の結晶構造が適当に乱れて形成された物ではありません。むしろ、フォルステライトガラスの構造は、液体(融体)に類似していると考えられます。このことをより詳しく調べるために今後、コンテナレス法によって液体過冷却液体-ガラス-結晶のより広い範囲での更なる実験が必要です。
 我々は、これまでSPring-8での高エネルギーX線回折、さらに中性子回折とRMC法を利用して、ガラスの3次元構造という観点からその特異な物性を探ってきました。このフォルステライトガラスの特異な構造は、その熱履歴や融体構造を色濃く反映していると考えられます。今後、宇宙・地球科学など他分野との連携による研究が期待されます。また、高温電気炉も特別なるつぼもいらないコンテナレス法によって、ガラス形成範囲、化学量論に縛られない、非常に広い組成範囲の高純度ガラス作製の道が開かれました。この方法は、今後、ガラス基礎科学、ガラス材料を中心とした光・エレクトロニクス産業の基盤技術として重要な役割を果たすことが期待されます。究は、日本原子力研究所 鈴谷 賢太郎氏、東京理科大学 竹内 謙氏、米国コンテナレスリサーチ社J. K. Richard Weber氏、Jean A.Tangeman氏、Thomas S. Key氏、アルゴンヌ国立研究所Chun-K. Loong氏、Marcos Grmisditch氏と共同で行われ、本成果は、米国科学誌「サイエンス」2004年3月12日号に掲載されました。

図3図3 フォルステライト(Mg2SiO4)ガラスとシリカ(SiO2)ガラスのX線回折パターン

用語解説

かんらん石
かんらん石 地球の上部マントルの主要構成物質と考えられ、隕石にも含まれている苦土かんらん石(Mg2SiO4)と鉄かんらん石(Fe2SiO4)を端成分とする連続固溶体。フォルステライトは苦土かんらん石(Mg2SiO4)のことを指す。

逆モンテカルロ(Reverse Monte Carlo, RMC)法
非晶質物質の構造を3次元可視化するために、R. L.McGreevyらにより開発されたシミュレーション。回折実験のデータを再現するように、密度を満たしたセルの中に配置した原子を乱数で動かす。

行事報告

第12回SPring-8施設公開

 平成16年4月24日(土)、第12回SPring-8施設公開が実施されました。今回は、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊博士による講演会「やれば、できる。」が呼び物となり、前年度を大きく上回る3391人の入場者数を記録しました。天候にも恵まれたため、午前10時の開場直後から、満員の巡回バスが次々到着し、たちまち中央管理棟前の受付に人々が溢れました。その人の波が中央制御室に押し寄せ、普段は静かな制御室もこの日ばかりはバーゲンセール会場のような賑わいとなりました。“プリクラ”を模したデジタルカメラによる記念撮影コーナーには、老若男女の長蛇の列ができました。
 普段は人影も疎らな実験ホールには科学実演・工作コーナーが設けられ、この日のホールはさながら祭の出店通りと化しました。光通信セットやCD分光器の製作コーナーでは、親子で工作に取り組む姿が印象的でした。光を使った空中浮遊実験では、大きな金属球やアンパンマン人形を空中に浮遊させることに子供たちが夢中になっていました。浮遊した人形をくるくる回転させた子供は、将来のノーベル賞候補かもしれません。バナナやバラの花を瞬時に凍らせてしまう液体窒素実験では、驚きの声と歓声が絶えませんでした。
 講演会は体育館の特設会場で行われ、1090個の座席は満席となりました。大型スクリーンを使った同時中継会場でも、準備した椅子が足りず、大勢の立ち見がでました。聴衆は1時間半にわたる講演に聴き入り、「真剣に取り組めば、必ずできる」という小柴博士の説得力ある話に感銘を受けていました。

第12回SPring-8施設公開 第12回SPring-8施設公開 第12回SPring-8施設公開
光を使った空中浮遊実験(実験ホール)
デジタルビデオで記念撮影(中央制御室)
小柴昌俊博士科学講演会(体育館)

行事一覧

●4月24日 第12回SPring-8施設公開「何回見ても新鮮な驚き それはSPring-8!!」
●5月14日 SPring-8ワークショップ「次世代蛍光体と放射光利用-放射光による発光サイト評価-」
●5月30日 相生ペーロン祭り
●5月31日~6月4日 トライやる・ウィーク(上郡町立上郡中学校の体験活動週間)
●6月15日 第30回理事会・第19回評議員会・利用推進協議会総会
●6月21日 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクト 平成15年度放射光グループ研究成果報告会

SPring-8 見学者

5月~6月の施設見学者数 2,645 名


■主な施設見学者
5月11日 兵庫県立大学附属高等学校交換留学生(タイ) 18名
5月13日 岡山大学理学部物理学科1年生 45名
5月14日 神戸市立工業高等専門学校 電子工学科4年生 45名
5月19日 自衛隊中央病院診療放射線技師養成所3年生 27名
5月26日 石油学会関西支部 23名
6月2日 加藤紘一代議士 1名
6月10日 報道機関十社会 10名
6月17日 京都地方検察庁司法修習生 15名

SPring-8 Flash

トップアップ運転がいよいよ開始されました!

 待ちに待ったトップアップ運転が2004年の5月20日のユーザータイムから始まりました。図1、2は、SPring-8に来た人なら誰でも一度は見る運転状況表示画面です。この画面右下のグラフの青い部分が蓄積電流値(蓄積電子)の変化を示しています。図1は、この青い部分が一定で、ほとんど長方形になっていることがおわかり頂けるでしょうか。これがトップアップ運転です。図2のトップアップ運転が始まる前のグラフと比べるとその違いは一目瞭然ですね。
 この蓄積電流値が一定になったわけは、蓄積電流値が減らなくなったからではありません。絶えず減った分を足しているのです。実際のトップアップ運転は、1分間隔で電子を継ぎ足すことで蓄積電流値の変化を0.1%以下に保っています。
 既にトップアップ運転時に利用実験を行ったユーザーからは、“蓄積電流値が一定になるとこんなに実験が楽になるとは思わなかった。本当に素晴らしい!”と続々と賞賛の声が寄せられています。

図1.トップアップ運転中 図2.トップアップ運転開始前
図1.トップアップ運転中
図2.トップアップ運転開始前

相生ペーロン競漕に参加

相生ペーロン競漕に参加

 気温も湿度も高く、真夏のように蒸し暑い日となった5月30日(日)、相生湾で恒例のペーロン競漕が開催されました。SPring-8からは、女性8名を含む34名の1チームが一丸となり、オープンレースAクラス(昨年度の上位チームのクラス)に参加しました。SPring-8チームが漕ぐ「白龍」は、強豪チームとの争いになりましたが、暑さに負けず最後まで頑張りを見せ、4艇のうち3位でゴールしました。男女混合のチームでしたが、タイムは3分40秒59で、オープンレース出艇41艇中26位の成績を残すことが出来ました。

今後の行事予定

●7月10日~13日 第4回SPring-8夏の学校
●7月12日~13日 SPring-8研修会「初心者を対象としたXAFS測定研修会」
●7月12日~13日 SPring-8(BL24XU)研修会「蛋白質等生体関連分子結晶構造解析」
●7月20日~23日 ペンタクォーク04国際ワークショップ         
●8月5日 SPring-8講習会「表面・薄膜構造分析の最先端技術」(大阪)(詳細:http://support.spring8.or.jp/closure/thin040805.html
●8月9日~11日 高校生のためのサイエンス・サマーキャンプ
●8月26日 SPring-8講習会「XAFSデータ解析」(大阪)(詳細:http://support.spring8.or.jp/closure/xafs040826.html

最終変更日