大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

高温・高圧の世界を探り、夢の物質合成に挑戦!

高温・高圧実験装置

 放射光を使って高温・高圧下にある物質の様子を直接観察するため、SPring-8では、SPEED-1500やSMAP-80と呼ばれる高温・高圧実験装置を作りました。特にSPEED-1500は、放射光施設設置のものとしては世界最大級の装置で、1500トンまでの出力を小さな試料部分に集中させることにより、最高圧力40万気圧を発生させることができます。また、試料容器内部に組み込んだヒーターにより2500°Cまで加熱することができ、地球深部のマントルに対応した条件をつくりだすことが可能です。
 数千度、数十万気圧の条件をつくること自体がむずかしいことですが、この雰囲気におかれた物質の原子の並び方を調べることもまた大変困難です。高圧発生部分はとても頑丈にできており、普通のX線は透過することができません。また、用いる試料は直径1mm程度のものに限られるからです。
 高輝度で平行性にすぐれているというSPring-8放射光の特長が、高温・高圧下の実験を行うために大変役立ちました。SPEED-1500では、図1に示す配置で20-150keVにわたる白色X線(波長が連続状態のままのX線)のマイクロビーム(約0.1mm角)を容器中心部へみちびき、温度や圧力とともに試料が変化する様子をリアルタイムで観測しています。

SPEED-1500の外観(高さ3m/重さ20トン)

SPEED-1500の外観(高さ3m/重さ20トン)

図1:SPEED-1500の高温・高圧発生中心部分

図1:SPEED-1500の高温・高圧発生中心部分

超硬度合金でつくられた多重アンビルにより、高圧プレスからの圧力を試料へ伝えます。この試料に、白色X線のマイクロビームを、アンビルのせまいすきまを通して入射させます。試料からの反射X線も同様にアンビルのすきまから取り出し、そのエネルギースペクトルから物質の構造を明らかにします(下記ブラッグ条件を参照)

液体にも構造相転移

 純粋な固体物質を加熱すると、やがて融けて液体になります。この液体に大きな圧力を加えるとどうなるのでしょうか?
 これまで、圧力や温度を変えても、液体中の原子の並び方は急激に変わること(1次の構造相転移)はないと考えられてきました。
 このことについて、液体のリンで新しい事実が発見されました。液体リンを1000°Cまで加熱し、さらに1万気圧まで加圧すると、突然、原子の並び方がかわり、構造相転移をおこすことがわかったのです。
 図2は、実験が明らかにしたリンの状態図です。点線の左側(低圧側)では、液体リン4個のリン原子から成る分子でできているのに、右側(高圧側)では、となりの分子と結合して網目構造をつくっています。
 図3は、温度を1050°Cに保ちつつ、a→b→cの順で加圧したとき、9900気圧から10100気圧までのわずか200気圧の圧力違いで、スペクトルが大きく変化した様子です。リン原子どうしのつながり方が異なる二つの液体状態が存在し、それらの間で構造変化が急激におこっていることを示します。
 高温・高圧下での物質合成や、地球深部マグマの研究にもむすびつく成果です。

図2:リンの状態図と液体リンの構造

図2:リンの状態図と液体リンの構造

点線は液体リンの構造相転移曲線。液体リンは、点線を境に左側では分子状に、左側では網目構造になると考えられます。

図3:液体リンで構造相転移が発見されたときの回折X線のスペクトル

図3:液体リンで構造相転移が発見されたときの回折X線のスペクトル

a→b→cの順で加圧したときの結果

※片山 芳則「放射光」14巻2号10項(2001年)

ダイヤモンド生成のその場観察

 物質の結晶構造や物性が、圧力・温度で大きく変化することを利用して、常圧では得られない新しい物質をつくり出すことが可能になります。高温・高圧下におかれた黒鉛(炭など炭素の一種)が、触媒である高温溶融状態のニッケルや炭酸カリウムマグネシウム(K2Mg(CO3)2)にとけこみ、ダイヤモンド結晶に変化する過程を、放射光X線により、リアルタイムで観測することに成功しました。(図4
 常温・常圧にもどした試料の顕微鏡写真には、数μmに成長したダイヤモンド結晶がたくさん見られます。(図5
 ダイヤモンドだけではなく、ダイヤモンドにつぐ硬さをもち、高温下でも利用可能な材料と期待される夢の物質、BC2Nの合成にも挑戦しています。

図
図4:ダイヤモンドができたことを示す回折X線のエネルギースペクトル

図4:ダイヤモンドができたことを示す回折X線のエネルギースペクトル

緑は黒鉛、赤はダイヤモンドからの回折ピーク。9.3万気圧では、1550°Cでダイヤモンドの生成がおこり始め、温度上昇とともに結晶が成長しています。

図5:実験後取り出した試料の電子顕微鏡写真

図5:実験後取り出した試料の電子顕微鏡写真

※内海 歩「SPring-8 Research Frontier」1998-1999(SPring-8)23項(2000年)

 日本の高温・高圧研究者がとりくむ重要課題の一つは、地球マグマのふるまいです。1997年10月のSPring-8の供用開始以来、地球マグマについてホットな議論をまきおこすデータがいくつも観測されています。

 世界最強の放射光と世界最大級の実験装置が研究のあらたなブレークスルーをもたらし、近い将来、マントル対流や地震発生のメカニズム解明にむすびつく成果をあげると期待されます。

ブラッグ条件 2d sinθ= nλ (d:原子面間隔 n:整数 λ:X線の波長、X線のエネルギーに相当)

ブラッグ条件

 ブラッグが1912年にみつけた結晶や粉末の構造解析に用いる式。この条件が成り立つとき、原子面から反射される波は強め合い(回折)、θ方向でX線が強く観測されます。通常のX線回折では、エネルギーのわかっているX線を入射させ、広い角度範囲にわたって反射強度を測定しθを求めてdを決定します。しかし、高温・高圧実験では装置の構造的制約のため、入射も反射も非常にせまい角度範囲しかとれません。そこで、白色の反射光を使い、入射角と反射角を一定(θ)にしたまま反射X線のエネルギーを計測します。回折が起こるX線エネルギー(λ)では反射強度が大きくなるので、このエネルギーからdが求まります。

最先端の科学を支えるCCD

最先端の科学を支えるCCD

 フィルムの役目を果たすCCD、でもただのフィルムではありません。シリコンの結晶でできておりそのサイズは2.5cm角、その表面は整然と並んだ数百万個の画素でおおわれています。これに光があたると、一つ一つの画素には光の色や強さに応じて電荷がたくわえられます。それぞれの画素の位置と電荷量はコンピュータで正確に読みとられたのち、瞬時にTV画面へ転送され画像として再生されます。電荷量は、“色”や“濃さ”として再生されます。ノイズを減らすことによって、目ではとうてい見ることのできない弱い光をとらえることができるため、天体観測でもよく使われます。
 X線による像の撮影では、CCDカメラの前に蛍光剤を塗ったスクリーンをおきます。直接測定できないX線が蛍光剤と反応して可視光に変えられ、それをCCDで測定するのです。最近の放射光実験では、多くの場面で高性能CCDカメラを利用しています。

Further Reading:さらに興味をお持ちの方に役立つ読み物情報を各記事の末尾に※印を示しています。