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地震波で地球の内部を探る

地球の内部はどうなっているのか

 私たちが立っている大地の下はいったいどうなっているのでしょうか。
 子どものころ、地球の内部はおおまかに、地殻、マントル、核からできていると学びました(図1)。しかし、それが何からできているのか、細かい構造がどうなっているかはまだわからない部分が多く、これらの解明が重要な研究対象となっています。では、行くことができず見ることもできない地下の様子を、どのように調べるのでしょうか。
 地球科学の研究者たちは、地震波の速度を測ることによって地球の内部構造を詳しく知ろうとしています。
 地震が起きたときに伝わる揺れ、それが地震波です。地震は世界各地で頻繁に起こっています。そして何年かに一度、巨大な地震が起こりますが、その地震波は地球の反対側にも届きます。たとえば、南米で起きた巨大地震の揺れは日本にまで伝わり、観測されます。
 その地震波は、地球の内部を通ってきたものです。どのくらいの速さで伝わってきたかがわかれば、詳しく解析することで地球内部の物質や性質が推定できるのです。図2は地球内部の地震波速度と、それをもとに計算した密度のグラフです。たとえばマントルの一番下(地下2900km付近)の密度はおよそ5g/cm3。これは気圧に換算して約136万気圧という、非常に高圧であることがわかります。

図1. マントルの構造とプレートの運動

図1. マントルの構造とプレートの運動

マントルはおおまかに、上部マントル、マントル遷移層、下部マントルに分かれる。それ以外にもプレートの墓場やD”層などがあると考えられており、マントルの構造やダイナミクスは複雑である(愛媛大学GRC土屋旬氏提供)。

図2. 地球内部の地震波速度・密度

図2. 地球内部の地震波速度・密度

VpはP波(縦波)の速度、VsはS波(横波)の速度、ρは内部物質の密度。密度の決定精度は約±2〜3%である。マントルと核の境界や、地下410kmから660kmの「マントル遷移層」は速度が不連続になっている。

実験室でマントルの様子を調べる

 ただ、いつ起こるのかわからない地震を待っているだけでは研究が進みません。愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)長の入舩徹男教授は、地球内部の条件を実験室で作り出し、仮想的な地震波を伝わらせて速度を測る実験を行っています。実験は、観測されている自然の地震波速度と比較検討しながら進めます。
 入舩教授は、地殻の下にあるマントルについて研究しています。マントルは圧力や構成成分の違いによって上から、「上部マントル」「マントル遷移層」「下部マントル」に分かれます(図1)。このうち比較的圧力が低い上部マントルは、「かんらん岩」が主成分であることがわかっています。地震波をはじめ、ときおり地表に吐き出されてくる上部マントル由来の成分を調べるなどして、ほぼ間違いないと結論付けられています。
 より高圧のマントル遷移層は、地震波速度の特殊な変化(図2)から、マントル全体の運動や形成過程を知るうえでの鍵とされています。しかし、20万気圧にもおよぶ条件で地震波を測定するのは技術的に難しく、「これまで『かんらん岩』か『ピクロジャイト岩』かで論争になっていました」(図3)と入舩教授。そして、さらに圧力が高まる下部マントルについてはほとんどわかっていません。

図3. 「かんらん岩」か「ピクロジャイト岩」か

図3. 「かんらん岩」か「ピクロジャイト岩」か

かんらん岩は、かんらん石6割、ざくろ石・輝石など4割からなる。ピクロジャイト岩は逆に、かんらん岩4割、ざくろ石・輝石など6割からなる。

超高圧・高温での測定

 実験では、かんらん岩やピクロジャイト岩を構成する鉱物を、目標とするマントル遷移層の圧力・温度(20万気圧、1400℃)に置き、地震波の代わりに超音波を岩石試料に流して、その速度を測ります。そのうえで、観測値と比較してかんらん岩かピクロジャイト岩かを決定します。
 手順は以下のとおりです(図4)。(1)正八面体の圧力容器(ピンク)に穴をあけて岩石試料(青)を入れ、8個の超硬合金アンビル(薄い青)で押さえつける。圧力容器とアンビルの接する面が小さいほど大きな圧力がかかる。(2)アンビルの角から超音波を発生させて試料に当てる。(3)放射光X線を用いた画像により試料の長さを正確に測り、また超音波の試料通過時間を測る。(4)長さ÷時間で速度を求める。
 高い圧力と温度で精密な速度測定を行うには、いくつかポイントとなる技術が必要です。試料を壊さずに圧力と温度を上げること。高温・高圧状態で試料の長さと超音波の通過時間を正確に計ること。また、岩石試料や八面体の圧力容器は1回の測定にしか耐えられないので、同じ品質の試料を作製するノウハウがいります。「私たちは超音波速度の測定をするために、まず試料や圧力容器を作るところから始めるのです」と入舩教授は言います。
 愛媛大学の研究室には、圧力容器などを工作する旋盤機械、人の身長をゆうに超える大きな圧力装置などがところ狭しと並べられています。ここでは予備的な実験を行い、本番の実験は、SPring-8のビームラインBL04B1と超高圧装置SPPED-1500を使って行いました。試料の長さを正確に測るには、高輝度の放射光X線が欠かせないからです。

図4. 超音波(地震波)速度の測定

図4. 超音波(地震波)速度の測定

かんらん岩で決まりか

 結果を図5に示しました。P波の速度(Vp)、S波の速度(Vs)どちらからも、かんらん岩(黄緑線)のほうがピクロジャイト岩(赤線)より観測値(灰色線)に近いことがいえます。この結果により、「今回、長い論争に決着を付けることができたのではないかと考えています」と入舩教授。
 もちろん、これですべてが終わったわけではありません。たとえばマントル遷移層の下部、地下600km付近を見ると、かんらん岩、ピクロジャイト岩のどちらも観測値に合わないことがわかります。これは「ハルツバージャイト岩」という海洋プレートの成分によって説明できる可能性があります。かんらん岩の測定値からその超音波速度を推定すると、観測値に近い結果になることがわかりました。
 これらの実験結果から、いろいろなことがいえるようになりました。マントル遷移層は、上部マントルと同じかんらん岩でできている。ただし、マントル遷移層の下部は、かんらん岩ではなくハルツバージャイト岩である可能性が高い。すると、ここは沈み込んだ「プレートの墓場」なのかもしれません(図6)。

図5. かんらん岩とピクロジャイト岩の地震波速度

図5. かんらん岩とピクロジャイト岩の地震波速度

黄緑線はかんらん岩、赤線はピクロジャイト岩で、実線は実験値、点線は予測値。2本の灰色の実線は自然の地震波の観測値(Irifune et al. 2008)。かんらん岩の黄緑線のほうが、観測値の灰色線に近い。

図6. プレートの墓場

図6. プレートの墓場

地震波トモグラフィー(CT)でみた、海洋プレートがマントル遷移層に沈み込む様子(Fukao et al. 2007)。たまったプレートが外核に落ち込む「フラッシングモデル」が提唱されているが、このままマントル遷移層に留まる可能性もある。「フラッシングモデル」は映画「日本沈没」の科学的根拠となったアイデアだが、プレートがマントル遷移層に留まるなら、映画のような日本沈没は起きないことになる。

地球のさらに深くへ

 入舩教授は今後の研究について、「マントル遷移層すべての速度を測定し、下部マントルについても実験を行っていきます。下部マントルは地球の体積の半分以上をしめています。その性質や成分が詳しくわかれば、地球の原材料の起源解明につながるのです」と語ります。
 そのためには、さらに高い圧力・温度条件で測定する必要がありますが、入舩教授は、現在の装置でマントル下部の24万気圧を超える30万気圧まで測定できると考えています。それ以上の圧力条件についても、「ダイヤ粉を固めた新型のアンビルを使った技術を開発中です」と言います。いずれ近いうちに、136万気圧もある外核の条件にも到達できるかもしれません。
 また入舩教授は、マグマの地震波測定や、地震学者やシミュレーションの研究者と協力して「プレートの墓場」に沈み込んだプレートの動きの解明なども目指しています。地球内部の様子は、徐々に解明されつつあります。

コラム 松山の四季

 愛媛大学GRCのホームページ(http://www.ehime-u.ac.jp/‾grc/)には「松山城の四季」というコーナーがあり、入舩教授が撮影した写真がたくさん見られます。「松山城にはよく行くんです」と教授。 道後温泉 道後温泉(入舩教授撮影)
入舩教授  また、ノートパソコンの壁紙は道後温泉。「最近、周りの建物を取り払って全景が見えるようになったので、写真に収めました」。入舩教授の居室には、撮影に欠かせない立派な三脚が。かなりの写真通です。「でも最近は仕事が忙しくて、あまり写真を撮りに行けませんね」。重要な成果を出した研究者のため息が聞こえます。

文:吉戸智明 協力:サイテック・コミュニケーションズ

用語解説

●P波、S波
岩盤中を伝わる地震波。P波(Primary wave)は地震が発生したとき最初に到達する地震波で、初期微動を起こす。S波(Secondary wave)は2番目に到達し、主要動とよばれる大きな揺れを起こす。

●プレート
地球の表面を覆う十数枚の岩盤。大陸プレートと海洋プレートがあり、海洋プレートは大陸プレートより密度が高いため、ぶつかると海洋プレートは大陸プレートの下に沈んでいく。


この記事は、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)長の入舩(いりふね)徹男教授にインタビューをして構成しました。