大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

2007年夏の学校 実習概要

下記の10件の実習課題を予定しています.受講者の皆さんにはこの中からふたつを選択していただきます.ただし,特定の実習に希望者が集中した場合,ご希望に添えるとは限りません.ご了承下さい.なお,装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合があります.

実習1.XAFS BL08B2 横山和司(ひょうご科学技術協会)

X線吸収分光(XAFS)法は古くから物質に含まれる元素の状態分析の手段として使われてきた。このX線吸収スペクトルには微細構造があり、その詳細な解析から物質の局所的な構造の情報を得ることができる。XAFSの応用の対象はガラスなどの非晶体、半導体表面、ヘモグロビンのような生態物質など多岐にわたる。本講義では放射光によるXAFS測定の実験手法について、解析に必要な基礎知識と具体的な手順について、実例を紹介しながら解説する。
[後援:(財)ひょうご科学技術協会]

実習2. 放射光による時分割測定 -核共鳴散乱を例にして- BL09XU 依田芳卓(JASRI)

放射光は通常のX線源と比較して大強度・指向性 ・偏光特性などのさまざま な優れた特徴をもつ。そのなかでもX線レーザへの期待とあいまって、最近注 目されつつある特徴として時間特性があげられる。SPring-8では電子が蓄積リ ングを一周するのに約4.8μsecを要するため、理論的には最大4.8μsec間隔の パルス光として利用可能である。実習では放射光によって励起された原子核の 崩壊の様子を調べる核共鳴散乱を例にして時分割測定を体験する。

実習3.水の構造の圧力変化と固化 BL14B1 片山芳則(日本原子力研究開発機構)

圧力を変えると物質の構造は大きく変化する。放射光を用いたX線散乱手法と高圧発生装置を組み合わせることによって、この変化をその場観察することができる。本実習では、我々にとって最も重要な液体である水を取り上げ、水の分子の局所配置を表すX線散乱パターンが圧力とともに変化する様子を観察する。さらに圧力を上げることによって、水が氷に固化する様子も調べる。また、NaClの格子定数の変化から、圧力を求める方法についても実習する。

実習4.軟X線多層膜偏光素子による偏光測定 BL17SU 木村洋昭、広野等子(JASRI)

 "強く偏光している光"という放射光の特徴を生かした多様な軟X線領域の実験に対応するために、このビームラインではいろいろな偏光状態の光が出 せる特種なアンジュレータ(光源)を使用しています。しかし、光源で完全な偏光状態の光を作っても、実験ステーションに到達するまでの間にあるスリットや 光学系により微妙に(時には大きく)偏光状態は変化しています。実習では、いろいろな条件下(アンジュレータのモード、上流スリット条件等)で、軟X線多 層膜素子を使った偏光測定を行い、実験ステーションにどんな偏光状態の光が実際にきているか調べてみます

実習5.X線回折による材料の定性分析(仮) BL19B2 廣沢一郎(JASRI)

粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2の大型デバイシェラーカメラでの測定実習に加えて、試料調製と化合物の同定の実習を予定しています。

実習6.X線"レンズ"を使った集光とその評価 BL24XU 高野秀和(兵庫県立大学)

X線に対して"レンズ"と同じ作用をする光学素子を用いることで、X線を集光することが可能です。その集光サイズは"レンズ"の性能だけではなく、"レンズ"に当てる光の性質も重要であるため、SPring-8のような高輝度放射光光源の登場により急速に発展してきており、現在では50 nmをはるかに下回るようになっています。実習では、X線光学素子の一つであるフレネルゾーンプレート(FZP)を用いてX線の集光実験を行います。様々な条件での集光状態を調べ、FZPの機能について考えてもらいます。また、集光だけではなく拡大結像やホログラフィー等の視覚的な実験を通して、X線の光学的な取り扱いについての理解を深めてもらおうと思っています。
[後援:(財)ひょうご科学技術協会]

実習7.タンパク質の結晶構造解析 BL26B1 上野剛(理研)

生命体の構築や様々な生命現象の基本となるタンパク質は、それ自身の形(立体構造) によって発現する機能が決定されている。タンパク質の立体構造を解明することは生命活動を理解するための必須の事項であり、X線結晶構造解析は立体構造を原子レベルで明らかに出来る強力な手法である。BL26B1はサンプルチェンジャーを利用した迅速な結晶スクリーニングと自動運転によるデータ収集が可能なビームラインである。本実習では、タンパク質の結晶化、ビームラインでの回折データ収集、さらに測定データを元に最終的に立体構造を得るまでの一連の作業を実際に体験してみる。

実習8.放射光アブレーションによる材料加工 BL27SU 金島岳(大阪大学)

近年フラッシュメモリに代表される不揮発メモリやCPUなど半導体ロジックデバイスなどの高速化・高集積化のため従来とは異なる材料の導入が検討されている。そのため、これら新材料の高品質な薄膜の作製、微細化加工が強く求められている。軟X線は物質との相互作用が大きく、また内殻電子を励起することができる。そこで、本実習では強度の強い軟X線をポリテトラフルオロエチレン(テフロン)などの低誘電率材料やフッ化物のような高誘電率材料に照射し、光誘起蒸発(アブレーション)を起こし材料加工や高励起された粒子を堆積させ薄膜作製を行い、表面形状などについて調べる。

実習9.ストリークカメラで観る電子ビームの横顔 BL38B2 田村和宏(JASRI)

近年、放射光のパルス特性を利用した実験が広く行われるようになっています。SPring-8においても、放射光の高輝度性とパルス特性とを共存させた“ハイブリッドモード”での運転が増えつつあり、このことは放射光のパルス光源としての需要が増していることを示しています。本実習では、可視光域のストリークカメラを用いて、放射光、いいかえれば光源である電子ビームの時間構造を測定し、電子ビームの時間構造を決める高周波加速についての知識を深めていただくことを計画しています。

実習10.レーザーコンプトンガンマ線の発生と応用 NewSubaru 天野壮(兵庫県立大学)

ニュースバルにおける1GeV のエネルギーを持つ電子ビームに、1μm の赤外レーザーを衝突させると、17MeV のコンプトンガンマ線ビームが発生できます。これは近年の加速器とレーザー工学の進歩によって実現した新しい光源であり各方面への応用が期待されています。本実習ではレーザー装置の取り扱いから実際にガンマ線発生を行い、応用の一つとして研究しているガンマ線イメージングも体験してもらいます。