大型放射光施設 SPring-8

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2009年夏の学校 実習概要

下記の9件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中からふたつを選択していただきます。ただし、特定の実習に希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りません。御了承下さい。なお,装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合があります。

実習1.結晶性薄膜のX線構造評価 BL13XU 坂田修身(JASRI)

薄膜に新しい機能や物性を期待し新しいデバイスを創出する方法の一つとして、基板結晶とは化学組成や構造の異なるヘテロ薄膜を成長させて利用する。その薄膜の結晶性や界面の構造が設計する機能に影響する。例えば、用いる基板結晶と薄膜の間に格子定数差や化学的性質の違いがあると、核形成されるため島状成長が起こり、成長膜の結晶品質が低下する。こういった結晶性の劣化を防ぐため、種々の製膜方法が提案され、また条件が工夫されている。
実習の目標:
1)薄膜の結晶性の評価とは、どんな内容を指すのか? 何を、どうやって調べ、どこまで分かるのかを理解すること。
2)薄膜表面からX線を入射させる試料配置だけでなく、マイクロビームX線を用いて断面からの回折線を測定を試みること。 
理解希望事項:
結晶性配向の評価、薄膜、基板の2個を同一の逆格子空間で取扱うこと。

実習2. X線吸収分光(XAFS) BL14B2 本間徹生(JASRI)

X線吸収分光(XAFS)法は古くから物質に含まれる元素の状態分析の手段として使われてきた。このX線吸収スペクトルには微細構造があり、その詳細な解 析から物質の局所的な構造の情報を得ることができる。XAFSの応用の対象はガラスなどの非晶体、半導体表面、ヘモグロビンのような生態物質など多岐にわ たる。本講義では放射光によるXAFS測定の実験手法について、解析に必要な基礎知識と具体的な手順について、実例を紹介しながら解説する。

実習3.フレネルゾーンプレートによるX線の集光 BL20XU 鈴木芳生(JASRI)

フレネルゾーンプレートは同心円状に透明帯と不透明帯を交互に並べた構造のもので、X線領域での集光結像が可能な数少ない光学素子のひとつです。硬X線顕微鏡はここ10年で長足の進歩を遂げ、数 十nmの分解能が達成されていますが、その心臓部には多くの場合最新の微細加工技術の粋を集めたフレネルゾーンプレートが使われています。ここではSPring- 8のX線顕微鏡で実際に使われているフレネルゾーンプレートを用いて集光実験を行い、さらに様々な条件下での集光結像特性の実験により、光学の知識を深め て頂くこ とを計画しています。

実習4.固体のX線光電子分光 BL46XU 木下豊彦(JASRI)

光電子分光は、単色光を試料に入射したときに、光電効果により試料外部に放出される光電子の運動エネルギー分布を測定する手法です。得られたスペクトルの解析から、試料の元素の種類や化学結合状態、および電子状態を調べることができます。SPring-8の高分解能X線を用いた光電子分光は、より高い精度と信頼性でこれらの情報を提供することができます。本実習では、X線光電子分光を用いていくつかの試料を実際に測定し、その試料を同定するとともに電子状態と試料の性質との関連を考察する予定です。

実習5.タンパク質の結晶構造解析 BL38B1およびBL26B1 水野伸宏(JASRI)、上野剛(理研)

生命体の構築や様々な生命現象の基本となるタンパク質は、それ自身の形(立体構造)によって発現する機能が決定されている。タンパク質の立体構造を明らかにし、その機能を分子・原子レベルで解明することは、生命活動を理解するための必須の事項となっている。X線結晶構造解析は立体構造を原子レベルで明らかに出来る強力な手法であり、放射光による高輝度・波長可変のX線を用いることによってタンパク質の構造を迅速・高精度に決定することができる。本実習では、タンパク質の結晶化からビームラインでの回折データ収集、タンパク質の立体構造の決定までを体験し、酵素タンパク質がどのように基質を認識し機能するかを解析する。

実習6.X線溶液散乱法を用いた蛋白質分子の構造解析 BL40B2 八木直人(JASRI)

X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数μmの大きさを持つ物質(特に粒子)について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法である。この手法を蛋白質溶液に適用すること(X線溶液散乱法)により、“生きた状態”に近い蛋白質分子の構造を知ることができる。本実習では蛋白質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、蛋白質分子の構造-機能相関について考察する。

実習7.軟X線固体分光による電子状態の観測 BL23SU  斉藤祐児(原研)

軟X線領域における固体の光吸収、光電子放出などのスペクトルを測定・解析する手法は、様々な性質を示す物質の電子構造を調べる有力な実験手段として知られています。BL23SUでは、高輝度アンジュレータ放射光と高性能回折格子分光器との組み合わせにより、光電子分光や光吸収分光の高精度測定を進めています。本実習では、基本的な軟X線固体分光実験を実施し、固体の電子状態に関する知識を深めてもらいたいと思います。

実習8.X線屈折イメージングとホログラフィ BL24XU 高野秀和(兵庫県立大)

SPring-8で利用できるX線の大きな特徴の一つに「可干渉性」があります。この特徴を利用する屈折イメージング法は、通常のX線では見えにくいソフトマテリアルの微細構造などの観察に応用されています。この手法は光学的にはインラインホログラフィーと考えることができます。本実習では、アンジュレーター放射光を利用したX線投影像を様々な条件で観察することにより、屈折イメージングの原理を光学的に理解し、X線ホログラフィーへの応用について考えていきます。
[後援:(財)ひょうご科学技術協会]

実習9.放射光のコヒーレンス測定 ニュースバル BL-9C 原田哲男(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所)

本実習ではSPring-8に隣接した中型放射光施設ニュースバルを利用します.放射光においてコヒーレント光の利用は,レンズを用いないイメージングである回折顕微鏡や微細パターンを容易に生成可能な干渉露光など近年ますます注目されています.コヒーレントとは波である光が干渉できるかどうかであり,本実習では光の干渉度合いをダブルスリットを用いた実験で実際に測定していただきます.用いる光は空気中で吸収される軟X線であり,すべて真空装置での実験となります。