大型放射光施設 SPring-8

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2018年夏の学校 講義概要

講義1.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 山崎 裕史(高輝度光科学研究センター)
放射光実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどない。放射光は実験ステーションに至るまでに様々な加工がなされ、単色性や指向性の優れた使い勝手のよいX線成分だけがユーザーに提供される。講義では、X線光学の定性的な説明を行い、それらを利用した放射光加工の機器類についての紹介した後、熱対策を中心とした技術的な問題について触れる。

講義2.X線検出器の基礎 --- 雨宮 慶幸(東京大学)
X線は物質によって回折または散乱されるときは波(電磁波)として振る舞いますが、検出されるときは粒子(光子)として振る舞います。試料から回折・散乱されたX線の強度を測ることは、X線光子の数を数えることであり、その数を場所と時刻の関数として測定する装置がX線検出器です。最初に、光の波と粒子の二重性、及び、光子統計について解説します。次に、1)X線検出器でX線が検出される原理、2)放射光用X線検出器に求められる性能、3)各種のX線検出器の構造と性能、について平易に解説します。

講義3.X線イメージング --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、X線顕微鏡トモグラフィによる三次元内部構造の顕微観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二 次元分布測定、マイクロビームX線による微小領域の構造・歪み解析等を例に挙げ、SPring-8における最先端の応用例を紹介する。

講義4.放射光発生の基礎 --- 金城 良太(理化学研究所)
放射光、特にシンクロトロン放射光は、高エネルギー電子が磁場により偏向を受けた時に発生する電磁放射で、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から赤外、可視光、紫外、真空紫外、軟X線、硬X線、ガンマ線までの幅広い波長領域をカバーする。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その性質を述べるとともに発生原理の直感的な説明を試みる。

講義5.X線自由電子レーザー入門 --- 井上 伊知郎(理化学研究所)
X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。現在ではX線レーザーの建設が世界各地で行われており、今まさにX線レーザーの時代が始まろうとしています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージするレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。この講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAの取り組みを交えながら紹介します。

講義6.X線回折入門
(初級編) --- 熊坂 崇(高輝度光科学研究センター)

物質の性質を理解する上で、原子の空間配置、すなわち構造は最も基本的 かつ重要な情報です。その解析において、放射光を用いた回折・散乱実験は有力な手段の一つとなっています。本講義は、回折・散乱の基礎から応用を概観することを主眼とします。具体的には、単結晶回折実験を中心に構造解析手法を解説しつつ、具体例も示したいと思っています。なお説明には、数式を用いつつもその展開などには踏み込まず、できるだけ平易な表現を用います。
(中級編) --- 高橋 功(関西学院大学)
物質の性質を理解するうえで、原子配列は最も基本的かつ重要な情報の一つであり、放射光を用いた回折・散乱実験はそれを明らかにする有力な手段の一つです。本講義は学部・大学院の講義やゼミ等で光(X線を含む)回折・散乱についてある程度学んだことがある(必ずしも理解している必要はありません)人を対象とします。当日の講義では、回折・散乱現象の基礎から出発し、電子・原子によるX線の回折・散乱とそれを用いることでいかにして原子配列についての理解が可能になるのかについて概観していきます。理想的な結晶によるX線回折だけでなく、今回の講義では薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料の構造を理解するための放射光実験の例についても解説したいと思います。

講義7.XAFS --- 西畑 保雄(日本原子力研究開発機構)
XAFSは内部光電効果により生じるX線の吸収スペクトルの微細構造である。様々な形態(相)の物質を構成する元素の電子状態や局所構造の解明に用いられており、現在では放射光を利用した代表的な研究手法の一つである。本講義ではXAFSの原理、測定及び解析法の概要を説明する。そして応用例として、自動車の排ガス浄化のためのインテリジェント触媒の自己再生現象を紹介する。講義を聞いて、XAFSを自分の研究に身近なものに感じてもらいたい。