大型放射光施設 SPring-8

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新しいナノサイエンス - 酸素分子を1列にならべる -(プレスリリース)

公開日
2002年12月20日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)
京都大学の北川 進教授らの研究グループは、ゼオライトや炭素系物質と同じように、ナノスケールの細孔を規則正しく並べた物質をブロックに組むようにデザインし、化学的に合成することに世界で初めて成功した。

平成14年12月20日
京都大学
名古屋大学
大阪大学
(財)高輝度光科学研究センター

京都大学の北川らの研究グループは、ゼオライトや炭素系物質と同じように、ナノスケールの細孔を規則正しく並べた物質をブロックに組むようにデザインし、化学的に合成することに世界で初めて成功した。この物質は細孔サイズを調整することで、気体の吸蔵量を自在に変えることができ、天然ガス吸着においてはゼオライトを超える能力をもつものも合成されている。これらは、室温、1気圧で合成できることから産業化も容易であり、低圧で安定な天然ガスなどの燃料の大量吸蔵体、CO2 など温暖化ガスの選択的吸着、有害物質の分離といった多様な応用が考えられ、次世代の素材として大きな期待が寄せられている。今回、京都大学・北川グループ、(財)高輝度光科学研究センター(SPring-8)・高田グループ、大阪大学・小林グループ、名古屋大学・坂田グループは、この物質に気体を整列させて吸着させ、全く新しい概念の、そして新しい磁性や超伝導の可能性を秘めたナノ材料が科学的に作り出せることを、世界で初めて示した
この成果は米国科学雑誌Scienceの12月20日号に掲載される

(論文)
"Formation of a One-Dimensional Array of Oxygen in a Microporous Metal-Organic Solid" 「ミクロ孔金属錯体固体における酸素分子の1次元整列構造の作製」
Ryo Kitaura, Susumu Kitagawa, Yoshiki Kubota, Tatsuo C. Kobayashi, Koichi Kindo, Yoshimi Mita, Akira Matsuo, Michihiro Kobayashi, Ho-Chol Chang, Tadashi C. Ozawa, Megumi Suzuki, Makoto Sakata, and Masaki Takata
Science Vol. 298. no. 5602, pp. 2358 - 2361, published online 20 December 2002

従来の多孔性材料は、大きく分けてゼオライトなどの無機材料と、活性炭、カーボンナノチューブなどの炭素材料の2種に分類されている。
平成9年、京都大学の北川らの研究グループは、ナノメートルの大きさを持つ細孔を規則正しく並べた物質を、あたかもブロックを組むようにデザインし、化学的に合成することに成功した。この物質は、金属イオンと有機分子が分子レベルで直接交互に結合した有機・無機の複合物質(金属錯体)であり、その特徴は以下の様である。
 1) 従来の材料ではつくれない非常に均一で特異な空間構造を持つ。
 2) 分子レベルから自在に設計でき、それら分子を混ぜるだけで目的の空間構造を作ることができる。
 3) 数グラムでバスケットボールコートからサッカーグラウンドまでの表面積を持つものが合理的に合成できる。
本物質は、特殊な条件を一切用いなくても、1気圧、室温の条件で化学合成できることから、産業化も容易であり、天然ガスなどの燃料の低圧で安定な大量吸蔵や燃料電池への応用やCO2など温暖化ガスの選択的吸着、有害物質の分離といった応用が考えられ、次世代の素材として大きな期待が寄せられている物質である。
これまでは、気体が細孔のどの位置に、どのような向きに吸着されるか全くわかっていなかったが、今回、新たにデザインし化学合成したナノ細孔物質に酸素を吸着させた試料を用いて、大型放射光施設(SPring-8)で測定(*)を行い、測定したX線データを名大グループの情報理論に基づく新しい方法で解析したところ、規則正しく並んだ細孔の一つ一つに、酸素分子が一列に並んでいることが世界で初めて明らかになった。
図1は、今回明らかになったその物質の正面からと側面から見た電子密度である。酸素を吸着させる前は、規則正しく並んだナノスケールの穴が見えるだけであるが、酸素吸着をした後は、酸素原子が二つくっついて落花生のような形をした酸素分子が赤で示したように見える。この酸素分子は、図2の構造のモデル図に示したように、規則正しく一列に並んでいることがわかる。酸素分子はもともと磁性を持つ気体であり、これを固体中に規則正しく並べたこの物質についても、阪大グループがこの構造に特有の磁性を確認している。

fig1.jpg
fig2.jpg

図2.酸素分子を吸着した物質の構造模式図。赤で示したものが酸素分子

今後、京大グループの金属錯体の化学合成手法を用いて新しい細孔のデザインを行い、気体を瞬間に大量に固体中に吸い込ませることにより、全く新しい磁性材料や、さらには超伝導材料を作り上げたり、それらの性質を制御したりすることも可能になるものと思われる。今回の研究により、私たちの周りにある無尽蔵の気体分子を核とした、全く新しい概念の先端機能材料への道が拓けたと言える。

(*)SPring-8での実験は文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で実施された。

 

<用語解説>

ゼオライト

    活性炭などと同様の多孔性の固体であり、AlO4やSiO4の四面体ユニットからなる多孔性骨格を持ち、もともと天然の粘土鉱物として知られている。
    本研究において報告された物質と比較すると、空隙率(全体の体積に対する穴の容積の割合)に限界があり、新しい構造と機能を持つ多孔性個体の設計と構築には限界があるとも言われている。
 

 

<問い合わせ先>
京都大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻
北川 進
e-mail:kitagawa@sbchem.kyoto-u.ac.jp
Tel: 075-753-5652/FAX: 075-753-4979

名古屋大学大学院工学研究科 応用物理学専攻
高田 昌樹
Tel&Fax: 052-789-4455

大阪大学極限科学研究センター 
小林 達生
e-mail: tckobayashi@mp.es.osaka-u.ac.jp
Tel: 06-6850-6694/FAX: 06-6850-6446